異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百二十八話 一万年前の君へ⑦
「……え?」
僕たちはアンドロイド『アリス』が言った言葉の意味が理解出来なかった。
「待って。情報の整理が追いつかないのだけれど……。つまり、どういうこと?」
『この時代は仮に西暦で呼べるとするならば、12062年。あなたが実際に生きていた時代から「一万年後の未来」になります』
「一万年後の……未来?」
『そうですね。……私もさっき「状況報告」と言ってみましたが、一万年というのはあまりにも長い年月で、私の記憶媒体も徐々にその容量を確保出来なくなっています。メモリというのは読み書きをすることによって劣化していきます。何万回か何千回か……どれくらいになるかは解りませんが、いつしか寿命はやってきます。そしてその寿命を超えないように、なるべく読み書きしないようにしてきましたが……、それでも、一万年という年月はあまりにも長かったようですね』
「いや……、そんなことじゃない。そんなことは関係ない! 問題はどうして……その……」
『人間の文明が、あっけなく滅んでしまったか、ということについてですか?』
「……っ!」
僕は痛いところを突かれたような気分になった。
まあ、とは言ったところで、別に僕の発言に矛盾が生じてしまっているというわけでもない。実際のところはアリスが言ったその発言に動揺を隠すことができないだけだった。
『あなたが住む世界は、あなたが生まれてくる少し前から景気が悪くなってきました。いえ、正確にはそれだけの問題ではありません。環境汚染、食糧問題、戦争や紛争……、問題は数多くありました。それこそ、数え切れない程に』
「……確かに、そうだったかもしれない。けれど、それと僕がどういう関係に? 僕は確か、」
『あなたは選ばれた人間なのですよ。ホープ・リスト、私も先程申し上げましたが、そのリストに書かれた人類こそが世界の希望たる存在となっていました』
僕が、世界の希望?
いったい全体どういうことだというのだろうか?
アリスから面と向かってそう言われたところで、やっぱり信用出来ない。というよりも理解の範疇を超えている、と言ったほうが表現としては正しいのかもしれない。
『……話を続けましょうか。そのリストに書かれていた人物は合計で五万人。男女の番で考えれば、二万五千。それが救うことのできる最大量でした』
五万人。
確か僕がいた頃の全人類が……七十二億人くらいだったか? それを考えるとけっこうな選民主義だ。いや、もしかしたらもうそれしか手が無かったのかもしれないのだけれど。
『世界の問題を解決するにはどうすればいいか。はっきり言って並大抵のことでは解決出来ません。そんなことは当然ですし、解りきっていました。ならばどうすれば良かったのか? 何日も何日も考えた結果、世界のトップはある方法を考えました。単純ですが面倒な、もしそれが事前に判明してしまったら大問題になりかねない大事故が……』
「それは……いったい?」
『模擬的に世界を破壊することです。リセットする、とでも言えばいいでしょうか? いずれにせよ、それは簡単に出来ることではありません。アイデアだけ考えてしまえば、ひどく単純ではあったのですが』
それにしても良く喋るロボットだった。僕が知っているロボットというのは、人間によってプログラムされた言葉しか話すことが出来なかったはずだった。それは即ち、このように人間みたく自然に言葉を話すことは出来ないということだった。
にもかかわらず、アリスは普通に話している。もしかしたら、アリスの居た世界と僕の居た世界は似ているようで違う世界なのではないか……?
『話を続けましょうか。その世界をリセットする行為ですが、メリットは簡潔であった以上にデメリットもまた簡潔でした。それは、リセットしたあとの人類が無事に生きていけるのか、ということでした。……当然ですよね、リセットしたあとは文明が殆ど残りません。残ったとしてもそれを維持していくためのエネルギーを生み出すことが非常に大変になるのですから』
「それでもなお……、世界を破壊しないといけなかった、ってこと? その……私たちのご先祖様は?」
ご先祖様。確かにそういう解釈になるのか。一万年も前の話を真剣に聞いていられるメアリーたちもメアリーたちであるけれど。僕だったら信用出来ずに直ぐ無視してしまうだろうけれど。
アリスは頷いて、さらに話を続けた。
『まあ、結果として一万年後、ゆっくりと人類の文明は復興していきました。いや、それだけではありません。一万年前とは違う新たな技術を発展させていき、最終的には元々の世界とは少し違った世界が作り出されました』
「魔術、か……」
今度はルーシーが言った。
魔術。確かにそれは元々の世界には無かった技術だ。ということはこの一万年の間、どこかで運命の悪戯が起きて魔術が世界の仕組みに組み込まれるようになった、ということなのだろうか。ううむ、話を聞いているだけで頭が痛くなってきた。
僕たちはアンドロイド『アリス』が言った言葉の意味が理解出来なかった。
「待って。情報の整理が追いつかないのだけれど……。つまり、どういうこと?」
『この時代は仮に西暦で呼べるとするならば、12062年。あなたが実際に生きていた時代から「一万年後の未来」になります』
「一万年後の……未来?」
『そうですね。……私もさっき「状況報告」と言ってみましたが、一万年というのはあまりにも長い年月で、私の記憶媒体も徐々にその容量を確保出来なくなっています。メモリというのは読み書きをすることによって劣化していきます。何万回か何千回か……どれくらいになるかは解りませんが、いつしか寿命はやってきます。そしてその寿命を超えないように、なるべく読み書きしないようにしてきましたが……、それでも、一万年という年月はあまりにも長かったようですね』
「いや……、そんなことじゃない。そんなことは関係ない! 問題はどうして……その……」
『人間の文明が、あっけなく滅んでしまったか、ということについてですか?』
「……っ!」
僕は痛いところを突かれたような気分になった。
まあ、とは言ったところで、別に僕の発言に矛盾が生じてしまっているというわけでもない。実際のところはアリスが言ったその発言に動揺を隠すことができないだけだった。
『あなたが住む世界は、あなたが生まれてくる少し前から景気が悪くなってきました。いえ、正確にはそれだけの問題ではありません。環境汚染、食糧問題、戦争や紛争……、問題は数多くありました。それこそ、数え切れない程に』
「……確かに、そうだったかもしれない。けれど、それと僕がどういう関係に? 僕は確か、」
『あなたは選ばれた人間なのですよ。ホープ・リスト、私も先程申し上げましたが、そのリストに書かれた人類こそが世界の希望たる存在となっていました』
僕が、世界の希望?
いったい全体どういうことだというのだろうか?
アリスから面と向かってそう言われたところで、やっぱり信用出来ない。というよりも理解の範疇を超えている、と言ったほうが表現としては正しいのかもしれない。
『……話を続けましょうか。そのリストに書かれていた人物は合計で五万人。男女の番で考えれば、二万五千。それが救うことのできる最大量でした』
五万人。
確か僕がいた頃の全人類が……七十二億人くらいだったか? それを考えるとけっこうな選民主義だ。いや、もしかしたらもうそれしか手が無かったのかもしれないのだけれど。
『世界の問題を解決するにはどうすればいいか。はっきり言って並大抵のことでは解決出来ません。そんなことは当然ですし、解りきっていました。ならばどうすれば良かったのか? 何日も何日も考えた結果、世界のトップはある方法を考えました。単純ですが面倒な、もしそれが事前に判明してしまったら大問題になりかねない大事故が……』
「それは……いったい?」
『模擬的に世界を破壊することです。リセットする、とでも言えばいいでしょうか? いずれにせよ、それは簡単に出来ることではありません。アイデアだけ考えてしまえば、ひどく単純ではあったのですが』
それにしても良く喋るロボットだった。僕が知っているロボットというのは、人間によってプログラムされた言葉しか話すことが出来なかったはずだった。それは即ち、このように人間みたく自然に言葉を話すことは出来ないということだった。
にもかかわらず、アリスは普通に話している。もしかしたら、アリスの居た世界と僕の居た世界は似ているようで違う世界なのではないか……?
『話を続けましょうか。その世界をリセットする行為ですが、メリットは簡潔であった以上にデメリットもまた簡潔でした。それは、リセットしたあとの人類が無事に生きていけるのか、ということでした。……当然ですよね、リセットしたあとは文明が殆ど残りません。残ったとしてもそれを維持していくためのエネルギーを生み出すことが非常に大変になるのですから』
「それでもなお……、世界を破壊しないといけなかった、ってこと? その……私たちのご先祖様は?」
ご先祖様。確かにそういう解釈になるのか。一万年も前の話を真剣に聞いていられるメアリーたちもメアリーたちであるけれど。僕だったら信用出来ずに直ぐ無視してしまうだろうけれど。
アリスは頷いて、さらに話を続けた。
『まあ、結果として一万年後、ゆっくりと人類の文明は復興していきました。いや、それだけではありません。一万年前とは違う新たな技術を発展させていき、最終的には元々の世界とは少し違った世界が作り出されました』
「魔術、か……」
今度はルーシーが言った。
魔術。確かにそれは元々の世界には無かった技術だ。ということはこの一万年の間、どこかで運命の悪戯が起きて魔術が世界の仕組みに組み込まれるようになった、ということなのだろうか。ううむ、話を聞いているだけで頭が痛くなってきた。
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