異世界で、英雄譚をはじめましょう。

巫夏希

第百二十一話 知恵の木⑧

 ルズナに案内されたその先にあったのは、エンジンルームと呼ばれる場所だった。名前の通り、この船の心臓があるとルズナは言っていたが、それは普通の心臓とはまったく違うものだった。

「……これは?」

 ドクン、ドクン……。
 まるで人間の心臓のように、脈打つ音が聞こえていた。
 そこにあったのは銀色の器だった。器の中身は何があるのかは解らない。しかし、その脈打つ音はとても生きているものの音にしか聞こえないし、その音は器の中から聞こえてくる――話をしただけではおかしいものだと思われてしまうだろうが、まさにその通りだった。

「……これは魔導エンジンだ。このエンジンは面白いものでね、エネルギーさえ注入してやれば暫く自分でエネルギーを変換してこの船のためのエネルギーとして船の中に満たすことが出来る。もちろん、満たすというよりも循環させると言ったほうが正しいのかもしれないが。……いずれにせよ、このエンジンはどこにもない、オンリーワンなエンジンだよ。これを量産することははっきり言って難しいだろうからね」
「このエンジン……いったいどうやって?」

 メアリーの質問に、ルズナは唇に人差し指を添えた。

「それは秘密だ。それを言ってしまったら、世界中がこのエンジンを真似してしまうだろう?」
「……成る程。けれど、それを僕たちに与えてしまっていいのか?」
「技術を与えなければどうということは無い。それに、僕は金儲けをするつもりなんて無いからね」

 そう言ってルズナは手を振った。
 まるであとは任せた、と言わんばかりに。

「あ、あの……どこに?」
「どこに、って……。簡単なことだよ。もうこの船は君たちのものだ。そのための手続きをしなくてはいけない。それに、君たちも荷物を取ってきたほうがいいと思うぞ」

 そう言ってルズナは姿を消した。
 一先ず彼の言うことには従ったほうがいいかもしれない。そう思って、僕たちもルズナの後を追うのだった。


 ◇◇◇


 そして、旅立ちの時。
 荷物もたくさん詰め込んだ。食べ物は国王陛下が大量に用意してくれたおかげで何とかなった。これほどあればどんなところに旅をしても余裕で間に合うことだろう。

「……まさか、空を飛ぶ船に乗ることが出来るとは思わなかったなあ」

 ルーシーは甲板から外を見つめながら、言った。
 それは僕だってそうだった。僕はずっとこの世界の科学技術がそれ程進歩していないと思っていた。だのに突然ガツンとボディーブローを食らった気分だ。

「それにしても、空を飛ぶといろいろと見えてくるものじゃないかしら。だって、ほら」

 そう言って、メアリーはすっと指さした。
 遠い方向には、煙が見える。

「……もしかして、あの方向は」

 こくり。メアリーは小さく頷いた。

「ええ、あの先にあるのは……ハイダルクよ。リュージュ、もしかしたら最終決戦の地にあの場所を選んだのかもしれないわね……」

 メアリーはそう言っていたが、きっと感情としては複雑なものだったのだろう。

「……みなさん、さようなら」
「おじさん、ありがとう!」
「おじさんじゃねえよ! 俺はタンダ・エーミッドって名前があるんだ!」

 そう言われたけれど、僕たちはただ笑みを浮かべるだけだった。
 そうして僕たちは――次の目的地であるハイダルクへと向かうため、飛空艇を動かし始めた。


 ◇◇◇


 リュージュは笑みを浮かべていた。

「計画は第三フェーズへ進んだ」

 独り言をぽつりと呟く。
 しかしその独り言は、背後に立っていたバルト・イルファが回収した。

「あとはオリジナルフォーズが目覚めるだけ……ですか」
「ああ、そうね。けれど、まだそれだけでは足りないかもしれない。まだ、私にはやるべきことが残っている」
「やるべきこと、ですか」
「そのためにはあることが必要よ。……しかしそれが失敗してしまったら、大変なことになってしまうかもしれない。けれど、私の目的を果たすためにも、予言の勇者には頑張ってもらわないとね……」

 そうして、リュージュは空を見つめる。
 月は、二つ。
 輝いていた二つの月は、少しだけこの星に近づいているようにも見えるのだった。

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