異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第三十三話 決戦、リーガル城④
「兎角、問題は一つ解決した、ということだ」
ゴードンさんは兵士に向き直り、そう言った。
確かに、これによってレイナが実施した方法は解決した。
しかし、問題はまだある。たとえレイナの移動方法が解決したとしても、レイナの根城自体は判明していないからだ。
「結論は見えています。……次にレイナが何を狙うか、予測を立てるしかありません。あるいは、レイナがどこで盗品を売りつけているか」
「はっきり言ってそれが解れば苦労しない。アイツが品を売りつけているのは裏町のどこか、ということしか判明していない。もし解るとすれば……」
「裏町の情報通、」
塞ぎ込んだかと思われた道に、活路を与えたのはミシェラだった。
「情報通?」
ゴードンさんは首を傾げて、ミシェラの目を見つめる。
「裏町には情報通が居るはずだよ。名前は誰にも明かしていないから、その姿しか判明していないけれど……」
「情報通なら聞いたことはある。どこに居るのかは解らないが、よく裏路地の喫茶店に居るという情報はあるな。ただ、アイツは我々のような存在を嫌っている。……どうすればいいものか」
「それ、僕たちに任せてくれませんか?」
僕はとっさにそう言った。
鍵を盗まれたし、ほかにも盗まれたものがあるという。
だったら、それを取り戻さないといけない。それが僕たちにしか出来ないというのであれば、なおさら。
「……それは君たちには出来ないよ。もともと追っていたのは、私たち国だ。国で何とかしないといけない問題を、君たち冒険者に任せるわけには……」
「しかし、兵士を嫌っているのも事実ですよね? その情報通というのは」
ゴードンさんは何も言い返せなかった。
決してゴードンさんを言葉攻めにしたかったわけではない。むしろゴードンさんを助けたくて、僕はこう言った。
きっとメアリーとルーシーが口を開いても、こう言ったに違いない。現にメアリーとルーシーの表情を見ると、彼らもまた頷いていたからだ。
それを見たゴードンさんは溜息を吐いて、僕たち三人の顔をじっと見つめて、
「……解った。そこまで言うのであれば、君たちに任せよう。オイ、その情報通が居るという噂の喫茶店はどこだ?」
「カルフィアストリートの脇にある喫茶店です。確か名前はテーブルノマスです」
「テーブルノマス、だそうだ。申し訳ない、よろしく頼む」
ゴードンさんは頭を下げて、僕たちに言った。
「いいえ、大丈夫ですよ。僕たちも物を盗まれました。いわば被害者です。それを取り戻さないと、僕たちは先に進めませんから」
「解った。……それでは君たちにすべてを託そう。テーブルノマスへと向かう行き方は兵士から教えてもらうことにして、何かあったら詰所へ向かってくれ。この紙切れを渡してくれれば、きっと詰所の兵士からこちらに連絡があるはずだ」
テーブルノマスという喫茶店はすぐに見つかった。
客も入っていない、見た様子では寂れているお店だったが、外から見るとひとりの男性がコーヒーを飲んでいた。
「……もしかしてアレが?」
「かもしれない。だってこのような場所に一人、よ? はっきり言って怪しいと言ってもおかしくない。何か秘密があるからこそ、ここに居るのよ。きっと」
メアリーの後押しを見て、僕たちは喫茶店の中へ足を踏み入れた。
カウンターの向こうにはマスターと思われる男性がコーヒーカップを磨いていたが、客が入ったことに対する挨拶など無く、ただ自分の行っている行為に集中しているようだった。はっきり言って、そんなことは客商売が成り立っているのかどうか疑問だが、まあ、そんなことは客である僕たちが考える必要も無いだろう。
情報通と思われる、一人の男性の前に立って、僕は言った。
「……お前が情報通か」
情報通と思われる男性はそれを聞いて僕を一瞥して、すぐにコーヒーを啜る。
「だとすれば、どうする?」
「情報を買いたい。それも早急に」
「……どのレベルの情報かによるが。先ずは、何の情報が欲しいのか、それを教えてもらおうか」
「レイナという盗人の住処、そこを教えてもらおう」
「……レイナ、か」
それを聞いた情報通は目を細めて、窓の外を眺めた。
暫し時間をおいて、情報通は溜息を吐いた。
「十万ドムでどうだ?」
十万ドム。
確か出発前にサリー先生から戴いたお金の全額が四十万ドムだったから、四分の一ということになる。
正直、それほどの価値があるとは思えない情報かもしれないが、あの鍵を取り返すためにはその情報が必要だった。
だから、僕は頷いた。
「……思い切りのいい人間は嫌いじゃないぜ。じゃあ、前金で支払ってもらおうか」
そう言って情報通は右手を差し出す。
次いで、僕は麻袋から十枚の金貨を取り出してそれを情報通に差し出した。
情報通はしっかりと一枚一枚丁寧に数えて、頷く。
「よし、きちんと十枚確認したぞ。……それじゃ、お望みの情報を教えようじゃないか。しかし、残念なことに、あのレイナの居住地は誰にも解らない」
「ちょっとあなた、それって……!」
それは裏切りと言ってもいい。
メアリーが前のめりに彼に問い質そうとする気持ちも解る。
だが、情報通はそれを右手で制すと、
「ただ、レイナは毎日手に入れたものを裏道にある特定の質屋へと向かって換金している。そこはレイナをひいきにしているらしいからな。なんでも、レイナが盗賊稼業をする理由がその質屋にあるとも言われているが……、おっと、それは余談だったな。いずれにせよ、その質屋に行けば、確実にレイナに会えると思うぞ。まあ、そのあとはお前たち次第だがな」
ゴードンさんは兵士に向き直り、そう言った。
確かに、これによってレイナが実施した方法は解決した。
しかし、問題はまだある。たとえレイナの移動方法が解決したとしても、レイナの根城自体は判明していないからだ。
「結論は見えています。……次にレイナが何を狙うか、予測を立てるしかありません。あるいは、レイナがどこで盗品を売りつけているか」
「はっきり言ってそれが解れば苦労しない。アイツが品を売りつけているのは裏町のどこか、ということしか判明していない。もし解るとすれば……」
「裏町の情報通、」
塞ぎ込んだかと思われた道に、活路を与えたのはミシェラだった。
「情報通?」
ゴードンさんは首を傾げて、ミシェラの目を見つめる。
「裏町には情報通が居るはずだよ。名前は誰にも明かしていないから、その姿しか判明していないけれど……」
「情報通なら聞いたことはある。どこに居るのかは解らないが、よく裏路地の喫茶店に居るという情報はあるな。ただ、アイツは我々のような存在を嫌っている。……どうすればいいものか」
「それ、僕たちに任せてくれませんか?」
僕はとっさにそう言った。
鍵を盗まれたし、ほかにも盗まれたものがあるという。
だったら、それを取り戻さないといけない。それが僕たちにしか出来ないというのであれば、なおさら。
「……それは君たちには出来ないよ。もともと追っていたのは、私たち国だ。国で何とかしないといけない問題を、君たち冒険者に任せるわけには……」
「しかし、兵士を嫌っているのも事実ですよね? その情報通というのは」
ゴードンさんは何も言い返せなかった。
決してゴードンさんを言葉攻めにしたかったわけではない。むしろゴードンさんを助けたくて、僕はこう言った。
きっとメアリーとルーシーが口を開いても、こう言ったに違いない。現にメアリーとルーシーの表情を見ると、彼らもまた頷いていたからだ。
それを見たゴードンさんは溜息を吐いて、僕たち三人の顔をじっと見つめて、
「……解った。そこまで言うのであれば、君たちに任せよう。オイ、その情報通が居るという噂の喫茶店はどこだ?」
「カルフィアストリートの脇にある喫茶店です。確か名前はテーブルノマスです」
「テーブルノマス、だそうだ。申し訳ない、よろしく頼む」
ゴードンさんは頭を下げて、僕たちに言った。
「いいえ、大丈夫ですよ。僕たちも物を盗まれました。いわば被害者です。それを取り戻さないと、僕たちは先に進めませんから」
「解った。……それでは君たちにすべてを託そう。テーブルノマスへと向かう行き方は兵士から教えてもらうことにして、何かあったら詰所へ向かってくれ。この紙切れを渡してくれれば、きっと詰所の兵士からこちらに連絡があるはずだ」
テーブルノマスという喫茶店はすぐに見つかった。
客も入っていない、見た様子では寂れているお店だったが、外から見るとひとりの男性がコーヒーを飲んでいた。
「……もしかしてアレが?」
「かもしれない。だってこのような場所に一人、よ? はっきり言って怪しいと言ってもおかしくない。何か秘密があるからこそ、ここに居るのよ。きっと」
メアリーの後押しを見て、僕たちは喫茶店の中へ足を踏み入れた。
カウンターの向こうにはマスターと思われる男性がコーヒーカップを磨いていたが、客が入ったことに対する挨拶など無く、ただ自分の行っている行為に集中しているようだった。はっきり言って、そんなことは客商売が成り立っているのかどうか疑問だが、まあ、そんなことは客である僕たちが考える必要も無いだろう。
情報通と思われる、一人の男性の前に立って、僕は言った。
「……お前が情報通か」
情報通と思われる男性はそれを聞いて僕を一瞥して、すぐにコーヒーを啜る。
「だとすれば、どうする?」
「情報を買いたい。それも早急に」
「……どのレベルの情報かによるが。先ずは、何の情報が欲しいのか、それを教えてもらおうか」
「レイナという盗人の住処、そこを教えてもらおう」
「……レイナ、か」
それを聞いた情報通は目を細めて、窓の外を眺めた。
暫し時間をおいて、情報通は溜息を吐いた。
「十万ドムでどうだ?」
十万ドム。
確か出発前にサリー先生から戴いたお金の全額が四十万ドムだったから、四分の一ということになる。
正直、それほどの価値があるとは思えない情報かもしれないが、あの鍵を取り返すためにはその情報が必要だった。
だから、僕は頷いた。
「……思い切りのいい人間は嫌いじゃないぜ。じゃあ、前金で支払ってもらおうか」
そう言って情報通は右手を差し出す。
次いで、僕は麻袋から十枚の金貨を取り出してそれを情報通に差し出した。
情報通はしっかりと一枚一枚丁寧に数えて、頷く。
「よし、きちんと十枚確認したぞ。……それじゃ、お望みの情報を教えようじゃないか。しかし、残念なことに、あのレイナの居住地は誰にも解らない」
「ちょっとあなた、それって……!」
それは裏切りと言ってもいい。
メアリーが前のめりに彼に問い質そうとする気持ちも解る。
だが、情報通はそれを右手で制すと、
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