一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

吸血鬼の王

 アルダンテの言う通りだった。
 セドは崖の壁面から飛び出すと、数百メートルの距離を爆風を纏いながら詰めてきた。
 俺は予め予測していたセドの行動に対し、冷静な対処を行う。

「【ディ……っ!」

【ディスペル】で警戒させ、無詠唱による初級地属性魔術の【ロックランス】を自分の前方へ放とうとしたところでセドが俺の視線から外れた。
 気配を頼りに探ると、セドは俺の死角となる上方を取っていた。咄嗟に練っていた魔力をそのままに【ロックランス】を自分の足元に発動してその場から緊急脱出……セドは【ロックランス】に向かって拳を下ろした形となった。

 ズンッ

 と、そんな重低音が森に響き渡る。セドの振り下ろした拳が柔らかな地面を吹き飛ばし、その下の固まった堆積した地面を砕いた。
 その衝撃は俺の方にまで襲ってきた。

「……っ」

 強い……。

 俺は自分を襲う衝撃を受け流しつつ、セドに対して素直にそう思った。
 俺は魔力保有領域ゲートから魔力を引き出し、再び弓技を放った。

「【バリス】!」

 轟音が撒き散らされ、爆風が一帯を支配する。俺の固有弓技……二度目ともなり、セドは易々と避ける。俺はそれを予見し、全身を雷の元素特性で活性化させる。心臓の時間を風の元素特性……物体の時間を遅くしたり早めたりする力を使って早め、鼓動を急速に高める。全身にエネルギーが渡り、血管をが浮き立つのを感じる。
 俺の固有オリジナル必殺奥義……!

 シュッ

 と、地面を蹴ってセドの真正面へ躍り出た俺は右拳を握りしめて放った。

「【トップガン】!」

 俺の持つ必殺技の中でも貫通力と破壊力に優れた【トップガン】……衝撃貫通の【鎧通し】でセドの身体を貫いた衝撃が森に被害を出さないように斜め上方へ放つ。
 地が鳴り、草木が爆風で大きく揺れる。その中心となるセドはその場で木っ端微塵となるや否や、数秒とかからない内に全身再生を始める。俺はその回復力に舌を巻きつつも、拳に雷を纏う。さっきレーネにやろうとしていた分解……俺がそれを実行しようとすると、再び邪魔が入った。

「やれやれ……まさか、セドまでも退くとは。退屈しないな」
「……アルダンテ」

 再生しているセドと俺の間に割って入るように、ポケットに手を入れたまま余裕綽々なアルダンテが立っていた。咄嗟に飛び退き、アルダンテの様子を伺う。
 アルダンテは俺を見下ろすように眺め、クツクツと笑う。

「強いな……まさか伝説か?」

 俺はブルブルと首を横へ振った。そんなわけないだろ……。
 アルダンテは俺の返答にさして興味がなかったのか、ふぅんと俺から視線を外した。

「残念だ……だが、君が極上の糧であることに変わりはない。セドをも退く実力だ。私の食事に相応しい」
「遠慮しておきます」
「遠慮することはない。私の糧となるのだ。光栄に思いたまえ」

 アルダンテは血のような赤い瞳を煌めかせ、その金の髪を逆だたせる。ゼフィアンもなんとなくそうだったが……魔王というのは雰囲気が違うものだ。相対しているだけで、肌ヒリヒリとする。まるで、伝説でも相手にしているようだ。
 と、突然ピーっという笛の音が聞こえた。

 放火の合図。

「む?なんだ……」

 アルダンテは突然の音に顔を顰めた。それから洞窟の方へ暫し目を向けていると、中から悲鳴や爆音が聞こえてきた。

「なにっ!?」

 アルダンテは突然の事態に驚いたようで、俺にサッと目を向けて言った。

「……何をした?」
「吸血鬼退治を少々」
「アルダンテ様」

 アルダンテのメイドであるレーネが様子を見てきたのかアルダンテに声をかけ、続けて言った。

「どうやら洞窟内に火を放たれたようです」
「火だと?」
「はい。抜け道から侵入を許したようです」
「……っ」

 アルダンテは歯噛みし、レーネから俺へ目を向けた。

「やるじゃないか……」
「どうも」
「この私の目から逃れるか……面白い」

 アルダンテは全身から殺気を放ち出す。
 やる気か?それならそれで相手をするが……俺は【トップガン】で傷付いた身体を治療魔術の【ヒール】で癒す。
 残りの魔力が少ない……やっぱり、相手したくないなぁ……。
 俺はそんな気持ちを悟られないように身構える。そうやって身構える俺を見て、アルダンテはフッと笑うと殺気を納めた。俺は思わず眉を顰めた。

「どういうつもりですか?」
「ふむ……いや、その状態でやり合いたいというのなら私は構わないが……」

 気づかれてる。

「だが、それは私の本意ではない。それに私の目的は目立つことでもない……」
「目的……?」

 アルダンテは俺に背を向けて、完全に戦意がないのを示す。そのまま【バリス】でも放ってやりたいが、森への被害を考えるとやめた方がいいだろう。俺も弓を捨て、戦闘モードだけは維持したままアルダンテを見据える。
 アルダンテは俺に背を向けたまま、身体を完全に 再生させた全裸のセドに自分の上着を掛けてやり、俺に言った。

「まあ、この際だから教えてやろう。私は新時代の幕開けを見届けに来たのだ」
「新時代の幕開けですか?」

 アルダンテはニヤリと尻目に俺を見て、続ける。

「そうだ……。これから世界は大戦の時代へと突き進む」
「どういうことですか?」
「魔術協会が動き出したのだ」

 俺は一瞬、眉を寄せた。その反応を見て、アルダンテは何が面白いのかクツクツと笑った。

「そうか……知っているか。いや、奴らが何を成そうとしているのか……その細部までは知らないな?」

 確かに知らない。ただ、魔術協会が動き出すに違いないとは考えていた。神聖教会と魔術協会の衝突はもはや避けられないところだったからだ。
 しかし、もう動いている?動き出したって……?
 俺は頬に冷や汗を流しながら、アルダンテへ言った。

「魔術協会が打倒神聖教会に向けて動き出した……ということですか?」

 俺がそう言うと、アルダンテは俺に完全に向き直って首を横へ振って言った。

「いいや、違うな。確かに、奴らは神聖教の……いや、神の支配する今の時代を終わらせようとはしているが違う。奴らの目指すところはもっと先だ」
「先?」
「そう……奴らはそもそも神聖教会と正面衝突するつもりはない。奴らは全世界の国々へ同時に侵攻し、魔導機械マキナアルマの力を知らしめる。神の威光を跳ね除け、新たなる支配体制を築くためにな」

 つまりそれは……、

「全世界に宣戦布告……を?」
「その通りだ」

 アルダンテはこともなげに言った。

 待て、そもそも魔導機械マキナアルマってバニッシュベルト帝国が……いや、違う。違う……魔導機械マキナアルマの発明をした人物はバニッシュベルト帝国の研究者でも何でもない。オルメギダ・テラーノ……魔導機械マキナアルマ開発の第一人者。この人が魔術協会の人間だったのか……?そうだったとしたら……それはとんでもない勘違いを……。
 そして、ふと思い出す。オルメギダ・テラーノ……俺が霊峰から帰ってくる馬車に半年も乗り合わせた老人……まさか、同一人物か?
 状況的にアルダンテの言うことは嘘じゃない。魔王クラスがいる理由としては何だか弱いかもしれないが、そもそもこいつらの考えなど深く考えるだけ無駄だ。伝説とて、ベルリガウスやらバートゥみたいなよく分からない奴らばかりなのだ。

「全世界に宣戦布告って、レヴィ領を治める貴方も喧嘩を売られたも同意では?こんなところにいてもよろしいのでしょうか?」

 俺がそう言うと、アルダンテは鼻で笑い飛ばした。

「私の領地に侵攻したところで我が同胞達が遅れをとるはずがないさ。私は大戦時代の幕開けを見届けた後に、この時代をゆっくりと楽しませてまらいたいのさ」
「ずいぶん……いいご趣味で」
「よく……言われるな」

 あ……そう。

 アルダンテはクツクツと笑い、俺から視線を外して木々が薙ぎ倒されたせいで差し込んできた日差しに目を細めた。

「日差しが通らず、ジメジメとしていて過ごしやすいところだったが……そろそろお暇するとしよう。魔術協会はもうすでに侵攻している」

 既に侵攻している……進軍という意味ではないのを俺は理解した。もしかすると、既に魔術協会の軍勢は……全世界同時だとすれば王都に?
 俺は様々なことを思考しながら、アルダンテに問うた。

「なぜそんなことを僕に教えるのですか?」
「む?あぁ……」

 アルダンテはそれを聞いて肩を竦め、何でもないように答えた。

「その方が面白そうだろう?この後の君の頑張り次第ではまだ救えるものがあるかもしれんぞ?」
「……」

 アルダンテの言う侵攻が、【テレポート】による大軍の奇襲なら……王都イガリアには甚大な被害が出ているはずだ。
 雷帝の戦で消耗し、帝国の派兵に軍も割いている。そんな中で直接転移による大軍の奇襲などされれば、ひとたまりもない。
 普通ならば街中へと大軍の直接転移はその街の王宮クラス……つまり、熟練級が数十人か達人級が一人の張った特殊結界によって不可能となっている。だが、相手は魔術協会……もしも王都にいる王宮魔術師がグルならば、この手法で魔術協会はどこの国の首都へいつなんどきでも転移することができる。大軍で……。
 俺はアルダンテから引き出した情報から連想していき、現状を把握する。
 その上で俺はソニア姉とラエラ母さんの安否確認の必要性を考える……ラエラ母さんはすごく心配だ。だが、ソニア姉は……王宮で働いている。そこまで危険ではないように思えるし、何よりもソニア姉には最高神官セリー並みの神の加護がある。そんじょそこらの魔術師の攻撃では傷一つつかないだろうが……。

 やっぱり心配だ!

 俺は戦闘モードを解いた。こんなことしてる場合じゃない。そもそも、山賊討伐だって終わったようなものだ。
 戦闘状態を解いた俺を見て、アルダンテは言った。

「ふっ……では、私は行くとしよう」
「まだ洞窟の中に誰か生き残りがいるかもしれませんよ?」
「確認したさ。全員、灰さ……全く恐れ入る。ではな」

 手をヒラヒラとさせ、アルダンテはメイドを連れて闇に消える。最後にセドが尻目に俺を見ていたが、結局は何も言わずに消えていった。
 なんだったんだろうか……あいつ。いや、それを考えるよりも先にやることがある。
 俺は別働隊の全員と合流した後に現状の説明をした。



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