一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

アルダンテ・ザ・レヴィアタン四世

 ※


 鳥達の羽ばたき、草木の揺れる音……それでここが正しく森の中なのだと実感する。
 現在、俺は数十人規模の隊を引き連れて吸血鬼の潜伏していると思われる洞窟付近までやって来た。
 ここまでで何度か魔物が近づいてくる気配がしたが、どういう理由か魔物達は森人を見ると、大人しく消えていった。
 森との親和性が高い、妖精族森人エルフ種力……少し興味があるが今ここでそれについて考察している暇はない。

「各位、隠密行動を継続……目標地点を目視にて確認しました。作戦通り、洞窟の表を僕たちが抑えます。冒険者と集落の人たちで抜け穴がないか調べた後、合図を送ってください。それと同時に放火を開始」

 俺の言葉に全員が静かに頷くと、作戦通りにみんな自分の役割へと向かっていく。
 俺は俺で兵士たちを背後に付けたまま、目標のいる洞窟入り口を茂みの中から覗き見る。入り口を見ると、見張りはいない……見張りを置くと俺たちはここにいると教えているようなものだ。ある意味、頭の良いことだ。
 しかし、奴らは俺たちがここへ到着したのをすぐ様察知してみせた。俺の索敵スキルに引っかからない何か特別な方法で奴らはそれを知ることができたのだ。見張りがいないのは、その方法が関係している……。

「……」

 つまり、"目"じゃない。肉眼で俺たちを確認したのではない。俺と同じか、似たような……気配かなにかで俺たちの存在を認識したのだ。
 立ち入ると反応する結界系統の魔術ならば、俺が感知できるから違う。となると、千里眼のような魔術……千里眼なら俺の索敵スキルよりも遥か遠くから俺たちを見ることができる。しかも、あれは視線を感じ取ることができない。
 千里眼は達人級の魔術だ。つまり、そのレベルの魔族吸血鬼ヴァンパイア種がいる。

「大将……」

 アースが俺の背後で俺を呼んだ。尻目に見ると、兵たちは緊張しているように見える。だから、俺は明るく振る舞うように言った。

「大丈夫だよ。僕たちは敵を洞窟から出さないよう陽動……別働隊の合図があるまで耐えればいいんだから。それに昨夜の夜襲で僕たちでも十分だって分かったでしょ?」

 俺が言うと、兵士たちの顔に活気が出てきた。

「大将がいうんだ……大丈夫だな!」
「そうだな!」
「なにかあったら大将がいるしな!」

 頼りに……されてるようだ。俺は苦笑しつつ、背後に気を配りながら合図を待つ……その最中だった。洞窟の入り口から吸血鬼が三名出てくると、真っ直ぐこちらは向かってきた。それを見て、俺は大人しく茂みから出て、後ろの兵たちにも出てくるように手で合図する。

「大将?」

 と、アースが訝しげな表情で言ったので小声で言った。

「バレてます……」

 もしも、俺の予想通りに千里眼の魔術を使用しているとしたら……茂みにも隠れていたのはバレバレだったはずだ。
 俺の言葉を聞いて、一瞬硬直したアースだったが……それから直ぐにニッと悪い笑みを浮かべた。

「大将の予定通り……だな?」
「……まあ」

 元々、千里眼使いがいるのは予想していた。まだそれが的中しているか定かではないにしろ……。千里眼使いの目がこちらへ向いているのなら、少なくとも裏へ回った別働隊の存在に気づいてはいない。千里眼は見続けなければ、その効力を発揮しない。
 千里眼という魔術は、一種の空間制御魔術だ。視覚を空間制御で別のところに飛ばす……いわゆる、【ロケイティング】という高等技術だ。本来自分の手足に魔力を集中させ、魔術を発動すると手足から【ファイア】の火の玉が出る。
【ロケイティング】は魔力を別の場所に集中させて、自分の手足とは別の場所に魔術を発動する技術なのだ。
 茂みから出て、吸血鬼に目を向けて対峙する。三人の吸血鬼は俺を一斉に見る。その内の一人で、真ん中にいるのは男で身なりが整っている。横にはメイド服を着た女がいる。真ん中の男は俺を興味深そうに見ていて、女の方は興味もないように俺をジッと見ていた。そして、真ん中の男の吸血鬼が突然大きな殺気を飛ばしてきた。【コウガ】だ。殺気で相手を気絶させる体術の高等技術……俺なら耐えられるが、恐らくこの威力の【コウガ】を受けると後ろにいるアース達が失神するか、最悪ショック死する可能性があった。
 そう考え、俺も【コウガ】を放ってその男の殺気を相殺した。すると、男は驚いたような顔をしてから面白いものを見るように俺を凝視した。
 それに加え、そこで初めて横にいたメイドも俺に興味を持ったように瞳の色を変えた。
 この水面下の戦いに気付かないアース達は首を傾げ、俺に近づいてこようとしてきたので手で制した。それに続くようにして、吸血鬼の男が言った。

「ほぉ……いい判断だ。私の従者は血の気が多いからね。無闇に動くと、首が飛ぶかもしれん」

 その従者からアース達の距離は十数メートル……剣術の間合いならば一足から二足だが、この距離で一瞬にして首を飛ばすとなると剣術ではない。武装はしていないように見える……となると、体術だ。
 そして、体術の中級体技にある【手刀】ならば首を斬り飛ばすことが出来る。見た所、メイド二人の身体つきは服で分からないが……その立ち姿から体術が基本だと推測できた。だが、それだけではないだろう。魔術も使えるように見える。
 俺は相手の力量を分析しつつ、肩を竦めて男の言葉に返した。

「では、動かないことにしましょう」

 そう言うと、男は笑った。

「ハハハッ……たしかに。それが一番安全ではあるが、面白味はないな。レーネ、退屈凌ぎにお相手して差し上げろ」
「かしこまりました。アルダンテ様」

 左隣に立っていたメイドの一人がお辞儀してから、その男の目の前に立って、俺に対峙する。俺は後ろ手にアース達へ下がるように指示する。
 メイドはそれから綺麗な立ち姿のまま俺に目を向けると、口を開いた。

「アルダンテ様のメイドの一人……レーネ。アルダンテ様を楽しませるため、参ります」
「そうですか。えっと、僕はグレーシュ・エフォンスです」
「……?」

 俺が名乗ったのが不思議だったのだろう。レーネというメイドは首を傾げた。俺は何でもないように答えた。

「名乗られたら、名乗るのが筋でしょう?それに……」

 と、俺はメイドの後ろにいる男に目を向ける。アルダンテ……ね。
 アルダンテで吸血鬼となると、俺が知る限りではアルダンテ・ザ・レヴィアタン四世しか知らなかった。
 アルダンテは歴々のレヴィアタンの名を冠する魔王を全て喰らい、その地位についたという。アスカ大陸レヴィ領を治める魔王であり、アスカ大陸の魔王達の中でも特に武闘派だ。
 どうしてそんな要人がこんなところにいるのか知らないが、少なくともそれについて考察しているか暇は、今はない。
 アルダンテの従者であるレーネは俺の返答を聞いて直ぐ、長いスカートを翻して俺に急接近してくる。得意技は【手刀】のようで、既に手を刃のようにしている。
 俺は一歩間合いを詰め、俺の首筋に伸びていた【手刀】の手を取って後ろへ流すように引く。そのまま反対の空いている手を腰に回し、膝のバネを使ってレーネを宙に放った。

「っ!」

 まさか投げ飛ばされるとは思わなかったのか、驚いたように目を見開いている。そんなレーネに俺は追撃を仕掛ける。
 空中で体勢を立て直そうとするレーネは上下が逆転している。俺はそのレーネの首筋に蹴りを放つ。
 バキッとした音がすると、レーネの首が折れてそのままレーネは頭から地面に落ちて、さらに首を折った。だが、もちろん俺は分かっていた。相手は吸血鬼……少しして、レーネはまるで攻撃が効いていないかのように立ち上がってきた。
 やはり、吸血鬼の回復力は半端じゃない。殆ど一瞬だ。

「ほぉ……」

 と、アルダンテが俺を見てやはり面白そうに笑っていた。






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