異世界で、英雄譚をはじめましょう。

巫夏希

第百三十二話 目覚めへのトリガー②


 その頃、メアリーたちは突如としてフルが攫われたことについて、作戦会議を立てていた。

「……まさかリュージュ自らがフルを攫いに来るとは思いもしなかった。でも、これからどうすればいい? 相手はフルに何か利益があると思っている、ということか?」

 ルーシーの言葉に同意するのはメアリーだった。確かに疑問を抱いていたことも事実であったし、フルが邪魔ならばその場で殺してしまえばいい話だった。
 にもかかわらず、彼女はフルを攫った。
 その理由がメアリーたちには理解できなかった。

「……もしかして、だけれど」

 メアリーがその沈黙を破って、会議に意見を提示した。

「フルがライトス山で手に入れた魔導書……あったじゃない? 確か、フルが手に入れてから直ぐに消えてしまった、というアレ……」

 それを聞いてルーシー、レイナは頷く。
 確かに魔導書はフルが手に入れてから消えてしまったと言っていた。しかしながら、その魔導書の情報自体は彼の頭の中に刷り込まれている。だから、魔法を使うときは何も持つ必要が無く、脳内でページを捲るようにして、魔法を詠唱することになる。

「……ああ、それがどうかしたか?」

 ルーシーの言葉に、メアリーは小さく頷いた。

「ねえ。解らない? フルはあの魔導書を使うことの出来る唯一の人間。ということは……あの魔導書に何らかのメリットがあって、それをリュージュは使おうとしている、ということに繋がらないかしら。それがどういうものかどうかは解らないけれど」



 メアリーたちは作戦会議を終えて、走っていた。
 目的地は飛行船。そして、飛行船に乗って向かう先は――。

「ねえ、メアリー! リュージュの目的が『オリジナルフォーズの復活』ってほんとうなの!?」

 ルーシーの言葉を聞いて、メアリーは答える。

「ええ、だってオリジナルフォーズはスノーフォグが管理しているはず。そしてオリジナルフォーズは二千年前の偉大なる戦いで世界を破壊した最大級のバケモノであるはず。ということは、リュージュはあのオリジナルフォーズを復活させて……世界をもう一度破壊するつもりなのではないかしら!」
「オリジナルフォーズの、復活……」

 ルーシーは考えた。
 もしオリジナルフォーズが復活したらどうなってしまうのか。メタモルフォーズの源流とも言われているオリジナルフォーズが復活することで発生する被害は甚大なものであり、決して簡単に復旧するものではないことはルーシーの頭脳でも理解できることだった。
 それ以上の被害すら考えられる。もしかしたら世界そのものが滅んでしまうかも――。

「理解できた? ルーシー。これによって何が生み出されるか。オリジナルフォーズが復活してしまえば先ず倒すことは不可能かもしれない。フルの覚えている魔導書の知識にそれが入っていればいいけれど、入っていない可能性も有り得る。入っていなかったとしたら、封印をし直すことも出来ない。それよりも先ず、フルを助ける必要もあるからね。フルを助けないことにはどうにもならない」
「でも、それってつまり……」

 メアリーは頷いて、飛行船に乗り込んでいく。

「ええ。私たちの戦闘のタイムリミットはオリジナルフォーズが復活するまで。もしそれまでにフルを助けることが出来なかったら……その時点で私たちは打つ手なし、となるでしょうね」

 飛行船に乗り込んだメアリーたちは進路を決めようとしていた。

「ちょっと待って、メアリー。こんな時は……これを使おう」

 そうして操縦桿の上に置いたのは、金色のコンパスだった。

「……これは?」

 メアリーは興味津々、といった感じで首を傾げる。
 対してルーシーは待ってました、という表情で鼻を鳴らした。

「そうだね、メアリーはこれをもらったとき、パーティーに入っていなかったから知らなくても仕方がない。これは、探し物を探すコンパスだよ。普通コンパスと言えば東西南北を指し示すものだろう? けれど、これは違う。これは探し物のある方向に針が動く。だから……」

 そう言ってルーシーはコンパスにそっと手を添える。
 するとコンパスの針がゆっくりと動き始め――やがてある方向を指して止まった。

「つまりこの方向が……」

 こくり、とルーシーは頷いた。

「うん。この方向が、フルの居る場所だ。この場所に……オリジナルフォーズも居ると思う」
「そうと決まれば行くしかないね!」

 言ったのはレイナだった。レイナは笑顔でコンパスの針を見つめると、そちらを見た。

「この方角はやっぱり北東……うん、だから、あのオリジナルフォーズが封印されているという島に繋がっているわね。そこに向かうと、フルとオリジナルフォーズが居る、ということになるのかな」
「……それじゃ、向かうわよ。いいわね?」

 操縦桿を掴んだメアリーは、ルーシーとレイナの顔を見合わせる。
 ルーシーは大きく頷くと、メアリーに微笑んだ。

「当然だろ。世界を救う為でもあるし、それ以上にフルを助けるためでもある。そのためにも……僕たちは前を進み続けないといけない」
「そうだね。フルを助けないと、フルを助けて……ついでに世界も救っちゃおうよ」

 三人の意志は、今一致していた。
 そしてメアリーは頷いて、操縦桿を握りなおした。
 刹那、飛行船はゆっくりと地面から離れて、浮かび始めていくのだった。

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