異世界で、英雄譚をはじめましょう。

巫夏希

第百四十三話 目覚めへのトリガー⑬

 三日前に見た姿では鳥瞰図のようなものでしか見ることが出来なかったため、今の立ち位置から見たオリジナルフォーズは、普通のメタモルフォーズとは違うように見えた。
 オリジナルフォーズは全身を黒く染め上げていた。それでいて身体のところどころに目があり、その目は至る所に視線を置いていた。さらに身体の至る所から同じように様々な動物の手足が生えており、それ一つ一つは動いていないにしろ、異様な存在感を放っていた。

「あれがオリジナルフォーズよ、予言の勇者。どうやらあなたは敵の正体について詳細を知ることなく旅していたようだけれど。まあ、それじゃ遅すぎたというだけの話。ラドームも愚策だったわね。いくら何でも敵のデータを伝えることなく、学生に旅をさせるなんて!」
「何が言いたい……? いや、そうじゃない。そうではない。あれはいったいなんだ」
「オリジナルフォーズよ。メタモルフォーズのオリジナルにして最強の存在」
「僕が話しているのはそうじゃない!」

 話が進まない。いや、リュージュも敢えてそうしているのだろう。苛立ちを隠しきれずに、僕はリュージュに詰め寄った。
 しかし、あと一歩というところで、その間にバルト・イルファが割り入った。

「……貴様、何がしたい?」

 バルト・イルファは僕のほうをにらみつけて、言った。まあ、そう発言することは仕方ないことかもしれない。

「オリジナルフォーズがなぜ目覚めているんだ。オリジナルフォーズは……確かまだ目覚めていなかったはずだ……!」
「ああ、何だ。そんなこと」

 リュージュはその質問を予想していたかのように、深い溜息を吐いた。

「……覚えていないということは、あなたが考えた作戦は完璧だったということになるのかしら? バルト・イルファ」

 リュージュはバルト・イルファのほうを向いて言った。
 対してバルト・イルファは頷いたのち、薄気味悪い笑みを浮かべた。

「その通りですね。……まあ、もう予言の勇者には教えてもいいのではないでしょうか? 別に減るものでもないとは思いますから」
「それもそうね……。予言の勇者、あなたに術をかけたのよ。強い催眠術、になるかしら。どうなるものかと正直不安ではあったけれど、無事にそれを成し遂げることが出来た」
「それは、まさか……!」

 僕は最悪の考えに至った。
 その意味はつまり……。
 そして、リュージュはゆっくりと――告げた。

「ええ。もう、オリジナルフォーズは復活しているわ。あなたから聞いた、その魔法を利用して……ね」

 リュージュは歩き始めて、直ぐ傍にあった椅子に腰かける。

「あなたには感謝しているのよ? だってガラムドの書を手に入れてくれたのだから。あれは知識を直接脳内に投入するタイプ……だったかしら? だから選択してその魔法だけ手に入れることは出来なかった。はっきり言って非常に無駄なタイプ。だからこそ、その魔導書を一旦誰かに手に入れてもらう必要があった」
「全て予測していた、というのか……? 僕がガラムドの書を手に入れる、ということが!」
「当然でしょう? だから、私はあなたたちをレガドールへ導いたのだから。あれは私と戦うためじゃない。あの魔導書を手に入れてもらうためだったのだから。きっとあなたたちは力を手に入れたと思っていたかもしれないけれど……、それは私も一緒だった。あとはどのように予言の勇者から魔法を聞き出すか。あまりにも簡単なことだったけれどね!」

 リュージュは高笑いをして、僕をずっと見つめていた。
 オリジナルフォーズは復活してしまった。
 ならば――あとはどうすればいい? オリジナルフォーズを封印するにしても、それはガラムドにしか出来ないはずだ。なぜならガラムドの書にはオリジナルフォーズを封印する魔法までは記載されていなかったからだ。はっきり言って、不完全なものだった。
 となるとあとは一つだけ。オリジナルフォーズを倒すしかない。だけれど、どうやって? オリジナルフォーズは復活して、既に力を蓄え始めている。長い封印で得た力を使おうとしている。何としてもそれだけは防がなくてはならない。この世界を無に帰すわけにはいかなかった。

「……一応言っておくけれど、あなたには何もできない。オリジナルフォーズは大いなる力を、この惑星から吸収している。けれど、そうね……。あなたははっきり言って邪魔な存在であることには変わりない。テーラの予言がどこまで当たるかは解らない。けれど、所詮予言の勇者なんて存在しないことを証明しないといけない。それによって、人々は絶望するのだから!」

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