一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

新しい名前はグレーシュ

 暗転した視界は一変して眩しいほどの光をとらえて、思わず俺は目を閉じた。聴覚はグワングワンと何か音を拾っているが反響しているようでよく聞こえない。誰かが喋っているのは理解できるが何を言っているのかは全く分からない。もう一度目を開けると、やはり眩しいほどの光で、閉じたくなったところをぐっと堪えて目を開け続ける。やがて光に慣れてくると、ピントが合うかのように視界に全てをとらえた。

 まず、それはそれは美しい女性が目に入った。日本人には見えない。金髪だし、多分外国の人だ。いや、異世界の人?まあ何でもいいが……。

 チラリと辺りを見回すと木でできた床やら天井やら壁を見た。木造建築だった。本当に異世界に転生したのか……となると俺はこの美人なお姉さんの子供ってことだよな?
 おいおい、まじかよ?見た目からしたら多分二十代だろ?歳下の美人のお姉さんをこれからはお母さんって呼ぶのん?違和感しかないんだけど……。
 美人なお姉さんは、何か言っているがやはり俺にはなんて言っているのか分からない。多分、日本語じゃないからなのだろう。

 兎に角……俺はこれからこの人の子供として生きていくのだ。新しいお母さんだ。今度こそ真っ当に生きよう。


 –––☆–––


 生後数ヶ月くらい経った思う。何せこの赤ん坊の身体では自由に動けないし、時間なんて分かりようも……なんて思っていたがそうでもなかった。

 いつも定時には鐘の音が聞こえてくるのだ。一日にそれが四回ほど聞こえる。それが一日の始まりで、終わりだ。それで体感時間でおよそ二十四時間ほどといったところだ。時間の流れが前世と同じなのは有難い。

 それとこの世界での俺の名前はグレーシュだ。こっちでの母さんが俺に向かってそう言っていたから、多分そうだろう。後、自分を指差して何か言っていたから多分「ママ」とかそういう意味なんだろう。
 だから、そう言おうと思ったが上手く呂律が回らなかったために言えなかった。やはり、もっと成長してからでないとダメなんだろうな。

 俺のお腹が空くと母さんは直ぐに駆けつけてきて母乳をくれる。美人のお姉さんの生乳やぁっ!とかいって興奮なんてしなかった。何故だろう?

 前世じゃ生でなんか見たことないし、童貞を貫いていた。そんな童貞が美人の乳を見て興奮しないなんて……もしかすると将来俺は不能に悩むことになるかもしれなかった。

 んなわけねぇけど……。

 多分、脳の発達……生殖機能が未熟だからだと思う。肉親だからって興奮しない奴っているのか?

 うん、人によりけりですねぇ……。

 ちなみに、俺は漏らしたりも当然する。この身体は我慢できないようなのだ。そういう時も母さんは直ぐに駆けつけて、下着を替えてくれた。
 さて、母さんばっかりだと父さんが可哀想だろうということで父さんの話もしようか。

 父さんは母さんに比べて普通だった。特出してイケメンというわけではなかった。でも身体付きはいいし、なんだか戦士って感じだ。戦士というか兵士?そんな感じだ。
 怖そうな人相だけど……母さんは父さんと一緒にいる時に、とても幸せそうだったからな。きっと、良いパパさんなんじゃないだろうか。今は、それだけ知れれれば十分さ。

 あと、俺には姉がいる。姉というと前世の姉を思い出してしまうから苦手だ。そしてこっちの姉も、俺にはなんだか冷たい。見た感じ六歳とかそんな感じだと思う。
 そのくらいの子だと両親に甘えたいお年頃だろうに、俺が生まれて母さんは俺に付きっ切り、父さんは基本夜にしかいないためにあんまり甘えられない。
 そう考えると姉は、俺のことが羨ましくて仕方ないだろう。つまりは妬いていらっしゃるのだ。そういうわけで、姉との関係はあまり良いとは言えないのが現状の問題だろう。

 言い忘れていたが、姉は母さんに似てべっぴんさんだ。髪はやはり金髪だった。そういえば父さんの髪は黒だった。俺はまだ自分の髪の色とか分からんが……金髪には憧れる。
 あとは少しずつだが言葉が分かるようになってきた。前世の記憶もあるからだろうが、赤ん坊としてはかなり早く覚えてきていると思う。
 前世じゃ高校中退までは割りかし成績はよかった俺だが……こっちの俺の方が優秀なようだ。
 おかしいなぁ……脳味噌は前世の方が発達してた筈なのに……赤ん坊に負けた。

 とりあえず、なんか喋ってみるか。

「あーうぅ」

 うん、今日もいつも通り言葉は喋れないね〜まあ良いんだけどね。今日もレッツクーイングぅ!!


 –––☆–––


 再び時は経ち……俺は一歳の誕生日を迎えましたと。このころになると俺はハイハイで家中を見て回るようになった。ということで、俺のおよそ数ヶ月の成果を報告するとしよう。

 まず、この家は一軒家。部屋は寝室と俺が今いるリビング、そして台所といった感じだ。木造建築で食器類なんかも木製だ。なるほど、異世界だなぁ。やっぱり、陶器なんかは高いのだろうか?そういう先入観はあるな。
 寝室には家族みんなで眠れるスペースがある。まあ、ギリギリだけど……俺はまだベビーベッドでおネンネだ。オネショしちゃうからね。
 言葉も拙いながら話せるようになった。言葉も理解できるようになったからな。
 だからここはひとつ成果を見せてあげよう……。

「まーま」

 俺がそう言うと、颯爽と現れたのは我が母親のラエラだ。こっちでの母さんです。美人さんです。母さんです。そして、美人です。
 大事なことなので二回言いました。

「どうしたのグレーシュ?」

 ラエラママはハイハイしている俺の目線に合わせて、膝を曲げて手を伸ばす。
 おかしいなぁ……何故かママに自動変換されちゃう。ママとか呼ぶ歳でもねぇのに……(精神年齢は)まあいいや。
 俺はママンに抱きついて精一杯甘えてみた。するとママンは一瞬驚いたような顔をした後、俺を優しく抱き上げた。

「本当にどうしたの?いつもはあんまり甘えてこないのに…まあ、でもちょっと安心」

 優しく俺に微笑みかけるママンはとっても美しかったです。それにしても……俺ってそんなに甘えん坊じゃなかったのかしら?可愛げないかな……うん、もっと頑張ろう。

「ただいま」

 と、珍しく父さん……アルフォードパパが午前中に帰宅してきた。まだ鐘は二回しか鳴っていない。
「早いじゃない。どうしたの?」
 母さんが聞くと父さんは困ったような顔をして、とりあえずと椅子に腰掛けた。母さんも続けて椅子に座った。

「実は戦争にな……行かなくてはならなくなってな……」
「えっ……」

 えっ……と俺も母さんと同じように思わず絶句してしまった。戦争?平和な国出身の俺にとっては縁も所縁もないような言葉だった。

「どうして急に……」

「フェルデイナ共和国に前線が押されているようでな。俺の方の師団に招集がかかったんだ。明日には王都へ行かなくてはならない」
「それで今日は早く帰ってきたということね……帰ってこれるんでしょう?」
「も、もちろんそのつもりだ。生まれたばかりのグレーシュやまだ小さいソニアを置いては死ねん」

 ソニアってのは俺の姉だ。今は多分学校とやらに行っているのだろう。この間チラッとそんな話を聞いたのだ。
 それにしても戦争か……この世界には普通にそんなもんが存在するんだな。

「だい、じょーぶぅ?」

 俺は、何とかそう声に出した。貴方の息子は、心配してますよーとしっかりと伝えておく。アルフォードパパは虚を衝かれて目をまん丸にしていたがやがて優しく微笑むと、俺の頭を撫でた。

「なんだグレーシュのやつ……今日はやけにラエラに甘えているな」
「そうなの!さっき私に抱きついてきてくれたの。あまり泣かないし、全然甘えてくれないから心配してたんだけどね……よかった」

 確かに赤ん坊というのはもっと泣くもんなんだろう。でも俺前世持ちだからなぁ……しかし、それによって心配をかけてしまっていたというのは申し訳ない。これからはもっとワンワン泣こう……。
 それから、ソニア姉が帰ってきて夜になると家族で食事だ。明日からパパンは戦争か……とにかく無事を祈ろう。パパン!無事に帰ってきてくれよな!


 –––☆–––


 それから再び時が過ぎて数ヶ月……パパンはケロッとした顔で帰ってきた。心配して損したよ……でも家族の無事は素直に喜ぼう。
 だから、俺はパパンに抱きついた。
 パパンの身体はママンと違って柔らかくない……だけど強さと優しさを感じられた。これが父さんなんだと俺は痛感した瞬間だった。

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