一兵士では終わらない異世界ライフ
復活
※
戦闘モードのバージョンが上がった。vol.2の追加要素が三人称視点の画面に表示され、より詳細な情報が広がっている。
敵の位置や情報、環境、時間、気温、湿度、風向き、風速……周囲百メートルほどの全情報が俺の視界に映し出され、敵の行動パターンなどの詳細な情報も先ほどの戦闘で得たものが適用されていた。
もちろん、バージョンアップで追加されたのは画面上の情報量だけではない。バージョンアップといえば新武器とか、その他諸々!!俺の身体を動かしていたゲームコントローラー的な何かにも変化がある。感度が上がってるとか、そんなみみっちい違いじゃない。基本的なソフトのスペックが向上しているのだ。
俺自身……ハードのスペックに比べ、今までの戦闘モードのスペックは遥かに劣っていた……なにせ、八年前の身体……八年前のハードの時から同じなのだ。
だが、今はソフトもハードもバージョンが重なり動きが非常にスムーズだ。これが戦闘モードvol.2……俺の身体能力の限界を引き出す……平たく言うと、集中力を極限まで高めて本気出す……ってことだ。
今の俺は……獣人族の身体能力すら凌駕し、物理限界を……超越する!!
「フッ!」
俺は対峙していたベルリガウスに向かって一歩踏み込み、刹那の間に間合いを詰めた。だが、さすが電撃を操る男……俺の動きに反応したベルリガウスはニヤリと笑って剣を振るう。
それを前もって予知していた俺は、ベルリガウスの右腕と左腕に対してありとあらゆる拘束系統の魔術を別々の場所に、同時に発動した。
「なっ……別々の場所に同時発動だとぉ!?」
魔術の同時発動……別に出来ないことではない。ただし、人間に一つしかない魔力制御器官である魔力保有領域では、同時発動時の並列処理がとんでもなく大変なのだ。
同時に発動する技術を【マルチー】とか、ハンバーグに似た名前をしている。そして、魔術を別の場所に発動する技術を【ロケイティング】という……これは例えば初級火属性魔術【ファイア】などは己の手に魔力を集中させて火の玉を放出する。【ロケイティング】は、それを己の手からではなく相手の背後や頭上か、出現させる高等テクニックだ。
この【マルチー】を継続的に魔力制御を行う拘束系統の魔術で、しかも【ロケイティング】という高等技術を使って使用する難易度は、馬鹿に出来ない。
さすがのベルリガウスも、ほぼ全属性の拘束を受けては一瞬の間に破るのは難しいらしく、ゆったり流れる時の中で慌てた様子をしていた。
俺は空かさず、【ディスペル】を発動してベルリガウスの力を削ぎ……そして確実な致命傷を与えるために心臓に剣を突き立てた。
だが、雷の力がなくともベルリガウスは魔剣士……剣の腕も一流だった。巧みな体捌きで、腕を拘束されながらも俺の剣を避け、さらに【ディスペル】の影響を受けていないかのように雷の力で拘束を破ると、俺から距離を取った。
「ちぃ……【マルチー】に【ロケイティング】かぁ……デタラメなことしやがってぇ。おめぇ、そういう小細工が得意なようだなぁ?」
ベルリガウスは言って、四肢からビリビリと電撃を迸らせる。なるほど、一度【ディスペル】を受けているから対処法を見つけたようだ。ふむ……。次は、斜め左上からの振り下ろしに続いて……雷速の三連突き……ついに攻撃に雷を使ってくるか……。
俺は次の行動を読み、ベルリガウスの動きを封じに掛かる。
ベルリガウスはザンっと俺に接近して間合いに入れると、予想通りに斜め左上から剣を振り下ろしてくる。
それを避けると、目にも止まらぬ速さの突きが三回放たれた。が、これも全て俺は避けた。来る場所がわかっているなら……後はタイミングだけ合わせればいいのだ。
「くっ……」
そう、どれだけ早かろうが関係はない。
俺は避けたのちに剣を振るうのだが、その時にはベルリガウスは雷の速さで間合いから逃れており、後退していた。
後出し……本当に厄介だ。やはり、ベルリガウスの動きを封じる必要がある。
【マルチー】は高等技術だが、同時に魔力消費も激しくなる……お陰で三人称視点に映る自分の魔力量のゲージは正直心もとない。
だが、ここでやらなければどちらにせよ……俺がやられるのだ。こんな自然の脅威そのものみたいなのを野放ししておけば、ソニア姉やラエラ母さんに危険が及ぶ……。
そうなる前に、全力で俺はこの男を殺す!
ブチッと何かが切れ、俺は後退したベルリガウスに対して【ロケイティング】からの【マルチー】で再び拘束系統の魔術をベルリガウスに掛ける。
「効くかぁ!!」
ベルリガウスは吠えて、両手の剣を広げて回転して全てを断ち切る。
俺は間髪いれずにベルリガウスに接近し、ビリビリと放電しているベルリガウスの肩を掴んだ。これに驚いたような表情をしたベルリガウスだが、直ぐに反応して剣を振るう。
しかし、それよりも速く俺が必殺の一撃を繰り出せた。
「喰らえ……【必殺バリス】!」
残った魔力を叩き込み、新生【バリス】を発動した。だが、それは弓ではない……俺がベルリガウスの肩を掴んでいる左手とは反対の右手に握られた剣による【バリス】!
光よりも速く、最速の突きが矢のようにベルリガウスの急所へと吸い込まれていく。もしも、【ブースト】で身体を作り変え、その上で魔力で身体の動きを保護していなければ、全身の筋肉が断裂して、過負荷で死んでいたかもしれない……それが物理限界を超え、音速や光速を超えた新生【バリス】……。
光よりも速いが故に、目には見えず捉えることは不可能……音よりも速く大気を駆け抜けるが故に、音はしない。
大気は物質が通ったことすら気が付かず、衝撃を吸収することはない。
故に必殺!
俺の放った突きがベルリガウスの心臓を抉ると同時に、全てのエネルギーがベルリガウスの中で弾け、その身を爆散させた。
俺は放ち終えた後に、完全に肩が壊れたのを感じたが魔力の残量がほんの少ししかなかったので我慢した。
ベルリガウスの気配は……と、ベルリガウスの亡骸に目を向けようとして違和感を覚えた。
「待てよ……?」
さっきベルリガウスが爆散した時……俺は奴の血肉を浴びていない!
まさか……。
咄嗟の判断でその場から飛び退くと、突然巨大な気配が俺の頭上からまるで落雷のように落ちてきて、辺り一帯に電撃が走った。
「ぐっ……」
魔力枯渇に近い状態の俺は魔力保有領域での魔力制御すら困難となり、【ブースト】が強制解除された。そのため、一帯に走った電撃を少しだけ受け、その場で膝をついてしまった。
くそっ……まさかあれで決められなかった……のか?
落雷の中心点を注意深く見ていると、そこには全身帯電したベルリガウスの姿があった。
嘘……だろ?
その場で絶句した俺は魔力量の急激な低下に伴い、その場に崩れた俺は集中も切れて視点が一人称へと戻ってしまった。
「くっ……やべぇ」
もはや、最後の切り札中の切り札を切らないといけなくなってきた。しかし、その手札を切るとここら一帯を危険に曝すことになる……ソニア姉とラエラ母さん達が住む王都は直ぐそこなのだ。とても、切れる手札ではなかった。
まずい……て、手詰まりだ……。
ベルリガウスはビリビリと放電しながら、俺に視線を向けると拍手を送ってきた。
「いやいやぁ……驚いたぁ。この俺様を一度とはいえ殺すとはなぁ。おめぇ、本当に人間かぁ?」
「ころ……した……?お前、何を……」
俺は地面に伏しながらもそう訊いた。ベルリガウスはケタケタと笑うと、愉快そうに答える。
「俺様は雷なんだよぉ……伝説級ってーのはなぁ、自然を超越した存在……自然そのもの!
俺様は昔から、雷属性との相性がよくてなぁ……ククク、人をいたぶるのにこんなに素晴らしい力はねぇ!って、ずぅーっと鍛えてきた結果……こんなんになったんだぁ。
おめぇ、知ってるかぁ?人間ってぇ、電撃を浴びるとビクンビクン痙攣してよぉ……しかも、しょんべんまで漏らしやがんだよぉ……ククク」
ベルリガウス・ペンタギュラス……俺の目に映る伝説の男は、狂気を渦巻いていた。異常者、狂人……ことごとくそのような言葉が似合う男が俺の目にはっきりと映っている。
「さぁて……一度でも俺様を殺したおめぇ……グレーシュに免じ、俺様の電撃で殺してやるぅ……ククク。結構、楽しめたぜぇ?」
そう言って、ベルリガウスは手のひらを俺に向けると同時に電撃を放った。それは雷属性の魔術なんかじゃ比にならない、まさに落雷に等しい圧倒的エネルギーを持った一撃……直撃は必須、確実な死……。
だが、俺の予想に反して目の前で起こった事象は全く異なっていた。俺の目の前で起こったこと……それは、電撃を己の剣圧のみで吹き飛ばしたクロロの姿……、
「やはり……黙って見ているのは性に合いませんから。私は、グレイくんの戦友……そうですよね?」
小さな笑みを浮かべ、俺に告げたクロロは鞘と刀を両手に握り、瞳に月光色の光を帯びてベルリガウスに対峙した。
「はーはん……?おめぇ……ククク。まさか『月光』かぁ?ククク……クククククク。嬉しいぃじゃないかぁ……えぇ?メインディシュのご登場とはよぉ?」
「メインディシュ?何の話か分かりませんが……ゆっくりと食事を楽しんでいる暇は与えません。その間に、私が貴方を八つ裂きにしてみせます」
クロロが刀身の切っ先をベルリガウスへ向けると、ベルリガウスはわざとらしく戯けたフリをした。
「おぉ……怖い怖いぃ。だが、そのくらいの威勢がなくては困るぅ。せめて、グレーシュ以上に楽しませてくれねぇと、メインディシュとしては見劣りしちまうぜぇ?」
「残念ながら、私一人ではグレイくんほどは……ご期待に沿えなさそうです」
「はーはん?」
ベルリガウスはどこか含みのあるクロロの言い方に眉根を吊り上げ、そしてクロロの両隣に現れた人物により一層眉間のシワを濃くさせた。
「今度こそ……あんたを倒す!」
「私だって……まだ戦えるんだから!」
俺は現れた二人の人物を見て、震えた。
「ノーラ……エリリー……お前ら」
俺の声が聞こえたのか、ノーラとエリリー同時に振り返ると少し嬉しそうに言った。
「もう!シャンとしてよグレイ!」
「ありがとうグレイ!おかげで助かった……だから、今度は私達の番!」
「ウチらもグレイに成長したところを見せつけちゃうよ!」
ノーラとエリリーはそう言って、剣を構える。
そんな二人の後ろ姿を見つめながらふと、俺はノーラとエリリーが復活している理由に疑問符が浮かんだ。地面の冷たさを感じながらも思考を巡らせてみると、不意に誰かが俺を抱き起こした。
視線を巡らせると、俺を抱き起こしたのは懺悔室の神官様ことフォセリオ・ライトエル……セリーだった。
「な、なんで……セリーが……ここに?」
「貴方……ついにさん付けもなくなったわね……まあ、いいけれど。【ヒール】【マジックヒール】【ヒーリアス】【エクストラヒール】」
セリーの超絶連続治療魔術が炸裂し、俺の傷が一瞬で……、
「治らねぇのかよ……」
「そんなに世の中甘くないわよ。グレイの傷はかなり深いから……疲労とか魔力枯渇もついでに解消しているから時間はそこそこ掛かるわよ?」
「あと、どれくらいなんだ?」
「数分かしらね……」
チラリとベルリガウスに対峙している三人へ目を向ける。
「あいつらは……」
「大丈夫……任せてなさいよ。『月光』だっているのだから。貴方はまず回復に専念なさい。今の貴方にできることはそれだけよ」
その後に続けて、セリーがここにいる理由は神官として傷付いた人々の手当てに来ていたらしい。
「よし……なるだけ早くしてくれ」
「分かってるわよ……」
「あくしろよ」
「ちょっと黙ってくれないかしら?」
そう言われても気持ちが早る。
早くしてくれ……頼む……。今の俺には願うことしか叶わない……どうして俺はこんなにも無力なんだ?
それを再び痛感した。
戦闘モードのバージョンが上がった。vol.2の追加要素が三人称視点の画面に表示され、より詳細な情報が広がっている。
敵の位置や情報、環境、時間、気温、湿度、風向き、風速……周囲百メートルほどの全情報が俺の視界に映し出され、敵の行動パターンなどの詳細な情報も先ほどの戦闘で得たものが適用されていた。
もちろん、バージョンアップで追加されたのは画面上の情報量だけではない。バージョンアップといえば新武器とか、その他諸々!!俺の身体を動かしていたゲームコントローラー的な何かにも変化がある。感度が上がってるとか、そんなみみっちい違いじゃない。基本的なソフトのスペックが向上しているのだ。
俺自身……ハードのスペックに比べ、今までの戦闘モードのスペックは遥かに劣っていた……なにせ、八年前の身体……八年前のハードの時から同じなのだ。
だが、今はソフトもハードもバージョンが重なり動きが非常にスムーズだ。これが戦闘モードvol.2……俺の身体能力の限界を引き出す……平たく言うと、集中力を極限まで高めて本気出す……ってことだ。
今の俺は……獣人族の身体能力すら凌駕し、物理限界を……超越する!!
「フッ!」
俺は対峙していたベルリガウスに向かって一歩踏み込み、刹那の間に間合いを詰めた。だが、さすが電撃を操る男……俺の動きに反応したベルリガウスはニヤリと笑って剣を振るう。
それを前もって予知していた俺は、ベルリガウスの右腕と左腕に対してありとあらゆる拘束系統の魔術を別々の場所に、同時に発動した。
「なっ……別々の場所に同時発動だとぉ!?」
魔術の同時発動……別に出来ないことではない。ただし、人間に一つしかない魔力制御器官である魔力保有領域では、同時発動時の並列処理がとんでもなく大変なのだ。
同時に発動する技術を【マルチー】とか、ハンバーグに似た名前をしている。そして、魔術を別の場所に発動する技術を【ロケイティング】という……これは例えば初級火属性魔術【ファイア】などは己の手に魔力を集中させて火の玉を放出する。【ロケイティング】は、それを己の手からではなく相手の背後や頭上か、出現させる高等テクニックだ。
この【マルチー】を継続的に魔力制御を行う拘束系統の魔術で、しかも【ロケイティング】という高等技術を使って使用する難易度は、馬鹿に出来ない。
さすがのベルリガウスも、ほぼ全属性の拘束を受けては一瞬の間に破るのは難しいらしく、ゆったり流れる時の中で慌てた様子をしていた。
俺は空かさず、【ディスペル】を発動してベルリガウスの力を削ぎ……そして確実な致命傷を与えるために心臓に剣を突き立てた。
だが、雷の力がなくともベルリガウスは魔剣士……剣の腕も一流だった。巧みな体捌きで、腕を拘束されながらも俺の剣を避け、さらに【ディスペル】の影響を受けていないかのように雷の力で拘束を破ると、俺から距離を取った。
「ちぃ……【マルチー】に【ロケイティング】かぁ……デタラメなことしやがってぇ。おめぇ、そういう小細工が得意なようだなぁ?」
ベルリガウスは言って、四肢からビリビリと電撃を迸らせる。なるほど、一度【ディスペル】を受けているから対処法を見つけたようだ。ふむ……。次は、斜め左上からの振り下ろしに続いて……雷速の三連突き……ついに攻撃に雷を使ってくるか……。
俺は次の行動を読み、ベルリガウスの動きを封じに掛かる。
ベルリガウスはザンっと俺に接近して間合いに入れると、予想通りに斜め左上から剣を振り下ろしてくる。
それを避けると、目にも止まらぬ速さの突きが三回放たれた。が、これも全て俺は避けた。来る場所がわかっているなら……後はタイミングだけ合わせればいいのだ。
「くっ……」
そう、どれだけ早かろうが関係はない。
俺は避けたのちに剣を振るうのだが、その時にはベルリガウスは雷の速さで間合いから逃れており、後退していた。
後出し……本当に厄介だ。やはり、ベルリガウスの動きを封じる必要がある。
【マルチー】は高等技術だが、同時に魔力消費も激しくなる……お陰で三人称視点に映る自分の魔力量のゲージは正直心もとない。
だが、ここでやらなければどちらにせよ……俺がやられるのだ。こんな自然の脅威そのものみたいなのを野放ししておけば、ソニア姉やラエラ母さんに危険が及ぶ……。
そうなる前に、全力で俺はこの男を殺す!
ブチッと何かが切れ、俺は後退したベルリガウスに対して【ロケイティング】からの【マルチー】で再び拘束系統の魔術をベルリガウスに掛ける。
「効くかぁ!!」
ベルリガウスは吠えて、両手の剣を広げて回転して全てを断ち切る。
俺は間髪いれずにベルリガウスに接近し、ビリビリと放電しているベルリガウスの肩を掴んだ。これに驚いたような表情をしたベルリガウスだが、直ぐに反応して剣を振るう。
しかし、それよりも速く俺が必殺の一撃を繰り出せた。
「喰らえ……【必殺バリス】!」
残った魔力を叩き込み、新生【バリス】を発動した。だが、それは弓ではない……俺がベルリガウスの肩を掴んでいる左手とは反対の右手に握られた剣による【バリス】!
光よりも速く、最速の突きが矢のようにベルリガウスの急所へと吸い込まれていく。もしも、【ブースト】で身体を作り変え、その上で魔力で身体の動きを保護していなければ、全身の筋肉が断裂して、過負荷で死んでいたかもしれない……それが物理限界を超え、音速や光速を超えた新生【バリス】……。
光よりも速いが故に、目には見えず捉えることは不可能……音よりも速く大気を駆け抜けるが故に、音はしない。
大気は物質が通ったことすら気が付かず、衝撃を吸収することはない。
故に必殺!
俺の放った突きがベルリガウスの心臓を抉ると同時に、全てのエネルギーがベルリガウスの中で弾け、その身を爆散させた。
俺は放ち終えた後に、完全に肩が壊れたのを感じたが魔力の残量がほんの少ししかなかったので我慢した。
ベルリガウスの気配は……と、ベルリガウスの亡骸に目を向けようとして違和感を覚えた。
「待てよ……?」
さっきベルリガウスが爆散した時……俺は奴の血肉を浴びていない!
まさか……。
咄嗟の判断でその場から飛び退くと、突然巨大な気配が俺の頭上からまるで落雷のように落ちてきて、辺り一帯に電撃が走った。
「ぐっ……」
魔力枯渇に近い状態の俺は魔力保有領域での魔力制御すら困難となり、【ブースト】が強制解除された。そのため、一帯に走った電撃を少しだけ受け、その場で膝をついてしまった。
くそっ……まさかあれで決められなかった……のか?
落雷の中心点を注意深く見ていると、そこには全身帯電したベルリガウスの姿があった。
嘘……だろ?
その場で絶句した俺は魔力量の急激な低下に伴い、その場に崩れた俺は集中も切れて視点が一人称へと戻ってしまった。
「くっ……やべぇ」
もはや、最後の切り札中の切り札を切らないといけなくなってきた。しかし、その手札を切るとここら一帯を危険に曝すことになる……ソニア姉とラエラ母さん達が住む王都は直ぐそこなのだ。とても、切れる手札ではなかった。
まずい……て、手詰まりだ……。
ベルリガウスはビリビリと放電しながら、俺に視線を向けると拍手を送ってきた。
「いやいやぁ……驚いたぁ。この俺様を一度とはいえ殺すとはなぁ。おめぇ、本当に人間かぁ?」
「ころ……した……?お前、何を……」
俺は地面に伏しながらもそう訊いた。ベルリガウスはケタケタと笑うと、愉快そうに答える。
「俺様は雷なんだよぉ……伝説級ってーのはなぁ、自然を超越した存在……自然そのもの!
俺様は昔から、雷属性との相性がよくてなぁ……ククク、人をいたぶるのにこんなに素晴らしい力はねぇ!って、ずぅーっと鍛えてきた結果……こんなんになったんだぁ。
おめぇ、知ってるかぁ?人間ってぇ、電撃を浴びるとビクンビクン痙攣してよぉ……しかも、しょんべんまで漏らしやがんだよぉ……ククク」
ベルリガウス・ペンタギュラス……俺の目に映る伝説の男は、狂気を渦巻いていた。異常者、狂人……ことごとくそのような言葉が似合う男が俺の目にはっきりと映っている。
「さぁて……一度でも俺様を殺したおめぇ……グレーシュに免じ、俺様の電撃で殺してやるぅ……ククク。結構、楽しめたぜぇ?」
そう言って、ベルリガウスは手のひらを俺に向けると同時に電撃を放った。それは雷属性の魔術なんかじゃ比にならない、まさに落雷に等しい圧倒的エネルギーを持った一撃……直撃は必須、確実な死……。
だが、俺の予想に反して目の前で起こった事象は全く異なっていた。俺の目の前で起こったこと……それは、電撃を己の剣圧のみで吹き飛ばしたクロロの姿……、
「やはり……黙って見ているのは性に合いませんから。私は、グレイくんの戦友……そうですよね?」
小さな笑みを浮かべ、俺に告げたクロロは鞘と刀を両手に握り、瞳に月光色の光を帯びてベルリガウスに対峙した。
「はーはん……?おめぇ……ククク。まさか『月光』かぁ?ククク……クククククク。嬉しいぃじゃないかぁ……えぇ?メインディシュのご登場とはよぉ?」
「メインディシュ?何の話か分かりませんが……ゆっくりと食事を楽しんでいる暇は与えません。その間に、私が貴方を八つ裂きにしてみせます」
クロロが刀身の切っ先をベルリガウスへ向けると、ベルリガウスはわざとらしく戯けたフリをした。
「おぉ……怖い怖いぃ。だが、そのくらいの威勢がなくては困るぅ。せめて、グレーシュ以上に楽しませてくれねぇと、メインディシュとしては見劣りしちまうぜぇ?」
「残念ながら、私一人ではグレイくんほどは……ご期待に沿えなさそうです」
「はーはん?」
ベルリガウスはどこか含みのあるクロロの言い方に眉根を吊り上げ、そしてクロロの両隣に現れた人物により一層眉間のシワを濃くさせた。
「今度こそ……あんたを倒す!」
「私だって……まだ戦えるんだから!」
俺は現れた二人の人物を見て、震えた。
「ノーラ……エリリー……お前ら」
俺の声が聞こえたのか、ノーラとエリリー同時に振り返ると少し嬉しそうに言った。
「もう!シャンとしてよグレイ!」
「ありがとうグレイ!おかげで助かった……だから、今度は私達の番!」
「ウチらもグレイに成長したところを見せつけちゃうよ!」
ノーラとエリリーはそう言って、剣を構える。
そんな二人の後ろ姿を見つめながらふと、俺はノーラとエリリーが復活している理由に疑問符が浮かんだ。地面の冷たさを感じながらも思考を巡らせてみると、不意に誰かが俺を抱き起こした。
視線を巡らせると、俺を抱き起こしたのは懺悔室の神官様ことフォセリオ・ライトエル……セリーだった。
「な、なんで……セリーが……ここに?」
「貴方……ついにさん付けもなくなったわね……まあ、いいけれど。【ヒール】【マジックヒール】【ヒーリアス】【エクストラヒール】」
セリーの超絶連続治療魔術が炸裂し、俺の傷が一瞬で……、
「治らねぇのかよ……」
「そんなに世の中甘くないわよ。グレイの傷はかなり深いから……疲労とか魔力枯渇もついでに解消しているから時間はそこそこ掛かるわよ?」
「あと、どれくらいなんだ?」
「数分かしらね……」
チラリとベルリガウスに対峙している三人へ目を向ける。
「あいつらは……」
「大丈夫……任せてなさいよ。『月光』だっているのだから。貴方はまず回復に専念なさい。今の貴方にできることはそれだけよ」
その後に続けて、セリーがここにいる理由は神官として傷付いた人々の手当てに来ていたらしい。
「よし……なるだけ早くしてくれ」
「分かってるわよ……」
「あくしろよ」
「ちょっと黙ってくれないかしら?」
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