一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

潜入

 –––☆–––


 ふと、帰路をぼんやりと歩いている俺の視界に神聖教の教会が映った。そういえば、神聖教もソニア姉を……いや、狙ってんじゃなくて邪険にしてんだったか。クソみてぇだな……ちくしょう……イライラする。こういう時は誰かに愚痴聞いてもらいたいんだけど……あ、丁度いいのが件の神聖教にいるじゃないか。よし、愚痴ってやろう。てめぇのとこの宗教がマジファックって言ってやる。
 と、俺はわざとらしく、はなから頭の中で思っていたことを言ってやろうと教会に入り、目的の人物がいるであろう懺悔室に入った。
 懺悔室に入ってすぐ、隣の個室から声が聞こえた。
「さあ、迷える獅子よ……汝の懺悔を聞きましょう」
「なんで獅子なんだよ」
「…………」
 俺が突っ込むと、最高神官『銀糸』のフォセリオ・ライトエル……セリーは押し黙り、暫く無言になった後にコホンと咳払いしてから続けた。
「さあ、汝の懺悔を聞きましょう」
 どうやら体裁を崩すことはないらしい。
「懺悔というか愚痴なんですがね、神官様。ウチの姉がかくかくしかじかのまるまるうまうまなんですよねぇ」
「え……かくかくしかじか?」
 これでは伝わらないらしい。
 当たり前か……不便だ。
「聞いてないですか?実は……」
 と、俺はここまでの経緯をセリーに愚痴を交えて二時間ほど掛けて説明した。となりから、微かに紅茶の匂いがする。この野郎、ソニア姉が大変だっていう話をしてるのに余裕だな……。
「なるほど……グレイにしては珍しく切羽詰まった雰囲気を纏っていると思ったらそういう事なのね」
「切羽詰まった……まあ」
 確かに焦っていたかもしれない。それでイライラして……考えも纏まらなくなっていたのだ。一度、頭を冷やすべきかもしれない。
「汝、迷える子羊よ。汝は頭がいいのだから、冷静になって考えなさいよ。そうしたら、ソニーを助けられる方法だって、きっと見つかるわ。私に出来ることなら何でもいいなさいよ?ソニーは大事な友達なんだから」
「ん?何でもって言いました?」
「…………その、私に出来る範囲でお願いね?お、お願いね?聞いているかしら……ねぇ?」
 俺は執拗に確認してくるセリーを無視し、深呼吸してから打開策を練り始める。
 まず、ソニア姉を取り巻く環境の改善……各勢力を排することが必要だ。そして、ソニア姉に後ろ盾を作ること……じゃないと、今後もこういったことが起こりうるからだ。最後に殺人事件に関しての身の潔白を証明すること……か。
 これら全てを満たすことの出来る打開策……ふむ。
 神聖教会は権威の問題でソニア姉を邪険にし、貴族はソニア姉の力を欲し、同様に他国もそれを狙っているか。今のところは他国の動きは見えないが、やはり早めに対応するべきだろう。一先ず、ソニア姉の後ろ盾を作ろう。後ろ盾を作れば、他国も貴族も教会も手が出し難い筈……いや、教会に関しては何とかなるかもしれない。
 チラッと個室の壁の向こうにいるセリーに視線だけ向ける。眼に映るのはもちろん壁だが……この壁を隔てて、確かにいるのだ。『銀糸』の二つ名で呼ばれる神聖教最高神官様が。
 ソニア姉とセリーが友好的にしていることを知れば、教会は邪険にしない筈だ。最高神官と仲が良いのであれば、邪険にも出来まい。
 アリステリア様は役に立たないなんて言っていたが、セリーと同じように貴族に強い影響力があるはずだ。同じように懇意にしているところを見せつけてやれば、手も出し難いだろう。
 ソニア姉の後ろ盾……交友の広さを利用する。
「よし。これだな」
「何を思いついたのか不安なのだけれど……で?私は何をするのかしら?」
「ソニア姉と仲良くしてくれればいいですよ。早速、今からでも行きましょうよ」
「今から?もうそろそろ夕方じゃない……」
「セリーさん暇ですよね?」
「否定は出来ないわね……」
 ガチャっととなりの個室からセリーが出る気配がしたので、俺も外に出た。すると、銀色の髪を相変わらず団子にし、それに髪をひと束に三つ編みに編んだ髪を巻きつけた髪型をしていた。
 セリーは腰に手を当てて、俺を一瞥して言った。
「それじゃあ、いきましょうか」


 –––☆–––


「お、おい見ろよ……あれ」
「え?なんだ?って……マジか」
 王宮を歩く六人・・の美女……それを見た貴族や教会関係者達が思わず息を呑んだ。俺はその光景を見ながら、なんだかヤベェなぁと思いながら、うへぇと顔を歪ませた。
 六人の中心は、ソニア姉……それからアリステリア様とセリー、クロロ、ノーラ、エリリーが周りを囲んで楽しそうに談笑しながら歩いている。
「あ、あれ……公爵令嬢殿だ……」
「あっちは最高神官様か……?」
「す、すごい……あの方、Sランク冒険者のタグを身につけていますわ!」
「ソーマ大師長のご息女とスカラベジュム男爵のところの……」
 と、まあ外野のそんな会話を聞きながらあのメンツが凄いことになっていることに俺はため息を吐いた。
 Sランク冒険者……クーロン・ブラッカスの名声は名高く、他国もまさかそんな人物と友好的なソニア姉に手は出さねぇだろ。
 それにアリステリア様、ノーラ、エリリーがいれば貴族も牽制できるし、セリーは言わずもがな。
「あとは……」
 あとはこの事件を何とかしねぇと。シェーレちゃんで証明できることは分かった……だけど、肝心の証拠がない。オルフェンがバートゥ……『屍王』の死霊であった証拠が必要だ。
 オルフェンがバートゥの死霊であったなら、必ず王国内の情報を横流しにしていた筈だ。その痕跡を見つけることが出来れば、オルフェンがバートゥの死霊だった証拠になるのではないだろうか。
 問題はどうやって探すかだが……オルフェンの屋敷に忍び込むか。確か、王都に居座っていた筈だ。オルフェンの秘書のカリフォーリナを探せば家の場所も分かるだろう。
「よし」
 俺は楽しそうなソニア姉に目を向け、それから直ぐにその場を発った。


 –––☆–––


 カリフォーリナを索敵スキルで探し当て……俺は割と苦労せずにオルフェンの屋敷を見つけることが出来た。
 現在時刻は夜の九時……ラエラ母さんとかシェーレちゃんには今夜は帰らないと言ってある。仕事でね。
 嘘じゃないさ。これは仕事……さて、行くか。
 俺は隠密スキルを発動し、闇に紛れながら屋敷の裏手から侵入を試みる。窓ガラスに俺が錬成術で作った粘着質な粘土の塊を貼り付けて、そこを肘で突いて窓ガラスを割った。
 粘土のおかげで音は鳴らず、俺は粘土を取り去って出来た穴に腕を入れて窓を開けて中へ侵入……現在いるのは一階……見取り図を頭の中に作るために目を瞑って集中して、【ディスペル】の要領で風属性の魔術で波動を周囲に放つ。
 それによって得た屋敷の見取りを頭に作成していく。
 二階建て、地下室があって部屋は十もあんのか……無駄過ぎワロリンヌ。オルフェンの執務室と寝室で二、カリフォーリナの私室一……と仮定して、こんな感じか?
 怪しいのはオルフェンの寝室……後は執務室だな。とりあえず、どこが何の部屋なのか分からないからパッパッと開けまくって探すか。
 俺は早速今いる部屋から出た。外に気配は感じない……廊下は全部一人の警備兵が見回りをしているから比較的に動きやすそうだ。今は二階の方にいるようだし、今のうちに部屋を見ていくか。
 俺はササッと移動して、まず一つ目……普通の扉と少し違う気がする。怪しい……中の見取りは大きい。何の部屋なんだ?
 俺は中から気配を感じないのを確認してから扉を開けると、最初に目に飛び込んで来たのは……脱衣所だった。
「あぁ……風呂か」
 じゃあ、ここに用はなさそうだ。俺がそっと扉を閉めて戻ろうとした時、誰かがこっちに来る気配を感じた。この気配……カリフォーリナか!
 どうするか……割と堂々としててもバレない気はするが……一応隠れておくか。
 俺は脱衣所で適当に隠れられそうな場所がないか探し……なかったので、天井にさっきの粘土を貼り付けて、張り付いた。
 暫くして鼻歌混じりに入ってきたカリフォーリナが脱衣所に入ってくるなり、ヌギヌギし始めた。
「…………」
 俺はただ黙って、首を回してその光景をガン見していた。いや、別にいやらしいことは何も考えていない。ほ、本当だよ?
 俺はカリフォーリナの着替えを見ながら違和感を感じていた。
 なんで、あいつ……鼻歌なんて歌ってんだ?おかしい……おかしすぎる。ソニア姉にオルフェンが目の前で燃やされた時、カリフォーリナは我を忘れるほど激怒しているように見えた……それがどうして上機嫌に鼻歌なんて……。
 その違和感に取り憑かれたまま、カリフォーリナの身体に目を向けていると、彼女の身体に縫い付けた跡がたくさんあった。な、なんだこりゃ……?
 まさか、バートゥがイガーラに送り込んでいた死霊は……オルフェンだけ・・じゃない?読み違えた……俺が。やっべぇ……アリステリア様にめっちゃ得意げに言ったのが恥ずかしいぃ!
 だが、オルフェンとカリフォーリナがどちらも死霊だったとして、カリフォーリナ……いや、バートゥの目的はなんなんだ?カリフォーリナで何をするつもりなんだ……?
 と、俺が考えているところで全て脱ぎ終えたカリフォーリナが浴場に足を運びながらポツリと独り言のように呟いた。
「あ……バートゥ様。はい……カリフォーリナでございますぅ!はい!ちゃあんとー仕事してますぅ〜」
 キャラが違いすぎんだろ……どうやら、バートゥから通信が来ているらしい。死霊術などで使われる使役通話という奴だろう。使役している者に思念を送る事が出来る……。
 決まりだ。こいつらはバートゥの死霊だ……。
「はぁい〜もちろんですぅ。あのソニアという娘ですよね!あれを殺せば・・・いいんですよね」
 ブチ……いや、落ち着け。冷静になれ……。
「え?できるだけ身体に傷はぁ付けるな?わっかりました!お任せください、バートゥ様!」
 すると、通信が切れたのかカリフォーリナはルンルンとステップを踏みながら浴場へ向かい……俺はそんなカリフォーリナの背後に忍び寄り、目を手で多い、首に光属性を纏わせたダガーを突き付けた。
「なっ!?なに!?誰!!」
 叫ぶカリフォーリナを黙らせるために、彼女の目を覆っていた手を口に移動させる。
「んーっ!んー!?」
 俺はその状態でカリフォーリナの耳元に囁くように言った。
「お前……バートゥの配下だろ」
「っ!」
「言え、ソニアを狙う理由はなんだ」
「ぅぅっ……」
 口を抑えてはいるが、喋れないことはない筈だ。答えないってことは……答えるつもりがないか、知らない……か。
「知らないのか」
 訊くとブンブンとカリフォーリナは首を縦に振った。嘘を吐いている気配はしない……俺はカリフォーリナの首裏を思いっきり叩いて気絶させた。
「ふぅ……」
 おっと、カリフォーリナの身体が丸見えだぜ。死人だけどこれは目に悪い……。
 俺がさっさとここから出て行こうとすると、ユラッとカリフォーリナが動く気配を感じ、俺は咄嗟にその場から飛び退いた。その判断は正しく、俺が立っていたところに触手のようなものが伸びており、それが地面に突き刺さると地面を抉って風呂場の床のタイルが割れて吹き飛んだ。
「お前……」
 俺は浴場の床に着地して、カリフォーリナに目を向けた。だが、そこに居たのはカリフォーリナではない……カリフォーリナの皮を破くように中から触手をウネウネさせて、青い肌に爬虫類のような鱗に覆われた身体……上半身は女性で、下半身は蛇の尾が無数にウネウネしているようなその姿は……魔族多足スキュラ種の姿だった。
「はぁい」
 美しいその異形の女性は妖艶に微笑み、俺に触手の先を向けてきた。
「なんだ、お前。死霊じゃないのか」
 俺が問いかけると、カリフォーリナは答えた。
「んーカリフォーリナっていうのは仮初めの姿……エキドナがエキドナの本当の名前よ。エキドナは死霊……バートゥ様に蘇らせていただいたのよ」
「あ、そう」
 そんなことはどうでもいい。
 これは面倒なことになったなと、俺は頬をポリポリと掻いた。


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