一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

八年が経ちまして

 ガラガラと音を立てて進む馬車は、木製の車輪を回して相変わらずガラガラと走っている。走っていると言ったものの、進む速度は人が歩くよりも少し早いといった具合で、特別速くはない。それでも、自分で歩くよりは馬に歩いてもらった方が楽なのは事実だ。
 天蓋の付いた馬車の中は、陽光が差し切らずに、僅かばかり反射した光が暗がりを作る程度の明るさを保っている。

「こちらの方は随分と暖かいですな」

 俺の目の前に座る老人の男性は、長く伸ばした髭に対して何もない頭をしている。
 この老人とは、ここスーリアント大陸の最北端の北極よろしく極寒地域からずっと一緒に馬車を乗り継いできた仲で、もう半年は一緒にいる。だが、俺とこの老人の目的地は違う。

「そうですね。こっちは暖かいですね」

 俺は老人に答えて、ふと馬車から見える御者台の方の小窓から外を眺めた。
 空の具合は晴れ渡る快晴……極寒の空は白一色で、ここらでやっと青空を拝めるようになった。

「貴方の目的地はもうすぐですかな?」
「えぇ……そうですね。もうすぐですね。貴方はまだまだですか?」
「私はまだまだですな。ずっと先ですな」
「そうですか」

 俺と老人の会話は淡白なものだ。いつも、時々口を開いては短く答えるような会話だ。それでも、面倒だとか不快感を覚えたことはない。そういう雰囲気をこの老人は持ち合わせていた。

 ガラガラ……。

 時折、車輪の回る音に続いて馬の蹄がカッパカッパと地面を蹴る音も聞こえ、なんだか長閑な時間だと思った。
 それから暫くして、馬車は小さな村の馬屋で一度止まって、俺と老人も昼食をとるにはいい頃合いだろうという話になって、村の食事処で腰を下ろした。

「そういえば……」

 と、俺は半年もいるのに一番大切なことを忘れていたと今更ながらに気が付き、向かい側の椅子に座る老人に言った。

「まだ名前を知りませんね」
「えぇえぇ……お互い名乗っていませんでしたな」
「直ぐに別れるものだと思っていましたからね」
「そうですな。まさか、ここまで時間を共にするとは思いますまい。貴方の目的地は近い……ここらで自己紹介でも致しますかな?」
「そうしましょうか」

 そう言って、一度咳を切ってから俺が名乗ろうとすると、先に老人が名乗った。

「私はオルメギダ……オルメギダ・テラーノ」
「オルメギダさん。僕はグレーシュ・エフォンスです」

 互いに名乗った俺たちは、運ばれてきたお酒の注がれたジョッキを掲げて、飲み口をぶつけ合うと一口飲んだ。
 はて……どこかでオルメギダという名前を聞いたことがあるような……ないような気がする。しかし、ここ最近は色んなことがありすぎて、昔のことはよく覚えていなかったりする。
 まあ、それはともかく……。

「オルメギダさんは何をしにこちらへ?」

 俺は折角こうして名乗りあったのだからと、今まで踏み込んだことのない会話を切り出してみた。すると、オルメギダさんは何かを懐かしむようにジョッキに両手を重ねるだけで、答えてはくれなかった。逆に、オルメギダさんにこう問われた。

「グレーシュ殿はどうしてですかな?」

 訊かれた俺は肩を竦め、「武者修行の帰りです」と短く答えた。老人は感心したように息を吐くと、口を開いた。

「いいですな。若いですな」

 少し興奮気味だ。もしかしたら、酒の一口で酔ったのかもしれない。それでも面倒だと思わないのだから不思議だ。
 それから俺は、酒の余韻が残る間……老人相手に昔話を始めた。


 ※


 ガラガラ……俺は馬車の揺れる振動で重たい瞼を開けて目を覚ました。目の前には、座り込んで眠る老人が安らかな寝息を立てていた。
 もう随分と一緒にいるが、この老人の寝顔を見るのは初めてのように思う。大体、俺が目を覚ますと老人は……オルメギダさんは起きていた。
 暫く見ていると、馬車が急に止まり御者台から、「着きましたよ」という声が聞こえ、俺は視線を外して御者に向けた。

「着きましたか」

 訊き返すと、御者はただ頷くだけで何も言わなかった。
 着いたか……懐かしい俺の生まれ故郷。随分と長い間離れてしまったが、みんなどうしているだろうか。
 しかし、この老人に何も言わずに降りるのは何だか忍びない。そんな俺の心境に気が付いた御者が、「私が言伝を預かりましょうか?」と気を遣ってくれた。

「そうですね……では、今までありがとうございました、と」
「はい。確かにお伝えします」

 俺は馬車を降りて、御者が馬車を出した後ろ姿を眺めた。

「さて」

 俺は一言つぶやき、馬屋から目的地である俺の故郷の市壁を見上げた。

「やっと帰ってこれたな」

 あまりの懐かしさに逆に何も感動を覚えられないが……まあ、それでもちょっとした楽しみが俺にはあった。
 そして、唐突に昨日の酒屋でほろ酔いしながらオルメギダさんに話した、昔話の片鱗を懐かしむように思い出した。


 ※


 俺は……グレーシュ・エフォンスは子供の時に父親を戦争で失い、義勇軍の兵士として戦争に参加し、戦って、生き残った。それが八歳の頃の話だ。
 それからというもの、俺は強くなるために無詠唱を習得し、剣術、弓術、体術……およそ武術と呼ばれるもの全てを一通り学んだ。
 ただ、強くなるために……しかし、ある時俺の成長は熟練級エキスパートで止まったしまった。
 いわゆるスランプ……いや、プラトーというものだが……その頃には既に剣術の熟練級エキスパートであったギシリス先生と互角に、同じく魔術の熟練級エキスパートであったエドワード先生と互角以上に戦えるようにはなっていた。無詠唱を獲得するまでは、【ブースト】という身体運動補助の固有魔術を使って、互角の戦いが出来るか……というくらいだった。
 この世界の階級としては、熟練級エキスパートの力は大きい。そこから達人……達人級マスターの力を得るのは容易ではない。
 ならば、これが俺の限界ではないだろうか……と半ば諦めかけていた時に、俺に剣術を教えていたギシリス・エーデルバイカ先生から武者修行を勧められた。

「お前には才能がある。だが、ここではその才能を遺憾なく発揮することができる環境がない。お前は必ず達人級マスターとなれる……それだけの器がある」

 どんなに才能があっても、強くなるための環境というのは必要だ。独学での力のつけ方というのは、ある程度までは強くなれる。だが、ある程度・・・・だ。やはり、本物の強者から教えを乞うというのがどうしても必要となる。
 そういう理由で、俺はギシリス先生からとある場所を教えて貰った。
 かつて、俺と同じようにして環境に恵まれず行き詰まっていた人物……今では剣術の達人として『剣聖』などと呼ばれている世界屈指の剣士……ギルダブ・セインバースト。俺の先輩が登ったという山があるという。その山の名を……霊峰『フージ』……おい。
 まあ、地球の日本で生まれた……転生者の俺から言わすと色々と突っ込みたくなるところだが、ここはグッと我慢しておいた。
 ギルダブ先輩が霊峰に登ったのは、当時の俺と同じ十一歳の時だったという。
 しかし、霊峰は恐ろしく遠く……トーラの町から片道半年だ。
 ギルダブ先輩は二年ほど霊峰で修行して帰ってきたため、計三年掛かったという……俺はどうするか悩んだ。
 行くべきか、行かないべきか……このトーラの町を離れるということは今ではたった二人しかいない家族の側を離れることになる。父さんに任された家族と……しかし、葛藤するそんな俺の背中を押してくれたのは他でもない家族だった。

「行って来なさい……貴方には叶えたい夢があるんでしょ?それなら全力で叶えないと!」
「グレイ……私との約束 、ちゃんと守りなさいよ!」

 という具合に、母親と姉から喝を入れられた俺は霊峰に挑みに行った……。
 とまあ、それから……かくかくしかじかで四年ほど霊峰で修行して帰ってきたわけだから……計五年掛けて故郷に帰ってきたことになる。
 当初はこんな予定じゃなかったんだけどなぁ……あるうぇ〜?と、何度か首を捻ったのは何ヶ月前のことだろうか。
 ギルダブ先輩の倍……四年ほど掛かった理由は色々とあるが、それを話すのには物凄い時間と労力を費やすため、控えることにする。

(閑話休題)

 まあ、色々と報告したいことはあるが……俺は十六歳になってこの町に帰ってきたぞ!守りたいもの……守れるくらいに強くなってね。
 俺は久々の故郷の市壁を眺めながら、その門を潜ろうと……そこで門番の兵士に止められてしまった。見た所、軍兵ではなく町の治安維持を担当している警備兵のようだ。こういった、御所の警備と護衛などは警備兵の仕事だ。衛兵とも呼ばれる。

「止まれ」

 そういう警備兵の二人が両サイドから俺を挟んで、目の前を十字に組んだ槍で通行を遮った。
 大人しく立ち止まると、下がるように促されてニ、三歩ほど後ろに下がった。

「何か?」

 どこか不審な点があるかと思いつつ首を傾げて訊くと、門番は真顔で言った。

「通行税を払ってもらう」
「……?」

 通行税?
 そう聞いて、俺は傾げていた首をさらに曲げた。そんな徴税法は俺が暮らしていた時にはなかったと記憶している。

「いつそんな法令が?」
「三年前さ。領主が変わってからな」

 領主が変わって……か。
 元々、トーラの町は隣国のオーラル皇国との最前線の町だった。だが、八年前の戦争終結後にこのイガーラ王国の属国となってからは大した重要拠点ではないのだろう。
 随分と杜撰な領主を着任させたものだな。
 それがルールというのなら、抗うのは得策ではないだろう。仕方ない……。

「おいくらで?」
「あぁ……銀貨五枚だ」
「ぎ……五枚っ!?(日本円にして五千円)」

 たっか!なんじゃそりゃあ!?
 俺は渋い顔をしながらも、懐から金袋を取り出して銀貨五枚を手渡した。

「うむ。通っていいぞ」
「はぁ……」

 なんだかなぁ……久々の帰郷だと言うのにあんまり嬉しくねぇ……。
 門番の人達に通してもらい、五年ぶりとなる故郷の町へと足を踏み入れると俺の目の前に通行税銀貨五枚とは思えないような、活気溢れる町の人々がそこら中に歩いていた。

「……おぉ」

 至る所に行商人……旅人さんやらが忙しなく歩いており、町人達も元気な姿で露店を開いたりしている。思わず、そんな活気に気圧されてしまった。

「すごいなぁ……」

 ポツリと呟いて呆然としていると、「おいそこの兄ちゃん!」と声を掛けられた。チラリと視線を向けると、大荷物を持って歩きにくそうにしている背丈の低い男がいた。男は苦しそうな声で言った。

「ちょっと……手伝ってくんねぇか」
「あ、はい」

 反射的に返事をして、男の荷物を持ってやると苦しくなくなったのかほっと一息吐いた。

「いや〜助かったぜ。とりあえず、そこの荷車に頼むわ」

 言われた通りに荷車へちゃっちゃっと積むと、その後男から酒を一杯奢ってもらった。随分と気前が良い……それにその時立ち寄った酒屋も賑わっているようだ。杜撰な領主と言ったが……どうやら俺の勘違いのようだな。
 みんな幸せそうだ。
 それでも、銀貨五枚はなぁ……高いよなぁ。そう思いながら、テレテレと少しだけ変わりばえした町並みを眺めながら俺は、懐かしさが込み上げてついつい寄り道をしてしまう。
 町に着いたら直ぐに、家族に会いに実家へ帰ろうと思ったが……まあサプライズというのも良いかな。いきなり訪ねたら驚いてくれるだろうか。
 テレテレと町中を歩いていると、気付かない内に人気のない裏道に入ってしまったようだった。微妙に町並みが違うせいか、頭の中にある町の見取り図と誤差があるようだ。
 まあ、それも踏まえて色んなところでも見て回りたいところだ。
 俺が呑気にそんなことを考えながらテレテレしている折に、「きゃあ」などという女性の短い悲鳴が聞こえた。直ぐ近くの路地裏から聞こえたため、テレテレ〜と歩いて向かって見ると、二人の若い女性が五人くらいの屈強な男の人達に囲まれて怯えていた。
 どうしたのだろうと、曲がり角に息を潜めて聞き耳を立ててみる。

「ちくしょう!よくも騙しやがったなクソ女!」
「ひっ」

 男達が女性二人に対して、かなり怒っているご様子……テンプレだと思った?残念でしたぁ!今回は女の人が悪いようだし、素通りしようかな。
 俺はそう考えて立ち去ろうと足を動かすと、女性二人が叫び上げて助けを呼び始めた。苦しいねぇ……だが、男達には効いたらしく慌ててその場から逃げ去った。
 おいおい……お前ら悪くないんじゃないのか?
 気になって、もう一度路地裏に戻って見てみるとさっきの女性二人の叫び声に駆けつけてきた警備兵が十数名ほどいた。
 こっわ……これは逃げるわ。
 俺はさっきの男達に同情しつつ、今度こそ戻ろうと踵を返すと突然、その警備兵の人に呼び止められてしまった。

「おい、待てそこのお前」
「……」

 仕方なく振り返ると、「きっとさっきの人達の仲間です!」なんて女の人が叫んだものだから、警備兵のお兄さん達が目をギラギラさせて俺に視線を向けてきた。

「は?」

 思わず素っ頓狂な声が出てしまうのも無理はないだろう。なぜ?俺は無関係なんですがねぇ……憎々しく女の方に目を向けると二人して警備兵に見えないように薄ら笑いをしていた。
 なるほど……性悪女な訳か。ヤダヤダ、これだから見た目だけは良い女って嫌いなのよねぇ!
 俺が苦虫を噛み潰した顔で女を見ている内に、警備兵の人達がジリジリと間合いを詰めてきていた。
 はぁ……なんでこんなことになってしまったのだろうか。自分の好奇心の所為でこんな目に遭うとはな。
 仕方ない……騙されて捕まるのは癪だ。

「ドロン!」

 そう叫んで俺は、なりふり構わず逃げ出した。


 ※


 警備兵のお兄さん方を撒いてからも、俺は懲りずに町の中を散策した。顔は見られてないしー大丈夫じゃないかなぁ?路地裏……暗かったからね!
 それは置いておいてだ。
 なんだかなぁ……町に着いてから踏んだり蹴ったりな感じだ。賑わってるのに、微妙に治安が悪いし……俺が不運なだけなのだろうか。

「そろそろ……いくか」

 陽が落ち始めた町の道を歩きながら、俺は良い頃合いだろうと思い、実家への帰路に立った。懐かしい帰路は変わりないようで、町外れの森の手前にある木造ハウスが見えてくると俺の鼓動が早まるのを感じた。
 どうでもいいけど……これ、また入る時に金取られるんじゃね?
 とりあえず横に置いておこうか……俺は我が家の戸の前で立ち止まり、少しばかりの間を空けてからコンコンと叩いた。
 暫くして中から声が聞こえ、ゆっくりと戸が開けられた。

「どちらさ……」

 言いかけて、扉を半開きにして固まる美女を見て俺は、一気に嬉しさが爆発した。
 流れる綺麗な金髪は八年前よりもずっと伸びていて、背丈も伸びている。髪と同じ金色の瞳が俺を映し、美しい顔立ちは呆然としているように見える。胸も……成長したんだね……としみじみ思った。
 俺は笑顔を作って、言った。

「ただいま」


 ※


 久々の我が家は相変わらずで、リビングの椅子に座る俺は室内を見回しながら懐かしさに心を踊らさせていた。

「もう……帰ってくるなら手紙くらいくれればよかったのに」

 俺の姉……ソニア・エフォンス(二十二歳)はそう言いながら目の前のテーブルの上にお茶を置いて、向かい側に座った。

「いや〜サプライズ?」
「何がサプライズ?だよ……ね?お母さん」
「そうだね〜」

 俺の向かい側に座るソニア姉の隣に座るのは、俺の母であるラエラ・エフォンスである。ソニア姉の綺麗な金髪や端正な顔立ちはきっとラエラ母さん譲りなのだろう。
 ラエラ母さんは嬉しそうに頷きながら、色々と俺に訊いてきた。

「いつ頃こっちに来たの?」
「今日のお昼頃かな。そういえば、ビックリしたよ!通行税払えなんて言われてさ」

 俺がこっちに着いた時の話をすると、ラエラ母さんとソニア姉が顔を見合わせて頭上にハテナを浮かべた。
 ん?

「それは……」
「騙されたんじゃない?」
「え……」

 どうやらそんな徴税法はないらしい。あのクソ警備兵に騙されたようです。あの野郎……。

「グレイがそういうのに騙されることってあるんだね?前はそんなことなかったんじゃない?」

 ソニア姉に言われて、「確かに……」と頷いた。
 つい半年前までは、戦い尽くしだったからかな……そういったことに関しての注意力が散漫しているのかもしれない。

「まあ……いいか」

 ひとまず、騙されて金を盗られたことは置いておく。折角、家族に再開したというのに気分の落ち込む話をしても仕方がない。

「で、そっちはどうだったの?」

 俺が訊くと、ソニア姉は得意満面な笑みで懐から一枚の手紙を取り出すとテーブルに叩き付けた。

「これを見てみなさい!」
「ん……?」

 テーブルの上に叩きつけられた手紙を見ると、封蝋に王宮の印があった。中身を読むとソニア姉宛に王宮治療魔術師として招待する的なことが書いてあった。

「うおっ」

 すげぇ……王宮から直々に……だと?震えながら手紙からソニア姉に視線を戻すとソニア姉は言った。

「ちょうど半年前にこれが届いたんだ。返事はいつでもいいらしいから、グレイが帰ってくるまで待ってた」
「そうなんだ……どうするの?王都に行くの?」

 王宮治療魔術師となると、それは王都で……王城で働くということだ。そうなると、この町を離れることになる。ソニア姉が、俺が帰ってくるまで返事をしなかったのはそれが理由だろう。
 ソニア姉は少しだけ困ったように笑ってから答えた。

「出来たら……行きたい。きっと、ここじゃ学べないことが学べると思うから。でも、グレイやお母さんと離れるのは寂しいから……」

 ソニア姉は一拍空けてから、続けた。

「その……我儘なお願いだと思うんだけどね?一緒に王都まで来て欲しいなぁ……って」

 上目遣いでチラチラと見てくるソニア姉……俺が断る理由なんてない。俺だって強くなるために離れていたのだから。
 だから、俺はラエラ母さんがなんと言うだろうと視線を向けた。
 黙って聞いていたラエラ母さんは目を伏せつつ、何か納得したように頷いて口を開いた。

「どうしてソニーが直ぐに返事をしなかったのか……やっと分かったよ。私も治療魔術師の端くれだもの。王宮に呼ばれるなんて、貴女を誇らしく思うわ、ソニー」
「お母さん……」

 ウルウルな展開にソニア姉は瞳を潤ませ、俺は傍からその光景を眺めつつ、お茶を啜る。平和だなぁ……ここは。

「ソニーが行きたいのならいいよ。私も一緒にいってあげるわ!」
「ありがとう!お母さん!」

 ガシッと二人は抱き合い、絆を深め合いました。まる。なんだかソニア姉は見ない間に子供っぽくなった気がした。いや、昔からこんなんだった気がする……寂しがり屋で甘えん坊な性格は昔から変わっていないようだ。
 結局、その日の夜は久しぶりに家族三人で、寝室で川の字になって寝ることになった。因みに真ん中はソニア姉で、右端が俺、左端はラエラ母さんとなっている。
 俺が真ん中だったらよかったんだろうけど……まあ、ソニア姉が真ん中がいいというのだから仕方がない。
 就寝前に、リビングの隅に立て掛けられた父親の形見……アルフォード・エフォンスの使っていた剣に手を合わせておく。

 俺は……帰ってきました。父さんみたいな兵士になるために……強くなって。

「何してるのグレイ?」
「……いや、なんでも」
「……?早く寝ようよ。明日は学舎の方に行かなくちゃいけないんでしょ?」

 ソニア姉に言われて、俺は確かにそうだと思い、近況報告もそこそこに、床についた。

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