一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

まどろみのノーラント

 〈ノーラント・アークエイ〉


『剣を教えて欲しい……でござるか?』
『はい!教えてください!ウチは強くなりたいんです!追いつきたい人がいるから!』
『ふむ……いいでござろう。拙者の剣でいいのなら喜んで』
『あ……ありがとうございます!』
『元気なことはいい事でござる……して、主の名はなんという?』
『ウチは……ウチはノーラント・アークエイです!』
『そうでござるかそうでござるか……十二階神の名前に似ていて良いでござるね』
『……?』
『いや、なんでもないでござる。ごほんっ……拙者はヤコウ・ヤフブキでござる。遠い異国の地からやって参ったしがない流しの武士でござるよ』

「……ん」

 ウチは重たい瞼をパチクリと開けて、寝ていたベッドからゆっくりと身体を起こして伸びをする。窓に目をやると陽が差し込んできており、時間としてはいい頃合いかなと思った。

「よーし!」

 ウチはベッドから跳ね起きて寝間着から着替えて動きやすい格好になった。それから私は外に出て、まだ朝の早い王都の街中をとにかく走り回った。

「ファイトー!!」

 と、自分を鼓舞しながら朝の疾走だよ!こういう日々の積み重ねが大事だもんね!ウチは毎朝毎朝繰り返し王都をグルグルと回っている。ざっくり十キロ以上はあろう距離を疾走している。走るといっても、ウチが学んだ武士道流剣術の足捌きで……ウチは走っている。 

「はぁはぁ……んぁ」

 息が苦しくなってきても止まるわけにはいかない。少しでも早く追いつきたいから……ウチには越えたい目標があるからね!
 越えたい目標……その人物の名前はグレーシュ・エフォンス……グレイは強者の覇気というのを一切感じさせない。いつも媚び売ってヘラヘラしている感情で、とても希薄な印象があった……昔もそんな感じだったけれど、それでもみんなから認められる実力者だったのだ。
 それが久しぶりにあって見てみれば昔と変わらないままで、そのままヘンテコリンになっていたのだからウチは思わず呆れたものだった。
 ウチが兵士になったのはグレイと同じ道を歩いてみたかったから……グレイは当時八歳にして戦争に出ていた。そんなグレイに並びたくて兵士になったのに再会してあれなのだから本当に呆れ果ててしまった。
 まあ、グレイは覇気はなくてもとんでもなく強かった。
 グレイの戦い方は異質を極めていて、あのベルリガウス・ペンタギュラスの電光石火のような剣を避けながら攻勢に出ている……正直、次元が違いすぎた。
 グレイに聞いたことだけど、グレイはおよそ七七七もの流派の概念、知識、考え方を頭の中で理解しており、さらにグレイ自身が扱える十二の流派を組み合わせたパターンが七七七通りあるという。
 それらから相手を分析し、そして最も効率的なパターンを選択していくという。
 グレイを支えている強さの秘訣は圧倒的知識量だ。加えて、圧倒的な技術力……そんなグレイを超えるにはウチはもっともっと頑張らなくちゃ!八年で縮んだと思っていた差はむしろ、広がっている……早くこの差を縮めて君の隣を歩きたい……もう足手纏いになりたくない。ウチは守られたいわけじゃない。ウチは隣に立ちたい……大好きなグレイの隣に……。

「ふぅ……ふぅ……」

 ウチは走り終えて暫く肩で息をしながら、家に戻った。今日も仕事……戦争の直ぐ後なため色々とまだまだ事後処理が残っている。面倒なことこの上ないが、仕方あるまい……ってね。
 ウチは自室へ帰ると服を一度脱いで、あらかじめ用意していた濡れた布で汗を掻いた身体を拭き……そして下着を身に付けたところでコンコンと扉を叩く音が聞こえた。
 そして、ウチが返事をする間も無くお父様が部屋に入ってきた。

「ノーラ、吾輩である……が?」
「なっ」

 ウチはお父様……ソーマ・アークエイが入ってきて一瞬絶句したが次の瞬間には行動を開始していた。

「もう!バカ!変態!痴漢!見ていいのはグレイだけなんだからね、お父様!」
「む、あいつぶち殺す……ぶっ!?」

 お父様はウチの渾身の右ストレートをもろに喰らって苦悶の表情を浮かべ、それから呻きながら言った。

「せ、成長したである……な……色々と」

 昔、グレイがお父様のことを親バカとか言ってた気がするけど……これはただの変態!
 ウチは問答無用でアッパーを放ち、お父様の顎を捉えた一撃にによりお父様は意識を切り離した。なんなら、そのまま意識が帰って来なければいいのに……。

「はぁ……」

 朝の運動よりもこっちの方が疲れちゃうなぁ……ウチは準備を整え、お気に入りの服に身を包んで家から出た。ここから王城イガルスの軍事塔までは大体十分から二十分……やらなければならないことが山積みなのだ。急がないとね!
 それに今日は功労者の報告もある……グレイの活躍をマリンネア大師長に報告しないと!そしたらグレイも昇級できるだろうし……これは貸しにしないと……ふふ〜ん。
 と、そうだそうだ……ウチは一つ朝のルーティーンでし忘れていたことがあったのを思い出した。いつも忘れないが、こう忙しいと……ね?
 ウチは出掛ける前に剣を構える。武士道流剣術の基本型……この基本型を一日必ず一回、これを毎朝数分維持……そこから取れる行動パターンを繰り返し繰り返し、頭の中で形作っていく。これはウチの剣のお師匠様であるヤコウ師匠との約束なのだ。
 ヤコウ師匠は穏やかな人だけど厳しいところもあって、そして物凄く強い。グレイと比べると、贔屓目に見てもグレイが勝てるか正直分からないくらい……ヤコウ師匠の剣術は東の国発祥の武士道流剣術であり、この剣術は強靭的な不屈の精神を土台に努力を理念に置いた流派……ヤコウ師匠は毎日のように塵も積もれば山となる、三日坊主ならず、などとよく口にしていたなぁー……。
 武士道流剣術は圧倒的力を無視し、確かな技術を必要とする。足捌き一つにしてもそうだ。弱点があるとすると、剣技が強力過ぎて連発出来ないことくらいだろう。
 攻守共に優れた流派だとウチは思う……ウチは昔から剣術以外はからっきしだしね!自慢にならないけど!ならないけど!!だからこそ、学んだ流派が武士道流でよかった……。魔術もダメ、剣術もダメ……なんて、一体ウチはどうやってグレイに追いつけるというのだろうか。いや、追いつけない!
 よし!今日も一日頑張らないと……ヤコウ師匠も一期一会って言ってたし!
 あれ?意味……違った……かな?

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