一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

ブチ切れた

 避けると同時に人形に向けて中級ノーマル雷属性魔術【バインド】を無詠唱で発動し、人形を拘束した。すると、人形は力なく落ちて動かなくなった。
 恐らく、さきほど俺の部屋での現象と同じだろう。なんか、人形を操ってる霊力的な何かがなくなったのだろう。と、そんなことを思っていると今度は足元からワラワラと白い手が生えてきたのでその場から飛び退いた。完全にホラー映画です。本当にありがとうございました。
 ふと、俺は勢いでクロロを抱く形になってしまったことを思い出して今更ながらに興奮した。あーいい匂い……柔らかい、なんだかこのまま抱きしめていたい……ハッ!
 まてまて、よく考えるんだ……今俺が抱きしめているのは睨めばヤクザが裸足で逃げるような鋭い目付きをした剣術の達人『月光』だ!そうだ、クールになるんだ俺……。
 俺は邪な思いを誤魔化すように、クロロに言った。

「あ、あれだな……クロロでも怖いもんが……ある、んだな………………」

 次第に俺の声が小さくなったのは俺に抱きしめられたままクロロが動かなかったからだ。ゆっくりとクロロから離れようとすると、咄嗟に離れまいとクロロが俺の背中に腕を回して離れようとしない。
 なんだこれ……嬉し恥ずかしいイベントのはずだが……クロロの様子がおかしすぎる……これ、デレてるとか怖がってるとか……そういうレベルの話じゃない。
 俺は真剣な顔つきでそっとクロロの首筋に触れ……冷たい汗が湧いて出ていることに今更ながら気がついた。

「お前……」

 俺は全身汗で濡れて、呼吸が微かに荒いクロロに向かってなんというべきか迷って……結局黙った。
 こいつは本気で怯えている……一体なにがクロロをここまで……。
 俺は震えるクロロの肩に手を置いてやってから、それから背中に負ぶってやった。その間、クロロは何も言わなかったが、俺に大人しく負ぶられると体重を預けてきた。
 さすがに鍛えているだけあって女性にしては重い……口に出しては言わないけども。重いといえど、六十か七十くらいでまあ平均的な体重よりか重いくらいだろう。今の成長した俺には特に問題はない。
 むぎゅーっと背中に大きなナニかが押し付けられるが……今はそんなことよりも幽霊だ。このままだとクロロがどうにでもなってしまいそうだ。さっさと幽霊を退治してしまおう……。
 索敵範囲には複数の反応があるが、いくつかはさっきの人形のようなフェイク……本命は屋敷の一階のクロロの部屋からだ。
 ふむ……もしかして、この幽霊に何かされたのだろうか。俺は背中のクロロに視線を向けながら、一階に向けて足を進め始めた。
 俺の部屋は二階……クロロの部屋は一階……階段を下ってクロロの部屋まで到着した俺は索敵スキルで十分に警戒しつつ、クロロの部屋のドアノブを回して中へ入った。


 ※


「……?」

 中へ入って、俺は首を傾げた。
 この屋敷の部屋の作りは全て同じの筈……それなのに、このクロロの部屋だった・・・場所はあまりにも異質過ぎた。
 ドアノブを回して入った先には、ただただ真っ暗な世界が広がっていた。試しに足を踏み入れると、床のようなものに触れた気がした。一応、この空間の中を歩くことが出来るらしい。俺はクロロを背負ったまま、この異質な空間に足を踏み入れた。
 テレテレと歩きながら、そういえば幽霊はその力で自分の世界を作ったりとかする話をよく聞くなぁと俺は前世の記憶から思い出した。この奇妙な空間も幽霊の力なのだろうか。もちろん、そんな疑問に答えるようなものはいない。
 暫く歩いていると、不意に目の前にこの空間とは対称的な真っ白な丸いテーブルと椅子が二脚置かれていた……。
 その内の一脚には既に誰かが座っている。クロロのような闇色の髪をしていることから夜髪コクヤ種であろう少女だ。
 髪は肩口で切り揃えられ、前髪も目の上できっちり揃えられている。クロロとは正反対で優しげな眼差し……それを顔に微笑みを浮かべて俺に……いや、俺に背負わせているクロロに向けていた。
 その少女は徐に立ち上がると、口を開いた。

「オネエチャン」
「っ!!」

 その声にクロロが肩をピクリと揺らし、プルプルと怯えるように震えだす。そんなクロロの耳と目を……俺は無詠唱で発動した【イビル】の黒い手で覆った。
 この少女をクロロに見せてはいけない……本能的に俺の脳内にそう警報がなったのだ。
 俺は少女を見据えて、暫く黙りこくっていると少女の姿がブレて……ふと、俺の表情を驚愕させた。
 少女の姿がブレたかと思うと、懐かしい姿が……俺の父さん・・・がそこに立っていた。アルフォード・エフォンス……俺が兵士を目指す切っ掛けになった人……。
 俺が驚きのあまり声も出せずにいると、父さんが口を開いていった。

「グレイ……オマエガオレヲコロシタ」
「……」

 そう片言に言った。
 その瞬間、俺の中でドス黒い何かが爆発し、クロロを背負ったまま瞬きの間に父さんの姿をしたそれ・・に肉迫すると同時に、その首を手刀でもって捥いだ。
 その瞬間、父さんの偽物は風に攫われるようにして消えた。だが、霊の気配は感じる。
 俺はその霊に向けて言った。

「お前……死んでるから死なないとか思ってないだろうな?俺の父さんを愚弄したお前を俺は許さない。

 お前、生きていられると思うなよ?」

 もうこの殺意……怒りは自分の理性では抑えられない。
 殺す……霊がなんだ?死んでもこの現世にいることを後悔させてやる……殺してやる。その魂ごと消滅させる。

 逃げれると思うなよ?

 俺は確かな殺意を霊に向けた。その瞬間に異質な空間が砕けるように壊れると、元のクロロの部屋が現れる。と、その部屋の中央で小さな女の子がビクビクと震え、怯えた目で俺を見ている。
 俺はその女の子に手を伸ばし……。

「シャー!!」

 そこに女の子を守るようにしてバイオキャットのユーリが飛び込んできた。
 邪魔だな……。
 まず先にユーリを排除しよう。

『じゃあこの子の名前はユーリ!決めた!決定!!』

 その瞬間フラッシュバックした記憶に、俺の理性が戻ってきた。

「うおっ!?」

 咄嗟に手を引っ込めて、俺はユーリから離れた。
 あぶねぇ……理性が飛んでた。くっそ……コントロール出来てると思ったんだけどなぁ……頭に血が上ってブチ切れるともう……アカンアカン。
 俺が頭を振ると、元の俺になったのを見てユーリが女の子からゆっくりと離れていった。その姿に感謝しつつ、俺は女の子を見据えた。
 まだ怯えたように俺を見ている……ご、ごめんよ?そんなに怯えないでおくれ……。

「えっと、君は幽霊なんだよね?」

 コクコクと頷く幽霊ちゃん、俺はどうしようかと思案して、幽霊ちゃんに言った。

「実は僕、君をバスターしに来たんだけど……ほら、現世は色々と危ないからさっさと成仏した方が……いいよ?」

 すると、さっきのことを思い出したのか幽霊ちゃんが「ひぃ!?」と声を上げた。だから、そんなに怯えないで欲しい。小心者の俺としては、むしろ俺が怯える立場である。
 だが、女の子は成仏したくないのか怯えながらも首を振ってくる。
 何か理由があるようだ。聞きたかないけど……。

「うーん……まあ、別にいいけど。もうイタズラしちゃダメだよ?いい?」

 再びコクコク頷く女の子に俺は満足し、とりあえずクロロの部屋から出た。
 すると、辺りが明るくなっていた。
 ん?あれか……さっきの空間は時間の進みがかなり早くなるようだ……。

 夜が明けちゃった……。


 ※


 ソニア姉達は疲れて眠っているようで暫く起きてこなさそう……クロロも同じく。
 俺はとりあえず自主練でもするかと、屋敷の外に出て錬成した剣を持って素振りをしている。そこへさっきの幽霊ちゃんがユラユラとやって来た。

「どうしたの?」

 俺が素振りをしながら訊くと、幽霊ちゃんがぼそぼそっと言った。

「あの……わ、わたちのこと怖く……ないの?」

 わたち……?俺は珍しい自称だなぁと思いながら頷いた。

「め、珍しい……ね。お兄ちゃん」
「ん?今なんて?」
「お兄ちゃん……?」

 俺はなんでこんな子をバスターしようとしたのだろう……俺は爽やかな汗と笑顔を浮かべて女の子に近寄った。

「君、名前は?お兄ちゃんに教えてみな?」

 俺が優しく言うと、幽霊ちゃんはオドオドしながらも答えた。

「わ、わたち……シェーレ……」
「そっか、シェーレちゃんか。僕のことはお兄ちゃんって呼ぶんだよー?さて、それじゃあシェーレちゃんがどうして成仏したくないのか聞こうじゃないか」

 さっきはそんな回想シーンとか入られても困るわーという感じで詳しく聞かなかった。というか面倒ごとには関わり合いたくなかった。だって、この子からはあのヨリトと同じような感じがするんだもの……絶対に面倒なことを抱えているタイプ。これ間違いない。
 だが、それはさっきまでの話……俺は赤の他人の事情に首は突っ込まないし突っ込みたくないが、身内は別である。
 身内には甘えるし、甘えさせるのが俺の流儀でありモットー……同じこと言ってね?まあいいや……。とにかく、俺のことをお兄ちゃんと呼ぶこの天使はもう僕の義妹です。決めた!決定!!
 というか、あれだな……よく見るとシェーレちゃんは可愛い容姿をしている。愛らしいというのだろうか。
 何かと知り合いに年上ばかりな俺は、あまり年下と親しくする機会がなかったのでそういうに飢えているのかも。
 シェーレちゃんは白い髪に白いワンピースを着ていて、しかも体も白く発光していてとにかく白い。ちなみに、足はあるが微妙に透けている。
 髪は長く、腰まではあるがちっちゃな子供なので身体との比率的に長いなと感じるくらいである。その身長だが、俺のお腹くらいしかない……百四十とかそんくらいだろうか。カワイイ……ペロペロしたい。

(閑話休題)

 俺がハアハアしていた所為でまた怖がらせてしまった。とりあえず反省した俺は、屋敷の空いてる部屋にシェーレちゃんを招いて話を聞くために椅子に腰かけた。ちなみに、シェーレちゃんはベッドに腰掛けている。なんだろう……この状況は。

「よし……とりあえず色々と訊きたいんだけど……いいかい?」

 俺が努めて柔らかく問い掛けると、シェーレちゃんはコクリと頷いた。
 そうだな……まずは、

「じゃあ、なんでこんなイタズラをしているの?あんまり良い趣味じゃないと思うよ」

 俺が言うと、シェーレちゃんは少し泣き出しそうになったが意外にも素直に頭を下げてきた。

「ご、ごめん……なさい。わ、わたち……このお家に住んで、て……それ、で……わたち……の居場所を……取られるかと……思って。嫌がらせ……した」
「そっかー……ちなみに、今とは姿が違ったけど?」
「う、ん…………わたち、その人が心の底から……怖いと思っているもの……とか、大切にしているもの……感じるから。最初はお人形で……怖がらせようと……した、けど……お兄ちゃんと……あの黒いお姉ちゃんは、全然……怖がらなかったから……それで、心を覗いて……変身した、の」

 なるほど……ソニア姉達は人形だけで怖がってたしな。でも、俺やクロロには通用しなかったから、別の方法を……ってわけか。
 それにしても、クロロの怖いものがあの少女ってことか?どういうことなんだ?いや、大切なもの……人なのか……。
 まあ、どちらにせよ本人が言いたくないなら……。

「よしっ、じゃあ本題だけど……どうして成仏したくないのかな?」

 俺が訊くと、シェーレちゃんは言った。

「わたち……家族、待ってるの。お母さん……お父さん……みんな、帰って……来ない」

 それを聞いた俺は、どうすることも出来ないことを悟った。だから、ただ悲しくなってシェーレちゃんを抱き寄せた。

「……え?」

 シェーレちゃんは驚いたように目をパチクリしているが気にしない。

「ど、どうし……て?触れる……の?」
「魔法の力だよ」

 俺は魔力で闇の元素を作り、シェーレちゃんに間接的に干渉している。
 霊体であるシェーレちゃんには直接触れたり、ダメージは与えられない……が、元素の特性で実は霊体であるシェーレちゃんに触れることが出来るのだ。
 闇の元素の特性は干渉、誘い……闇の力でこの世あらざる者が相手でも触れられる。しかも、光の元素の拒絶の特性とは違う、無効化の特性を持つ。その名の通り、なんかの力を無効化する。
 例えば、上級ハード闇属性魔術【アンチスペル】など……俺の【ディスペル】と違って列記とした対抗魔術だ。まあ、ディスペルマジックなるものがないのは以前に話したと思うが、この対抗魔術なるものは対象に効果を及ぼす……例えば【スリープ】や【バインド】などを解除する魔術であり、別にディスペルマジックでも何でもない。
 そんなわけで、俺はその特性を使ってシェーレちゃんを抱きしめている。魔法の力というのも強ち間違ってはいないだろう?
 暫くそうやって抱きしめていると。シェーレちゃんが俺の背中に腕を回し……たが、それは俺を通り抜けてしまった。

「わた、ちからは……ダメなんだ……ね」
「ごめん……さて」

 俺はゆっくりとシェーレちゃんから離れると、立ち上がってシェーレちゃんの手を握った。そんな俺のことをシェーレちゃんは首を傾げて見上げている。

「そろそろみんなも起きるだろうから、シェーレのことを紹介しないと。ちゃんと、みんなにごめんなさいするんだよ?」

 俺が笑顔で言ってやると、シェーレちゃんはブンブン首を縦に振った。ふむ……なんか怖がられてる?

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