異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第二十八話 エルフの隠れ里⑥
次の日。
僕たちは町長の家で目を覚ました。
「……よく眠れたようだね」
町長の声を聴いて、僕はすぐに頷けなかった。町長からしてみれば、自分の町が何者かによって壊滅してしまったのだから、そう眠れるわけがない。
「気にする必要は無い。君たちはやるべきことをやってくれた。それはカーラとミシェラから聞いているよ。……むしろ、それを考えるのは君たちではない。私たち、エルファスの人間のほうだ。そして、君たちは前に進まねばならない」
そこに立っていたのは、兵士だった。銀色の、輝いた鎧に身を包んだ白髪交じりの男だった。男は僕の顔を見ると、柔和な笑みを浮かべて言った。
「やっと出会えた。私の名前は、ハイダルク国軍兵士長のゴードン・グラムと言います。エルファスの被害調査に出向いたら、まさか予言の勇者様ご一行に出会えるとは思いもしませんでした」
「……ハイダルク国軍?」
つまり、この人は軍人――ということか。
ゴードンさんは話を続ける。
「この町がなぜこのような事態に陥ってしまったのか、先ず調査を進める必要も有りますが……、予言の勇者様、あなたがここに居ることも驚きました。船が転覆してしまった、ということは聞いていましたが……」
「やはりあの船は、転覆してしまったのですか?」
こくり、と頷くゴードンさん。
「……ですが、安心してください。船員は全員無事です。港町バイタスに流れ着きましたから。ですが、あなたたちが見つからなかった。だからみんな心配していたのです。予言の勇者様は、どこへ消えてしまったのか……ということを城中皆言っていたのですよ」
「心配をかけてしまって、すいません」
僕は頭を下げる。
ゴードンさんは「いえいえ」と言って、話を続けた。
「むしろ、私たちのほうが見つけることが出来ず申し訳なく思っています。ほんとうに、ここで見つかったのは偶然だと思います。……さあ、ここは我々に任せて、あなたたちは城へ向かってください」
荷物をまとめて、外へ出た。
息が白く、とても寒い。
そういえば、もうこの世界にきて――二か月が経過した。この世界の季節は、どうやら元の世界の季節とあまり変わりがない。というか、変わらない。春夏秋冬、しっかりと季節が色づいている。
まるでこの世界は元の世界と同じような……そんな感じすら浮かんでくる。
けれど、そうだとしてもこの世界の歴史のことを考えると、元の世界と合致しない。だからこそ、異世界という感じがしないから僕にとってはとても有難いことなのだけれど。
ふと大樹を見ると、周りがきらきらと輝いていた。
エルフたちが僕たちのことを、見送っているように見えた。
馬車に乗り込み、僕は目を瞑る。未だ疲れているのか、とても眠かった。
「――僕はどうやってこの世界に来たのだろう?」
そんな、誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いて、僕はそのまま眠りに落ちた。
◇◇◇
「やっと見つけたわ、サリー・クリプトン」
ラドーム学院は崩落しつつあった。様々な場所から火が出て、先生や学生が対処しているが、それでもバルト・イルファにはかなわなかった。
そしてサリーもまた、学院と学生を救うべく通路を走っていたのだが――それを遮ったのが、リュージュだった。
「……まさか、これをあなたが行ったことだというの? スノーフォグの王である、あなたが」
「正確に言えば、命令しただけね。私は直接手を下していない。交渉決裂してしまったから、致し方ないことになるけれど」
「校長は……」
「ラドームなら殺したわ」
淡々とした口調でリュージュは言った。
「まさか……そんな」
「嘘はついていないわよ。もちろん。アイツは交渉しようとしなかった。だから、殺した。そしてこの学院も、私が来たという証拠を残さないように消えてもらう。そういう運命なのよ」
「……あの予言を、実現させるつもりだというの?」
あの予言――それは即ち、テーラの予言だった。
「予言の勇者……あの忌まわしき存在を消し去らないと、私の野望が実現できない。それはあなただってそうでしょう?」
それを聞いて、眉を顰めるサリー。
「……何を言っているのか、さっぱり解らないのだけれど。私があの予言と何か関係が?」
「無いとは言わせないわよ。……もはや知る人も殆ど居ないけれどね、クリプトンという独特な苗字、そしてテーラの苗字を知る人間は殆ど居ない。……サリー・クリプトン。テーラ・クリプトンの子孫であり、その遺志を継ぐ者。テーラの予言を阻止するべく活動していた。そしてあなたはテーラが編み出した『禁断の魔術』を継承していた」
それを聞いてサリーは両手を上げた。
「……まさかそこまで知っていたとはね。さすがは祈祷師サマ、ってことかしら? それで? そこまで私のことを調べ上げて、何が欲しいの?」
「当然、『禁断の魔術』、その方法を」
それを聞いて、サリーは鼻で笑った。
当然それを見て苛立たないリュージュでは無かった。リュージュは一歩前に踏み出して、サリーの表情を見つめた。
「禁断の魔術……その方法、知らないとは言わせないわよ」
「禁断の魔術はどうして『禁断』と言われているのか、それを理解してから話したほうがいいと思うけれど? まさか祈祷師サマのくせにそこまで知らない、なんてことは……無いわよね?」
サリーはリュージュに対抗するように、そう言い返した。
僕たちは町長の家で目を覚ました。
「……よく眠れたようだね」
町長の声を聴いて、僕はすぐに頷けなかった。町長からしてみれば、自分の町が何者かによって壊滅してしまったのだから、そう眠れるわけがない。
「気にする必要は無い。君たちはやるべきことをやってくれた。それはカーラとミシェラから聞いているよ。……むしろ、それを考えるのは君たちではない。私たち、エルファスの人間のほうだ。そして、君たちは前に進まねばならない」
そこに立っていたのは、兵士だった。銀色の、輝いた鎧に身を包んだ白髪交じりの男だった。男は僕の顔を見ると、柔和な笑みを浮かべて言った。
「やっと出会えた。私の名前は、ハイダルク国軍兵士長のゴードン・グラムと言います。エルファスの被害調査に出向いたら、まさか予言の勇者様ご一行に出会えるとは思いもしませんでした」
「……ハイダルク国軍?」
つまり、この人は軍人――ということか。
ゴードンさんは話を続ける。
「この町がなぜこのような事態に陥ってしまったのか、先ず調査を進める必要も有りますが……、予言の勇者様、あなたがここに居ることも驚きました。船が転覆してしまった、ということは聞いていましたが……」
「やはりあの船は、転覆してしまったのですか?」
こくり、と頷くゴードンさん。
「……ですが、安心してください。船員は全員無事です。港町バイタスに流れ着きましたから。ですが、あなたたちが見つからなかった。だからみんな心配していたのです。予言の勇者様は、どこへ消えてしまったのか……ということを城中皆言っていたのですよ」
「心配をかけてしまって、すいません」
僕は頭を下げる。
ゴードンさんは「いえいえ」と言って、話を続けた。
「むしろ、私たちのほうが見つけることが出来ず申し訳なく思っています。ほんとうに、ここで見つかったのは偶然だと思います。……さあ、ここは我々に任せて、あなたたちは城へ向かってください」
荷物をまとめて、外へ出た。
息が白く、とても寒い。
そういえば、もうこの世界にきて――二か月が経過した。この世界の季節は、どうやら元の世界の季節とあまり変わりがない。というか、変わらない。春夏秋冬、しっかりと季節が色づいている。
まるでこの世界は元の世界と同じような……そんな感じすら浮かんでくる。
けれど、そうだとしてもこの世界の歴史のことを考えると、元の世界と合致しない。だからこそ、異世界という感じがしないから僕にとってはとても有難いことなのだけれど。
ふと大樹を見ると、周りがきらきらと輝いていた。
エルフたちが僕たちのことを、見送っているように見えた。
馬車に乗り込み、僕は目を瞑る。未だ疲れているのか、とても眠かった。
「――僕はどうやってこの世界に来たのだろう?」
そんな、誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いて、僕はそのまま眠りに落ちた。
◇◇◇
「やっと見つけたわ、サリー・クリプトン」
ラドーム学院は崩落しつつあった。様々な場所から火が出て、先生や学生が対処しているが、それでもバルト・イルファにはかなわなかった。
そしてサリーもまた、学院と学生を救うべく通路を走っていたのだが――それを遮ったのが、リュージュだった。
「……まさか、これをあなたが行ったことだというの? スノーフォグの王である、あなたが」
「正確に言えば、命令しただけね。私は直接手を下していない。交渉決裂してしまったから、致し方ないことになるけれど」
「校長は……」
「ラドームなら殺したわ」
淡々とした口調でリュージュは言った。
「まさか……そんな」
「嘘はついていないわよ。もちろん。アイツは交渉しようとしなかった。だから、殺した。そしてこの学院も、私が来たという証拠を残さないように消えてもらう。そういう運命なのよ」
「……あの予言を、実現させるつもりだというの?」
あの予言――それは即ち、テーラの予言だった。
「予言の勇者……あの忌まわしき存在を消し去らないと、私の野望が実現できない。それはあなただってそうでしょう?」
それを聞いて、眉を顰めるサリー。
「……何を言っているのか、さっぱり解らないのだけれど。私があの予言と何か関係が?」
「無いとは言わせないわよ。……もはや知る人も殆ど居ないけれどね、クリプトンという独特な苗字、そしてテーラの苗字を知る人間は殆ど居ない。……サリー・クリプトン。テーラ・クリプトンの子孫であり、その遺志を継ぐ者。テーラの予言を阻止するべく活動していた。そしてあなたはテーラが編み出した『禁断の魔術』を継承していた」
それを聞いてサリーは両手を上げた。
「……まさかそこまで知っていたとはね。さすがは祈祷師サマ、ってことかしら? それで? そこまで私のことを調べ上げて、何が欲しいの?」
「当然、『禁断の魔術』、その方法を」
それを聞いて、サリーは鼻で笑った。
当然それを見て苛立たないリュージュでは無かった。リュージュは一歩前に踏み出して、サリーの表情を見つめた。
「禁断の魔術……その方法、知らないとは言わせないわよ」
「禁断の魔術はどうして『禁断』と言われているのか、それを理解してから話したほうがいいと思うけれど? まさか祈祷師サマのくせにそこまで知らない、なんてことは……無いわよね?」
サリーはリュージュに対抗するように、そう言い返した。
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