一兵士では終わらない異世界ライフ
VSセルルカ
☆☆☆
その場にいるだけで王都周辺の気温は急激に下がり、氷点下にまで達する。
街を燃やしていた炎も凍り、空にある月の淡い光だけが静寂に包まれた王都を照らしている。
クーロンの吐く息は白くなり、確実にクーロンの身体を凍りつかせていく。
「っ!」
ラエラは神の加護がある。クーロンよりも先に凍ることはないが、眠っている今凍りつけば危険だ。クーロンは直ぐに判断し、自分を上空から見下ろすセルルカに向かって駆け出す。身体が冷えて動きが鈍くなっているにも関わらず、人間離れした運動能力で瞬間的に加速……セルルカの視界から赤い閃光を走らせて消えたクーロンは上空に浮遊するセルルカの懐に入った。
「……む」 
だが、セルルカは驚く様子を見せなかった。まるでその程度のスピードならば目にしたことがあるかのような……。セルルカは懐へ潜ったクーロンに対し、何のアクションも起こさずにただ両腕を組んで目を伏せた。
クーロンは確実に自分を下に見ている今がチャンスだと判断し、光速にすら到達する抜刀……居合斬りを放つ。クーロンは居合でセルルカを斬り、そのまま横をすり抜けるようにして通過して地面に一回転して着地する。
それから後ろを振り返って空を見上げると、宙には相変わらず目を伏せたまま無傷で立つセルルカの姿が目に入った。
もちろん、居合斬りの瞬間をこの目で見ていたクーロンは歯噛みするだけで信じられないと驚くことはなかった。
クーロンの愛刀の刀身がセルルカの美しい肌に触れた瞬間……刃はセルルカの身体を斬ることができなかったのだ。そのまま張り切っていれば、クーロンの刀は粉々に砕け散っていた。鉄をも斬るクーロンの技量と愛刀の頑丈さを以ってしてもセルルカの身体を斬ることができなかったのだ。
「硬い……」
クーロンは歯噛みしながら呟く。
一方のセルルカはコロコロと笑いながら瞳を開き、自分を見上げているクーロンを見下ろすように振り返った。
「見事な腕前だ。この妾に刃を向け、砕けなかったのは久方ぶりであるぞ?褒めてやろうぞ」
「ありがとうございます」
クーロンがムスッとしながらも感謝の言葉を述べると、セルルカはキョトンとした顔になってから何が面白いのか小さく吹くように笑った。
「ふっ……ふふふはは……貴様、面白いな。名を何と?」
「クーロン・ブラッカスです」
「妾はセルルカ・アイスベート……む」
クーロンとセルルカが話していると、そこに超高速で接近する気配をクーロンは感じ取った。そして、クーロンが感じ取った気配をセルルカが感じ取れないはずがなかった。
電気を身に纏い、稲妻が駆けるが如く街道を走る電光……固有魔術【エレメンタルアスペクト】により、肉体を雷へと変質させたベルセルフ・ペンタギュラスがセルルカの下へ向かう気配だ。
「さぁ!我が来たからには好き勝手させんぞ!覚悟せよ!なーはっはっはっ!」
ベルセルフは雷速で走りながら叫び笑い、そしてそのままの速度で稲妻を纏って跳躍……クーロンと同じようにセルルカの懐へ入る。
「ふっ……同じことぞ」
「喰らうがいい!我が渾身の一撃!【ライトニングブラスト】!」
達人級雷属性体技【ライトニングブラスト】……雷を纏った拳で直線上の全てを分解する高難度な技だ。
ズガーンっという落雷の如き轟音が一帯に走り、セルルカに雷の塊が直撃……ベルセルフはクーロンの隣に華麗に着地すると決めポーズなのか腰に両手を当てて胸を張った。
「なーはっはっはっ!どうだ!我が必殺奥義は!」
「……この子」
クーロンがベルセルフを見て呟くと同時に【ライトニングブラスト】による爆煙が晴れ、やはり無傷で浮遊を続けるセルルカが笑っていた。
「今のは【エレメンタルアスペクト】か。もしや、奴の娘ぞ?面白い……実に面白い」
「なっ!?我が必殺の一撃を耐えるとは……なるではないか……」
だが、とベルセルフは右手で顔を覆い、指の隙間からセルルカを睨みながら続けた。
「我の本気を耐えることはできん!」
バッと手を振り払い、華麗にポーズを決めたベルセルフをクーロンは少し苦笑気味に見つめ、セルルカは興味深そうにベルセルフを観察した後に口を挟んだ。
「ふむ……そのポーズには何の意味があるぞよ?」
「意味?」
決まっている……ベルセルフはそう吐き捨てるように呟いてから叫んだ。
「かっこいいから!」
今度は苦笑を漏らすことなく呆れたクーロンは溜息をつき、セルルカは呆気に取られたようでブツブツと何かを小声で呟いた。
「む……意味もないのにやるのか……理解不能ぞ」
聞こえていたのか上空にいるセルルカに向かってベルセルフは指をさし、怒鳴るように喉から声を絞り出した。
「理解されなくて結構!我らは敵同士なのだからな!」
ベルセルフがそう言うと、それもそうだとセルルカは納得したようで空気に緊張感が高まる。
電撃を纏うベルセルフの周囲では電気の一部が熱に変わっているようで、セルルカから放たれる冷気を温まていた。その近くにいたクーロンも冷えた身体が温まっていく感じを覚え、幾度か手のひらを開いたら閉じたりと繰り返す。
そして、万全であると判断してベルセルフへと声を掛けた。
「ここは共闘しましょう」
「我一人で十分である!」
「私はクーロン・ブラッカスです」
「我の話聞いていたか?」
ふと、ギャーギャーと騒ぐベルセルフとクーロンの会話を割くようにしてセルルカから魔力の高まりを察知した二人はサッとその場から飛び退いた。
「固有魔術……【アイス・ジャベリン】」
クーロンとベルセルフが飛び退いた直後に巨大な氷の槍が地面を粉々に砕き、破片を撒き散らす。
その破片は大小の差はあれ、どれも超高速で吹き飛んでくるため被弾すればただでは済まない。
「こんなもの!【エレメンタルアスペクト】!」
ベルセルフは雷へと身を変化させ、飛来してくる破片よりも速く……隙間を縫うようにして移動する。
一方のクーロンは少ない体捌きと、刀の柄尻を使って破片を去なす。
目の前に迫り来る巨石に対して半身になり、刀の柄を使って自分の右後方へ受け流すように力の向きを変えていく。それを超高速で飛来する破片全てに行った。圧倒的な反射速度と技術力があっても、そう簡単にできることではない。
「やるぞ……しかし、まだこれからであるぞ?……む」
と、セルルカがさらにもう一撃ぶっ放そうとした折だった。今度はセルルカの背中に向かって、逆に巨石が飛来してきたのだ。
セルルカは尻目にそれを目視、それだけで巨石は凍りついて文字通り粉々になって砕け散る。砕けた破片はセルルカを傷つけることはなく、全て地面へ落ちていく。
セルルカはそのまま身体の向きを変え、自分に巨石を投げ飛ばしてきた相手を見下ろした。
「貴様ぞ?」
「……」
セルルカが見下ろす相手は、たった今何か投げたのであろう姿勢のままでいるノーラントだった。
ノーラントはセルルカに見下ろされ、少し怯むようにたじろいだ。
その美しく華奢な容貌とは正反対に、セルルカが放つ圧力は尋常なものではないのだ。それを真っ向から受けるとなると、常人ならば失神……最悪ショック死もありえた。
だが、とノーラントは何とか踏ん張って剣を構える。
「ウチはイガーラ王国軍マリンネア大師団所属ノーラント・アークエイ!……いくよっ」
「名など聞いてっ!?」
ノーラントは叫んで地面を蹴った。
初めこそ、ノーラントを三下だと思っていたセルルカは見事にそれを裏切るほどの膂力を目の当たりにして目を丸くした。
ノーラントが蹴った地面が破裂するように吹き飛び、矢の如くセルルカにノーラントの剣が突き刺った。
「っ!」
「……っ」
刹那の時間、ノーラントの視界にセルルカの腹部でカチカチと音を立てながらその肉を引き裂けずにいる自分の剣の切っ先が写った。尋常ではない硬さで、ノーラントの膂力を以ってしてもセルルカの防御を突き破れなかったのだ。
だが、ノーラントは諦めずに一瞬の判断で斬撃によるダメージから打撃によるダメージへと変更……剣を握っていない反対の手でセルルカの顔面を鷲掴みにし、そのまま宙で一回転してから地面に向かって大気をその膂力で蹴り飛ばす。
ブワッと大気が波打つように吹き飛び、ノーラントの身体が地面に向けて放たれる。
ノーラントの手に捕まったセルルカは為されるままに落下し、物凄い衝撃と轟音を撒き散らして二人は王都の街に激突した。
その場にいるだけで王都周辺の気温は急激に下がり、氷点下にまで達する。
街を燃やしていた炎も凍り、空にある月の淡い光だけが静寂に包まれた王都を照らしている。
クーロンの吐く息は白くなり、確実にクーロンの身体を凍りつかせていく。
「っ!」
ラエラは神の加護がある。クーロンよりも先に凍ることはないが、眠っている今凍りつけば危険だ。クーロンは直ぐに判断し、自分を上空から見下ろすセルルカに向かって駆け出す。身体が冷えて動きが鈍くなっているにも関わらず、人間離れした運動能力で瞬間的に加速……セルルカの視界から赤い閃光を走らせて消えたクーロンは上空に浮遊するセルルカの懐に入った。
「……む」 
だが、セルルカは驚く様子を見せなかった。まるでその程度のスピードならば目にしたことがあるかのような……。セルルカは懐へ潜ったクーロンに対し、何のアクションも起こさずにただ両腕を組んで目を伏せた。
クーロンは確実に自分を下に見ている今がチャンスだと判断し、光速にすら到達する抜刀……居合斬りを放つ。クーロンは居合でセルルカを斬り、そのまま横をすり抜けるようにして通過して地面に一回転して着地する。
それから後ろを振り返って空を見上げると、宙には相変わらず目を伏せたまま無傷で立つセルルカの姿が目に入った。
もちろん、居合斬りの瞬間をこの目で見ていたクーロンは歯噛みするだけで信じられないと驚くことはなかった。
クーロンの愛刀の刀身がセルルカの美しい肌に触れた瞬間……刃はセルルカの身体を斬ることができなかったのだ。そのまま張り切っていれば、クーロンの刀は粉々に砕け散っていた。鉄をも斬るクーロンの技量と愛刀の頑丈さを以ってしてもセルルカの身体を斬ることができなかったのだ。
「硬い……」
クーロンは歯噛みしながら呟く。
一方のセルルカはコロコロと笑いながら瞳を開き、自分を見上げているクーロンを見下ろすように振り返った。
「見事な腕前だ。この妾に刃を向け、砕けなかったのは久方ぶりであるぞ?褒めてやろうぞ」
「ありがとうございます」
クーロンがムスッとしながらも感謝の言葉を述べると、セルルカはキョトンとした顔になってから何が面白いのか小さく吹くように笑った。
「ふっ……ふふふはは……貴様、面白いな。名を何と?」
「クーロン・ブラッカスです」
「妾はセルルカ・アイスベート……む」
クーロンとセルルカが話していると、そこに超高速で接近する気配をクーロンは感じ取った。そして、クーロンが感じ取った気配をセルルカが感じ取れないはずがなかった。
電気を身に纏い、稲妻が駆けるが如く街道を走る電光……固有魔術【エレメンタルアスペクト】により、肉体を雷へと変質させたベルセルフ・ペンタギュラスがセルルカの下へ向かう気配だ。
「さぁ!我が来たからには好き勝手させんぞ!覚悟せよ!なーはっはっはっ!」
ベルセルフは雷速で走りながら叫び笑い、そしてそのままの速度で稲妻を纏って跳躍……クーロンと同じようにセルルカの懐へ入る。
「ふっ……同じことぞ」
「喰らうがいい!我が渾身の一撃!【ライトニングブラスト】!」
達人級雷属性体技【ライトニングブラスト】……雷を纏った拳で直線上の全てを分解する高難度な技だ。
ズガーンっという落雷の如き轟音が一帯に走り、セルルカに雷の塊が直撃……ベルセルフはクーロンの隣に華麗に着地すると決めポーズなのか腰に両手を当てて胸を張った。
「なーはっはっはっ!どうだ!我が必殺奥義は!」
「……この子」
クーロンがベルセルフを見て呟くと同時に【ライトニングブラスト】による爆煙が晴れ、やはり無傷で浮遊を続けるセルルカが笑っていた。
「今のは【エレメンタルアスペクト】か。もしや、奴の娘ぞ?面白い……実に面白い」
「なっ!?我が必殺の一撃を耐えるとは……なるではないか……」
だが、とベルセルフは右手で顔を覆い、指の隙間からセルルカを睨みながら続けた。
「我の本気を耐えることはできん!」
バッと手を振り払い、華麗にポーズを決めたベルセルフをクーロンは少し苦笑気味に見つめ、セルルカは興味深そうにベルセルフを観察した後に口を挟んだ。
「ふむ……そのポーズには何の意味があるぞよ?」
「意味?」
決まっている……ベルセルフはそう吐き捨てるように呟いてから叫んだ。
「かっこいいから!」
今度は苦笑を漏らすことなく呆れたクーロンは溜息をつき、セルルカは呆気に取られたようでブツブツと何かを小声で呟いた。
「む……意味もないのにやるのか……理解不能ぞ」
聞こえていたのか上空にいるセルルカに向かってベルセルフは指をさし、怒鳴るように喉から声を絞り出した。
「理解されなくて結構!我らは敵同士なのだからな!」
ベルセルフがそう言うと、それもそうだとセルルカは納得したようで空気に緊張感が高まる。
電撃を纏うベルセルフの周囲では電気の一部が熱に変わっているようで、セルルカから放たれる冷気を温まていた。その近くにいたクーロンも冷えた身体が温まっていく感じを覚え、幾度か手のひらを開いたら閉じたりと繰り返す。
そして、万全であると判断してベルセルフへと声を掛けた。
「ここは共闘しましょう」
「我一人で十分である!」
「私はクーロン・ブラッカスです」
「我の話聞いていたか?」
ふと、ギャーギャーと騒ぐベルセルフとクーロンの会話を割くようにしてセルルカから魔力の高まりを察知した二人はサッとその場から飛び退いた。
「固有魔術……【アイス・ジャベリン】」
クーロンとベルセルフが飛び退いた直後に巨大な氷の槍が地面を粉々に砕き、破片を撒き散らす。
その破片は大小の差はあれ、どれも超高速で吹き飛んでくるため被弾すればただでは済まない。
「こんなもの!【エレメンタルアスペクト】!」
ベルセルフは雷へと身を変化させ、飛来してくる破片よりも速く……隙間を縫うようにして移動する。
一方のクーロンは少ない体捌きと、刀の柄尻を使って破片を去なす。
目の前に迫り来る巨石に対して半身になり、刀の柄を使って自分の右後方へ受け流すように力の向きを変えていく。それを超高速で飛来する破片全てに行った。圧倒的な反射速度と技術力があっても、そう簡単にできることではない。
「やるぞ……しかし、まだこれからであるぞ?……む」
と、セルルカがさらにもう一撃ぶっ放そうとした折だった。今度はセルルカの背中に向かって、逆に巨石が飛来してきたのだ。
セルルカは尻目にそれを目視、それだけで巨石は凍りついて文字通り粉々になって砕け散る。砕けた破片はセルルカを傷つけることはなく、全て地面へ落ちていく。
セルルカはそのまま身体の向きを変え、自分に巨石を投げ飛ばしてきた相手を見下ろした。
「貴様ぞ?」
「……」
セルルカが見下ろす相手は、たった今何か投げたのであろう姿勢のままでいるノーラントだった。
ノーラントはセルルカに見下ろされ、少し怯むようにたじろいだ。
その美しく華奢な容貌とは正反対に、セルルカが放つ圧力は尋常なものではないのだ。それを真っ向から受けるとなると、常人ならば失神……最悪ショック死もありえた。
だが、とノーラントは何とか踏ん張って剣を構える。
「ウチはイガーラ王国軍マリンネア大師団所属ノーラント・アークエイ!……いくよっ」
「名など聞いてっ!?」
ノーラントは叫んで地面を蹴った。
初めこそ、ノーラントを三下だと思っていたセルルカは見事にそれを裏切るほどの膂力を目の当たりにして目を丸くした。
ノーラントが蹴った地面が破裂するように吹き飛び、矢の如くセルルカにノーラントの剣が突き刺った。
「っ!」
「……っ」
刹那の時間、ノーラントの視界にセルルカの腹部でカチカチと音を立てながらその肉を引き裂けずにいる自分の剣の切っ先が写った。尋常ではない硬さで、ノーラントの膂力を以ってしてもセルルカの防御を突き破れなかったのだ。
だが、ノーラントは諦めずに一瞬の判断で斬撃によるダメージから打撃によるダメージへと変更……剣を握っていない反対の手でセルルカの顔面を鷲掴みにし、そのまま宙で一回転してから地面に向かって大気をその膂力で蹴り飛ばす。
ブワッと大気が波打つように吹き飛び、ノーラントの身体が地面に向けて放たれる。
ノーラントの手に捕まったセルルカは為されるままに落下し、物凄い衝撃と轟音を撒き散らして二人は王都の街に激突した。
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