一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

氷の女王と兵士

 ☆☆☆


 俺の眼前には氷に覆われた王都の街並みが広がっていた。視線の先には宙に浮かび、こめかみに青筋を立てて俺を睨む美しい女性……水色の髪に気高い三角耳、白い肌、スラリとした手足と高い身長……どれをとっても造形品のような女性が俺を見下ろしていた。
 さっきの奇襲でずいぶんと腹を立てているのか、漏れ出ている殺気が俺の身体に圧力を掛けている。
 だが……こっちだってはらわた煮え繰り返っているよは同じだ。

「てめぇ、セルルカ・アイスベートだな」
「ふむ……妾は貴様のような小物を知らんぞ。先程の奇襲には驚かされたが、そう姿を現して生きて帰れると思わないことぞ?」
「こっちの台詞だ」

 もはや互いに語り合うだけ無駄だと判断……セルルカが動き出す。

「【アイスプレス】」
「っ!」

 セルルカが叫ぶと、突如として俺の頭上に巨大な氷の塊が出現して落下してくる。これが王都に落ちたらどうなるか……俺は一瞬で判断を下し、腰を落として構える。
 氷の塊が落下し続け、やがて地面に直撃する……その直前で俺は氷の塊に刹那の間に手を触れ、体術の高難度技術の中でも最難関とされる理を超えた体捌き……俺は氷の塊と触れた手から一瞬だけ氷の塊と俺の質量・・を交換し、その間だけ軽くなった氷の塊をセルルカに投げ飛ばした。

「なにっ!?」

 セルルカは驚いたように目を見開いたが、直ぐに【アイスプレス】を解除して搔き消した。
 俺はその僅かな間に【アイスプレス】の影に隠れて、宙に浮かぶセルルカへと接近……隠密スキルを発動して気配を殺し、【アイスプレス】が解除された瞬間にセルルカの懐へ潜り込む。

「っ!?」

 さすがに伝説なだけあって、これだけ接近していれば隠密スキルを使っていても俺の存在に気づいたらしい。即座に対応しようと冷気を俺に収束させてくる。

 先ほどの【アイスプレス】から、セルルカの魔術発動までの時間は常人の幾億分の一か……とにもかくにも、発動までのタイムラグは殆どないと言っていい。だが、殆どないのであってその行為はゼロ秒と少しだけ誤差がある。
 俺はその僅かな間で剣を錬成しながら【ディスペル】を俺を中心に放つ。
【ディスペル】を放つと俺に収束していた冷気が一瞬だけ霧散……完全に搔き消すことはできなかった。だが、さらに出来た時間の中で俺は剣を振るう。

「っ……!」

 セルルカの腹部を錬成した剣が強打……予想通り、セルルカの身体を斬ることはできなかったが、再び吹き飛ばすことはできた。
 地面に向かって吹き飛ばされたセルルカは、俺を睨みつつ無詠唱による【テレポート】で自由落下を始めた俺の背後に出現する。

 もちろん、読んでいた。

 接近戦で劣る魔術師で、尚且つ【テレポート】などの移動手段がある場合は安全に魔術が使用できるように普通は距離をとるが……プライドの高いセルルカなら、背後をとって力でねじ伏せてくることは容易に想像できた。
 戦闘モードをvol.2にしつつ、背後に回ったセルルカに対して目くらましに俺を中心として煙幕の魔術を放つ。

 ボフッと黒い煙が一気に広がり、セルルカの視界を奪う。

「こんなものっ!」

 だが、セルルカはそれを突風で吹き飛ばして直ぐに切り返す。ただの目くらましだから返されるのは織込み済みだ。
 俺は落下を続け、セルルカが宙に浮いたままなのを視界に捉えると同時に剣を弓へと錬成、矢を放つ。

「何度も同じことを……っ!?」

 セルルカは今度の矢も自分を貫けないと思っていたのか、そのまま空中で待ち構え……矢がセルルカの顔面に直撃する。
 その矢がセルルカを貫くことはやはりないが、セルルカは驚愕の声を漏らした。

 矢が直撃した衝撃で再び吹き飛んだセルルカは、今度は宙を滑るようにして停止すると……顔の右半分にヒビが入った状態で俺を睨んでいた。

「貴様っ……妾の障壁を」
「やはりな……お前は、自分の身体を薄い氷の膜で覆っていたんだ。伝説の作った氷なだけあって、簡単には壊せないみたいだが……」
「っ!貴様……」

 どうも、かなりプライドを傷つけられたようで怒っている。
 あの氷の膜は硬い。どれだけ攻撃を加えても、突破することは困難を極める防御力だ。

 しかし、突破できないわけではない。

 どれだけ硬いものでも必ず脆い箇所はあるし、関節部は膜が薄いか……もしくは張られていない可能性がある。関節部も硬い膜に覆われていては、真面に動けないからだ。
 怒りの表情を浮かべたセルルカは、俺の周囲に氷の槍を展開……その全てを一斉に放つ。
 質量とスピードのあるそれを受ければひとたまりもないだろう。

 俺は氷の槍による雨のような攻撃の中で、全ての槍の位置を把握……体捌きのみで切り抜ける。
 右上方からの氷の槍を半身になって上体を逸らして躱し、時には錬成し直した剣で軌道を逸らして躱す。足りなければ、手の甲を使って軌道を逸らし、足は常にステップを踏む。

 全て躱して続けるが、セルルカの攻撃止むことなくむしろ過激さを増した。

 これだけの量の氷を生成する魔力量と、そして全てを同時に操作する技術力は並外れている。なるほど、伝説と呼ばれるのは納得がいく。
 俺が同じことをすれば数分で魔力が尽きるし、数秒で処理が追いつかなくなって先に頭がやられる。

 もう既に数分の間、氷を生成しては槍にして俺に向けて放つセルルカの攻勢放つ止むことを知らない。

「どうしたぞ。躱し続けるだけでは、妾は倒せんぞ?少しは抵抗してみせよ……その上で貴様を完膚なきまで叩き潰さんと、妾の気が治らんぞ!」

 セルルカがそう叫んだ一瞬……氷の生成速度が落ちた。俺は見逃さずに剣を弓矢へと錬成し、氷の雨を足捌きでのみ避けながら氷の槍の中を縫うようにして矢をセルルカに向けて放つ。

「うっ」

 セルルカは俺の矢を下から突き上げられるように受け、そのまま王都を覆っていた氷の屋根を突き破り、遥か上空へと吹き飛ぶ。

「すぅ……っ」

 俺は一度呼吸を整えてから地面に思いっきり踏み込み、跳躍……セルルカの抜けた穴を通って俺も王都の上空へと飛び、そして王都を覆う氷の屋根の上に着地した。
 セルルカの気配を辿ると、さらに上の方まで吹き飛ばされたらしく目視が難しいほどの距離で滞空していた。

 と、頭の中にアラーム音が鳴り響き咄嗟に上を見上げると雨雲を押し退けるようにして巨大な氷の塊が王都に向かって落下してきた。大きさは目算で王都を飲み込むほどの巨大さで、直径数十キロという化物だ。

 色々と規格外すぎる!

 俺は魔力を収束させ、自分の腕に岩や砂を集めて黒々とした巨大な悪魔の腕を左右に生成……。

「【イビル】」

 そして、俺は両手を構えてまるで隕石のようなそれを迎え撃つ!

 氷の隕石と俺の【イビル】が衝突……瞬間、身体に今まで感じたことのないような重量感を感じる。それを直ぐに大気へと分散し、身体に掛かる全ての負担を軽減、質量交換でさらに圧力を分散する……が、足りない。

「ぐっ!?」

 俺の膝が曲がる。危うく折れそうになった。
 全身の骨が軋み、分散しきれない圧倒的な重量が、質量が、重くのし掛かる。

 肘から血が吹き出す。
 膝が壊れ、俺の身体が崩れ落ちそうになるのを堪える。

 そうやって、必死に耐えている俺の目の前に……【テレポート】で悠々と宙を浮かぶセルルカが現れ、言った。

「貴様なら避けられてあろう単純な、力任せな攻撃ぞ。しかし、何かを守ろうとする貴様のその行動が敗北の要因となった……伝説にも匹敵しよう技の数々は実に見事であったぞ。だが、貴様はつまらぬ理由で……ここで死ぬぞ」

 セルルカが俺に向けて手のひらを向ける。魔力を収束させ、俺の心臓の鼓動を止めるように冷気が集まる。

「【ワールド……」

 俺の時間が止まる。

 セルルカの艶かしい唇が最後の言葉が紡がれる寸前、俺は魔力を自分の中に収束させ……爆発、瞬間的に魔力汚染を引き起こした。




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