アリアドネの糸により迷宮を抜けた者たち。

ノベルバユーザー173744

玉響(たまゆら)という言葉は、玉が触れあう音という意味で一瞬と言う意味を言います。

「ん?蓮花れんげさんとの出会い?」
「うん‼おじいちゃんとおばあちゃんが出会った時っていつ?」

孫の実明さねあきの一言に、圭吾けいごは、

「覚えてません。おじいちゃん、人の名前と顔を覚えるの本当に苦手なの。えーと、蓮花さーん、いつだっけ?」
「私が15才で、18才の時でしょ‼大学に行かなきゃいけないのに、高等部でうろうろしてたじゃない」
「う~んと……大学……どこの大学かなぁ……幾つか転々としてて……」
「イギリスの名門校ではありません‼私がそんな頭脳明晰じゃないの知っているでしょう‼」
「え~と……」

考え込む圭吾にため息をつき、

「一応、首都圏の幼稚園から大学院まである大型都市のような敷地の学校よ。おばあちゃんは、お父さんとお母さんと3人暮らしだったのだけれど、おばあちゃんのおじいちゃんは大きな会社を経営しつつ、慈善家としてあちこちに寄付をしたり、施設を見に行って、からだの不自由な方の為に、咲夜さくやが乗っている車イスを寄付したり、からだが不自由でも運動したいという方々にそのお手伝いができる人を紹介したりしていたの」
「スゴーイ‼おじいちゃま」
「でも、急に電話が学校にかかってきて、おじいちゃまとおばあちゃまが事故で亡くなったって」

蓮花は目を伏せる。

「父と母の葬儀の間中、財産のことで、父の親族が争っているのよ。それに、私は、財産を放棄しろって」
「えぇぇ?おじいちゃまとおばあちゃまが亡くなったのに、そんなことするの?酷いね‼」

実明は怒る。

「そうしたら、何故かこの人も来てて、『はーい、皆さん。宜しいでしょうか?財産分与については、あなた方が口を出す必要はありません。実は私がとっくの昔に、会社を買収済みです‼』って、書類を出すのよ」
「と言うか、蓮花の父上って、自分が死んだら、蓮花が苦しむって知ってたんだよ。だから、おじいちゃんの伯父さんの光来承彦こうらいしょうげんと、蓮花のお父さんはどういうわけか、おじいちゃんを両者合意もなく、蓮花の夫として婚姻届提出してたんだよ」
「と言うか……おばあちゃんも、知らなかったのよ。16になる前日に、書類に名前を書きなさいだったのよ」

苦笑する。

「で、それが正式に認められて、おじいちゃんはあれこれやったよ。まぁ、阿呆な親族をあれこれ追い落としたりしてたし、伯父の縁があって、りょうにも出会えたし、いいことばかりだね」
「圭吾……に振り回された私たちはどうなるのかしら?」

蓮花は夫をにらむ。

采明あやめは12才から行方不明。戻ってきた上にしっかりした優しい旦那さんの実綱さねつなくんがいるから良いけれど、百合ゆり景虎かげとらくんを追いかけていった……。咲夜は、はるかくんと一緒になって……でも、実綱くんと遼くんが仲良しで良かったわぁ」
「パパ、かっこいいの‼しゅしょうのおじいちゃんみたいじゃないよ?本当にかっこいいんだよ‼」

えへへ‼

ようやく一緒に住めるようになった父を本当に大好きで甘えている実明である。

「入院している間に、んっと、筋肉が落ちたとか、動きが鈍いって、言ってたよ?おじいちゃん。お父さんと決闘やって‼」
「む、無理です‼おじいちゃんは、綱くんほど鍛えてません‼死にたくありません‼」
「むー!おじいちゃん‼最近、孔明こうめい兄ちゃんが、パパと仲良しなの‼パパは実明のパパ‼おじいちゃんが、孔明兄ちゃんのパパなの‼」
「そんなこと言っても、おじいちゃんは本当に苦手なの……わ、ワァァ~‼実明!」

瞳をうるうるさせ、唇を噛む孫に、慌てる。

「わ、解ったよ‼決闘はしないけど、孔明には言っておくからね?」
「うん‼」



最近、反抗期に近い息子である。

「何で?……又、実明?甘やかすのは勝手だけど、僕のこと要らないんでしょ?」
「何でそんなことを言うの?」
「……ふんっ‼」

そっぽを向く息子に、腕をくんだ圭吾は告げる。

「要らないとか、お前には一度もいってないけどね?采明と百合には言ったことがあるよ」
「はぁぁ‼嘘だろ?」
「本気だけど?だって子供って邪魔じゃない。百合はすぐに私から離れたけど、采明は必死に勉強をして、私が研究している趣味の発掘を興味深そうに見ていた。でも、子供でしょ?動くのは遅いし、良くそのまま置き去りもあったね。だから蓮花に離婚を切り出された。もう二度と会うなってね」

首をすくめる。

「でも、最悪の父親でも、特に采明は私を好きでいてくれた。ビックリした。定期的に私に手紙を送ってくれて、別れたときは幼かったのに、大好物のぶり大根を冷凍パックで送って来てくれた。『お父さんへ。采明は料理頑張ってるよ。この間、亮お兄ちゃんに習ったの。上手に作れたかなぁ?』って、メッセージがあって……当たり前だと、これからも続くと思っていた。それなのに……」

涙ぐむ父親に唖然とする。
いつも飄々(ひょうひょう)とした父が、袖で涙を拭いている。

「と、父ちゃん、これ!」
雑巾ぞうきんじゃないかぁぁ……」

いつもなら冗談で返すはずの父親が滂沱ぼうだの涙を流す様に慌てて、タオルとティッシュを渡す。

「ありがどう……」
「父ちゃん、鼻かめば?」
「そうする……」

鼻声で、

「采明がいなくなったと連絡が来て、慌てて駆けつけたら、部屋は整理されていて、それに、離婚しているのに、采明がお父さんの部屋を用意してくれていて……お父さんの研究の本や、采明が自分なりに勉強した論文を、置いててくれて……私を、待っててくれたんだと……蓮花や百合も、こんな亭主に父親を、部屋を采明が用意しているのを許してくれているんだと……何て父親だと、自分が恥ずかしかったよ。それで……蓮花と百合に謝って、一緒に采明を待とう。もう一度家族をって……」

涙をぬぐい、息子に叱りつける。

「そうして、家族を取り戻して、生まれたお前を要らないなんて誰が言えるんだ‼あんなに優しくて可愛い采明にあんなひどいことを言ってしまって、それが本当に心のトゲになって自分に突き刺さっているのに、息子のお前に、言えるのか‼言えるなら言っているし、お前を殴り付けてる‼お前が今は成長の途中で反抗期だからと、はるくんと綱くんと話し合って、お前には柚須浦ゆすうらの家のことをすべて任せるのはまだ早い。お前はまだ10才を越えた……いなくなった采明と同じ年だから……采明のように我慢させるのではなく、好きなことをと……そう思っているのに‼」

だぁぁ……

泣き続ける父親に、

「え、え~と、父ちゃん。あのさぁ……俺と実明どっちが好き?」
「はぁ?息子と孫。それぞれ違うでしょ?それに、実明に構っていたのは、采明と綱くんが戻れなかったことと、からだが弱かったからだよ。それに父さん……孔明のように運動神経良くないもん……」
「まぁ年だもんな。父ちゃん」
「失礼な‼お前が生まれたときは、40過ぎだよ‼」
「年じゃん‼」

突っ込んだ孔明に、

「それじゃぁ、綱くんなんて、采明と14違いだよ‼父さんと変わんないよ‼」
「綱兄さんは、若いし、父ちゃんほどおっさん臭くないし、かっこいいじゃん。はる兄さんも、元々日本でも何度かスカウトがあったんだって?一緒にしちゃ駄目だよ。父ちゃんと」
「ガーン……孔明が苛める……」

ショックを受ける圭吾に、首をすくめた孔明は、

「実明と喧嘩しないよ。意地悪もしない。叔父だけど年が近いから兄ちゃんとして、実明可愛がるよ。それでいいでしょ?父ちゃん」
「良かった……解ってくれたんだね‼」
「でも、父ちゃん。百合姉ちゃんどうなるんだろうね?」
「まぁ……研究段階では、上杉謙信うえすぎけんしんとなる長尾景虎少年には、奥方がいるという説が出てきたし……」

ぶつぶつ呟く圭吾に、

「まぁ、あの百合姉ちゃんが大人しく死ぬはずもないし、面白いものが出てきたりしてね」

と孔明は呟いたのだった。



そして、帝王切開で咲夜が産み落とした男の子は熊斗ゆうとと付けられ、元直げんちょくの息子は景虎。
さいごに、采明が生んだ女の子が百合と名付けられたのだった。

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