一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

放火作戦

 〈グレーシュ・エフォンス〉


 道なりに進んで半日ほどでカスタボンヌの町へと着いた俺たちは、その足でガラ・ガラの森へと向かう。ガラ・ガラの森まではそう遠くはない。

「さすがに戦闘は明日になるかな……森人エルフの集落に着いたら僕が話にいくから。装備の点検とかなにやらは任せるね」
「おうよ!任せとけって、大将!」

 アースはそう言って、馬上の俺を見上げる形で親指を立てた。すごーく頼もしく見えるんだけど、果たして大丈夫なのか……。
 エキドナはあれから王都へと戻った。話し相手がいなくなったので暫く退屈だったが、こうしてアースが隣に並んでいるので馬上で眠って落馬……なんてことにならなかった。
 こっちの世界に転生してもう十年以上も経つし、霊峰までの半年の移動も耐えた俺だが……いや、電車とか車とかが懐かしく感じてしまう。
 そういえば、帝国の魔導機械マキナアルマがあったっけな。あのファンジー感ぶち壊しの機械兵器……。あれが羨ましいぃ。
 そんなことをボヤボヤと考えつつ、馬の歩をパッカパッカと進めてようやくガラ・ガラの森の入り口へと到着する。入り口付近で隊を止めると、視線を感じたので木の上の方を見上げると、突然何かが光った。

「お」

 その光の正体は、矢の先端の鏃だ。矢が俺に向かって飛んできたのだ。俺が馬上で身体を反らして躱すと、突然の攻撃に兵が騒いだ。

「な、なんだ!?」
「落ち着いて」

 アース達を落ち着かせるために言ってすぐ、第二射の気配を感じとった俺は視線を感じる方向へ殺気を放つ。達人級の体術に用いられる技術……【コウガ】。よくある、殺気を飛ばして相手を気絶させたりする技術である。主に格下相手にしか使えないが……。
 俺が殺気を放つと、木の上から誰かが落ちてくる。それを、横から素早く何者かが地面に落ちる前に抱き抱えると、サッと忍者のごとく俺の前に膝をついた。
 その人物は顔を布で覆っていたが、長い耳だけは見えていた。見るからに、森人の男……そして俺がさきほど気絶させたのも同様に森人の男だった。

「申し訳ございません。貴方様はかの『閃光』グレーシュ様でしょうか」
「えっと……はい」

 やめてくれ……。

 だが、俺のそんな心の叫び声にも気づかずにその男性は続けた。

「私は森人族の一人……この森の守護をいい預かっている者。今日、書状にてグレーシュ様がお越しになると知り、このような試す真似をしたことお許しください」

 試す?

 俺が首を傾げると、俺の馬の後ろからアースがヅカヅカと歩いてきて文句を言い出した。

「やいやい!なーにが試すだ!こっちはお前らのために来てやってんのによ!」
「そーだそーだ!」

 アースを中心に兵達が文句を言う。うん、分かる。そして、それに続くようにして雇った冒険者パーティの『赤い爪』と『アックス同盟』のリーダーである、ソルバルトとジーンも不満なーにが顔で口を開いた。

「いきなり襲ってくるとは……礼儀がなってねぇな?」
「いくらなんでも、非常識です」

 うん、分かる。
 しかも、俺を狙ってくる辺りだ。大将の首をもぎ取る気満々だった。だが、これでは話もできないので馬上から俺は手を挙げて、文句を言っている全員を制した。

「ちょっと静かにして下さい」

 俺が言うと、全員押し黙った。
 俺はため息を吐いてから、馬から降りて膝をつく男性の前に立った。

「どうして僕を試したのか……理由を尋ねても?アリステリア様の命令によりこうして討伐隊を組んだ私達に対して、理由も無しに矢を放つような方々ではないと思いますが」

 俺はジッと、この状況を黙って見ている『赤い爪』のパーティメンバーの一人……布で顔をグルグルにしている奴を尻目に見ながら、そう言った。
 顔を隠しているが、気配で誰か俺には分かる。酒場で働いているはずで、冒険者なんて足の着きそうな仕事を何故しているのか分からないが……そいつはシルーシア・ウィンフルーラだ。
 元は帝国の大師長として大師団を率いていた『弓姫』の異名を持つ弓術の達人。最大射程距離五百メートルの長射程を持つ妖精族森人エルフ種の女だ。
 シルーシアが何も言わないのなら、これには何か理由があるはずである。シルーシアも、森人だからな。
 俺が訊くと、男は言った。

「領主様から聞き及んでございます。しかし、無礼を承知で試さなければならない事情があったのです。なにせ、あなた方が相手にしようとしている山賊共は、魔族なのですから」

 俺はその一言に顔を顰め、後ろにいた面々に動揺と怯えが走った。
 魔族は人族や妖精族、獣人族に並ぶこの世界の知性ありし種族である。人族と比較にならない身体能力と基礎魔力量を誇り、数々の特殊能力的な奴を持っている化物みたいな種族だ。
 それが、山賊としてこのガラ・ガラの森に潜伏していると言ったのだ。後ろの面々の動揺はおかしくもない。なにせ、魔族と人族など正面か、やり合えば十回戦って十回人族が負けるのだ。数が増えても同じだ。地の力に差がありすぎて、同じ達人級だったとしても人族の方が負ける。
 俺は目を細め、訊いた。

「それは……本当ですか?」

 すると、男はゆっくりと首肯する。
 どうしよう……相手が魔族だという情報は全くなかった。だが、魔族ならば町の外で過ごすなんて用意だ。森人を攫っていくのも簡単……。

「……」

 まずい。これはあまり宜しくない。
 こっちはほぼ人族で構成した討伐隊だ。相手が魔族となると、下手をすると全滅するかもしれない。
 さて、どうするか。そうな俺が考えていると目の前の男は膝をついたまま言った。

「我々がグレーシュ様を試したのは、相手が魔族ともなると其れ相応の力を持った方でないと、話にならないからです」
「それで試したんですね。まあ、それは別にもういいのですが…。それよりも、相手の種は何か?」
吸血鬼ヴァンパイア種です」

 その一言で再び動揺が周りに広がった。
 魔族吸血鬼ヴァンパイア種……他者の血とか精気を吸って力を得る種で、身体能力は魔族の中でも一二を争うほどだ。たしか、高貴な血……つまりなんか偉い奴ほど強いらしい。よくある何とか伯爵みたいな奴だ。また、吸血鬼は血の力……さっき言った魔族の特殊能力で血を自在に操る能力を持つ。さらに殺しても死なないらしい。
 そんなわけで相手によるが、とにかく種族的には魔族の中でもかなり上位の種だ。それの山賊の集団……。

「キナ臭いな……」

 俺は顎に手をやり、少し頭を巡らせる。アリステリア様がただ俺を派遣するとは思っていなかった。あの人は割と腹黒だから、裏に何か抱えているとは思っていたが……吸血鬼の集団、森人の誘拐……。

「どうかしましたか?」
「……いえ。なんでも」

 男に声をかけられた俺は一度思考を打ち切り、それから後ろを振り返って言った。

「何を動揺しているんですか?大丈夫ですよ」

 俺が言うと、ソルバルトが顔を青くした状態で言った。

「そ、それは『閃光』と呼ばれたあなたなら大丈夫でしょうけど……」

 それに続くようにアースが震えるような声で言う。

「さ、さすがに吸血鬼なんてよぉ……不死身なんだろ?どうしろってんだ大将……」
「そうだ……どうしようもない……」

 アースに続いて兵隊が騒ぎ出し、冒険者のパーティの中から依頼放棄を申し出ようとリーダーへ提案する者までも出てきた。
 それに対して、パンパンと手を叩いてこっちに注目させる。
 一様に困惑した表情で俺を見た。全員の視線が集まったのを確認し、俺はあることを教える。

「いいですか?たしかに、吸血鬼は不死身です。他者から得た血やら精気を使って、回復力を爆発的に増大させているのです」
「じゃ、じゃあどうするってんだ?」

 アックス同盟のリーダー、ジーンが頬に汗を垂らして尋ねてきた。うむ。

「この再生能力ですが、傷が塞がるカラクリというのは他の細胞が細胞分裂して……まあ、そんな小難しい話は今はいいでしょう。とにかく、不死身の相手に使う手段は一つ……」

 俺は言いながら、人差し指を立ててそこから火をユラユラと出す。

「火です」

 燃やして全ての細胞を一つ残らず灰にしてやれば、いくら吸血鬼の回復力を持ってしても生き返ることは出来ない……。

「相手の潜伏先は?」
「え?あ……は、判明しています」

 俺は膝をつく男に聞き、ふむと唸る。
 なるほど……。

「場所は?森のど真ん中だと、さすがに火は使えませんが……」
「ど、洞窟です」
「いいですねぇ。そしたら、その中に火を投げ込みましょうか」

 俺が言うと、この場にいる全員が押し黙った。なんだろう?

「え?どうしたんですか?」
「あーいや……多分みんなエゲツないとかおもってんだろうなぁ……」

 アースが俺から視線を逸らしながら言った。エゲツないとは失礼な……ちゃんと山火事にならないように考えてるんだからいいだろ。
 俺は咳払いしつつ、男に言った。

「とにかく……山火事にならなければ問題ありませんよね?」
「は、はい」
「では、今後の作戦を決めましょうか。まずは集落に案内していただいても?」
「こちらですっ」

 なんだか少し怯えられてしまった。納得いかない……。


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