異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百三十一話 目覚めへのトリガー①
「リュージュ……、貴様一体何をしたいんだ!」
僕はリュージュの乗る飛空艇の後部座席に放り投げられていた。何とか脱出を試みるが、そう簡単に脱出出来るものでもない。両手両足を透明な縄のようなもので縛り上げられている状態になっているから、抜け出すことが出来ない。
リュージュはこちらに振り向くこともせず、そのまま質問に答えた。
「それは簡単なこと。あなたが必要なのよ。この世界をリセットするためには、ね」
「世界をリセットする……リバイバル・プロジェクトのことか!」
「あら、よく知っているのね」
リュージュはこちらを向いて、笑みを浮かべる。
「けれど、私の計画はそんな前世代的なものじゃないわよ。もっと単純な計画になるはずだから。……さて、私が今、どこに向かっているか解るかしら?」
外を見る。そこに広がっていた光景は空だった。いや、それだけ見れば当然なことかもしれないのだが、リーガル城が雲の下に見えることを考えると相当高い場所に居るのだろう。
そして、前方には小さな島が見えてきた。
僕の記憶が正しければあの島は――。
「知っているかしら。二千年前……『偉大なる戦い』が起きたころの話ね。あるバケモノが世界を混沌に陥れた。しかしながら、突如として現れた人類の救世主がオリジナルフォーズを封印するに至った。……その名前はオリジナルフォーズ。原点にして頂点、メタモルフォーズの頂点に君臨するメタモルフォーズ。それが眠る島に、今私たちは向かっているのよ」
「まさかそれを……復活させるつもりなのか、お前は……!」
それを聞いたリュージュは僕の襟をつかみ、睨みつける。
「お前、ねえ。予言の勇者も口汚いところがあるのではなくて? ……まあ、別にいいわ。これからあなたはずっと私たちと暮らすことになるのでしょうから」
「……はあ?」
リュージュは今、何と言った?
ずっと一緒に暮らさないといけない、だと。そんなことあってたまるか。それにこちらからお断りしたい案件だ。
リュージュは笑みを浮かべたまま、僕の表情を見つめていた。
そして、暫くして――唐突に目を細め、
「そう。やっぱり、嫌いね。あなたの表情」
刹那、僕の右頬を叩いた。
あまりにも痛く、一瞬気絶してしまう程だったが、
「そんなことで気絶されてはたまったものじゃないわよ、予言の勇者。それともあなたの力はその程度だった、ということかしら」
リュージュは再び前を向いた。
「……見えてきたわよ、予言の勇者。よく見なさい、あのオリジナルフォーズの雄々しい姿を!」
そして、リュージュの言われた言葉の通り、僕もまた下を眺めた。
そこにあったのは島だった。そして島には火口があり、その火口には恐らくマグマが溜まっていたのだろう。過去形にしたのは、今はマグマが溜まっておらず、別のモノが埋まっていたからだった。
そこにあったのは、異形というのが相応しい生き物だった。
無数の生き物の腕と目と足が至る所につけられているそれは、まるで生き物をごちゃまぜにしてくっつけたようなそんな感じだった。
その異形は今眠りについているようだった。いや、眠りについている、というよりは……。
「気付いたようね、予言の勇者。そう、今あのオリジナルフォーズは封印されている。二千年前にガラムドがね。その封印の魔法も、解除する魔法も……あの魔導書に書かれている」
魔導書。
それってまさか……。
「まさか、あのガラムドの書に……!」
「その通り。それについては察しが良いようね? まあ、別にいいのだけれど。とにかく、あなたがやることは一つ。オリジナルフォーズの力を封印している、あの忌まわしき魔法を解除する。簡単よ、あなたがその魔法を使えばいい、それだけなのだから」
「そんなこと……言われてすると思っているのか?」
「そうね。しないでしょうね」
リュージュは深い溜息を吐く。
そして、再びこちらに目線を向けて、
「だからこそ、遣り甲斐があるというのよ。しない、というのならばさせるように仕向ける。私がそう簡単に諦めるとでも思ったのかしら。だとすれば、ひどく滑稽なことではあると思うのだけれど?」
僕とリュージュを乗せた飛空艇は、オリジナルフォーズの眠る島へと向かっていく。
その島にはいったい何があるのか――今の僕には想像もつかなかった。
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