異世界で、英雄譚をはじめましょう。
第十八話 妖精の村③
僕たちは町の中を歩いていた。
なぜそんなことをしているのかといえば、一日の猶予をもらったことで、ちょっと時間が空いてしまったことが原因となる。ほんとうならば急ぎでリーガル城に向かわないといけないのかもしれないけれど、結局ここを解決しない限り心残りになるという判断で、僕たちはエルファスの町を歩いているということになる。
「……それにしても、ほんとうに古い建造物ばかりが並んでいるなあ。歴史がいっぱいになっている、というか」
ルーシーの発言を聞いて、僕も心の中で云々と頷いていた。
この町は人が多い。けれど、それは蓄積した歴史の上で成り立っているということ、それが十分に理解できる。そのような建造物を見て、僕はこの世界にきて何となく嬉しく思うのだった。こういう、もともとの世界ではまず見るのが難しいものを簡単に見ることが、きっと異世界の醍醐味なのだろう。そう、あくまでも勝手に思っているだけになるけれど。
「なあ、そこのあんた!」
その声を聴いて、僕は振り返った。
そこに立っていたのは、一人の少女だった。黒のロングヘアーで、フリルのついたネグリジェを着用している。
「……フル、知っているの?」
「そんなわけないだろ。僕ははじめてこの町に来たんだぞ?」
「そう……よね」
メアリーはそう自分に言い聞かせるように言って、頷いた。
対して、少女の話は続く。
「お願い、私を助けてほしいの」
「助けて……ほしい?」
「実は私は……」
「ミシェラ、なにしているのよ!」
それを聞いて、再び踵を返す。正確に言えば、僕は前を向いただけ、ということなのだが。
そこに立っているのは女の子だった。
まあ、それくらい見ればすぐに解ることだから割愛すべきことだと思うのだけれど、僕たちからしてみればそれくらいの基礎知識はとっても重要なことだった。
「カーラ。邪魔しないで。今私はここに居る旅人と話をしているのよ――」
「その旅人は町長と話をしている、とても大事なお客さんよ。あなたのような低俗な人間の話なんて聞かせてあげることは出来ない」
低俗な人間、と出たか。
確かにミシェラと呼ばれた少女の容姿は、カーラという少女に比べれば雲泥の差だ。
「低俗な人間、ねえ! 元はと言えば、私とあなたは同じ親から生まれているじゃないか。だのに、どうしてここまで変わってしまったのかねえ? あなたが媚を売ったからか、それとも身体を売ったのか? だったら私と変わらない、低俗な人間に変わりないじゃないか」
「……何を根拠にそんなことを言っているのかしら?」
カーラは笑みを浮かべていたが、その表情はどこか冷たい。冷たさを張り付けたようなそんな表情を見ていて、僕はそら恐ろしく思えた。
「何で怒っているのかな? もしかして、それが本当だった、とか? 私は、言っておくけれど、こういう可能性があるんじゃないの、と示唆しただけに過ぎないよ。当たり前だけど、そんな証拠なんて一切持っているわけでもないし。だってあなたは町長の秘書で、私はしがない娼婦なんだから、さ」
「貴様……さっきから言わせておけば!」
らちが明かない、そう思って僕は二人の中に割り入ろうとした――その時だった。
先に退いたのはミシェラのほうだった。
踵を返し、笑みを浮かべ、ミシェラはつぶやく。
「……そこのオニーサン、あとで『メリーテイスト』という色宿に来てみなさい。話はそれから幾らでもしてあげるわ。もちろん、それ以外のことも……ね」
そう言ってミシェラはウインクをして、立ち去って行った。
それを見てカーラは深い溜息を吐く。
「大丈夫でしたか? まったく……あの子には困ったものです。昔はああいうものではなかったのですが……いつしかああなってしまった」
「ああなってしまった……?」
くすり、と笑みを浮かべたカーラはそのまま僕たちに頭を下げる。
「ああ、挨拶が遅れてしまいましたね。私の名前はカーラと言います。以後、お見知りおきを。町長からあなたたちに町の案内をするように言われました。小さい町ではありますが、ぜひ楽しんでいってくださいね!」
そうして僕たちはカーラに町を案内してもらうこととなった。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、僕たちは宿屋で休憩していた。宿は僕とメアリーとルーシー、それぞれ一人ずつの部屋が確保されていた。
随分凄い対応だな、と僕は思いながらベッドに横たわり、天井を見つめていた。
メアリーはこの町についてメモを取っていた。勉強をこういうところでもするというのは、彼女らしい。
ルーシーは既に眠りについているのだろうか。先ほど部屋に行ってノックしても反応が無かった。だから、そうなのだろう――僕はそんなことを思っていた。
そこで僕はふと、ある言葉を思い出す。
昼に語っていた、ミシェラという女の子の発言。
「メリーテイスト……か」
僕は鞄から地図を取り出して、メリーテイストという色宿を探すことにした。
メリーテイストはすぐに見つかった。宿屋からもそう遠くない。
あの子の発言が少々気になる――そう思った僕は、部屋を抜け出して、夜の街へと繰り出した。
なぜそんなことをしているのかといえば、一日の猶予をもらったことで、ちょっと時間が空いてしまったことが原因となる。ほんとうならば急ぎでリーガル城に向かわないといけないのかもしれないけれど、結局ここを解決しない限り心残りになるという判断で、僕たちはエルファスの町を歩いているということになる。
「……それにしても、ほんとうに古い建造物ばかりが並んでいるなあ。歴史がいっぱいになっている、というか」
ルーシーの発言を聞いて、僕も心の中で云々と頷いていた。
この町は人が多い。けれど、それは蓄積した歴史の上で成り立っているということ、それが十分に理解できる。そのような建造物を見て、僕はこの世界にきて何となく嬉しく思うのだった。こういう、もともとの世界ではまず見るのが難しいものを簡単に見ることが、きっと異世界の醍醐味なのだろう。そう、あくまでも勝手に思っているだけになるけれど。
「なあ、そこのあんた!」
その声を聴いて、僕は振り返った。
そこに立っていたのは、一人の少女だった。黒のロングヘアーで、フリルのついたネグリジェを着用している。
「……フル、知っているの?」
「そんなわけないだろ。僕ははじめてこの町に来たんだぞ?」
「そう……よね」
メアリーはそう自分に言い聞かせるように言って、頷いた。
対して、少女の話は続く。
「お願い、私を助けてほしいの」
「助けて……ほしい?」
「実は私は……」
「ミシェラ、なにしているのよ!」
それを聞いて、再び踵を返す。正確に言えば、僕は前を向いただけ、ということなのだが。
そこに立っているのは女の子だった。
まあ、それくらい見ればすぐに解ることだから割愛すべきことだと思うのだけれど、僕たちからしてみればそれくらいの基礎知識はとっても重要なことだった。
「カーラ。邪魔しないで。今私はここに居る旅人と話をしているのよ――」
「その旅人は町長と話をしている、とても大事なお客さんよ。あなたのような低俗な人間の話なんて聞かせてあげることは出来ない」
低俗な人間、と出たか。
確かにミシェラと呼ばれた少女の容姿は、カーラという少女に比べれば雲泥の差だ。
「低俗な人間、ねえ! 元はと言えば、私とあなたは同じ親から生まれているじゃないか。だのに、どうしてここまで変わってしまったのかねえ? あなたが媚を売ったからか、それとも身体を売ったのか? だったら私と変わらない、低俗な人間に変わりないじゃないか」
「……何を根拠にそんなことを言っているのかしら?」
カーラは笑みを浮かべていたが、その表情はどこか冷たい。冷たさを張り付けたようなそんな表情を見ていて、僕はそら恐ろしく思えた。
「何で怒っているのかな? もしかして、それが本当だった、とか? 私は、言っておくけれど、こういう可能性があるんじゃないの、と示唆しただけに過ぎないよ。当たり前だけど、そんな証拠なんて一切持っているわけでもないし。だってあなたは町長の秘書で、私はしがない娼婦なんだから、さ」
「貴様……さっきから言わせておけば!」
らちが明かない、そう思って僕は二人の中に割り入ろうとした――その時だった。
先に退いたのはミシェラのほうだった。
踵を返し、笑みを浮かべ、ミシェラはつぶやく。
「……そこのオニーサン、あとで『メリーテイスト』という色宿に来てみなさい。話はそれから幾らでもしてあげるわ。もちろん、それ以外のことも……ね」
そう言ってミシェラはウインクをして、立ち去って行った。
それを見てカーラは深い溜息を吐く。
「大丈夫でしたか? まったく……あの子には困ったものです。昔はああいうものではなかったのですが……いつしかああなってしまった」
「ああなってしまった……?」
くすり、と笑みを浮かべたカーラはそのまま僕たちに頭を下げる。
「ああ、挨拶が遅れてしまいましたね。私の名前はカーラと言います。以後、お見知りおきを。町長からあなたたちに町の案内をするように言われました。小さい町ではありますが、ぜひ楽しんでいってくださいね!」
そうして僕たちはカーラに町を案内してもらうこととなった。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、僕たちは宿屋で休憩していた。宿は僕とメアリーとルーシー、それぞれ一人ずつの部屋が確保されていた。
随分凄い対応だな、と僕は思いながらベッドに横たわり、天井を見つめていた。
メアリーはこの町についてメモを取っていた。勉強をこういうところでもするというのは、彼女らしい。
ルーシーは既に眠りについているのだろうか。先ほど部屋に行ってノックしても反応が無かった。だから、そうなのだろう――僕はそんなことを思っていた。
そこで僕はふと、ある言葉を思い出す。
昼に語っていた、ミシェラという女の子の発言。
「メリーテイスト……か」
僕は鞄から地図を取り出して、メリーテイストという色宿を探すことにした。
メリーテイストはすぐに見つかった。宿屋からもそう遠くない。
あの子の発言が少々気になる――そう思った僕は、部屋を抜け出して、夜の街へと繰り出した。
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