異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第百二十三話 一万年前の君へ②
船を降りて、リーガル城の城下町に僕たちは到着していた。そこに向かうまで、急いで様子を確認したくて小走りになっていたけれど、それでも町の状態が変わることなんて無かった。
「……どうして、こんなことに……」
そこに広がっていたのは、一言で言えば惨状が広がっていた。
燃える瓦礫、呻き声を上げながら歩く人たち、瓦礫に埋もれている身体を何とか引っ張り出そうと泣きながら力を込めている子供の姿。
そのどれもが、この惨状の様子をより恐ろしいものへと昇華させていた。
「なぜこんなことに……」
「おやおやあ、予言の勇者様の登場かな。それにしても随分と遅かったようだねえ、ロマ?」
「ええ、そうですわね。お兄様。まったく、予言の勇者はいったいどこで油を売っていたのでしょうか?」
声が二つ、聞こえた。
踵を返し、そちらを振り向く。
そこに立っていたのは僕たちの予想通り――バルト・イルファとロマ・イルファが経っていた。
「まさかお前たちがこれを……」
「さあ、どうでしょう? けれど、はっきり言わせてもらうよ。君たちがもう少し早く来ていればこの惨状も実現しなかったのではないかな?」
「何を……!」
歯を食いしばってそう言ったけれど、少し視点を変えてみればそうなのかもしれない。
一般の人間から見れば自分たちを助けてくれるはずの予言の勇者はなぜ現れないのか、となる。そして今やってきたとしても、どうして今頃やってきたのか、もう少し早くやってこられなかったのか、と批判を受けるのは火を見るよりも明らかだ。
「何を言っているのよ! あなたたちが炎や水の魔法でこんなことをしなければ……この町はこんな風にならなかった! フルがどうこうじゃない、あなたたちが燃やしたのが悪いんじゃない!」
そう言ったのはメアリーだった。同時に負のスパイラルに陥りかけていた思考が引き戻される。
「フル、しっかりして。あなたを精神攻撃でどうにかしようとしているみたいだけれど、絶対に屈してはいけないわ。あなたは強い。そしてあなたは絶対に遅くなったわけじゃない! もっと言うならば、遅くなった原因を作ったのは……紛れもない、あいつらなのだから!」
それを聞いたバルト・イルファは舌打ちする。どうやら彼らもあまり余裕が無いようだった。もしかしたら『計画』とやらの終わりが差し迫っているのかもしれない。
だとすれば好都合だ。余裕が無いタイミングを狙えばこの状態でも何とかなるかも……。
「何とかなる、と思ったのですか?」
冷たい口調でそう告げたのはロマ・イルファだった。
「お兄様も。余裕が無い、時間が無いのは解りますけれど、戦闘で気を抜いてはいけないのではないのですか。お兄様らしくありません。あの予言の勇者に誑かされたのが原因でしょうけれど……、でも、それはリュージュ様から見れば言い訳にしか見えません。先ずは、何とかしなければなりません」
「あ、ああ……。そうだったね。ありがとう、ロマ。君のおかげで何とかなった」
「いえいえ。私はお兄様のために存在しているのです。お兄様が居なければ、私は……」
「どうする、この状況……」
メアリーに問いかける。
イルファ兄妹がこちらに目線を向けていないうちに、こっそりと作戦会議を開始する。
いくら何でも加護を全員受けている状態だからと言って、イルファ兄妹を二人とも倒せるとは考えられない。ならばうまく二人を分割させればいいのだろうが……、それでもどう上手く分割出来るかが難しい。
「今は逃げるか? ……でも、いつかは倒さないといけない相手であることも間違いない。となると……」
「逃げるつもりかい?」
声が聞こえた。
油断していた――! そう思った次の瞬間には、僕たちの目の前に炎が迫っていた。
しかしながら急いでシルフェの剣を引き抜いて一閃。するとシールドが目の前に広げられて、炎の攻撃を遮った。
「ふん。……やっぱり予言の勇者だけはあるね。簡単にシールドで弾いてくる。はっきり言って、怨めしいなあ。もう少しうまくいくとは思ったけれど、まさかここまで君たちと戦いが縺れ込むことになるとは思いもしなかったからね」
バルト・イルファは愉悦にも似た笑みを浮かべつつ、再び炎の魔法を放つ準備をし始める。
守るばかりじゃだめだ。こっちも攻撃をしないと!
そう思って僕は、頭の中にある魔導書の中から魔法を一つ――選択した。
「ミーシュ・クライト!!」
詠唱。
同時に、地面が大きく割れてバルト・イルファのほうにその地割れが広がっていく。
「ふん。地割れで僕を飲み込もうという作戦かな。それに……詠唱ということは、それはガラムドの書にあった魔法、ということか……」
バルト・イルファは何かぶつぶつと呟いていたけれど、地割れの音に掻き消されてしまって何も聞こえなかった。
そしてその地割れはそのまま――イルファ兄妹がいた地面を分断した。
「……どうして、こんなことに……」
そこに広がっていたのは、一言で言えば惨状が広がっていた。
燃える瓦礫、呻き声を上げながら歩く人たち、瓦礫に埋もれている身体を何とか引っ張り出そうと泣きながら力を込めている子供の姿。
そのどれもが、この惨状の様子をより恐ろしいものへと昇華させていた。
「なぜこんなことに……」
「おやおやあ、予言の勇者様の登場かな。それにしても随分と遅かったようだねえ、ロマ?」
「ええ、そうですわね。お兄様。まったく、予言の勇者はいったいどこで油を売っていたのでしょうか?」
声が二つ、聞こえた。
踵を返し、そちらを振り向く。
そこに立っていたのは僕たちの予想通り――バルト・イルファとロマ・イルファが経っていた。
「まさかお前たちがこれを……」
「さあ、どうでしょう? けれど、はっきり言わせてもらうよ。君たちがもう少し早く来ていればこの惨状も実現しなかったのではないかな?」
「何を……!」
歯を食いしばってそう言ったけれど、少し視点を変えてみればそうなのかもしれない。
一般の人間から見れば自分たちを助けてくれるはずの予言の勇者はなぜ現れないのか、となる。そして今やってきたとしても、どうして今頃やってきたのか、もう少し早くやってこられなかったのか、と批判を受けるのは火を見るよりも明らかだ。
「何を言っているのよ! あなたたちが炎や水の魔法でこんなことをしなければ……この町はこんな風にならなかった! フルがどうこうじゃない、あなたたちが燃やしたのが悪いんじゃない!」
そう言ったのはメアリーだった。同時に負のスパイラルに陥りかけていた思考が引き戻される。
「フル、しっかりして。あなたを精神攻撃でどうにかしようとしているみたいだけれど、絶対に屈してはいけないわ。あなたは強い。そしてあなたは絶対に遅くなったわけじゃない! もっと言うならば、遅くなった原因を作ったのは……紛れもない、あいつらなのだから!」
それを聞いたバルト・イルファは舌打ちする。どうやら彼らもあまり余裕が無いようだった。もしかしたら『計画』とやらの終わりが差し迫っているのかもしれない。
だとすれば好都合だ。余裕が無いタイミングを狙えばこの状態でも何とかなるかも……。
「何とかなる、と思ったのですか?」
冷たい口調でそう告げたのはロマ・イルファだった。
「お兄様も。余裕が無い、時間が無いのは解りますけれど、戦闘で気を抜いてはいけないのではないのですか。お兄様らしくありません。あの予言の勇者に誑かされたのが原因でしょうけれど……、でも、それはリュージュ様から見れば言い訳にしか見えません。先ずは、何とかしなければなりません」
「あ、ああ……。そうだったね。ありがとう、ロマ。君のおかげで何とかなった」
「いえいえ。私はお兄様のために存在しているのです。お兄様が居なければ、私は……」
「どうする、この状況……」
メアリーに問いかける。
イルファ兄妹がこちらに目線を向けていないうちに、こっそりと作戦会議を開始する。
いくら何でも加護を全員受けている状態だからと言って、イルファ兄妹を二人とも倒せるとは考えられない。ならばうまく二人を分割させればいいのだろうが……、それでもどう上手く分割出来るかが難しい。
「今は逃げるか? ……でも、いつかは倒さないといけない相手であることも間違いない。となると……」
「逃げるつもりかい?」
声が聞こえた。
油断していた――! そう思った次の瞬間には、僕たちの目の前に炎が迫っていた。
しかしながら急いでシルフェの剣を引き抜いて一閃。するとシールドが目の前に広げられて、炎の攻撃を遮った。
「ふん。……やっぱり予言の勇者だけはあるね。簡単にシールドで弾いてくる。はっきり言って、怨めしいなあ。もう少しうまくいくとは思ったけれど、まさかここまで君たちと戦いが縺れ込むことになるとは思いもしなかったからね」
バルト・イルファは愉悦にも似た笑みを浮かべつつ、再び炎の魔法を放つ準備をし始める。
守るばかりじゃだめだ。こっちも攻撃をしないと!
そう思って僕は、頭の中にある魔導書の中から魔法を一つ――選択した。
「ミーシュ・クライト!!」
詠唱。
同時に、地面が大きく割れてバルト・イルファのほうにその地割れが広がっていく。
「ふん。地割れで僕を飲み込もうという作戦かな。それに……詠唱ということは、それはガラムドの書にあった魔法、ということか……」
バルト・イルファは何かぶつぶつと呟いていたけれど、地割れの音に掻き消されてしまって何も聞こえなかった。
そしてその地割れはそのまま――イルファ兄妹がいた地面を分断した。
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