シャッフルワールド!! 番外編集

夙多史

聖夜だよ!全員集合!

「クリスマスパーティーをしましょう」
 いつものように仕事をサボって俺んちに上り込んできた誘波が、いつものように意味不明なことを口にした。
「クリスマスって……今は夏だろうが。大丈夫か誘波?」
「レイちゃんこそボケるには早い年齢だと思いますよ? 外をご覧ください」
 言われて俺はリビングの窓から外を眺めてみる。

 雪がこれでもかってくらい積もっていた。

 加えて真っ白い闇かと思うくらい吹雪いてんぞコレ! 二メートル先がまるで見えない。どうなってんだ一体……?
「見事なホワイト・クリスマスですねぇ」
「白過ぎだろ! これ近所で遭難者が出るレベルだぞ!」
 なんてそこにツッコんでる場合じゃない。
「この前学園祭が終わったばっかりなのに、なんで雪降ってんだよ。夏休みだってまだだぞ?」
「レイちゃん、『オトナの事情』って言葉、知ってますか?」
「あー、うん、もういい。なんとなくこれ以上ツッコんでも仕方ない気がしてきた」
 壁掛けのカレンダーを見ると、誰がいつの間に剥がしたのかしっかりと十二月になってやがった。しかも二十四日と二十五日が花丸で囲まれてるよ……。
「それはそうと、お前のその格好はなんだ?」
 誘波が着ているものは普段の十二単ではなかった。いや着物は着物なんだが、燃えるように真っ赤で白いもこもこがあちこちにくっついている。
「十二単・サンタバージョンです」
「お前、日本大好きな割にかなり冒涜してるだろ」
 もはやこいつの価値観がさっぱりわからなくなってきた。
「というわけで恒例のファッションショーを開催したいと思います」
「いつからそんな恒例できたんだよ」
「エントリーナンバー1番、リーゼちゃん」
「無視ですか!」
 お構いなしに誘波はパンパンと手を叩く。すると――ガチャリ。リビングのドアが開いて金髪紅眼の美少女が現れた。
 両手にローストレッグを携えて。
「……」
 俺は固まった。超ミニのサンタさんルックをしたリーゼがあまりにも可愛らしいから、という理由も多少なりあるけど、あの構えられた二つのローストレッグはなんだろう?
 まさかクリスマスプレゼントのつもりなのか? それとも二刀流のモノマネか? どうか二刀流の方であってくれ。
「レージ、この肉美味しいわよ。一本あげる。くりすますぷれぜんと」
 くっそ前者だったか!
 俺はローストレッグをいただきながら改めてリーゼを見る。頭にはぶかぶかの三角帽子が噛みつくように乗っていて、外は猛吹雪なのに真紅と白い綿で彩られた半袖&ミニスカ。思わず太股に目が行きそうになるのを気合いで堪える。
「どう? レージ、この服」
 上目遣いで訊ねてくるリーゼ。口元にローストレッグのタレがついてるぞ。
「まあ、似合ってると思うよ」
「ホント!」
 頷くと、リーゼはなにがそんなに嬉しいのか、ソファーにもふっと腰かけて満面の笑みでローストレッグを貪り始めた。
「ぶっきら棒ですねぇ、レイちゃん。もっと素直に『抱きついていいかい(キラン)』って言えばいいのに」
「お前の中で俺はどういうキャラなんだ?」
 リーゼがかわえぇことは否定しないけどな。
「続きましてエントリーナンバー2番、レランジェちゃんです」
 誘波に促され、ドアの向こうからゴスロリのメイド服を着た女がリビングに入ってくる。ただしいつもの黒地に白いフリルではなく、赤地に白いフリルのサンタさんルックだった。まあ、これは予想通りだな。
「気持ち悪い顔でレランジェを見ないでください、ゴミ虫様。締め出し安定ですよ?」
 超無表情な顔で罵倒された。しかもこんな猛吹雪の中で締め出し喰らったら確実に死ぬ。俺はご希望通り特に感想を言わないまま目を逸らしてやった。
「なにを明後日の方向を見ているのですか、ゴミ虫様。ちゃんとレランジェも評価していただけないと不安定です」
「どっちなんだよ! わかったよ。似合ってる似合ってる! だからその右手の兵器は怖いから下げなさいっ!」
「気持ち悪い顔でレランジェを見ましたね。締め出し安定です」
「図ったな!?」
 抵抗虚しく十分ほどお外に放置されました。
「ガガガガガガ」
「なに削岩機みたいに歯を打ち鳴らしているのですか、レイちゃん」
「寒いからだよ! 外氷点下だぞ! やってみるかお前も十分間!」
「私なら余裕です」
「風は禁止な」
「えー」
「えー、じゃねえよ!」
 ああ、ツッコミで体が温まってくる俺ってどうなんだろう。リーゼの黒炎をストーブ代わりにするよりポカポカになってきた。
「では気を取り直して、エントリーナンバー4番、セレスちゃんです」
「おい3番どこ行った?」
 番号が飛んだことなど気にもかけず、誘波が次の参加者を促す。が――
「……」
「……」
「……」
「……出てこないな」
 普段は凛としてカッコイイ騎士様は、着慣れない服の時は妙に恥ずかしがり屋になるんだよな。どうせ今回もそれで出るに出られないか、既に逃走してるかだろう。
「セレスはんなら、顔真っ赤にしてラ・フェルデに帰りよったで」
 代わりに出てきた稲葉レトが報告する。学園指定の女子用の赤いジャージに、お情け程度に被ったサンタ帽子。手抜き過ぎだろ。
 門が開通したからラ・フェルデとこの世界は自由に行き来できる。こちらからは監査局の許可がいるんだが、ラ・フェルデ人のセレスは顔パスでいいんだ。なるほど、最高の逃げ場じゃないか。
 そう思った次の瞬間、リビングの壁の一部がぐにょりと歪んだ。正確には壁の前の空間だが――アレは『次元の門』だぞ。なんで前触れもなく俺んちに開くんだよ!
 と――
「へ、陛下、嫌です。やめてください。私は、私は今あの世界に戻りたくは――」
「他世界とはいえ、社交パーティーを放棄するなど騎士として恥だと思わないか?」
「この格好を見せる方が恥です!」
「なかなかに滑稽な格好だが、それがあの世界の習わしなら従う他あるまい。よい息抜きだ。私も参加させてもらう」
「陛下は楽しんでいるだけでしょう!」
「無論だ」
「陛下ぁあっ!?」
 そんな遣り取りが聞こえた後、空間の歪みから赤くて白いなにかが転がるように飛び出してきた。投げ込まれた、そんな感じの登場の仕方だった。
「ううぅ……そんな、いきなりこの場所なんて――――れ、れれれ零児!?」
 むくっと起き上がって俺を見るや否や、セレスの白い肌が急激に真っ赤に染まっていった。チアガールみたいにヘソ出しミニスカのサンタさんルックだ。紅い服はセレスの銀髪によく映える。谷間を強調するように胸元が開けていて……ありったけの気合いを込めないと目を離せん。
 セレスは慌ててソファーの裏に隠れて顔だけをひょっこり覗かせる。なにその仕草。可愛いんだけど。ていうか、あの格好のままラ・フェルデに逃げたのかよ。そりゃ見つかったら事情を聞かれるわな。
 空間の歪みからもう一人、豪奢な王衣を纏ったブロンドの男が優雅な足取りで歩み出てくる。
 ラ・フェルデ国王――クロウディクス・ユーヴィレード・ラ・フェルデ。ただそこにいるだけで絶対的な存在感と威圧感を放出する神剣の継承者だ。
 クロウディクスはリビングを見回し、
「クリスマスパーティーとやらは、狭い場所で行うのだな」
「悪かったな狭い場所で!」
 開口一番に大変失礼なことを言い放った。
「私も参加して構わないか?」
「もちろんです。人数は多い方が楽しいですから」
 おい誘波、勝手に決めんなよ。ここは俺の家だぞ。
「では私用の赤い服を調達しなければならないな」
「いえいえ、これを着るのは女の子だけですよぅ」
「そうか……なるほど、どうりで白峰零児は仮装していないわけだ」
「え? なにちょっと残念そうに目を伏せてんの? 着たかったのかよサンタ衣装」
 ラ・フェルデ国王の趣向もさっぱりわからない。俺は先日この王に決闘を挑んで手酷くやられた記憶があるんだが、まるでそんなことなどなかったかのようにやつは平然としてやがるよ。
 と、さらに連客。
 黒い闇が部屋の片隅に噴き上がる。
「パーティーするって聞いたから来てやったわよ」
「面倒臭えから俺は帰ってもいいか?」
 えっらそうに仁王立ちする黒髪少女――四条瑠美奈と、かったるそうに欠伸する迫間漣。二人とも例に漏れず影魔導師のロングコートを羽織って実に黒々としているな。まあ、四条はどういう風の吹き回しかしっかりコートに下にサンタコスチュームを着込んでるから、赤白黒で割とカラフルだ。
「なに見てんのよ、白峰零児。見世物じゃないわよ」
「見せるためにそれ着たんじゃないのかよ。面倒臭え」
「うっさいわよ、漣!」
「ぐあっ、足踏むなよ瑠美奈」
 二人の夫婦漫才を見ていて気づいた。セレス辺りから全員土足だ。
「靴脱いで来いよお前ら。後で掃除が大変だろ」
 やるのは俺じゃなくてそこでパーティー用のご馳走をテキパキ運んでいるメイドさんだけどな。
 土足組と入れ替わりに、さらに二人追加でリビングに入ってくる。
「なんだか物凄く賑やかじゃないか、白峰君」
「いろいろと差し入れ持ってきたぜ、白峰。パーッと行こうパーッと」
 郷野と桜居だ。どちらも肩や頭に雪を積んでいる。あの猛吹雪の中を今やってきたらしい。なんて根性だと褒めてやりたい。
「白峰君聞いてくれ、桜居君は私の姿を見ても一切興奮しないと言うんだ」
「知らんよ」
 セレスよりも大胆に胸を強調させたサンタの衣装――の上から白衣を羽織った郷野が、二つのメロンを持ち上げるように腕組みして不服そうに唇を尖らせた。相変わらずけしからんものを持ってやがる。
「冷たいなぁ、白峰君は。そんなことではモテないゾ? なぜもっと素直に『俺のメスてお前の乳房を裂いてやりたいくらい興奮するゼ!』と言えないのだ」
「お前の中でも俺のキャラは大変なことになってるみたいだな!」
 下手すりゃ誘波より酷い。もはや変態なのか切り裂き魔なのか判別できん。
 なにやら桜居がうんうんと頷く。
「わかるぞ、白峰。郷野は地球人だからな。興奮しろと言われても無理がある」
「お前はなにに納得してんだ?」
「桜居君は三分間だけ地球に入られる巨人戦士の母とかに興奮するタイプなのかい?」
 郷野は若干引いていた――と思わせておいてその表情は珍獣を見たように好奇心に満ち満ちている。この女も大概にHENTAIだ。
 それにしてもリビングの人口密度が半端ない。俺、リーゼ、レランジェ、セレス、誘波、稲葉、迫間、四条、クロウディクス、桜居、郷野……十一人かよ。流石にこれ以上は増えないだろうね。

「俺的に、忘れられてるたァ悲しい話だなァ」

 パリィン! と窓ガラスを砕いてマロンクリーム色の髪をした作業着姿の青年が突入してきた。
「どこの特殊部隊だお前は!」
 グレアム・ザトペック。そうだ、まだこいつがいたよ。
「よう、零児。てめェら的に楽しそうなことしてんじゃねェか。俺様も混ぜろよ」
「もう何人増えようが構わんが、そんな狂戦的な笑みを見せてもたぶん戦闘になったりはしないぞ」
「なんだと……じゃあ俺様が来た意味は俺的にあるのか? クリスマスパーティーと言やァ、アレだろ。赤い爺さんが空飛ぶ魔獣に跨って各地のガキどもを喰らっていく血みどろの殺戮劇。そいつと戦えるって聞いたんだが俺的に間違ってたってことか? そういや女どもがその爺さんに似た格好をしてるわけだが、そこにはなんの意味が? わからねェ。俺的にわからねェからとりあえず楽しく戦り合おうぜ白峰零児!」
「どうしてそうなった!? そのクリスマスの話は誰から聞いたんだよサンタさんに謝れ!」
 あと窓ガラスどうしてくれんだよ。今は誘波が風で吹雪が中に入ってこないようにしてくれてるが、直るまでクソ寒い日々を過ごすことになるじゃねえか。リビングは俺の寝所でもあるんだぞ。
「レージ! こっちの肉も美味しい!」
「マスター、お口元が汚れています。レランジェが拭う安定です」
「陛下、どうしても着替えてはいけませんか?」
「なにを恥じる必要がある、セレス。他の女も全員似たような格好ではないか」
「ちょっと稲葉! そのローストビーフはあたしんのよ!」
「わっ! 四条先輩、そんな怖い顔向けんといて」
「たくさんあるんだから騒ぐなよ、瑠美奈。面倒臭え」
「俺的に、メシ食うだけじゃ物足りねェなァ」
「なあ、白峰。なんで校務員の兄さんがいるんだ? オレの知らない人もいるし」
「白峰君は愉快な知り合いが多いようだね」
「俺んちのリビングがカオスの極みに達してるよ……」
「それでは皆さん揃ったみたいなので、改めて乾杯と行きましょうか」
 誘波がジュースの注がれたコップを持って立ち上がる。
「『せーの』で合わせてくださいね。……せーの」
 一同がコップを前方斜め上に突き出す。

「「「「「「「「「「「ハッピーニューイヤー!!」」」」」」」」」」」

「メリー・クリスマスじゃねえのかよっ!」

        ※※※

「……ハッ!」
 ミーンミーンとセミの鳴き声がやかましく響く中、俺は目が覚めた。場所は自分んちのリビング、ベッド代わりにしているソファーの上だ。蒸すような真夏の暑さに背中がべっとり湿っている。
「え? 夢オチ……?」
 最悪だ。でも全て納得できた。

 窓ガラスが夢と同じように砕けてるのがスゲー気になるけどね。

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