住み込み就職 お仕事時々お遊び

わいず

負けられぬ戦い、そして現れるちびっ娘

「……見付けました」

私はそれを見て目を見張る。
ゲームセンターの中を歩き回って、ちょっと休憩しましょうかって思った時に私は見付けてしまったんです。

「ふっふふっ、やった……やりましたよ私!」

ガッツポーズをする私は、それを食い入る様に見ます。

あぁ……今の私は幸福感に満ち溢れています。
なんたって、見付けてしまったのですから……。
ニヤける顔を引き締め、私はそれをじっと見つめ唾を飲み込む。

そして、鞄の中から財布を取りだし、中から100円を取り出しました。

「行きますよっ、クレーンゲームでしか取れない限定フレーバー、ダブルチーズストロベリーソースアイス! 取って見せますっ!」

カッ! と目を見開き、私はクレーンゲームの商品を見て意気込む。
そう、私が見付けたのは……アイスです。
え? 止さんですか? その人はまだ見付けていませんよ?

なのに、クレーンゲームをやって良いですかって? ふふふ、それはそうなんですけど、その前に見逃せないアイスを見付けたんです。
なので、探すのを一旦止めている訳です。

私は甘い物には目がありませんからね……しかも限定品って旗が掲げられてたら尚更見逃せません。

だから悪いのは私じゃありません、ここに美味しそうなアイスを置いたお店の店員が悪いんです!

「これをさくっと取ったら止さんを探しますよ……っと」

チャリンッ……。
クレーンゲームに100円を入れて、いざゲーム開始です!
クレーンゲームってやった事ありませんけど……まぁ大丈夫でしょう。

アームも頑丈そうですし、沢山置いてますし、何よりなんか取れ易そうですし、きっと1回で取れちゃいます。

「いざ、参ります!」

ウィーン……。
軽快な音楽と共にアームが動きます。
ふふふ、横の位置は完璧……後は縦です。

ここは横側から覗き込んでやりましょう……よっ!

ウィーン……。
アームが動きました、あと少し……もうちょっと! よしっここでストップです。

「位置は完璧です! さぁっ、キャッチしてください!」

手を合わせる私、アームが開かいて、ゆっくりと下へと下がっていきます。

……その結果。
アイスを掴みました! ですけど、やったって喜んだのも束の間、ボトッと落ちてしまいます。

あぅぅ、アームの力弱いですね……こっ今度はガッチリ掴んで下さいよ!

私はまた100円を取り出します。
そしてそれをクレーンゲーム機に投入……さぁっ、取るまでやりますよ!


5回目
「あぁっ、惜しい! あとちょっとで取れたのにぃ、ですがイケそうです。頑張りますよ!」

10回目
「うっ……掠りもしませんでした、でっですが次やれば取れますよ! たっ多分……」

25回目
「あっあはっ、あはは……だっだだだっ大丈夫でですよ。きっきっと、とれとれれれれ取れますよよよ……あっあと1回、あと1回だけ……ふっふふふふ」

そして懲りもせずに40回目……。

「はっははは……ひひっひひひっ……とっ取れません。もう、4000円も使っちゃいました」

虚ろな目でアイスを見つめ、バンっ! とクレーンゲーム機を叩きます。

あれから沢山やったんですけど……全く掠りもしなかったり、掴んだのは良いですけど直ぐに落ちちゃったりを繰り返すばかり。

全く取れる気がしません。

「あのアイスはお店で買うと約400円、今使ったのは4000円、順調に取れれば10個のアイスが取れます。あっあぅぅ……限定品でここでしか手に入れられないからって無駄使しましたぁぁっ」

ガクッと床に膝をついて、涙ぐむ私、うっうぅ……こんな筈では無かったんです。
さくっとアイスを取って、それを食べた後に止さんを探そうと思ったんです!

でっでも取れないんです! きっと取れないのは……あっアームが悪いんです! そうっきっとアームのせいなんですよ!

私がアイスの誘惑に負けて人探しをサボったからバチが当たった……なんて事はないんです!

「くっ……落ち込んでる暇はありません」

涙を拭き立ち上がる私、また財布を取りだし100円を探します。

「限定フレーバーは絶対に食べたいんです……ここで妥協したら、甘党の名がすたります!」

先程、両替しましたからね、まだ100円は残って……あっあれ?

なっない! うそっ、もう100円切らしちゃったんですか!?
だっだったら1000円札を……あ。

「10000円札しかありません……」

1000円札、全部両替しちゃったんですね。
残りは10000円札だけですか……そうですか。

財布を一旦しまい、じとぉっとアイスを見つめます。
10000万円って事はですよ? 全部100円にすれば100回は出来る訳です。

100回もやれば流石に1つくらいは取れますよね?
えと、再確認すると、使ったのは4000円です。
取れなかったので損をしています。

でも、でもですよ?

「ここで、連続10個以上取れば……元は取れるんじゃないですか?」

呆然しながら語った後、気が付いたら私は受け付けに足を向けていました。
1万円の両替は普通の両替機では出来ませんからね……受け付けにもっていきましょう。

「10個のアイス、ふっふふふ……なんて幸せな響きなんでしょう」

10個のアイス、1日1個換算にすると10日間アイスが食べれます。

ふっふふふ、ちょっともの足りませんけど、それだけアイスが食べれるのなら……1万円を崩しても、痛くも痒くもありません。

「いっいざ、受け付けに……ふふっふふふ」

まるで、ゾンビの様な足取りで、私は受け付けに向かいます。
全てはアイスの為に、全ては自分の欲求の為に、全ては甘味の為に!

私は今、甘味の亡者になっていました。
その時です……がっ! と肩を掴まれました。

ビックリして後ろを振り向くと……青色のナイロン袋と小さな可愛い丸いポーチを持った上下青のジャージを着た黒髪ツインテールの胸が少しだけふっくらしてる小さな女の子がいました。
背はかなり低いです……150㎝くらいでしょうか?
それに、あの下に垂れた様なツインテール……毛先がくるっとしてます。

「お姉さん、おれに任せろ! 今までの分、取り返してやるぜ!」

にっ、と白い歯をみせるその娘は爽やかに言いました。
ポカーンと口をあけて、呆然と佇む私。
そんな私を横切って、アイスのクレーンゲームに向かっていく小さな娘。
えと、思ったんですが……言葉使いが男っぽいですね……なんと言うかこの娘、美少年みたいな爽やかさを感じます。

「さぁ、ガンガン取ってやるぜ!」

威勢良く言った後、その娘はクレーンゲームを開始したのでした……。 

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