一兵士では終わらない異世界ライフ
戻ってきた平穏
–––グレーシュ・エフォンス–––
えっと……例の戦いから、早いもんで三週間くらいが経ったよ。
あの後……俺がユンゲルを倒したことで戦争は終結し、オーラル皇国の大敗で幕を閉じた。
オーラル皇国の皇妃とイガーラ王国の国王の間で色々と取り決めがされた結果、オーラル皇国はイガーラ王国の属国となることが決まったらしく、イガーラ王国はその国土を広げることとなった。
まあ、小難しい話は俺にはよく分からない……だから、とりあえず身辺のことについて話しておこうかな。
俺がユンゲルを倒したことは、アリステリア様の計らいで秘匿事項となったよ。変な貴族に目を付けられたら面倒らしいからね。俺も助かったよ……。
壊れたトーラの町の復興も進んでいて、もう直ぐで学舎も再会するらしい。それは嬉しいんだけどさぁ……ノーラとエリリーはもう別の町に引っ越しちゃったからねぇ……少し寂しいかな。
まあでも、これからまだまだ頑張らなくちゃいけないことが沢山あるからね!
例えば、あの戦いの中で使えるようになった筈の無詠唱なんだけど……あれ以来、出来てないんだよねぇーなんでだろー?しかし、一度出来たんだ!絶対出来ると信じて俺は、男の浪漫を追求していく所存だよ!
やっぱり、浪漫は大事だよね!!
「なにやってんの?」
「ん?」
俺が父さんの剣の前で手を合わせている時に、ソニア姉の声が背後からして、振り返ると不思議そうに首を傾げていた。
俺は苦笑いして、何でもないと手振りで答えた。こっちの人たちは遺品に対して、手を合わせたりする風習はない。故に、ちょっと怪訝な眼差しを向けられてもうたん……。
「で、何か用?」
俺は部屋の隅に置いてある剣から目を外して、身体ごとソニア姉に向けた。
ソニア姉は暫く訝しげにジッと見ていたが、直ぐに少しだけ不機嫌そうに言った。
「クーロンさんが訪ねに来てるよ」
ん?クロロが?どうしたんだろう……。
あの戦いの後でクロロやナルクといった義勇軍の主立った面々は事後処理やら恩賞やらの件で追われていた筈だが、何の用だろうと俺は首を捻った。
いや、まあそれも気になるけど……どうしてソニア姉は不機嫌なのだろうか。
「なんか……怒ってる?」
「別に」
「そ、そうですか……」
ふえぇぇぇ……怖いよぉ。
俺は何故か不機嫌なソニア姉を尻目に、訪ねてきたというクロロに会うために玄関まで歩いて行って、開けるとクロロが武装した姿で立っていた。
黒が基調ないつもの武装……刀の柄をキラリと光らせて、クロロが微笑を浮かべて立っていた。その背後にはアルメイサが俺に手を振っており、ワードンマが腕を組んで立っていた。
「久しぶりですね」
「はい。久しぶりです」
クロロに答えるように言った俺は、後手に玄関の扉を閉めて、クロロと向かい合った。クロロの方がずっと背が高いために、俺はクロロの顔を見上げるように視線を向けた。だからだろうか……クロロさんの豊かで豊かな豊かってる……そのぉ〜アングルが豊かにグッショブ!!
(閑話休題)
俺は一つ咳払いしてから口を開いた。
「今日はどうしたんですか?みなさんお揃いで」
後ろの二人にも視線を向けながら言うと、クロロは答えた。
「えぇ。実は……色々と片付いてきたので私達は今日あたりで、この町を出ようかとおもいまして」
「え……?町を出るって……」
「そのままの意味ですよ。私は冒険者……一つの町には止まれませんから」
クロロはそう言っているが、少しだけ名残惜しいような表情をしていた。
どうしたのだろうか。
クロロは視線を俺から外すと、気恥ずかしいたように頬を染めて辺りを見回した。それから誤魔化すように咳払いすると続けた。
「なんだか寂しいものですね……背中を預けた戦友と別れるのは」
「そうですねー」
はたして、そういうものなのだろうか。俺としては……、
「クロロさんと別れるのは寂しいですね」
そう素直に思った。確かに戦友だが、クロロには色々と世話になってるし、戦友ってだけじゃない……俺はクロロに恩返しも出来ていないのに、こうして別れることになるのは残念だと思った。
クロロは俺の言葉を聞くと、少しだけ固まったかと思うとほんのりと頬を朱色に染めて、恥ずかしそうにモジモジとしだした。
なに?トイレ?
「どうかしました?」
俺が問い掛けるとクロロが、「……い、いえ」とだけ言って顔を反らし、続けて言った。
「しかし、本当に残念です。私も冒険者である前に一人の剣士……グレイくんと一度は手合わせしたかったのですが、色々と立て込んでしまいましたからね」
「なるほど……それは確かに残念です。こう見えて、僕は負けず嫌いな性分なんですよ」
はははは〜小心者だけど負けず嫌いなんだよ、僕は。負けず嫌いなのはゲームに限定してなんだけどね!
「ほう……」
クロロも同じ性分なのか、朱色に染まっていたクロロの表情が一変して、不敵な笑みを作っていた。
クロロもその気のようだ。
「では、こうしましょうか。私はこれからまた冒険者として世界を旅します……しかし、八年後にまたここに戻ってくることにします。グレイくん……貴方と戦うために」
腰に帯びた刀の刀身を抜き放ち、切っ先を向けながらクロロは言った。俺もついついと笑みを浮かべながら、手を拳銃の形にして、人差し指をクロロに向けた。
「いいじゃないか。そしたら八年後……俺が大人になってからやろう」
クロロは面白そうに微笑むと、どうしたのか俺を優しく抱擁してきた。それで、本能が薄れて理性が戻り、なんだか恥ずかしいことをしたなぁ……とちょっと後悔……。
「ど、どうしたんですか?」
取り繕うように慌てて口を開いたが、クロロは対して穏やかに言った。
「何故でしょう……やはり離れるのが惜しいと思ってしまいます。本当にどうしてでしょうね」
クロロは俺から離れながら言うと、困ったように笑い、踵を返した。
「では……一時のお別れです。八年後……私をガッカリさせないで下さいね」
「もちろんだ」
あぁ……また、本能が……。
クロロは最後に、俺を一瞥するとそのまま歩いていってしまった。その背中を見送る俺の隣に、ソニア姉は自然に並び声を掛けてきた。
「なんだって?」
「うん……ちょっと会う約束を、ね」
「ふ〜ん……」
ソニア姉はそれ以上は特に何も言わず、晴れやかな晴天の下……空を見上げてソニア姉は言った。
「私さ……治療魔術師を目指すよ」
「ん……?」
突然、そう切り出したソニア姉に俺は困惑した表情を見せた。それからソニア姉は俺の前に躍り出ると、手を後で組んで言った。
「ちょっとさ……森の方に入らない?」
「別にいいけど……」
本当にどうしたのだろうと、俺は首を傾げながらもソニア姉の後を付いて歩いていく。するとソニア姉は鼻歌混じりに穏やかな微笑を浮かべて森を歩き出す。
「どうしたの?随分と機嫌が良さそうだね」
「ん〜懐かしく思ってね。ほら、この森」
言われて俺は辺りを見回す。空の色も落ち葉の数も違うけれど、見たことのある風景が視界に広がっていた。
「あー」
「思い出した?五年前くらいになるのかな…」
ソニア姉は感慨深いように森の中をジッと見つめる。もう……五年にもなるのか……。
「あの時のこと……あたしはまだよく覚えてるよ」
「うん……僕も」
「グレイがあたしを守ろうと前に出てくれたよね?ありがとね」
「な、なに急に…」
ちょっと照れ臭い…しかし……、
「でも、僕たちを助けてくれたのは父さん…」
「そうだね…トーラの町が襲われたときも…」
「うん…」
どちらもアルフォード父さんが最終的には助けてくれたんだ。だから、こうして俺たちは生きている。
「あと…あの時もごめんね。グレイはあたしやお母さんを守ろうと戦ってくれてたのに…拒絶するようなことしちゃって」
トーラの町が襲われたときのことか……。
「いいよ。気にしないでよ」
「うん…」
そこで会話が途切れてしまった。アルフォード父さんのことを思い出すと胸がチクチクとする。
ソニア姉もそれは同じなのか、胸を押さえている。
「グレイ……あたしはもう誰も失いたくない。大切な人を助けられるようになるために……だから、お母さんと同じ治療魔術士を目指すよ」
「僕も……いや、僕は大切な人を守るために父さんと同じ兵士を目指す」
森の木々の葉に光が反射し、その下に影を落とす。その日、俺たちは約束を交わした。
守るために……救うために、お互い歩む道は異なるけれど、それでも目指す目標は同じ俺たちの約束。
えっと……例の戦いから、早いもんで三週間くらいが経ったよ。
あの後……俺がユンゲルを倒したことで戦争は終結し、オーラル皇国の大敗で幕を閉じた。
オーラル皇国の皇妃とイガーラ王国の国王の間で色々と取り決めがされた結果、オーラル皇国はイガーラ王国の属国となることが決まったらしく、イガーラ王国はその国土を広げることとなった。
まあ、小難しい話は俺にはよく分からない……だから、とりあえず身辺のことについて話しておこうかな。
俺がユンゲルを倒したことは、アリステリア様の計らいで秘匿事項となったよ。変な貴族に目を付けられたら面倒らしいからね。俺も助かったよ……。
壊れたトーラの町の復興も進んでいて、もう直ぐで学舎も再会するらしい。それは嬉しいんだけどさぁ……ノーラとエリリーはもう別の町に引っ越しちゃったからねぇ……少し寂しいかな。
まあでも、これからまだまだ頑張らなくちゃいけないことが沢山あるからね!
例えば、あの戦いの中で使えるようになった筈の無詠唱なんだけど……あれ以来、出来てないんだよねぇーなんでだろー?しかし、一度出来たんだ!絶対出来ると信じて俺は、男の浪漫を追求していく所存だよ!
やっぱり、浪漫は大事だよね!!
「なにやってんの?」
「ん?」
俺が父さんの剣の前で手を合わせている時に、ソニア姉の声が背後からして、振り返ると不思議そうに首を傾げていた。
俺は苦笑いして、何でもないと手振りで答えた。こっちの人たちは遺品に対して、手を合わせたりする風習はない。故に、ちょっと怪訝な眼差しを向けられてもうたん……。
「で、何か用?」
俺は部屋の隅に置いてある剣から目を外して、身体ごとソニア姉に向けた。
ソニア姉は暫く訝しげにジッと見ていたが、直ぐに少しだけ不機嫌そうに言った。
「クーロンさんが訪ねに来てるよ」
ん?クロロが?どうしたんだろう……。
あの戦いの後でクロロやナルクといった義勇軍の主立った面々は事後処理やら恩賞やらの件で追われていた筈だが、何の用だろうと俺は首を捻った。
いや、まあそれも気になるけど……どうしてソニア姉は不機嫌なのだろうか。
「なんか……怒ってる?」
「別に」
「そ、そうですか……」
ふえぇぇぇ……怖いよぉ。
俺は何故か不機嫌なソニア姉を尻目に、訪ねてきたというクロロに会うために玄関まで歩いて行って、開けるとクロロが武装した姿で立っていた。
黒が基調ないつもの武装……刀の柄をキラリと光らせて、クロロが微笑を浮かべて立っていた。その背後にはアルメイサが俺に手を振っており、ワードンマが腕を組んで立っていた。
「久しぶりですね」
「はい。久しぶりです」
クロロに答えるように言った俺は、後手に玄関の扉を閉めて、クロロと向かい合った。クロロの方がずっと背が高いために、俺はクロロの顔を見上げるように視線を向けた。だからだろうか……クロロさんの豊かで豊かな豊かってる……そのぉ〜アングルが豊かにグッショブ!!
(閑話休題)
俺は一つ咳払いしてから口を開いた。
「今日はどうしたんですか?みなさんお揃いで」
後ろの二人にも視線を向けながら言うと、クロロは答えた。
「えぇ。実は……色々と片付いてきたので私達は今日あたりで、この町を出ようかとおもいまして」
「え……?町を出るって……」
「そのままの意味ですよ。私は冒険者……一つの町には止まれませんから」
クロロはそう言っているが、少しだけ名残惜しいような表情をしていた。
どうしたのだろうか。
クロロは視線を俺から外すと、気恥ずかしいたように頬を染めて辺りを見回した。それから誤魔化すように咳払いすると続けた。
「なんだか寂しいものですね……背中を預けた戦友と別れるのは」
「そうですねー」
はたして、そういうものなのだろうか。俺としては……、
「クロロさんと別れるのは寂しいですね」
そう素直に思った。確かに戦友だが、クロロには色々と世話になってるし、戦友ってだけじゃない……俺はクロロに恩返しも出来ていないのに、こうして別れることになるのは残念だと思った。
クロロは俺の言葉を聞くと、少しだけ固まったかと思うとほんのりと頬を朱色に染めて、恥ずかしそうにモジモジとしだした。
なに?トイレ?
「どうかしました?」
俺が問い掛けるとクロロが、「……い、いえ」とだけ言って顔を反らし、続けて言った。
「しかし、本当に残念です。私も冒険者である前に一人の剣士……グレイくんと一度は手合わせしたかったのですが、色々と立て込んでしまいましたからね」
「なるほど……それは確かに残念です。こう見えて、僕は負けず嫌いな性分なんですよ」
はははは〜小心者だけど負けず嫌いなんだよ、僕は。負けず嫌いなのはゲームに限定してなんだけどね!
「ほう……」
クロロも同じ性分なのか、朱色に染まっていたクロロの表情が一変して、不敵な笑みを作っていた。
クロロもその気のようだ。
「では、こうしましょうか。私はこれからまた冒険者として世界を旅します……しかし、八年後にまたここに戻ってくることにします。グレイくん……貴方と戦うために」
腰に帯びた刀の刀身を抜き放ち、切っ先を向けながらクロロは言った。俺もついついと笑みを浮かべながら、手を拳銃の形にして、人差し指をクロロに向けた。
「いいじゃないか。そしたら八年後……俺が大人になってからやろう」
クロロは面白そうに微笑むと、どうしたのか俺を優しく抱擁してきた。それで、本能が薄れて理性が戻り、なんだか恥ずかしいことをしたなぁ……とちょっと後悔……。
「ど、どうしたんですか?」
取り繕うように慌てて口を開いたが、クロロは対して穏やかに言った。
「何故でしょう……やはり離れるのが惜しいと思ってしまいます。本当にどうしてでしょうね」
クロロは俺から離れながら言うと、困ったように笑い、踵を返した。
「では……一時のお別れです。八年後……私をガッカリさせないで下さいね」
「もちろんだ」
あぁ……また、本能が……。
クロロは最後に、俺を一瞥するとそのまま歩いていってしまった。その背中を見送る俺の隣に、ソニア姉は自然に並び声を掛けてきた。
「なんだって?」
「うん……ちょっと会う約束を、ね」
「ふ〜ん……」
ソニア姉はそれ以上は特に何も言わず、晴れやかな晴天の下……空を見上げてソニア姉は言った。
「私さ……治療魔術師を目指すよ」
「ん……?」
突然、そう切り出したソニア姉に俺は困惑した表情を見せた。それからソニア姉は俺の前に躍り出ると、手を後で組んで言った。
「ちょっとさ……森の方に入らない?」
「別にいいけど……」
本当にどうしたのだろうと、俺は首を傾げながらもソニア姉の後を付いて歩いていく。するとソニア姉は鼻歌混じりに穏やかな微笑を浮かべて森を歩き出す。
「どうしたの?随分と機嫌が良さそうだね」
「ん〜懐かしく思ってね。ほら、この森」
言われて俺は辺りを見回す。空の色も落ち葉の数も違うけれど、見たことのある風景が視界に広がっていた。
「あー」
「思い出した?五年前くらいになるのかな…」
ソニア姉は感慨深いように森の中をジッと見つめる。もう……五年にもなるのか……。
「あの時のこと……あたしはまだよく覚えてるよ」
「うん……僕も」
「グレイがあたしを守ろうと前に出てくれたよね?ありがとね」
「な、なに急に…」
ちょっと照れ臭い…しかし……、
「でも、僕たちを助けてくれたのは父さん…」
「そうだね…トーラの町が襲われたときも…」
「うん…」
どちらもアルフォード父さんが最終的には助けてくれたんだ。だから、こうして俺たちは生きている。
「あと…あの時もごめんね。グレイはあたしやお母さんを守ろうと戦ってくれてたのに…拒絶するようなことしちゃって」
トーラの町が襲われたときのことか……。
「いいよ。気にしないでよ」
「うん…」
そこで会話が途切れてしまった。アルフォード父さんのことを思い出すと胸がチクチクとする。
ソニア姉もそれは同じなのか、胸を押さえている。
「グレイ……あたしはもう誰も失いたくない。大切な人を助けられるようになるために……だから、お母さんと同じ治療魔術士を目指すよ」
「僕も……いや、僕は大切な人を守るために父さんと同じ兵士を目指す」
森の木々の葉に光が反射し、その下に影を落とす。その日、俺たちは約束を交わした。
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