住み込み就職 お仕事時々お遊び

わいず

あの日が近い がっこversion 山田side

みんな、おはよう。
覚えてるか? 俺は以前、恵様親衛隊の隊長をやっていた普通の眼鏡男子高校生、山田だ。

現在、朝のHR前の時間、今日も今日とて、この時間は賑やかだ。
昨日見たテレビの話し、はたまた芸能人の話しに恋愛話……。

そして、最も目立つ話題は……殆どの男子が小声で話してる"バレンタインデー"についての話だ。

「な、な、な、今年のバレンタインデー、チョコ何個貰えるか勝負しねぇ?」
「ばっか、こう言うのは賭け事じゃねぇんだよ。女子達が気持ち込めてくれる手作りの品だぞ!」
「あぁ、そう言えば俺……去年、男の先輩からチョコ貰ったぞ……」
「それ、ホモチョコだな」

……って、感じの話が右左前後ろ、そこにいる全ての……とは言い切れないが、そんな話題をしている。

ん、俺か? 俺は今……1時限目に始まる授業の準備をしてる。
それが終わったら、眼鏡を綺麗にする……俺はこうして朝のHRの時間を過ごすんだ。

だが話す時は話す、けっしてボッチではないから勘違いしないでくれ。

「やっ山田ぁっ!」

なんて事を思ってたら、俺の友達に話し掛けられた。
妙に息が荒い……どうかしたのか?

「どうした、朝から煩いな」
「おまっ、なに冷静に授業の準備をしてんだ! 分かってんのか! あの日が近いんだぞ!」

ふんっふんっ、と息を荒立てる友達。
いつも煩い奴だが、今日はいつにもまして煩いな。
で、こいつの言う"あの日"と言うのは恐らくバレンタインデーの事だろう。

去年もこいつはそうやって話し掛けて来たから間違いはない。

「それがどうしたんだよ」

だが、正直俺は今のノリにはついていけない。
去年の俺なら目の前のこいつの様に「チョコいっぱい貰うぞぉっ!」てなぐわいではしゃいでたのに……。

俺は今、大きな悩みを抱えている、だから……バレンタインデーの事は今はどうでも良いんだ。

「そっそれがどうしたって……どうしたんだよ! いつものお前じゃないぞ! 顔色も悪いし……大丈夫か?」

なに、顔色が悪い? それは気付かなかった。
そうか……悪かったのか、それ程までに悩んでたんだな……俺。

「大丈夫だ、気分が悪い訳じゃないからな」
「そっそうか、なら良いんだ。って、良くないっ!」

バンッ! 
思いきり机を叩く友達、なんだいきなり……ビックリするだろ、そう言う事するの止めろよな。
俺は物凄くビビりなんだよ。

「あれを見てみろ!」
「あれ? あれってなんだ………っ!?」

はぁ……やれやれ、何を張り切ってんだ? なんて呆れた顔をしながら見てみると、目の前の友達は、ある場所を指差した。

その方向を「なんなんだよ……」と思いながら見てみる。
そしたら、俺は息をのんでしまった。

「っ!?」

あまりの光景に目を見開いてしまった。
けっ恵様が……机に顔をべたぁっと当てて寝ている……だと。

「な、一大事だろ?」
「あっあぁ」

いっ一大事だ、いつもの彼女なら、あんな背骨に悪い状態でいないで、背筋を伸ばして授業が始めるまで待っていた……なのに今はどうした! 思いっきり落ち込んでるように見えるぞ。

「あれきっと、バレンタインデーのチョコをどうしようか悩んでるんだぜ?」

……。
おっ落ち込んでるんじゃなくて、悩んでいる? やけに自信満々に言ってくるが……根拠はあるのか?
気になったので、眼鏡のズレを直しつつ聞いてみた。

「なんで悩んでるって分かるんだよ」
「この時期の女子の悩みと言ったらそれしかねぇだろ!」

……そうか? そう言う物なのか?
若干疑問が浮かぶが……こんなに自信満々に言ってるんだ、「それは違う」と言うのは何だか悪い気がする。

「でさ……お前はどう思う?」
「なっ何がだよ……」

友達は真剣な目で語る。
何を聞きたいのかサッパリ分からない、そう言う風にいると友達は呆れた顔をしてため息を吐いてくる。

なっなんだ? 俺、なんか変な事言ったか?

「恵様がどんなチョコを渡すかだよ」
「…………」

チョコ、か。
そりゃバレンタインデーにあげるのはチョコだよな。
それに悩んでいるのなら、どんなチョコを渡すかに悩んでるんだろう。

いや、チョコとは限らない。
バレンタインデーにクッキーやマシュマロ、他にはマカロンを渡す人もいると聞く。

と、その前にだ。
延々とチョコがどうのこうのと思ってる俺だが……その前に思う事があるだろう。

……恵様親衛隊全員が知った事だが、恵様に彼女が出来た。
そしてバレンタインデーが近付いてきた、で……恵様はその彼女にチョコを上げる訳だ。

……女子が女子にチョコを上げる。
友チョコじゃない、恵様とその彼女……確か胡桃だったか? その人とは付き合ってる。
だから本命チョコになるわけだ……。

さて……恵様はどの様にチョコを渡す?
ストレートに手渡し? それともお店のロッカーに置いておく?

いやいや……付き合ってるんだから、そんな普通の感じじゃなくて、普通の人とは違った感じの渡し方をするのかも知れない……。

例えば? そうだな……例えばだが。
「胡桃さんっ、その……こっこのチョコ上げるから、チョコよりも甘い事……あたしにしてよ」と言って渡すとか?

それとも

ふむ、どちらも捨てがたい内容だな。
………………うん。

「って、何を考えてるんだ俺はぁぁぁっ!」

ガンっ! ガンっ! ガンっ!
そう叫んだ俺は、反動を付けて思いきり額を机に打ち付けた。
いっ痛い……痛いがそうしないと、最近の悩みである変な妄想で満たされてしまいそうだ!

「うぉっ、ビックリしたぁ! ちょっ、山田!? どっどうした? いきなり机に頭を打ち付けて……って、おい! やめろ! それ以上はダメだ! 怪我するぞっ!」

アホか俺はっ! なんて凄まじくアレな事を考えるんだ! けっけがれてるぞ! きっ清めろっ、こんな事を考える汚れきった頭は、思いきり何処かに打ち付けて清めるんだ!

だから止めてくれるなっ、友よぉぉっ!!

……。
と、そんな感じに騒いで1時間目が始まる。
あ、因みに……山田のいきなりの行動に皆がパニックになり、山田は保健室に連れられて……一時限目の授業をせずにカウンセリングを受けた。

その間山田は、ずっと顔を真っ赤にして「いっいえ、なんでも無いです……本当です」てな感じに、はぐらかし続けたと言う。

「住み込み就職 お仕事時々お遊び」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「コメディー」の人気作品

コメント

コメントを書く