一兵士では終わらない異世界ライフ
セルルカの目的
☆☆☆
「で、何の用だ?」
「貴様の記憶を消しに?」
「なんで疑問形なんだよ……」
俺の部屋へと突撃してきたセルルカは、昨夜見たままのパーカー姿を見てである。ただし、フードは被っていない方の姿をであり、三角耳がピコピコしていた。
一先ず一呼吸起き……俺はベッドに腰掛け、セルルカは俺の向かい側に椅子を置いて座る。俺は暫しの静寂の後に、もう一度同じ問いを投げかけた。
「んで?何用で?」
「ふんっ……思わず酒に酔い、貴様に私の目的を話すのを忘れていたのでな!」
「あぁ……それで態々伝えに来たのか」
「……まあ、そこまで重要なことでもない。今回の大海底闘技祭の優勝が目的というのが結局はメインなのだ。ただ……そうだな。まず、貴様はオルメギダ・テラーノという名前を知っているか?」
……オルメギダ・テラーノ?
たしか、帝国技術とされている魔導機械の発案者だったか。実はそれが魔術協会が生んだ代物だという話だが……あれ?
「ふむ?どうかしたか?」
「え……?あぁーいやぁ……」
ちょっと待てよ……?つい最近、その名前めっちゃ聞いたことがあるですけど?
あれはたしか……そう、俺が霊峰から帰る際……馬車に乗り合わせたご老人が名乗った名前がオルメギダ・テラーノだったはずだ。
セルルカは俺の尋常ではない反応に訝しげな目をし、そして何となく察してこう言った。
「まさか……会ったことがあるのか?」
さすが伝説というだけあって、洞察力が並じゃない。俺は誤魔化すことでもないなと思い、正直に答えた。
「……会ったことはあるな。しかも、割と長いあいだ一緒にいたことがある」
「ほお……あの老いぼれとか……。あれは俗世を嫌い、協会に飼われていた憐れな老いぼれだ。それと偶然にも出会うとは、貴様はかなりの強運だな」
「褒められてんのかそれ……」
もちろん、絶賛だ。
ルルちゃんはそんなことを平然と言った。しかし、そのオルメギダというご老人とルルちゃんの繋がりが見えてこない。
俺はそれを尋ねるために口を利かせる。
「で?オルメギダさんがどうしたんだい?ルルちゃん」
「あの老いぼれは私の身内なのだ。……誰がルルちゃんだ!」
「身内?ルルちゃんの?似てなかったけどなぁ……」
俺はもう随分と昔のことのように思うオルメギダさんとの旅路を思い出しながら言葉を述べる。そもそも種族が違う。ハーフというなら納得するが、それでも似てない。
「身内といっても血の繋がりがある家族という意味ではない。……まあ、師弟のようなものだ。あと、ルルちゃんと呼ぶな!」
「あぁ……そういうことか。ルルちゃんの師匠ってことは魔術を教わったの?」
「あぁ……私に魔術の基礎と、そして魔導機械に関しての知識を与えた。あと、次にルルちゃんと呼んだら殺す」
伝説の師匠……か。
こういう話を聞くと、暴君のような伝説たちも元は普通の人間だったのだとつくづく思う。きっと、ルルちゃんにとってオルメギダさんは父親の代わりにだったのではないだろうか。
『よーしよし、ルル。ルルは可愛いねぇ』
『ジィジ!ジィジ!ルル偉いー?』
みたいな感じで、ロリルルとオルメギダさんのやり取りを想像したらホッコリした。
「そっか……それで、オルメギダさんがどうしたの?」
「……魔術協会内部の反乱で今は協会の方で捕らえられている。場所は、帝国だ」
「ほう……」
つまり、最初から俺たちの話はセルルカにとってもメリットのあることだったというわけだ。セルルカは最初からこの話を蹴るつもりがなかった。となると、大海底闘技祭に出場する意義もヘッタクレもないように思うのだが……そこはセルルカ的な考えがあるらしい。
「あの老いぼれは『キルミンナの肝』が好物だからな。助けてやるついでに、一つ食わせてやろうと思ってな……。勘違いするなよ!これは飽くまでついでだからな!」
と、どこで覚えてたのかルルちゃんがツンデレを発揮しつつたった一人のジィジのために、ジィジの好物を提げてお迎えに行くつもりらしい。
なんてジィジ想いの優しい子なのでしょう!
「ジィジ、喜ぶといいね。ルルちゃん」
「……死ね!」
この後、俺はボッコボコされた。
☆☆☆
セルルカの目的も結局は帝国に陣取る魔術協会に捕まっているオルメギダさんを助けること。
魔術協会の反乱というのは初耳だが、それがあの王都の急襲に繋がっているのだろう。で、この反乱で直ぐに脳裏を過ぎったのはやはりあいつ――ゼフィアンだ。
恐らくだが、ゼフィアンが反乱分子の旗頭を唆しているのだろう。帝国にいるのもそれで説明が付く。つくづく、俺はあの女と縁が深いようだ。
セルルカはその点については同意見らしく、首肯している。
「とにかく、この闘技祭で貴様が優勝すること……それが少なくとも私が貴様らに協力してやる最低条件だ」
「分かった……ルルちゃん」
「おい」
メラメラと何やらルルちゃんの背後で燃えてる気がしたが気にしないことにする。
俺はそろそろ顔でも洗いに行くかとベッドから立ち上がる。
「どこへ行く?」
「ん?あぁ……顔を洗いに行ってくる。お前に叩き起こされてから随分経ったしな」
「……ふむ?それもそうだな……なら――妾も行こうぞ」
セルルカは言いながらフードを被り直し、モードチェンジ。いつもの、セルルカの喋り方になる。俺は顔を拭くものを手にし、部屋を出る。セルルカもその後を付いてくる形で、トテトテと歩いてくる。
クールな見た目に反し、いちいち行動が少女のものだ。思わず足音さんも、少女化していた。セルルカは身長も高いし、言ってしまえば大人な女性。とてもじゃないが、少女なんて言えないものだ。
が……精神年齢は以外にも少女のものなのかもしれない。まるで今の今まで、少女時代のまま心が凍り付いていたかのような……そんな印象を受ける。それは今でも溶けることなく、凍ったままで……時を操る伝説である彼女らしく、彼女の時間だけ永遠に進まないような気さえしてしまう。
「む?なんぞ?」
ふと、俺が不躾にセルルカを見ていたからか怪訝そうな表情で、セルルカは俺を見上げる。
俺はとりあえずと、口を開いた。
「語尾に『ぞ』って付け足せば、なんでも尊大な感じになると思ったら大間違いだぞ」
「ニャ!?」
そう言うと、セルルカがまた素面に戻ったかのようにそんな間抜けな声を漏らした。その後のセルルカの行動は容易に読め、セルルカは俺の記憶を抹消しようと猫パンチさながらの攻撃を繰り出してきた。
痛い痛い……。
「で、何の用だ?」
「貴様の記憶を消しに?」
「なんで疑問形なんだよ……」
俺の部屋へと突撃してきたセルルカは、昨夜見たままのパーカー姿を見てである。ただし、フードは被っていない方の姿をであり、三角耳がピコピコしていた。
一先ず一呼吸起き……俺はベッドに腰掛け、セルルカは俺の向かい側に椅子を置いて座る。俺は暫しの静寂の後に、もう一度同じ問いを投げかけた。
「んで?何用で?」
「ふんっ……思わず酒に酔い、貴様に私の目的を話すのを忘れていたのでな!」
「あぁ……それで態々伝えに来たのか」
「……まあ、そこまで重要なことでもない。今回の大海底闘技祭の優勝が目的というのが結局はメインなのだ。ただ……そうだな。まず、貴様はオルメギダ・テラーノという名前を知っているか?」
……オルメギダ・テラーノ?
たしか、帝国技術とされている魔導機械の発案者だったか。実はそれが魔術協会が生んだ代物だという話だが……あれ?
「ふむ?どうかしたか?」
「え……?あぁーいやぁ……」
ちょっと待てよ……?つい最近、その名前めっちゃ聞いたことがあるですけど?
あれはたしか……そう、俺が霊峰から帰る際……馬車に乗り合わせたご老人が名乗った名前がオルメギダ・テラーノだったはずだ。
セルルカは俺の尋常ではない反応に訝しげな目をし、そして何となく察してこう言った。
「まさか……会ったことがあるのか?」
さすが伝説というだけあって、洞察力が並じゃない。俺は誤魔化すことでもないなと思い、正直に答えた。
「……会ったことはあるな。しかも、割と長いあいだ一緒にいたことがある」
「ほお……あの老いぼれとか……。あれは俗世を嫌い、協会に飼われていた憐れな老いぼれだ。それと偶然にも出会うとは、貴様はかなりの強運だな」
「褒められてんのかそれ……」
もちろん、絶賛だ。
ルルちゃんはそんなことを平然と言った。しかし、そのオルメギダというご老人とルルちゃんの繋がりが見えてこない。
俺はそれを尋ねるために口を利かせる。
「で?オルメギダさんがどうしたんだい?ルルちゃん」
「あの老いぼれは私の身内なのだ。……誰がルルちゃんだ!」
「身内?ルルちゃんの?似てなかったけどなぁ……」
俺はもう随分と昔のことのように思うオルメギダさんとの旅路を思い出しながら言葉を述べる。そもそも種族が違う。ハーフというなら納得するが、それでも似てない。
「身内といっても血の繋がりがある家族という意味ではない。……まあ、師弟のようなものだ。あと、ルルちゃんと呼ぶな!」
「あぁ……そういうことか。ルルちゃんの師匠ってことは魔術を教わったの?」
「あぁ……私に魔術の基礎と、そして魔導機械に関しての知識を与えた。あと、次にルルちゃんと呼んだら殺す」
伝説の師匠……か。
こういう話を聞くと、暴君のような伝説たちも元は普通の人間だったのだとつくづく思う。きっと、ルルちゃんにとってオルメギダさんは父親の代わりにだったのではないだろうか。
『よーしよし、ルル。ルルは可愛いねぇ』
『ジィジ!ジィジ!ルル偉いー?』
みたいな感じで、ロリルルとオルメギダさんのやり取りを想像したらホッコリした。
「そっか……それで、オルメギダさんがどうしたの?」
「……魔術協会内部の反乱で今は協会の方で捕らえられている。場所は、帝国だ」
「ほう……」
つまり、最初から俺たちの話はセルルカにとってもメリットのあることだったというわけだ。セルルカは最初からこの話を蹴るつもりがなかった。となると、大海底闘技祭に出場する意義もヘッタクレもないように思うのだが……そこはセルルカ的な考えがあるらしい。
「あの老いぼれは『キルミンナの肝』が好物だからな。助けてやるついでに、一つ食わせてやろうと思ってな……。勘違いするなよ!これは飽くまでついでだからな!」
と、どこで覚えてたのかルルちゃんがツンデレを発揮しつつたった一人のジィジのために、ジィジの好物を提げてお迎えに行くつもりらしい。
なんてジィジ想いの優しい子なのでしょう!
「ジィジ、喜ぶといいね。ルルちゃん」
「……死ね!」
この後、俺はボッコボコされた。
☆☆☆
セルルカの目的も結局は帝国に陣取る魔術協会に捕まっているオルメギダさんを助けること。
魔術協会の反乱というのは初耳だが、それがあの王都の急襲に繋がっているのだろう。で、この反乱で直ぐに脳裏を過ぎったのはやはりあいつ――ゼフィアンだ。
恐らくだが、ゼフィアンが反乱分子の旗頭を唆しているのだろう。帝国にいるのもそれで説明が付く。つくづく、俺はあの女と縁が深いようだ。
セルルカはその点については同意見らしく、首肯している。
「とにかく、この闘技祭で貴様が優勝すること……それが少なくとも私が貴様らに協力してやる最低条件だ」
「分かった……ルルちゃん」
「おい」
メラメラと何やらルルちゃんの背後で燃えてる気がしたが気にしないことにする。
俺はそろそろ顔でも洗いに行くかとベッドから立ち上がる。
「どこへ行く?」
「ん?あぁ……顔を洗いに行ってくる。お前に叩き起こされてから随分経ったしな」
「……ふむ?それもそうだな……なら――妾も行こうぞ」
セルルカは言いながらフードを被り直し、モードチェンジ。いつもの、セルルカの喋り方になる。俺は顔を拭くものを手にし、部屋を出る。セルルカもその後を付いてくる形で、トテトテと歩いてくる。
クールな見た目に反し、いちいち行動が少女のものだ。思わず足音さんも、少女化していた。セルルカは身長も高いし、言ってしまえば大人な女性。とてもじゃないが、少女なんて言えないものだ。
が……精神年齢は以外にも少女のものなのかもしれない。まるで今の今まで、少女時代のまま心が凍り付いていたかのような……そんな印象を受ける。それは今でも溶けることなく、凍ったままで……時を操る伝説である彼女らしく、彼女の時間だけ永遠に進まないような気さえしてしまう。
「む?なんぞ?」
ふと、俺が不躾にセルルカを見ていたからか怪訝そうな表情で、セルルカは俺を見上げる。
俺はとりあえずと、口を開いた。
「語尾に『ぞ』って付け足せば、なんでも尊大な感じになると思ったら大間違いだぞ」
「ニャ!?」
そう言うと、セルルカがまた素面に戻ったかのようにそんな間抜けな声を漏らした。その後のセルルカの行動は容易に読め、セルルカは俺の記憶を抹消しようと猫パンチさながらの攻撃を繰り出してきた。
痛い痛い……。
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