一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

現実に回帰する

 〈グレーシュ・エフォンス〉


 第一王子との謁見を終えて直ぐ……俺はため息を吐くことしかできなかった。その元凶は、第一王子にあったのは言うまでもないことである。

「第一王子本人がバートゥの支配下にはなかったようですね」
「そうじゃのぉ……その方がまだよかったと思うがの」

 シャルラッハさんはそう言って、俺に肩を貸しながら首を竦める。

 どうやら第一王子周辺の大臣らがバートゥの支配下にあるようで、その言葉にそそのかされて若き国王代理は政治を進めているようだ。国王が戻ってくる気配もないというし、この国は終わりだろうか。

 ちなみに俺への召集命令の内容だが、早急に明日……王国から独立して反旗を翻した諸侯共を駆逐するために師団を編成して発てとのことだった。 
  
 ぶっ飛ばしてやろうかと思ったが、シャルラッハさんが出来るならもうしているはずだ。シャルラッハさんや俺も手が出せないのは第一王子だ。

 シャルラッハさんが第一王子に手を出さないのは、この国にいる教会信徒達のことがあるからだ。教会の上位にいるシャルラッハさんがこの国の第一王子に手を出せば戦争は不可避であり、信徒の心も神聖教会から離れる恐れもある。

 俺が手を出せないのは、ラエラ母さんやソニア姉のことがあるからであるが……ふと、独立の二文字を頭に思い浮かべた俺はポツリと呟く。

「俺も……独立するか……」
「……おや。本気かのぉ?この国に未練はないのかのぉ?友人や恋人……」
「私に恋人はいませんが……私は母と姉がいれば十分です」
「ほぉ?例え、顔見知りと剣を交えることになっても?」
「……?別に、私の敵になるよならば戦うだけです。その結果、どちらかが死んでしまっても仕方のないことでしょう」

 俺が平然と言うと、シャルラッハさんは驚いたように立ち止まった。もちろん、俺もそれに合わせて立ち止まって何かおかしなことを言ってしまったかと首を傾げた。

「非情なものじゃ……いや、そうならざるおえない世界が悪いのじゃろうな……」

 非情……なるほど、シャルラッハさんの言いたいことが分かった。俺がこのような選択ヤナ思考をするのは、そう世界から強いられていると考えているのだろう。神聖教の性善説的発想に俺は息を吐き、反論するように言った。

「私は昔からずっとこうですよ」

 別に友達が欲しかったわけじゃない。恋人が欲しいわけじゃない。

 俺が目指す道の後ろには、ただ二人しかいない家族がいれば充分なのである。ただ今は……少し大切にしたいと思えるものが増えてしまったが。

 シャルラッハさんは瞳を閉じ、何かを感じ取るかのような仕草をする。まるで俺の言葉を噛み砕くような間に、何と無く居心地の悪さを感じた。

 やがて、目を開いたシャルラッハさんの表情は酷く悲しげなものだった。

「儂はそうは思わんよ。君は、もっと優しい人間であったはずじゃ」
「そんなことはありません」

 俺が首を横へ振っても、シャルラッハさんは頑なにそう言い張る。俺の意見なんざ所詮は主観でしかない……客観的に見て俺が優しい人間だというのならば
 そうなのだろうか。

「グレーシュくん。神は、優しい君だからこそ……そんな君だから転生・・させたのじゃよ……きっと」
「はぁ……っ」

 俺はふと自然に返事をしようとして、バッとシャルラッハさんの方へ振り向いた。

 視界が揺れて焦点が合わない。あまりの驚きと、突然の出来事に思考が停止したのだ。今のシャルラッハさんの一言は、とても聞き流せるものではなかった。

 俺が今まで誰にも話したことのない、俺だけしか知らないはずの俺の秘密。

 もはや、その記憶すらも薄れてしまうくらいに濃厚な人生を送っているが……それでも確かに記憶の奥底に根付いた俺を俺たらしめる俺の信念の根幹にあたる事実。

 カタカタと震える顎を上下させ、俺はシャルラッハさんに問いかけた。

「ぇ……?いや、どうして……それを……」

 シャルラッハさんはただ俺に肩を貸し、進むことを促す。ただそれだけで、何も答えてはくれなかった。


 ☆☆☆


 王都の教会まで到着するのに、大分時間が掛かってしまった。俺の身体がいうこと聞かないのが原因であり、シャルラッハさんにはそれまで非常に迷惑を掛けてしまって申し訳ない気持ちで一杯だ。

 教会までシャルラッハさんがやってくると、それはもう盛大なお出迎いだ。教会の修道女さん達や、神父さんなんかが勢揃いであり、その先頭に立っているのは案の定セリーであった。

「セリー……無事でよかった」
「グレイは……無事とは言い難い格好ね。……シャルラッハ様、後は私が」

 と、セリーが俺の肩を担ぐシャルラッハさんと代わろうとして……シャルラッハさんが首を横へ振った。

「いいや……儂が運ぼう。それよりも、今かここで彼に伝えておくべきことがあるではないかのぉ?」

 シャルラッハさんは全て見透かしたかなような瞳でセリー見ながら言う。セリーは顔を伏せ、何かを切り出そうと俺の方にチラチラと視線を送るが……それでも言い出せないようで、かなり強張っているのが見て取れた。

 俺はちょっと助け舟を出すような気持ちで、シャルラッハさんに言った。

「いえ、ここではゆっくりと話など出来ますまい。中へ入れてもらっても?」
「……ふぅむ、グレーシュくんがそう言うのならばそうするのじゃ」

 シャルラッハさんが力強く頷いて言った言葉に、何処と無くセリーは戸惑い気で……そして、セリーが俺に向ける視線は酷く同情的だった。とても悲しそうで、とても申し訳なさそうな……俺に負い目を感じているかのような素振りだ。

 負い目……。

 俺は思い当たる節がなかったので、とりあえず頭の隅にそれを追いやり、教会へと入る……そして、教会へと入ってまず目に飛び込んできたのは青色の髪をした少女と、緑色の髪の少女、そして紫色の髪の少女だ。

 ウルディアナ……ディーナとシルーシア、そしてベールちゃんだ。 

「よかった……皆無事だったんだね」
「無事もクソもあるか!」

 と、怒鳴ったのはシルーシアだ。そうだ、シルーシアとはここまで一緒に来たのだった。

 ツカツカと俺のところまで歩いてきたシルーシアは、シャルラッハを一瞥した後に俺の胸ぐらをつかむ勢いで顔を寄せ、言った。

「たくっ……一人で勝手に突っ走るなよ!」
「はい……」
「そりゃあ……オレがあの場にいてもできることなんざなかっただろうけど……」

 語尾に行くにつれて小さくなって言ったが、読唇術で何を言っているのか分かってしまう自分が憎い。詰まる所、何も出来なかったのが悔しいといったところだろうが、気にしないで欲しかった。

「グレーシュさんもご無事で何よりですわ」
「うん。ありがとう、ディーナちゃん」

 ディーナは俺に柔らかく微笑みそう言い、そしてディーナの前にバッと腕を広げてベールちゃんが現れた。

「なーはっはっはっ!我もあの魔女と闘った……が、勝利することは叶わなんだ……もしも、ぬしが駆けつけてくれなければ我も危なかったであろう……その、ありが、とう……」

 ツンデレ……?いや、なんだこれ。
 厨二病でデレられたのか……よ、よく分からんが可愛いな畜生。

 俺が鼻の下を伸ばしてデュフデュフとベールちゃんを見ているところに、カチャリカチャリと音を鳴らして鎧姿のノーラとエリリーがこちらへとやってくる。

 見ると、包帯の巻かれていたノーラの腕と脚にそれは無くなっており、恐らくはシャルラッハさんが治療したのだろうと見受けられた。

「二人とも無事でよかった」

 俺が言うと、ノーラもエリリーも俯きながら頷いた。まるで、俺に隠し事でもしているようである。

 先ほどのセリーもそうであったが、何か……良くないことがあるのかもしれない。

 そういえば、クロロを見ていないなと思って教会内を見回すと……丁度的を射たようなタイミングでクロロがラエラ母さんに手を貸して、こちらまで歩いたきていた。

 ラエラ母さんはクロロの手を借りて、少し覚束ない足取りだ。

 俺はサッと青ざめて、慌ててラエラ母さんの元へと駆け寄ろうとし……身体が思うように動かずに足がもつれて倒れそうになる。

 そこに空かさずノーラが俺の身体を支えてくれた。片手で俺のことを支えるあたり、さすがだと思った。

「あ、ありがとう……」
「うん……気を付けてよね……?」
「……?う、うん……?」

 今の言葉が、今起きた出来事に対する注意ではないように感じられた俺は訝しげに首を捻った。

 ラエラ母さんは俺が倒れそうになったのを見て、少しクスクスと笑い、口を開く。

「そんなに心配しなくても大丈夫!お母さん、身体は丈夫だから……もう、大丈夫よクロロさん。後は、私が一人で……」
「はい……気を付けてくださいね?ラエラさん」
「うん」

 すごく仲睦まじく、軽くクロロに嫉妬しました。まる。

 ふと、まだこの場にいない人がいた。ソニア姉がいない。気配を探るも、感じない。気配察知は身体の調子が悪いこともあり、あまり上手く働かないのだが…。いや、しかしどうしてこの場にいないんだ?

 オレがそう疑問に思った時、その疑問に答えるようにして……クロロが最初に口を開いた。

「グレイくん……」
「お前も無事だったか。なんだよ、そんな辛気臭い顔して?お姉ちゃんはどこ?」
「非常に……言い難いのですが」

 クロロは言いながら他の皆と同じように俯き、拳を強く握りしめる。

 そして、カタカタと震えるように続けた。

「ソニアさんは……連れ去られたと、マリンネア大師が……」




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