一兵士では終わらない異世界ライフ
帰還
–––☆–––
「お兄ちゃんっ」
「おっと」
俺はラエラ母さんから飛び出してきたツクヨミちゃんが足に抱きついてきたので、それを受け止める。
ギュッと力を込めて腕を回してきたが、痛くはない。むしろ、身体は人形なのにとても柔らかい。
「大丈夫?怖かった?」
訊けば、ツクヨミちゃんは潤んだ瞳で顔上げ、上目遣いで俺を見つめて言った。
「お兄ちゃんっ」
「…………」
なんて可愛い生き物(?)なんだ。
「ありがと……グレイ」
ラエラ母さんは、言いながらツクヨミちゃんの小さな頭に手を乗せて優しく慰めるように撫でる。
相当怖かったのか、身体が震えている。服の袖から見える球体関節がカチカチと音を立てているのだが……これは大丈夫なのだろうか。
「ううん。気にしないでよ……それより、母さんは大丈夫だった?」
「うん……私は全然。エキドナちゃんもいたしね」
「そうですよぉーご主人様ぁ。エキドナがいるのに、手を出せるんけがないですぅ。まあ……すこし油断して、ツクヨミちゃんに指先一本触れさせてしまいましたが……これは……お、お仕置きですか!?」
この変態置いてこうかなぁ……。
「別に、そのくらいでお仕置きはしない」
というか、したくない。
俺はハァハァと鼻息の荒いエキドナを半眼で見つめながら言った。
すると、ドM的に何がよかったのやら……身体を震わせて頬を紅潮させた。
「お、お預けプレイも……それはそれで……」
この変態置いてこうかなぁ……。
「あ、で……夕食の買い物?」
俺は気を取り直して……変態を放置して、ラエラ母さんに訊く。
「うん。何にしようかなと……迷ってた」
「そっか。じゃあ、僕が荷物持つよ。なんでも買って」
「そう?じゃあ、お願いしちゃおうかな?」
ラエラ母さんとそう言って柔らかに笑うと、エキドナに言って買い物を再開させた。
俺は足元で未だに抱きついて固まっているツクヨミちゃんを優しく抱き上げ、どのようにしようかと迷った挙句に頭の上に乗せてみた。すると、予想外にフィットした。
 
「はふぅ……」
と、ツクヨミちゃんも気に入ったのか髪の毛を掴んで脱力した。リラックスできたようで何よりである。
絵面的に、俺は頭に人形を乗せている変人になりそうだが……まあ、気にしないことにする。
そうして俺も、ラエラ母さんやエキドナに続いていった。
–––☆–––
夕食の材料を買い込んだラエラ母さんから荷物を受け取り、俺たちは家に帰った。夕食の材料からして……なにかのスープだろう。
夕食を楽しみにしながら帰宅して直ぐに、ラエラ母さんとエキドナが夕食の準備に取り掛かる。ツクヨミちゃんは未だに俺の頭の上にいた。
帰ってくると、ユーリが玄関で出迎えてきた。その際に、ユーリが俺にいつものように喧嘩を売ってきた。
「懲りないな」
といえば、「うるせぇ!」とでも言うかのような鳴き声を上げた。
「ニャッ!」
「む」
俺は飛びかかってきたユーリを、半身になって躱す。着地したユーリは反転し、今度は足元をグルグルと回りだした。
若干、蹴飛ばしてやろうかと思ったが……さすがにその手はないなと思い直し、とりあえず我慢して様子を見る。
と、ユーリは「ここだ!」と言わんばかりに俺の小指辺りに爪を立ててきた。
「うわっと」
俺は反射的にそれを避ける。と、ユーリの爪が床に深々と突き刺さった。
危ねぇ……。
「おい、いい加減に……」
俺が言う前に、ユーリが飛びかかってきた。だが、ユーリが俺に触れることはできなかった。なぜなら、その手前で何かの力に阻まれるようにして、ユーリの身体が地面に落ちたからだ。
「ユーリ……ちゃん。メッ……ですよ……?」
ツクヨミちゃんが、俺の頭の上でプクッと頬を膨らませて言った。
 
「ニャー……」
まるで「だってぇ……」と、言い訳する子供のようにユーリが鳴いた。だが、ツクヨミちゃんはそれで許すことはないようだ。
「お兄ちゃん……いじめるの、メッ……です」
「…………」
なんて可愛い(ry
ツクヨミちゃんというユーリに対しての抑止力のおかげで、そのまま平和な夕食を終えた俺は……食後にエキドナの淹れた紅茶を飲みながら、ふとした疑問を述べた。
「クロロのやつ……おそいなぁ」
もちろん、みんな気が付いていたことなのだろう。揃って心配そうにしている。
「ワードンマさんに、アルメイサさんも心配……」
ラエラ母さんが言ったので、俺は努めて笑顔で口を利かせる。
「大丈夫だよ。ワードンマさんも、アルメイサさんも……そんなヤワな二人じゃ……」
と、言いかけ……家に何者かが高速接近する気配に、俺とエキドナ……とユーリが反応した。
「ご主人様」
「いや、待て。大丈夫だ」
この気配は……大丈夫だ。俺がそう言うと、エキドナはそうですかと目を伏せた。ユーリは元々興味がないのか、床に寝っ転がってゴロゴロしている。猫だけに……。
………………。
暫くして、バタッと玄関の扉が開け放たれる音が聞こえたかと思うと、直ぐにここの扉も開け放たれた。現れたのは、髪や服も乱したクロロだ。
ここまで全力で走ってきたのか、クロロは肩を上下させていた。
「はぁはぁっ」
「おかえりー」
「おかえりなさい」
「おかえ……りなさい」
「ニャー」
「…………?どした?」
それぞれがおかえりと述べる中で、クロロの様子が変だなと俺は声をかけた。まあ、走ってきたのだから、なにか急ぎの用があるのだろうが……。
顔を俯かせて呼吸の荒いクロロはやがて、顔をバッと上げると叫ぶ。
「ワードンマさんとアルメイサさんが!」
「え……なに?あの二人が……」
もしかして……あの二人に何か……。
「今日帰ってきたんです!」
と言ったクロロの後ろから、ワードンマとアルメイサが若干酔った感じで入ってきた。
「おーう、今帰ったのじゃ」
「ただいまぁ」
俺は無言で二人を見つめ、人騒がせなクロロに視線を移すと少し居心地悪そうにしていた。そうしてから、何か言い訳をするようにモゴモゴと口の中で声出した。
「そ、その……二人のお受けしたという仕事が……」
クロロがそこまで言うと、一瞬誰のものか分からないほど鋭い制止の声が轟いた。
「クロロちゃん」
「っ……」
はたして誰だったか……視線を巡らせると、笑顔のままのアルメイサにクロロが萎縮していた。アルメイサかと思ったところで……なにかあったのだろうかと俺は黙って見守った。
「すみません……つい」
「ダメよぉ?これは、私達の問題で……ここの人達には関係のないこと……そうでしょう?」
アルメイサの言う私達は、何もクロロたちのことを指している言葉でもないだろう。俺はその一言で全てを察し、状況がよく分かっておらず首を傾げているラエラ母さんやツクヨミちゃん……そして色々と察して面白そうに高みの見物をしているエキドナと、マイペースにゴロゴロしているユーリは無視して、俺は二人をここから連れ出した。
※
クロロやアルメイサ、そしてワードンマは普段がアレだから忘れがちだが……冒険者なのだ。ギルドと呼ばれる同業者組合に所属する巨大なコミュニティに属しているのである。
冒険者ギルドは所謂、独立した一つの国だ。例えて言うのなら、国に勢力を伸ばす教会や魔術協会などと同じ類のものだ。そういう集団……国なのだ。
クロロ達はその中でも、選りすぐりのパーティであることはよく分かる。三人の実力は熟練級に達し、クロロに至ってはそれを上回る。
そんな三人だ。どんな極秘任務を与えられていてもおかしくはない。つまり、俺たちが聞いていいことではないのだ。アルメイサの反応で、あの三人がどういう立ち位置にいるのかをよく……再認識した。
ラエラ母さん達はそれぞれ部屋へと行って、俺は一人……一階のロビーにもあたる応接間のソファでゴロゴロとしている。色々と整理をつけてたくて、一人で暫くそうしていれば、件の三人がクロロの部屋から出てきた。
すると、最初にクロロが俺の存在に気がついた声をかけてきた。
「あ、グレイくん」
「おう……なんだ。話、終わったのか?」
「はい」
特にその内容に語る必要はない。俺が訊いても答えられないだろう。
クロロと情報共有が終わったのか、アルメイサやワードンマはいつもの気の抜けたような様子でフラフラと俺の向かい側のソファに腰掛けた。
「久しぶりねぇ」
「久しぶりじゃなぁ」
「久しぶりですねぇ」
そう和やかに言葉を交わす。
クロロは所在なさげにウロウロし、どこに座ろうかと黙考した結果……ソファに座り直した俺の隣に座ることにしたらしい。
バフッと俺の隣に綺麗に腰掛けたクロロの横顔を、俺は少し見つめてからアルメイサ達に向き直った。すると、アルメイサがとてもニヤニヤした顔つきで俺たちのことを眺めみてきた。
「へぇ〜?ふぅん?ほぉ〜」
「な、なんですか……?」
クロロはそんな居心地の悪い視線に頬を引きつらせながら、抵抗を見せる。だが、そこのドS女はそんな細やかな抵抗を受ければ受けるほど……喜ぶようなタイプだ。
「なぁんでもぉ〜?ふぅん?」
「あうぅ……」
これにはクロロはお手上げといった風に、俺に助けを求めるようにして視線を巡らせてくる。
俺はその視線と目を合わせないように目を泳がせた。すると、クロロは半泣きで縋り付いてきた。
「な、なんで目をそらすんですか!」
「やめてください」
「冷たい!」
やめろ、俺を巻き込むな。
「ふふふ、仲がいいのねぇ?」
「かっー目の前でイチャつかんで欲しいものじゃな」
「別にイチャついているわけでは……」
クロロが言い訳するようにいうので、説得力は特になかった。
「はいはい、ありごとうごちそうさまぁ」
「うう……」
クロロは赤面した表情を隠すように俯く。
……仕方ない。助け舟を出すか。そう思い、俺は口を開いた。
「アルメイサさんとワードンマさんは、お二人で随分と長い期間一緒にいるおられた様子で……そちらこそ、なにかなかったのですか?」
俺は努めて丁寧な口調で、そして取って付けたような笑顔で言った。そうしたら、今度はアルメイサが赤面する番だった。
なるほど……意外だなぁ。
「なにを……言っているのかしらねぇ」
「そうじゃな。この女と二人旅でなにかあるわけなかろうて。趣味じゃないるのしのう」
それは失言だっただろう。ブチリと血管を切ったような音をさせたアルメイサが、靴の踵で隣に座るワードンマの爪先を踏みつけた。
「いっ!?な、なにをするのじゃ!」
「お黙り」
「なんじゃと!」
全く、思わず笑ってしまうようなものだが……隣でこの光景を見ているクロロが、どこか嬉しそうなので俺は目を瞑った。
「お兄ちゃんっ」
「おっと」
俺はラエラ母さんから飛び出してきたツクヨミちゃんが足に抱きついてきたので、それを受け止める。
ギュッと力を込めて腕を回してきたが、痛くはない。むしろ、身体は人形なのにとても柔らかい。
「大丈夫?怖かった?」
訊けば、ツクヨミちゃんは潤んだ瞳で顔上げ、上目遣いで俺を見つめて言った。
「お兄ちゃんっ」
「…………」
なんて可愛い生き物(?)なんだ。
「ありがと……グレイ」
ラエラ母さんは、言いながらツクヨミちゃんの小さな頭に手を乗せて優しく慰めるように撫でる。
相当怖かったのか、身体が震えている。服の袖から見える球体関節がカチカチと音を立てているのだが……これは大丈夫なのだろうか。
「ううん。気にしないでよ……それより、母さんは大丈夫だった?」
「うん……私は全然。エキドナちゃんもいたしね」
「そうですよぉーご主人様ぁ。エキドナがいるのに、手を出せるんけがないですぅ。まあ……すこし油断して、ツクヨミちゃんに指先一本触れさせてしまいましたが……これは……お、お仕置きですか!?」
この変態置いてこうかなぁ……。
「別に、そのくらいでお仕置きはしない」
というか、したくない。
俺はハァハァと鼻息の荒いエキドナを半眼で見つめながら言った。
すると、ドM的に何がよかったのやら……身体を震わせて頬を紅潮させた。
「お、お預けプレイも……それはそれで……」
この変態置いてこうかなぁ……。
「あ、で……夕食の買い物?」
俺は気を取り直して……変態を放置して、ラエラ母さんに訊く。
「うん。何にしようかなと……迷ってた」
「そっか。じゃあ、僕が荷物持つよ。なんでも買って」
「そう?じゃあ、お願いしちゃおうかな?」
ラエラ母さんとそう言って柔らかに笑うと、エキドナに言って買い物を再開させた。
俺は足元で未だに抱きついて固まっているツクヨミちゃんを優しく抱き上げ、どのようにしようかと迷った挙句に頭の上に乗せてみた。すると、予想外にフィットした。
 
「はふぅ……」
と、ツクヨミちゃんも気に入ったのか髪の毛を掴んで脱力した。リラックスできたようで何よりである。
絵面的に、俺は頭に人形を乗せている変人になりそうだが……まあ、気にしないことにする。
そうして俺も、ラエラ母さんやエキドナに続いていった。
–––☆–––
夕食の材料を買い込んだラエラ母さんから荷物を受け取り、俺たちは家に帰った。夕食の材料からして……なにかのスープだろう。
夕食を楽しみにしながら帰宅して直ぐに、ラエラ母さんとエキドナが夕食の準備に取り掛かる。ツクヨミちゃんは未だに俺の頭の上にいた。
帰ってくると、ユーリが玄関で出迎えてきた。その際に、ユーリが俺にいつものように喧嘩を売ってきた。
「懲りないな」
といえば、「うるせぇ!」とでも言うかのような鳴き声を上げた。
「ニャッ!」
「む」
俺は飛びかかってきたユーリを、半身になって躱す。着地したユーリは反転し、今度は足元をグルグルと回りだした。
若干、蹴飛ばしてやろうかと思ったが……さすがにその手はないなと思い直し、とりあえず我慢して様子を見る。
と、ユーリは「ここだ!」と言わんばかりに俺の小指辺りに爪を立ててきた。
「うわっと」
俺は反射的にそれを避ける。と、ユーリの爪が床に深々と突き刺さった。
危ねぇ……。
「おい、いい加減に……」
俺が言う前に、ユーリが飛びかかってきた。だが、ユーリが俺に触れることはできなかった。なぜなら、その手前で何かの力に阻まれるようにして、ユーリの身体が地面に落ちたからだ。
「ユーリ……ちゃん。メッ……ですよ……?」
ツクヨミちゃんが、俺の頭の上でプクッと頬を膨らませて言った。
 
「ニャー……」
まるで「だってぇ……」と、言い訳する子供のようにユーリが鳴いた。だが、ツクヨミちゃんはそれで許すことはないようだ。
「お兄ちゃん……いじめるの、メッ……です」
「…………」
なんて可愛い(ry
ツクヨミちゃんというユーリに対しての抑止力のおかげで、そのまま平和な夕食を終えた俺は……食後にエキドナの淹れた紅茶を飲みながら、ふとした疑問を述べた。
「クロロのやつ……おそいなぁ」
もちろん、みんな気が付いていたことなのだろう。揃って心配そうにしている。
「ワードンマさんに、アルメイサさんも心配……」
ラエラ母さんが言ったので、俺は努めて笑顔で口を利かせる。
「大丈夫だよ。ワードンマさんも、アルメイサさんも……そんなヤワな二人じゃ……」
と、言いかけ……家に何者かが高速接近する気配に、俺とエキドナ……とユーリが反応した。
「ご主人様」
「いや、待て。大丈夫だ」
この気配は……大丈夫だ。俺がそう言うと、エキドナはそうですかと目を伏せた。ユーリは元々興味がないのか、床に寝っ転がってゴロゴロしている。猫だけに……。
………………。
暫くして、バタッと玄関の扉が開け放たれる音が聞こえたかと思うと、直ぐにここの扉も開け放たれた。現れたのは、髪や服も乱したクロロだ。
ここまで全力で走ってきたのか、クロロは肩を上下させていた。
「はぁはぁっ」
「おかえりー」
「おかえりなさい」
「おかえ……りなさい」
「ニャー」
「…………?どした?」
それぞれがおかえりと述べる中で、クロロの様子が変だなと俺は声をかけた。まあ、走ってきたのだから、なにか急ぎの用があるのだろうが……。
顔を俯かせて呼吸の荒いクロロはやがて、顔をバッと上げると叫ぶ。
「ワードンマさんとアルメイサさんが!」
「え……なに?あの二人が……」
もしかして……あの二人に何か……。
「今日帰ってきたんです!」
と言ったクロロの後ろから、ワードンマとアルメイサが若干酔った感じで入ってきた。
「おーう、今帰ったのじゃ」
「ただいまぁ」
俺は無言で二人を見つめ、人騒がせなクロロに視線を移すと少し居心地悪そうにしていた。そうしてから、何か言い訳をするようにモゴモゴと口の中で声出した。
「そ、その……二人のお受けしたという仕事が……」
クロロがそこまで言うと、一瞬誰のものか分からないほど鋭い制止の声が轟いた。
「クロロちゃん」
「っ……」
はたして誰だったか……視線を巡らせると、笑顔のままのアルメイサにクロロが萎縮していた。アルメイサかと思ったところで……なにかあったのだろうかと俺は黙って見守った。
「すみません……つい」
「ダメよぉ?これは、私達の問題で……ここの人達には関係のないこと……そうでしょう?」
アルメイサの言う私達は、何もクロロたちのことを指している言葉でもないだろう。俺はその一言で全てを察し、状況がよく分かっておらず首を傾げているラエラ母さんやツクヨミちゃん……そして色々と察して面白そうに高みの見物をしているエキドナと、マイペースにゴロゴロしているユーリは無視して、俺は二人をここから連れ出した。
※
クロロやアルメイサ、そしてワードンマは普段がアレだから忘れがちだが……冒険者なのだ。ギルドと呼ばれる同業者組合に所属する巨大なコミュニティに属しているのである。
冒険者ギルドは所謂、独立した一つの国だ。例えて言うのなら、国に勢力を伸ばす教会や魔術協会などと同じ類のものだ。そういう集団……国なのだ。
クロロ達はその中でも、選りすぐりのパーティであることはよく分かる。三人の実力は熟練級に達し、クロロに至ってはそれを上回る。
そんな三人だ。どんな極秘任務を与えられていてもおかしくはない。つまり、俺たちが聞いていいことではないのだ。アルメイサの反応で、あの三人がどういう立ち位置にいるのかをよく……再認識した。
ラエラ母さん達はそれぞれ部屋へと行って、俺は一人……一階のロビーにもあたる応接間のソファでゴロゴロとしている。色々と整理をつけてたくて、一人で暫くそうしていれば、件の三人がクロロの部屋から出てきた。
すると、最初にクロロが俺の存在に気がついた声をかけてきた。
「あ、グレイくん」
「おう……なんだ。話、終わったのか?」
「はい」
特にその内容に語る必要はない。俺が訊いても答えられないだろう。
クロロと情報共有が終わったのか、アルメイサやワードンマはいつもの気の抜けたような様子でフラフラと俺の向かい側のソファに腰掛けた。
「久しぶりねぇ」
「久しぶりじゃなぁ」
「久しぶりですねぇ」
そう和やかに言葉を交わす。
クロロは所在なさげにウロウロし、どこに座ろうかと黙考した結果……ソファに座り直した俺の隣に座ることにしたらしい。
バフッと俺の隣に綺麗に腰掛けたクロロの横顔を、俺は少し見つめてからアルメイサ達に向き直った。すると、アルメイサがとてもニヤニヤした顔つきで俺たちのことを眺めみてきた。
「へぇ〜?ふぅん?ほぉ〜」
「な、なんですか……?」
クロロはそんな居心地の悪い視線に頬を引きつらせながら、抵抗を見せる。だが、そこのドS女はそんな細やかな抵抗を受ければ受けるほど……喜ぶようなタイプだ。
「なぁんでもぉ〜?ふぅん?」
「あうぅ……」
これにはクロロはお手上げといった風に、俺に助けを求めるようにして視線を巡らせてくる。
俺はその視線と目を合わせないように目を泳がせた。すると、クロロは半泣きで縋り付いてきた。
「な、なんで目をそらすんですか!」
「やめてください」
「冷たい!」
やめろ、俺を巻き込むな。
「ふふふ、仲がいいのねぇ?」
「かっー目の前でイチャつかんで欲しいものじゃな」
「別にイチャついているわけでは……」
クロロが言い訳するようにいうので、説得力は特になかった。
「はいはい、ありごとうごちそうさまぁ」
「うう……」
クロロは赤面した表情を隠すように俯く。
……仕方ない。助け舟を出すか。そう思い、俺は口を開いた。
「アルメイサさんとワードンマさんは、お二人で随分と長い期間一緒にいるおられた様子で……そちらこそ、なにかなかったのですか?」
俺は努めて丁寧な口調で、そして取って付けたような笑顔で言った。そうしたら、今度はアルメイサが赤面する番だった。
なるほど……意外だなぁ。
「なにを……言っているのかしらねぇ」
「そうじゃな。この女と二人旅でなにかあるわけなかろうて。趣味じゃないるのしのう」
それは失言だっただろう。ブチリと血管を切ったような音をさせたアルメイサが、靴の踵で隣に座るワードンマの爪先を踏みつけた。
「いっ!?な、なにをするのじゃ!」
「お黙り」
「なんじゃと!」
全く、思わず笑ってしまうようなものだが……隣でこの光景を見ているクロロが、どこか嬉しそうなので俺は目を瞑った。
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