一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

復活の二刀

「!」

 クーロンはキエレナから攻撃の気配を感じ取り、反射的にその場から飛び退く。それに続いて、先程までクーロンの立っていた城下の街道が隆起し、槍のように天に向かって伸びる。さらにクーロンの避けた方に向かってキエレナが巨大な火の玉を放っていた。
 キエレナにクーロンの動きが読まれていたのだ。クーロンはその一瞬で【思念感知サイコメトリー】を使われたのだと理解した。同時に、同時に三つの高度な魔術を発動しながら的確に攻撃を加える……キエレナ・リベリエイジという女性に舌を巻きたくなった。
 無論、だからといって攻撃を受けるつもりもなければ負けてやるつもりはない。

「ふっ」

 クーロンは右手に握る刀を振り抜いて火の玉を斬り払う。そして、それも読んだようにしてキエレナは氷の矢を無数にクーロンの周囲を囲むようにして出現させて放つ。
 クーロンは呼吸を整えるように息を吸って吐くと、両手に握る相棒達を一周させて氷の矢を全て斬った。

「アヒャ〜?やる?やる!やるやるやるのデスネ!です?デス!」
「この程度ではまだまだ……」

 クーロンも乗ってきたように両手の武器を構える。それに続いてクーロンの両目に月の光が宿る。キエレナはクーロンの月光を浴びた瞳を見ると、再び不気味な笑い声を上げた。

「アヒャアビャビャあ〜ン?……【リベンジコール】」

 不意打ちのように放ったそれは、しかしクーロンは瞬時に対応してみせる。
 起こされた詠唱のルーンは省略されらているためにどんな魔術か判断しかねるが、少なくともクーロンには聞き覚えのない魔術…。つまりは固有オリジナル魔術だ。
 ふと、クーロンの立っている地面が隆起……初撃と同一の攻撃だ。さらに続いて火の玉がクーロンに襲いかかり、氷の矢がクーロンを囲む。

「同じ手は芸がありません……二刀流固有剣技【月華七連】」

 月の下に咲く七枚の花弁を持つ華……それが咲き乱れるかのようにクーロンの両手から超高速の剣舞が放たれ、忽ちにキエレナの魔術が尽く切り裂かれる。
 だが、その最中で新たに風の刃に加えて岩の砲弾が追加される。

「……こんなに同時に」

 魔術を並列発動する技術を【マルチー】と呼ぶが、この数を全て制御するとなるとどれだけの技術と魔力が必要なのか……それでもクーロンを驚かせても傷つけることはできないが。

「はぁ!」

 ザンッ

 新たに追加された分も纏めて右手に握る刀身のみで斬り伏せ、クーロンは無傷でその場に立っていた。その圧倒的な力の前にさすがのキエレナも声を失ったようにクーロンを凝視……クーロンは剣先をキエレナへ向けると口を利かせた。

「キエレナさん……でしたか。私の前に立ちはだかるというのなら斬り伏せますが……引くというのなら追うことはありません。今のうちにどうぞ」

 クーロンは戦っている時間の惜しさからキエレナにそう提案する。正直、挑発しているようにしか見えないが凛とした立ち姿でそう言われてしまうと挑発には聞こえない。
 キエレナは顔を顰め、数瞬黙って俯いた後に……ふと頬を紅潮させて甘えるような、加えて求めるように、愛する者に囁くようにして言葉を発した。

「ン〜!あー!あぁぁ!!アヒャヒャヒャ!いい!いい〜?いい!アナタすごーくいいデスネ!強いのに、美しい……美しくて綺麗デス。素敵?素敵!【リベンジコール】!」
「何を……」

 キエレナは再び同じ魔術を発動する。クーロンは既にその魔術がどういった類のものなのか、ある程度目星を付けていた。
【リベンジコール】はこの戦いの中でキエレナが使った魔術を全て発動する……簡単に言えばこんなものだが、キエレナの並列発動数を考えると非常に厄介なことになる。
 並列発動は【ファイアー】や【サンダー】などの魔術を同時に発動し、制御することを指す。そしてその処理能力は個々の力量や魔術の難易度によって変化し、キエレナは熟練級の魔術を三つや四つほど同時に制御できるようだ。
【リベンジコール】というのはキエレナの使った個々の魔術を一括りし、一つの魔術として使用することができる魔術……キエレナが魔術を使用するほどに魔術が連続していく魔術だ。
 だが、全く同じ魔術と順番で襲ってくるというのなら対処は簡単だ。
 クーロンは初撃の地面の隆起に対し、自分の右足を力一杯に地面へ叩きつけて地面割って相殺、続いて迫ってきた火の玉を左手に握る鞘で一刀両断し、周囲を囲むようにして放たれた氷の矢を身の内に溜め込んだ気迫で弾き飛ばす。気迫など本来見ることもかんじることもできないものに質量を与える技術【撃】という体術の一種だ。
 クーロンはさらに風の刃、岩の砲弾、追加されてはなたれる雷撃と無数の光線、そしてキエレナの足元から伸びてくる影に対しても冷静に対処する。

「ふぅ……」

 息を吐き、呼吸を整えて右手の刀身を左手の鞘へ納刀。それから抜刀する構えを取り、全てを切り裂く一閃を放つ。

「【バリス】」

 雷の元素で活性化された肉体、風の元素で早められた時間、火の元素で爆発するように鞘から飛び出した刀身はキエレナの放った魔術全てを無残に砕き、抜刀して振り抜いた衝撃が刀身の延長線上に伸びていく。それは斬撃のように大気を切り裂き、キエレナの胴を斜めに切り離した。

「アー!?ぁ……」
「私の前に立ちはだかるのなら、容赦はしません。あの世で後悔なさい」

 クーロンは右手の刀身を振り払い、鞘へと納める。キエレナを倒した……直ぐにラエラを探そうと足を一歩出したところでキエレナの気配が消えていないことに気がつき、クーロンは顔をしかめてキエレナの亡骸が落ちている地面へ目を配る。
 キエレナはピクリとも動いていないが、クーロンが目を向けた瞬間……ビクッと体を揺らした。斜めに切り裂かれた胴の切断面から触手のようなものがウネウネと這い出るように生え、胴が徐々にだが繋がっていく。
 キエレナは突っ伏していた顔を上げ、両手を地面へとついて這い蹲るようにクーロンを見上げると不気味なあの笑みを浮かべて言った。

「アヒャヒャヒャ。イタイ?イタイ!『月光』の攻撃、今のは効いたデスネ!しかし、ワタシに物理攻撃は通用しないデス」

 魔術師は大抵、そういった防御魔術を有しているのをクーロンは知っている。それを知っていたクーロンは、自分の得意属性でもある闇属性の力……干渉の特性をもってしてキエレナを斬ったはずたった。だが、キエレナはクーロンの目の前で這い蹲ってはいるもののピンピンしている。全くクーロンの攻撃が効いていないように見えるが……本人曰く効いているらしい。

「高速再生……一体どんな魔術を」

 吸血鬼というのなら分かるが、キエレナが吸血鬼には見えない。ならば、何かの魔術であろうがどうみても高位の光属性の魔術が使える神官でないのは明らかだ。

「早くラエラさんのところへ行かないといけないのに……邪魔をしないでいただきたいのですが」
「ラエラ?ラエラ!あぁ、あぁ!ワタシ、知っているデスヨ?ほーら……この人デスネ!」
「……え」

 急に何を言い出すのかと思ったクーロンは、ユラリと立ち上がったキエレナが指をパチンと鳴らした瞬間……絶句した。そして、目を見開いて肩をワナワナと震わせる。それは怒り……どうして?という疑問が浮かぶよりも先に、クーロンの表情は怒りで染まった。
 キエレナはその表情を見て、とても楽しそうに笑う。

「アヒャヒャヒャ!ラエラ?ラエラ!」

 キエレナの直ぐそばに、何かにつり下がられているかのように宙を浮遊するラエラが気を失ってそこに居たのだ。

「アヒャヒャヒャ!アナタの記憶、見てみた……面白いことになってるみたいデスネ?アナタにとってそこまで大切な人間ではないのに……アナタの強さ、それはもう呪い……アヒャヒャヒャ!」
「何を訳のわからないことを……それよりも」

 クーロンはキエレナの言葉を一蹴すると同時に一足でキエレナの目の前まで距離を詰め、腰に納めた相棒を抜き放ってキエレナを微塵に斬った。

「イタイ?イタイ!ン〜?」

 だが、キエレナは切断面から生やした触手のようなものでバラバラになった部位全てを一瞬のうちに結合させると喚くようにそう言った。
 クーロンはキエレナを睨みつけ、眉を寄せる。

「しつこい……ラエラさんを開放してください」
「ン〜?素敵?素敵!ラエラ、素敵!」

 ラエラの顔をジッと覗くようにして眺めたキエレナはそう言って、あろうことかクーロンの見ている目の前でラエラの顔に手を添えるように触れた。その瞬間にクーロンの中で激情が駆け抜ける。その感情のままに一歩また踏み出そうとすると、キエレナが不気味な笑みを浮かべてクーロンを手で制した。

「アヒャヒャヒャ!動いたら、ラエラを食べるデスヨ?」

 ニヤリと舌舐めずりしてラエラの柔らかな頬を、這いずるようにして舌を這わせた。

「【月光牙】」

 クーロンの持つ固有剣技の中でも最強にして最速の剣技。キエレナが視認することさえ許さず、クーロンの瞳に宿って居た月光は赤色へ変色し、その変色した閃光が一瞬でキエレナの前後を駆け抜ける。

「アヒャ!?」

 キエレナは吹き飛び、ラエラから離れる。そのまま通りの建物に激突すると派手な爆発音を轟かせて建物をいくつも破壊して、キエレナはかなら遠くまで吹き飛ばされる。
 クーロンはラエラを縛るものを刀で切断、それで浮遊していた身体が崩れたためクーロンはラエラの身体を受け止めて直ぐに頬に付着した唾液を拭った。
 それから、土埃の中から出てきて全く攻撃が効いていないかのようなキエレナに対して……クーロンはゆっくりと口を開いた。

「汚らしい手で触らないで下さい。あまり調子に乗っていると……あなた、死にますよ」

 その姿は誰かと重なるようで、身に纏う殺気は尋常ではなかった。
 不気味な笑みを浮かべていたキエレナも思わず笑顔を引っ込め、怯えた様子を見せた。

「あ……あぁ……その魂、知っているデスヨ。我が父、バートゥと戦ったあの男の魂!『月光』の呪いの正体は……あの男!キィぃぃぃいい!!」
「話しても……無駄なようですね」

 ならば斬るのみ……目の前でラエラを汚されたクーロンは完全にキレていた。完全に理性・・の枷が外れていた。




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