一兵士では終わらない異世界ライフ
……VSクロロ
–––☆–––
クロロは右手に刀身を、左手に鞘を握り……俺に向かって一歩踏み込む。体重を乗せ、重心を前に……この初動はもう見切った。真っ直ぐに来る。そして、クロロのことだ……途中で足首の動きと重心移動で左右に高速移動……霞むように消え、右から俺の背後に回り込む。
俺は予想通り突っ込んできたクロロに向けて、錬成し直した弓を向ける。ギギッと弦が音を立てる。
クロロは左右に飛び、それから霞むように消える。
ここだ。
俺は予測射撃で、消えたクロロに向かって矢を放つ。【アサシン】で放たれた矢に音は無く、消えたはずのクロロを捉えた。
「……っ」
無表情だったクロロの表情に、わずかばかりの動揺の色が見えた。
クロロは鞘と刀身を十字にして防ごうとするが、俺が使ったのは【アサシン】だけじゃない。
…………【鎧通し】。衝撃を貫通させる技だ。これを俺の手から離れていく矢で行うには、繊細な身体操作を要求する。さらに……俺は初級火属性弓技【フレイムアロー】を使っていた。【フレイムアロー】は矢の先端が燃え上がり、普通の矢よりも威力が高くなる……火の元素特性である威力、効力増幅の力だ。
つまり、【アサシン】によって矢に詰められた威力は最大に……火の元素でその威力を増幅、そしてその増幅された威力を、衝撃を防御の上から貫通させることができる【鎧通し】で確実に決める。
鞘と刀身が重なる部分に俺の放った矢が刺さる。そして、【鎧通し】が発動してクロロの防御の上から衝撃のみ貫通……クロロの胸部を打った。
「っ……」
クロロは滑るように後方へ吹き飛び、途中下半身に墓石が強打……破壊してバランスを崩し、上半身を肩から地面に叩きつけた。
ちっ……衝撃を逃がされたな。衝撃が貫通していれば吹き飛ばないはずだ。さすがに上手い。
「キヒヒィイイイイ!?」
バートゥはそれを見て、驚いたような奇妙な奇声をあげる。
「な、なぜなぜなぜなぜ!?こんなこんこんこんな……本当に殺すつもりデス!デスぅ!!」
「言ったろ……てめぇにやるくらいなら俺の手で殺すってな。それよりも、うるさいから黙ってろ。キィキィと耳障りだ」
「なっ、この……このこのこここここの私にぃいい、そのようなことことことをおぉぉお!!『月光』!」
バートゥが叫ぶと、倒れていたクロロが赤い稲光を走らせる。まさか、倒れた状態で一瞬にして距離を詰めてくるとは……さすがの一言に尽きる。
とはいえ、その行動は予測していた。俺は予め開いていた魔力保有領域から魔力を引っ張り出し、クロロが右から迫っているであろうと予測……地属性の魔術で地面を波打つかのように隆起させる。
「……」
波打った地面から高速移動していたクロロが弾かれ、その身を宙に投げ出した。今度ははっきりと……クロロは表情を驚愕に染めた。
「宙にいたら衝撃を逃すのは出来ねぇだろ!」
クロロの二刀流は腰から足……下半身を起点にした動きが多い。衝撃を逃すにしても、宙にいては出来まい。
「【バリス】!」
ズガーンという轟音が轟く。雷鳴が響き、一体に嵐が巻き起こるかのごとく、俺の放った矢がクロロ目掛けて直進していく。
「……【斬月】」
と、これで決まるかと思われた一撃……【バリス】をクロロが再び初めて見る固有剣技で迎え撃ってくる。
電撃と先端に炎を纏い高速回転する【バリス】に対抗してクロロが発動した剣技【斬月】……クロロの二刀が再び赤く輝き始め、宙でクロロが身体を捻る。
足を交差させ、腰を捻り上げる。下半身を起点とした動き!空中でやりやがるのか!
クロロはそのまま空中で腕を広げて回転……赤く輝く二刀が円を描く軌跡を残す。
そしてクロロは、それで生まれた遠心力を使い、その円の軌跡を縦に斬るようにして刀身を振るう。と、同時に【バリス】がクロロの刀身に直撃……衝撃と甲高い金属音が轟いた。
「……」
だが、【斬月】はそれで終わりではなかった。回転の勢いの残っていたクロロは慣性で身体が浮かび上がり……【バリス】とクロロの刀身を支点にして、クロロは【バリス】の上を飛び越えるように空中で移動する。
止めるものがなくなった【バリス】はそのまま力の続く限り直進する……やられた!
クロロは【バリス】を躱すと、赤い光が宿った瞳を俺に向け……着地と同時に閃光を走らせた。地面が抉れて吹き飛ぶ。
「っ!」
俺は咄嗟に回避行動に入り、クロロの攻撃を躱す。シュッ……そんな感じの風切り音。音が確実に消えてきている。もはや刀身は見えない。おそらく、クロロが振り抜いた後くらいに風切り音がするくらいの剣速なのだろう。つまりは音速……いや、そんなものよりも遥かに速い。音速なんて達人なら当然だ。クロロはもはや達人の域にはいない。達人にしては強すぎる!
まさか……伝説とか、いや……それはない。しかし……これは……。
何度も、何度もその思考が頭を駆け巡る。殺してしまうかもしれないと公言したが……もしかすると、殺されるのは俺かもしれない。そんな状況……こんなこと、予測できるわけねぇだろ!
俺は地面を前転して転がり、手をついて飛び上がる。上下が逆転……クロロが稲光を走らせたのを捉えると同時に矢を放つ。
クロロは首を少しだけ傾けてそれを躱し、前進する。
あぁ……ヤバいな。まさか【アサシン】で放った渾身の矢も簡単に避けられるとは。真っ向勝負は負けるな、これ。
【ディスペル】でクロロの精神支配が解除できたらいいが、結界型の魔術は一度発動してしまえば術者の制御無しに使用分の魔力が尽きるまでは稼働し続ける。これでは【ディスペル】が意味をなさない。
本当に……クロロを倒さなくてはならない。が、それが簡単でもない。
あの雷速のベルリガウスよりも速いのだ。雷よりも速い……それは達人の域じゃない、自然を超越した伝説の域だ。想定が甘かった……今までのクロロのイメージで戦っていたら、殺させるのは俺だ。もうクロロは最盛期の実力とほとんど同じ力を持っている。その実力は未知数だ。
俺はもう一撃放ち、クロロの前進を阻害してから身体を捻って上下を戻して着地……さらに後ろに飛び退きながら矢を放つ。【引き打ち】……前にもやった、後退しながら射撃を行う技術だ。銃同士の射撃戦に使うものだが、今はクロロから距離を取りたい。
俺はクロロの下半身に向けて放ちながら後退を続ける。下半身が起点で放たれるクロロの剣術は、こうされれば身動きが取りにくいはずだ。それに、前進し難い位置に放っているため、クロロは殆ど動けていない。
いけるか?
俺がそう思ったとき、それがフラグにでもなったのかクロロが左右にブレて霞むように掻き消えた。
と同時に、俺の背後にクロロの気配を感じる。俺は大きく上に跳躍し、背後にいるクロロを飛び越える。
クロロは俺の背後の影から這い出てくると、刀を振り抜いた。もちろん、俺は既に跳躍していたので当たりはしなかったが……今のは【シャドルイン】だな……クロロは闇属性と相性が良いようだったが今まで魔術なんて使わなかった。
まさか、こんな状況下で使ってくるとは……いやらしい奴だ。
クロロは視線を上空へ向け、放物線を描いて地面に着地した俺を目で追っていく。そして再び掻き消えると、今度はクロロが跳躍し、宙で回転する。
「【斬月】」
赤い円の軌跡を切り裂き、クロロの重い一撃が迫ってくる。俺は左へ飛び退き、引きながら矢を放つ。
クロロは地面に刀身を叩きつけ、弾かれるように宙を舞う。そして今度は鞘の方で俺へ向かってきた。
「っ!」
今度は右へ左へ……回避行動をとっていけばいくほどクロロの追撃が激しくなる。
「いい加減にしろ!【バリス】!」
ズガーンと衝撃が走る。【斬月】と【バリス】が衝突……この二度目の衝突は俺の【バリス】が制した。
「……」
クロロが右に握る刀身を弾き飛ばす。クロロの右上が上方に上がり、大きな隙が生まれた。
「もういっぺんくらえ!【バリス】」
連続【バリス】……負担はあるが、今は普通の【アサシン】による矢ではクロロを仕留められない。
クロロは向かってくる【バリス】を見て、弾かれた右腕を戻さないまま下半身に力を入れる。腰を捻り、左に握る鞘で【バリス】の纏う風の壁の側面を滑るように沿わせ、衝撃を逃がしながら自分の身体を吹き飛ばさせる。
【バリス】から大きく弾かれたクロロは空中に投げ出せれたが、直ぐに地面へ着地し、俺に赤い光の宿る瞳を向けた。
ふと気が付いたが、俺もクロロも息が上がっている。極度の緊張とハイスピードな展開に身体や脳が同時に酸素を欲しているのだ。肩で呼吸をしているのは俺だけじゃない……クロロも同じなのだ。精神支配を受けて表情は機械のように動かないが、僅かに動揺を見せたりする。
…………ふぅ。
ザッと俺が動くと、クロロも俺に合わせて動く。同時に俺は錬成術で弓を剣へ……そして【ブースト】を発動して身体を剣術に特化させる。
金の閃光と赤の稲光が交じり合い、甲高い金属音が一回……二回と響き渡る。
「……」
これにクロロが困惑の表情を見せた。先ほどまで、俺よりもクロロの方が遥かに速かった。捉えることも困難な速度だった……だが、俺はクロロの速さを見切った。何度も見ていれば、さすがに慣れる。クロロが人族の、そして女性の身でどうやってその速度に至ったのかも理解出来た。戦闘モードvol.2の俺なら見様見真似でもクロロの動きはトレース出来た。
今、俺もクロロと同じ速度の域で戦える……。
「ここからが本番だ。クロロ!!」
「…………ィ……んっ」
何か、クロロが声を漏らした気がした。
–––☆–––
「……【月影】」
「【パワーエッジ】!」
初級火属性剣技【パワーエッジ】……火の元素特性により威力の上がった一撃を叩き込む剣技だ。
クロロの放った【月影】と【パワーエッジ】が衝突し、一帯に衝撃が走る。
「きひええええええぇぇええええ!?」
バートゥの悲鳴が聞こえたが、どうでもいい。俺とクロロは同時に走り出し、エルカナフから飛び出し、近くの森林地帯まで戦闘を続けながら走る。
「……っ」
クロロが稲光を走らせ、刀身を振るう。木々が綺麗に伐採されて倒れる。俺は構わずクロロに一撃を叩き込んだ。
「うおぉっ!!」
気合いとともに振り下ろした一撃……クロロは歯を食いしばって両手の刀身と鞘で受け止めた。
衝撃が再び走る。地面へ逃がされた衝撃により、クロロを中心に地面が陥没……木々がそれでバランスを崩して中央に立っているクロロに向かって倒れ込む。
俺は後ろに跳躍してそれを躱し、俺と鍔迫り合いをしていたクロロは僅かに回避が遅れる。とはいえ、倒木程度……クロロにとって何の障害でもないだろう。その両手に握る己の刃で倒れてきた木々を全て斬り刻み、俺に向かって前進する。
俺は向かってくるクロロを迎え討つべく剣を正面に構え、突っ込んできたクロロと衝突……衝撃が身体を蝕む前に地面へと逃がし、クロロと鍔迫り合いになる。
「くっ」
「……っっ」
どちらも引きを取らない鍔迫り合い……本当に、こいつの身体のどこからこんな力が出てきやがるんだ!
俺は魔力保有領域を開き、剣技を始動する。全属性で最も速い雷属性の剣技……中級剣技【サンダーエッジ】だ。 
紫色の輝きを帯びた俺の剣を見たクロロは、直様俺から離れようとする。体重が後ろへ逸れた瞬間……俺は瞬時にクロロの足下の地面を無詠唱で柔らかいフカフカな土に錬成……今にも後ろへ飛ぼうとしていたクロロは足が呑まれ、それでバランスを崩した。
ここだ!
「喰らえこの大馬鹿女あぁぁぁぁ!!」
俺は雷を纏った剣を振り下ろした。
クロロは右手に刀身を、左手に鞘を握り……俺に向かって一歩踏み込む。体重を乗せ、重心を前に……この初動はもう見切った。真っ直ぐに来る。そして、クロロのことだ……途中で足首の動きと重心移動で左右に高速移動……霞むように消え、右から俺の背後に回り込む。
俺は予想通り突っ込んできたクロロに向けて、錬成し直した弓を向ける。ギギッと弦が音を立てる。
クロロは左右に飛び、それから霞むように消える。
ここだ。
俺は予測射撃で、消えたクロロに向かって矢を放つ。【アサシン】で放たれた矢に音は無く、消えたはずのクロロを捉えた。
「……っ」
無表情だったクロロの表情に、わずかばかりの動揺の色が見えた。
クロロは鞘と刀身を十字にして防ごうとするが、俺が使ったのは【アサシン】だけじゃない。
…………【鎧通し】。衝撃を貫通させる技だ。これを俺の手から離れていく矢で行うには、繊細な身体操作を要求する。さらに……俺は初級火属性弓技【フレイムアロー】を使っていた。【フレイムアロー】は矢の先端が燃え上がり、普通の矢よりも威力が高くなる……火の元素特性である威力、効力増幅の力だ。
つまり、【アサシン】によって矢に詰められた威力は最大に……火の元素でその威力を増幅、そしてその増幅された威力を、衝撃を防御の上から貫通させることができる【鎧通し】で確実に決める。
鞘と刀身が重なる部分に俺の放った矢が刺さる。そして、【鎧通し】が発動してクロロの防御の上から衝撃のみ貫通……クロロの胸部を打った。
「っ……」
クロロは滑るように後方へ吹き飛び、途中下半身に墓石が強打……破壊してバランスを崩し、上半身を肩から地面に叩きつけた。
ちっ……衝撃を逃がされたな。衝撃が貫通していれば吹き飛ばないはずだ。さすがに上手い。
「キヒヒィイイイイ!?」
バートゥはそれを見て、驚いたような奇妙な奇声をあげる。
「な、なぜなぜなぜなぜ!?こんなこんこんこんな……本当に殺すつもりデス!デスぅ!!」
「言ったろ……てめぇにやるくらいなら俺の手で殺すってな。それよりも、うるさいから黙ってろ。キィキィと耳障りだ」
「なっ、この……このこのこここここの私にぃいい、そのようなことことことをおぉぉお!!『月光』!」
バートゥが叫ぶと、倒れていたクロロが赤い稲光を走らせる。まさか、倒れた状態で一瞬にして距離を詰めてくるとは……さすがの一言に尽きる。
とはいえ、その行動は予測していた。俺は予め開いていた魔力保有領域から魔力を引っ張り出し、クロロが右から迫っているであろうと予測……地属性の魔術で地面を波打つかのように隆起させる。
「……」
波打った地面から高速移動していたクロロが弾かれ、その身を宙に投げ出した。今度ははっきりと……クロロは表情を驚愕に染めた。
「宙にいたら衝撃を逃すのは出来ねぇだろ!」
クロロの二刀流は腰から足……下半身を起点にした動きが多い。衝撃を逃すにしても、宙にいては出来まい。
「【バリス】!」
ズガーンという轟音が轟く。雷鳴が響き、一体に嵐が巻き起こるかのごとく、俺の放った矢がクロロ目掛けて直進していく。
「……【斬月】」
と、これで決まるかと思われた一撃……【バリス】をクロロが再び初めて見る固有剣技で迎え撃ってくる。
電撃と先端に炎を纏い高速回転する【バリス】に対抗してクロロが発動した剣技【斬月】……クロロの二刀が再び赤く輝き始め、宙でクロロが身体を捻る。
足を交差させ、腰を捻り上げる。下半身を起点とした動き!空中でやりやがるのか!
クロロはそのまま空中で腕を広げて回転……赤く輝く二刀が円を描く軌跡を残す。
そしてクロロは、それで生まれた遠心力を使い、その円の軌跡を縦に斬るようにして刀身を振るう。と、同時に【バリス】がクロロの刀身に直撃……衝撃と甲高い金属音が轟いた。
「……」
だが、【斬月】はそれで終わりではなかった。回転の勢いの残っていたクロロは慣性で身体が浮かび上がり……【バリス】とクロロの刀身を支点にして、クロロは【バリス】の上を飛び越えるように空中で移動する。
止めるものがなくなった【バリス】はそのまま力の続く限り直進する……やられた!
クロロは【バリス】を躱すと、赤い光が宿った瞳を俺に向け……着地と同時に閃光を走らせた。地面が抉れて吹き飛ぶ。
「っ!」
俺は咄嗟に回避行動に入り、クロロの攻撃を躱す。シュッ……そんな感じの風切り音。音が確実に消えてきている。もはや刀身は見えない。おそらく、クロロが振り抜いた後くらいに風切り音がするくらいの剣速なのだろう。つまりは音速……いや、そんなものよりも遥かに速い。音速なんて達人なら当然だ。クロロはもはや達人の域にはいない。達人にしては強すぎる!
まさか……伝説とか、いや……それはない。しかし……これは……。
何度も、何度もその思考が頭を駆け巡る。殺してしまうかもしれないと公言したが……もしかすると、殺されるのは俺かもしれない。そんな状況……こんなこと、予測できるわけねぇだろ!
俺は地面を前転して転がり、手をついて飛び上がる。上下が逆転……クロロが稲光を走らせたのを捉えると同時に矢を放つ。
クロロは首を少しだけ傾けてそれを躱し、前進する。
あぁ……ヤバいな。まさか【アサシン】で放った渾身の矢も簡単に避けられるとは。真っ向勝負は負けるな、これ。
【ディスペル】でクロロの精神支配が解除できたらいいが、結界型の魔術は一度発動してしまえば術者の制御無しに使用分の魔力が尽きるまでは稼働し続ける。これでは【ディスペル】が意味をなさない。
本当に……クロロを倒さなくてはならない。が、それが簡単でもない。
あの雷速のベルリガウスよりも速いのだ。雷よりも速い……それは達人の域じゃない、自然を超越した伝説の域だ。想定が甘かった……今までのクロロのイメージで戦っていたら、殺させるのは俺だ。もうクロロは最盛期の実力とほとんど同じ力を持っている。その実力は未知数だ。
俺はもう一撃放ち、クロロの前進を阻害してから身体を捻って上下を戻して着地……さらに後ろに飛び退きながら矢を放つ。【引き打ち】……前にもやった、後退しながら射撃を行う技術だ。銃同士の射撃戦に使うものだが、今はクロロから距離を取りたい。
俺はクロロの下半身に向けて放ちながら後退を続ける。下半身が起点で放たれるクロロの剣術は、こうされれば身動きが取りにくいはずだ。それに、前進し難い位置に放っているため、クロロは殆ど動けていない。
いけるか?
俺がそう思ったとき、それがフラグにでもなったのかクロロが左右にブレて霞むように掻き消えた。
と同時に、俺の背後にクロロの気配を感じる。俺は大きく上に跳躍し、背後にいるクロロを飛び越える。
クロロは俺の背後の影から這い出てくると、刀を振り抜いた。もちろん、俺は既に跳躍していたので当たりはしなかったが……今のは【シャドルイン】だな……クロロは闇属性と相性が良いようだったが今まで魔術なんて使わなかった。
まさか、こんな状況下で使ってくるとは……いやらしい奴だ。
クロロは視線を上空へ向け、放物線を描いて地面に着地した俺を目で追っていく。そして再び掻き消えると、今度はクロロが跳躍し、宙で回転する。
「【斬月】」
赤い円の軌跡を切り裂き、クロロの重い一撃が迫ってくる。俺は左へ飛び退き、引きながら矢を放つ。
クロロは地面に刀身を叩きつけ、弾かれるように宙を舞う。そして今度は鞘の方で俺へ向かってきた。
「っ!」
今度は右へ左へ……回避行動をとっていけばいくほどクロロの追撃が激しくなる。
「いい加減にしろ!【バリス】!」
ズガーンと衝撃が走る。【斬月】と【バリス】が衝突……この二度目の衝突は俺の【バリス】が制した。
「……」
クロロが右に握る刀身を弾き飛ばす。クロロの右上が上方に上がり、大きな隙が生まれた。
「もういっぺんくらえ!【バリス】」
連続【バリス】……負担はあるが、今は普通の【アサシン】による矢ではクロロを仕留められない。
クロロは向かってくる【バリス】を見て、弾かれた右腕を戻さないまま下半身に力を入れる。腰を捻り、左に握る鞘で【バリス】の纏う風の壁の側面を滑るように沿わせ、衝撃を逃がしながら自分の身体を吹き飛ばさせる。
【バリス】から大きく弾かれたクロロは空中に投げ出せれたが、直ぐに地面へ着地し、俺に赤い光の宿る瞳を向けた。
ふと気が付いたが、俺もクロロも息が上がっている。極度の緊張とハイスピードな展開に身体や脳が同時に酸素を欲しているのだ。肩で呼吸をしているのは俺だけじゃない……クロロも同じなのだ。精神支配を受けて表情は機械のように動かないが、僅かに動揺を見せたりする。
…………ふぅ。
ザッと俺が動くと、クロロも俺に合わせて動く。同時に俺は錬成術で弓を剣へ……そして【ブースト】を発動して身体を剣術に特化させる。
金の閃光と赤の稲光が交じり合い、甲高い金属音が一回……二回と響き渡る。
「……」
これにクロロが困惑の表情を見せた。先ほどまで、俺よりもクロロの方が遥かに速かった。捉えることも困難な速度だった……だが、俺はクロロの速さを見切った。何度も見ていれば、さすがに慣れる。クロロが人族の、そして女性の身でどうやってその速度に至ったのかも理解出来た。戦闘モードvol.2の俺なら見様見真似でもクロロの動きはトレース出来た。
今、俺もクロロと同じ速度の域で戦える……。
「ここからが本番だ。クロロ!!」
「…………ィ……んっ」
何か、クロロが声を漏らした気がした。
–––☆–––
「……【月影】」
「【パワーエッジ】!」
初級火属性剣技【パワーエッジ】……火の元素特性により威力の上がった一撃を叩き込む剣技だ。
クロロの放った【月影】と【パワーエッジ】が衝突し、一帯に衝撃が走る。
「きひええええええぇぇええええ!?」
バートゥの悲鳴が聞こえたが、どうでもいい。俺とクロロは同時に走り出し、エルカナフから飛び出し、近くの森林地帯まで戦闘を続けながら走る。
「……っ」
クロロが稲光を走らせ、刀身を振るう。木々が綺麗に伐採されて倒れる。俺は構わずクロロに一撃を叩き込んだ。
「うおぉっ!!」
気合いとともに振り下ろした一撃……クロロは歯を食いしばって両手の刀身と鞘で受け止めた。
衝撃が再び走る。地面へ逃がされた衝撃により、クロロを中心に地面が陥没……木々がそれでバランスを崩して中央に立っているクロロに向かって倒れ込む。
俺は後ろに跳躍してそれを躱し、俺と鍔迫り合いをしていたクロロは僅かに回避が遅れる。とはいえ、倒木程度……クロロにとって何の障害でもないだろう。その両手に握る己の刃で倒れてきた木々を全て斬り刻み、俺に向かって前進する。
俺は向かってくるクロロを迎え討つべく剣を正面に構え、突っ込んできたクロロと衝突……衝撃が身体を蝕む前に地面へと逃がし、クロロと鍔迫り合いになる。
「くっ」
「……っっ」
どちらも引きを取らない鍔迫り合い……本当に、こいつの身体のどこからこんな力が出てきやがるんだ!
俺は魔力保有領域を開き、剣技を始動する。全属性で最も速い雷属性の剣技……中級剣技【サンダーエッジ】だ。 
紫色の輝きを帯びた俺の剣を見たクロロは、直様俺から離れようとする。体重が後ろへ逸れた瞬間……俺は瞬時にクロロの足下の地面を無詠唱で柔らかいフカフカな土に錬成……今にも後ろへ飛ぼうとしていたクロロは足が呑まれ、それでバランスを崩した。
ここだ!
「喰らえこの大馬鹿女あぁぁぁぁ!!」
俺は雷を纏った剣を振り下ろした。
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