一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

下準備

 ※


 翌日、俺は朝食を摂った後に暫くヌクヌクと過ごしてから、王城にある軍事塔へと向かった。
 そこの一階では、昨日のうちに募集をかけた兵士たちが数十人ほど列を作っている。ここから、さて何人採用するかと、俺は列の最後尾から志願兵達を眺め見る。
 山賊退治となると、戦場は山場になるだろう。そう考えると、大人数での行動は目立つし、邪魔だ。それは避けるべきだろう。
 冒険者ギルドからも募集をかけているし……そうだなぁ……うちで八人採用して、ギルドから傭兵として四人パーティを二組採用しようか。
 そうして、俺を含めて計十七名になるはずだ。

「お……」

 と、俺に最後尾にいた兵士が気がついた。見ると、俺と同期の兵士……アックスフォード・バトラキスが俺に気がついていた。アックスフォードのことを俺は、アースと呼んでいる。

「よっ」
「ん……なに?僕のところに転属希望?」

 アースは俺と同じマリンネア大師団の配属だったはずだ。

「転属希望申請が通ったからな。未来の大師長のところに付きたいって奴が多いのは当然だろ?」
「へぇー。って、未来の大師長って……」
「みんな噂してるってのっ。お前、一部じゃ英雄扱いなんだぜ?」
「大袈裟だね……随分と」

 俺が言うと、アースは肩を竦めた。

「大袈裟なもんかって。実際、今回師団級の募集がかかってたらもっと志願希望者はいただろうな」
「あぁ……そうか」

 今回、俺は山賊討伐程度だし……と募集は最小限にしかしていなかった。同時に俺は、この中から採用した者を将来的に師団の幹部級に当てようと考えていた。
 採用はより厳密になるし、フリーの兵士ならともかく転属を希望して採用されなければ後味も悪いだろう。

「それで、これか」
「そーいうことだ。フリーが数人……他は俺と同じ転属だな」
「なるほどね」
「よろしく頼むぜ、グレイ!お前と顔見知りってのを存分に利用させてもらうからな!」
「全くしょうがないなぁ」

 俺は肩を竦めつつ、アースから離れておよそ八名の採用者を決定した。


 ※


 俺は軍事塔にあるあまり使われていない一室で、資料を漁りながら山賊討伐の作戦を考えていく。

「えっと……採用した冒険者のパーティがCランクのパーティが二組ね。で、うちが八人で合計十六人……俺を含めて十七か」
「エキドナを合わせると十八ですが」

 と、俺が山賊が潜んでいそうなポイントを資料室から持ってきた地図を開いて考えている折に、エキドナが俺の影からひょっこりと出てきて、そう言った。

「お前は留守番だ」
「むぅ……しかし、ソニア様は王城という比較的安全な場所におられますし、ラエラ様にはユーリやシェーレちゃんがいますぅ」
「そりゃあそうだがな……俺、過保護なんだわ」

 そう言いつつ、俺は手元の資料とにらめっこして唸った。
 うむぅ……森人エルフ族を誘拐しているんだったよなぁ。彼らの集落は山岳地帯に挟まれた小さな平地にある。
 そこの森を切り拓いてほそぼそと暮らしており、毎年決まった数の木材を領主であるアリステリア様……公爵家に、税金代わりに納めているようだ。
 山賊は誘拐した森人族をどうするのだろうと考えれば、まあ……普通に考えれば、売り捌く。森人族は長寿の種の中でも最も長く生きる。それは樹木に関わる能力だと言われている。まあ、それは一度おいておこう。
 とにかく、そういった長寿の種の中でもとりわけ森人族というのは男女問わず見目麗しく、若々しい最盛期の状態で何百年と生きるものだから高値で奴隷商と取引がなされるらしい。金貨で数百そこいらといった値がつく。
 どこかの国では、森人狩りと呼ばれることすらあったようだ。高値で売れる森人で、国庫を作ろうとしたのだろうか。
 たが、その国はもちろん滅ぶわけだ。森人達の反乱により……。と、こんな歴史の話も今はいいか。
 とにかく、山賊などからそういった意味で狙われ易いのが森人族。
 山岳地帯に挟まれた平地の近辺で、狩りをしながら生計を立てているのか……となると、山岳部に登ることがあるのだろう。そこを狙われるとして、山賊はどこの辺りに潜伏するか……。山賊達の住処は鉱山跡や、もしくは洞窟……遺跡など。ここの近くにあるとすると……洞窟が数カ所か。
 この地図……結構正確だな。

「ご主人様ならば、現地に行けばすぐに居場所を掴めるのでは?」

 そうエキドナに問われ、俺はため息を吐いた。

「まあ、その通りなんだが……ただ、できる限り被害は抑えておきたいし、そうするならちゃんと作戦を考えないと」
「なるほど……敵の規模は如何程と?」
「数十人」
  
 これは過去の俺の経験や、奴らの住処などから考えた規模だ。地図を見た限り、集落近辺の洞窟の規模を考えればそこいらの人数が予想される。

「あとは、山賊達の誘拐は考えなしの突発的なものではなく計画的なもの……そう考えますと、集落をどこかから観察できる拠点、もしくは仮拠点があるかもしれないですねぇ」
「なるほど……」

 偶々出会って森人を攫うなどといった非効率なことを、町の外で暮らしている山賊達がするはずかない。まあ、偶々道中で見つけた貴族の馬車などは割と適当に、いけそうなら突発的に襲うようだが……。こと森人に関してなると、話は別だ。
 森人族を攫って生計を立てている山賊は、頭が良い。多少の学があるのだ。
 森人族は頭が良く、危機察知能力など各種パラメーターが身体能力以外は比較的に高い。その森人族を攫うのだ。実力でいえば、上級よりも上の輩が、一人は必ずいるはずだ。

「魔術の線は薄い……山場で森人族を攫うのに適した武術か」
「武術のみというわけでも。しかし、だとしたら心あたりが?」
「ある……そもそもどの武術でも割と木々の生い茂る場所を想定した戦法ってのは考えられているんだ。弓もまたしかり」
「ご主人様のように変幻自在に矢の軌道が変化するのなら、たしかに……」

 エキドナが皮肉を込めて言ったのを、俺は肩をすくめて受けた。

「俺だけじゃないぞ。流派にはよるが、大抵は達人級にもなれば同じことしてくる」
「なんでもありですねぇー」

 お前も大概そうなのだが……。

「いやですねぇー。エキドナはそうでもないですよぉ」
「ナチュラルに思考を読むのやめてね……」

 とはいえ、あまりにも的が多すぎて絞りきれない感じだな。姿の見えない相手に、極端に恐れるのは相手の思う壺ではあるが……俺は慎重派なのだ。ある程度の目星を付けたいところだ。

「そういえば、出発は?」
「ん……?あぁ……」

 討伐隊を編成した後に……って、たしかゲハインツ将軍が言っていた。討伐隊の各メンバーや、ギルドから雇った傭兵との兼ね合いも考えて……明日の昼頃か明後日になるだろう。
 そう答えると、エキドナは頷いて言った。

「早い方がよいでしょうし、エキドナの方から冒険者に連絡致しますぅ」
「突っ込まないからな……じゃあ、よろしく頼む」
「突っ込むとはナニを……承知しました。では、明日の正午で?」
「何口走ってやがる。……あぁ、それでいい」

 俺は半眼でエキドナを眺めながら言った。すると、エキドナは頬を紅葉させて言った。

「それはもう……ご主人様の」
「自重しろ」
「え、エキドナはご主人様の物ですからね!そんな……迫られたら断れませんっ。……『ぐへへ、この卑しい雌豚がっ!』『いやぁ!お許しくださいご主人様ぁ!!』」
「他を当たってください」

 うちの従者は優秀だが、この性癖だけで大分借金している気がする。

(閑話休題)

「じゃあ、冒険者達の相手をエキドナに任せるとして……あとは、こっちか」
「そうですねぇ。まあ、エキドナとしてはある程度の目星を付けておく……ということでよろしいと思いますけれど」
「まあ、そうだな……」

 人身売買を生業としているのであれば、指名手配されていてもおかしくはない。新参か古参か……それによっては、少し状況が変わる。
 新参の人攫いならば、キャリアがない分捕まえるのは容易い。だが、古参ならばキャリアがある。その分だけ、こちらが厳しくなる。なぜなら、こちらの頭は指揮をとるのが初めてなのだ。

「あまり気負っても仕方ないか」
「その通りでございますよ。それより、エキドナとしては他に気になることが……」
「ん……なんだ?」

 卓上の地図から視線を切って、エキドナに目をやるととても神妙な表情で俺を見た。一瞬、なんだろうと思ったが……こいつとの関係もそこそことなった俺は、あぁ……なんか下らなさそうだなと半眼になった。

「クーロン・ブラッカスとは、どの辺りまでいったんですか?」

 その瞬間、俺は目をクワッと目を見開いた。突然の質問に動揺したからに他ならない反応だ。それをエキドナが見逃すはずもなく、したり顔で俺の頬に唇を近づけた。

「ど、どの辺りってなんだよ……」
「それはもう……口では言えないあんなことやこんなこと……。ご主人様は乙女にそんなことを言わせたいのでございますか?」
「お前、SなのかMなのかはっきりしろよ」
「……?」

 よく分からないようで、エキドナは首を傾げた。

「そんなことより、どうなのですか?」
「黙秘権を行使します」
「審議会ではないのですが……」

 審議会とは、いわゆる裁判所のことだ。

 エキドナは吐息が触れるような距離までつめて、囁いた。

「ほら、例えば……夜な夜な身体を重ねたりなど」
「はぁ……そんなこと、するわけないだろ」
「さすがご主人様。まだ、筆も下ろしていないというのに赤面せず淡々と言い切るとは」

 誰が童貞だ。

 下の話には慣れてるんだよ。今更、そんなことで赤くなったりしない。い、いやーホントーダヨー?
 ただ、クロロとの関係はそんな下世話なものじゃないからそうならないだけだ。

「一部の小金持ちや特権階級、それにご主人様くらいの階級の兵士などは夜な夜な仮面舞踏会という、一夜限りの関係を築ける場所へ赴くと」
「どこ情報だ」

 というか、そんな場所があるのか。俺は愕然とした。

「エキドナ情報ですぅ。顔や身分を晒さず、ただ欲を満たすためだけの場だと聞き及んでございます。どうです?そこへ行ってみられては」
「い、いや……いかないよ?」

 別に興味なんてない。いかない。い、いや……絶対に。
 エキドナは葛藤している俺を見て、可笑しいようにクスクスと笑っている。全く腹立たしいのだが、怒る気にはなれないのだから不思議なものだ。

「じゃあ、よろしく頼む」

 俺が気を取り直して言うと、エキドナは嬉しそうに頷いた。

「畏まりました。全ては、ご主人様のため……そして、エキドナのために」




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