異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第六十四話 シュラス錬金術研究所⑰
「お前のその状況を見て嘘を吐くような輩が居たら、そいつは相当捻くれ者だろうよ。それとも何だ? お前は俺のことを捻くれ者だと扱っているということか?」
「いやいや! そんなことは思っていませんよ。それにしても……え? ほんとうに、この僕に依頼が?」
「だから言っているだろう。ビッグニュースだと」
先ほどの酩酊ぶりはどこに行ったのか、あっという間によれよれになっていた服の襟を正して、僕たちのテーブルへと向かった。
そうして完璧にお辞儀をしたところで、
「はじめまして。僕の名前はシュルツ。シュルツ・マークラケンといいます。しがない行商ではありますが、腕に自信はあります。まず、きちんとお時間は守ります。たとえ無茶な時間を言われようとも、問題ありません。さすがにスノーフォグからハイダルクまでを一時間、というのは無理な話ですのでお断りする可能性もあるといえばありますが」
仕事の交渉一発目でそんな話をしていいのだろうか……?
そんなことを思ったけれど、それについては今語るべき話題でもないのかも知れない。
そう思って僕は話を始める。
これからは僕のターンだ。
「はじめまして、シュルツさん。早速ですが、僕たちが行きたい場所は既に決まっています。……まあ、先ずは座っていただいて」
流石に立たせたままで話をするのはちょっと周りからの目線が痛い。
そうともなれば、さっさと先ずは座っていただいてからきちんと話をしたほうがいい。
「ありがとうございます。……それで、ほんとうに僕でいいんですか?」
「かまいませんよ。僕たちも行商を探していたので。誰も見つからなかったのですよ」
「見つからなかった……? いったいどこへ向かうつもりだったのですか?」
そこで僕は、目的地をはっきりと告げた。
「メタモルフォーズの巣へ向かおうかと」
「すいません、お断りさせていただきます」
立ち上がろうとしたシュルツさんの腕を即座につかむレイナ。
僕の背後からアルダさんが茶々を入れる。
「おいおい、どうしたんだよ、シュルツ。別に問題ないだろう、お前、仕事が欲しいって言っていたじゃないか」
「言っていましたけど、言いましたけれど! けれど、こんな大変な仕事じゃ断りたくなるのも当然じゃないですか! わざわざ死地に赴く人が居るとでも!?」
「……やっぱりだめですよね。仕方ないといえば仕方ないかもしれないですけれど……。やっぱり、私たちだけで歩いて彼女を助けないと」
「彼女を? ……ええと、君たちはわざわざメタモルフォーズの巣へ向かって死にに行くということではなくて?」
「そんな馬鹿なことを自ら進んでするはずがないでしょう」
そう冷静に発言したのはレイナだった。
まあ、当然といえば当然なのだけれど。
「……メタモルフォーズの巣に、僕たちの大切な友達が居るかもしれないんです。もしかしたら居ないかもしれないけれど、居てほしくないけれど、でも手がかりは一つしか無い。だから、僕たちはそこへ向かわないといけない。……これは、きっと、誰も行こうとは思わないことかもしれないのだけれど」
言葉が、溢れていく。
メアリーは大切な友達だ。
この世界にやってきて、初めて知り合った友達。
そんな彼女を、このような場所で見捨てては――ならない。
「……解りました」
溜息を吐いて、シュルツさんはそう言った。
「それじゃ……」
「本当は嫌なんですけれどね。あなたたちの言葉に感銘を受けましたよ。まさかそのようなことを考えている人がいるなんて。正直、この世界はメタモルフォーズに心まで蹂躙されてしまった人間ばかりかと思っていました。けれど、違うのですね。解りました、向かいましょう。そうと決まれば、時間は急いだほうがいいでしょう?」
その言葉を聞いて、僕たちは大きく頷いた。
◇◇◇
シュルツさんとの待ち合わせ場所は南門と呼ばれる場所だった。
そこから向かうことで、メタモルフォーズの巣へと一番近付くことが出来るのだという。実際には、それにプラスして馬車やトラックが出しやすい状況にあるらしいのだけれど。
「お待たせしました」
声が聞こえて、僕たちはそちらを向いた。
そこに居たのはシュルツさんと……小さい竜だった。いや、ただの竜じゃない。その竜が馬車を引いている。
驚いている様子の僕たちを見たシュルツさんは首を傾げていたが、少ししてその正体を理解する。
「ああ、もしかして、あれですか? 竜馬車を見たことがない?」
「竜馬車……。そういう名前なのですか、これは」
「ええ。正確にはミニマムドラゴンを使うことで馬車とは違うこととしていますけれど。スピードは馬車の数倍も出ます。ですが、うまく扱わないと馬車の中がごちゃ混ぜになってしまうことから操縦が難しいといわれていますけれどね」
そう言ってシュルツさんは竜の身体をぽんぽんと叩いた。けれど、竜はすっかりシュルツさんに懐いているようで、何もすることなくただシュルツさんのほうを見つめていた。
そしてシュルツさんは後ろにある馬車を指さした。
「準備ができているようならば、後ろの馬車に乗り込んで。僕はもう出発の準備はできているから、君たちに合わせるよ」
その言葉を聞いて僕たちも大きく頷くと、そのまま後ろの馬車へと乗り込んだ。
「それじゃ、出発するよ!」
竜に乗ったシュルツさんは、優しく竜に語り掛ける。
「さあ、出発だ」
それを合図として、竜は起き上がる。竜の大きさはなかなかある。跪いていたから正確なサイズが解らなかった、ということもあるけれどこう見ると圧巻だ。
そうして竜と、連結している僕たちを乗せた馬車はゆっくりとエノシアスタの町を後にするのだった。
「いやいや! そんなことは思っていませんよ。それにしても……え? ほんとうに、この僕に依頼が?」
「だから言っているだろう。ビッグニュースだと」
先ほどの酩酊ぶりはどこに行ったのか、あっという間によれよれになっていた服の襟を正して、僕たちのテーブルへと向かった。
そうして完璧にお辞儀をしたところで、
「はじめまして。僕の名前はシュルツ。シュルツ・マークラケンといいます。しがない行商ではありますが、腕に自信はあります。まず、きちんとお時間は守ります。たとえ無茶な時間を言われようとも、問題ありません。さすがにスノーフォグからハイダルクまでを一時間、というのは無理な話ですのでお断りする可能性もあるといえばありますが」
仕事の交渉一発目でそんな話をしていいのだろうか……?
そんなことを思ったけれど、それについては今語るべき話題でもないのかも知れない。
そう思って僕は話を始める。
これからは僕のターンだ。
「はじめまして、シュルツさん。早速ですが、僕たちが行きたい場所は既に決まっています。……まあ、先ずは座っていただいて」
流石に立たせたままで話をするのはちょっと周りからの目線が痛い。
そうともなれば、さっさと先ずは座っていただいてからきちんと話をしたほうがいい。
「ありがとうございます。……それで、ほんとうに僕でいいんですか?」
「かまいませんよ。僕たちも行商を探していたので。誰も見つからなかったのですよ」
「見つからなかった……? いったいどこへ向かうつもりだったのですか?」
そこで僕は、目的地をはっきりと告げた。
「メタモルフォーズの巣へ向かおうかと」
「すいません、お断りさせていただきます」
立ち上がろうとしたシュルツさんの腕を即座につかむレイナ。
僕の背後からアルダさんが茶々を入れる。
「おいおい、どうしたんだよ、シュルツ。別に問題ないだろう、お前、仕事が欲しいって言っていたじゃないか」
「言っていましたけど、言いましたけれど! けれど、こんな大変な仕事じゃ断りたくなるのも当然じゃないですか! わざわざ死地に赴く人が居るとでも!?」
「……やっぱりだめですよね。仕方ないといえば仕方ないかもしれないですけれど……。やっぱり、私たちだけで歩いて彼女を助けないと」
「彼女を? ……ええと、君たちはわざわざメタモルフォーズの巣へ向かって死にに行くということではなくて?」
「そんな馬鹿なことを自ら進んでするはずがないでしょう」
そう冷静に発言したのはレイナだった。
まあ、当然といえば当然なのだけれど。
「……メタモルフォーズの巣に、僕たちの大切な友達が居るかもしれないんです。もしかしたら居ないかもしれないけれど、居てほしくないけれど、でも手がかりは一つしか無い。だから、僕たちはそこへ向かわないといけない。……これは、きっと、誰も行こうとは思わないことかもしれないのだけれど」
言葉が、溢れていく。
メアリーは大切な友達だ。
この世界にやってきて、初めて知り合った友達。
そんな彼女を、このような場所で見捨てては――ならない。
「……解りました」
溜息を吐いて、シュルツさんはそう言った。
「それじゃ……」
「本当は嫌なんですけれどね。あなたたちの言葉に感銘を受けましたよ。まさかそのようなことを考えている人がいるなんて。正直、この世界はメタモルフォーズに心まで蹂躙されてしまった人間ばかりかと思っていました。けれど、違うのですね。解りました、向かいましょう。そうと決まれば、時間は急いだほうがいいでしょう?」
その言葉を聞いて、僕たちは大きく頷いた。
◇◇◇
シュルツさんとの待ち合わせ場所は南門と呼ばれる場所だった。
そこから向かうことで、メタモルフォーズの巣へと一番近付くことが出来るのだという。実際には、それにプラスして馬車やトラックが出しやすい状況にあるらしいのだけれど。
「お待たせしました」
声が聞こえて、僕たちはそちらを向いた。
そこに居たのはシュルツさんと……小さい竜だった。いや、ただの竜じゃない。その竜が馬車を引いている。
驚いている様子の僕たちを見たシュルツさんは首を傾げていたが、少ししてその正体を理解する。
「ああ、もしかして、あれですか? 竜馬車を見たことがない?」
「竜馬車……。そういう名前なのですか、これは」
「ええ。正確にはミニマムドラゴンを使うことで馬車とは違うこととしていますけれど。スピードは馬車の数倍も出ます。ですが、うまく扱わないと馬車の中がごちゃ混ぜになってしまうことから操縦が難しいといわれていますけれどね」
そう言ってシュルツさんは竜の身体をぽんぽんと叩いた。けれど、竜はすっかりシュルツさんに懐いているようで、何もすることなくただシュルツさんのほうを見つめていた。
そしてシュルツさんは後ろにある馬車を指さした。
「準備ができているようならば、後ろの馬車に乗り込んで。僕はもう出発の準備はできているから、君たちに合わせるよ」
その言葉を聞いて僕たちも大きく頷くと、そのまま後ろの馬車へと乗り込んだ。
「それじゃ、出発するよ!」
竜に乗ったシュルツさんは、優しく竜に語り掛ける。
「さあ、出発だ」
それを合図として、竜は起き上がる。竜の大きさはなかなかある。跪いていたから正確なサイズが解らなかった、ということもあるけれどこう見ると圧巻だ。
そうして竜と、連結している僕たちを乗せた馬車はゆっくりとエノシアスタの町を後にするのだった。
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