一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

久しぶりの日常

 –––グレーシュ・エフォンス–––


 ソニア姉は新兵訓練の付き添いで王城に行っており、一週間前後は帰ってこない。エキドナを付けようか本気で迷ったが、さすがに過保護すぎるとソニア姉に怒られたので、大人しく待つことにした。
 ラエラ母さんは、いつも通りお仕事に行ったりツクヨミちゃんと家事をしたりしている。
 そして、クロロも俺と同じで戦いの傷も癒えたということで……今日から仕事復帰だ。俺も……。
 今は、ソニア姉のいない朝食をラエラ母さん達と一緒に食べている。
「今日からグレイもお仕事に出るんでしょう?」
「んー?うん」
 俺は朝食のサンドイッチ(大好物)を口の中いっぱいに頬張りながら頷く。
「お仕事といえば……ワードンマさんとアルメイサさん。遅くない?」
「…………」
 あぁ、そういえば……最近色々あって忘れていた。たしかに、あの二人……遠出にしても遅すぎる気はする。それとも、冒険者には普通のことなのだろうか。
 答えを求めるようにクロロへ目を向ければ、クロロと目が合った。すると、クロロは若干頬を染めて俯き加減で答えた。
「えっと……そうですね。お二人の受けたクエストがそう長いものとは思えませんね。お二人に限って、何かあったとは考え難いのですが……」
「そうですね……」
 ワードンマにしろ、アルメイサにしろ……実力的には熟練級にいるのだ。そうそう、ヘマをするようなことはない。
 しかし……何かあったとしか考えられない。
「少し心配ですね……今日にでもギルドに行って確認してきます」
「うん……それがいいだろうな」
 俺は答えて、一先ず二人のことは頭の片隅に追いやった。
 まあ、二人に限って大事はないだろうし……大丈夫だろう。うん。
 ふと、もう一度クロロと目が合う。そして再びクロロは、俺から目を逸らしてからチラチラとこっちを見てくる。若干鬱陶しいのだが……。
「おい。何か用か?」
「え!?いえ、なんでもありませんよ?どうしてですか?」
「いや……チラチラ見てたから」
「見てないです」
「見てただろ」
「み、見て……ました」
「ツクヨミちゃん!?」
 まさかの裏切りとでも言いたげな表情で、クロロがツクヨミちゃんを見ている。ツクヨミちゃんは本当のことを言っただけであり、裏切りでもなんでもないわけだが。
 そんな状況を、ラエラ母さんとエキドナがニヤニヤとした顔で見ていた。向かい合って座る二人は顔を近づけ合うと、わざと俺たちに聞こえるような声で言った。
「あらあら、ラエラ様ぁ?このお二人何かあったんでしょうかねぇー?」
「あらあら、エキドナさん?何かあったに決まってるじゃありませんか!」

 二人とも……昨日の夜のこと何か
知っているんだろうなぁ。いやだなぁ……俺は紅茶を啜りながら、ボーッと昨夜のことを思い出した。


 –––昨日の夜–––


 夜……明日からお仕事だし早めに寝ようと床に入る。それから暫くして、ウトウトしていると俺の部屋の前でクロロの気配が立ち止まったのを感じた。
 クロロならいいかと無視すると、何故かその気配が俺の部屋の中へ入ってきた。
 まあ、クロロだからいいかと無視した。
 クロロは俺の部屋に入ると、俺のところまで来て眠っているかどうかの確認をし、意を決したように俺のベッドの中に入り込んでくる。

 まあ、クロロだからいいかと無視した。

 同じベッドに潜り込んできたクロロは、仰向けに眠る俺の左腕にピットリとくっ付いてくる。さすがにクロロも寝難いだろうと思い、ベッドを少し空けるために寝返りの振りをしてクロロに背を向ける。
 一瞬、俺が起きたのかと勘違いしたのかピクリと震えたが……直ぐにそうではなさそうだと考えたようだ。俺の背中にピットリとくっ付いてきた。
 背中に添えられた両手……まあ、その両手は別に女性らしい柔らかさなんてないし、弱々しさもない。むしろ、頼もしい。
 そして、感じる柔らかい二つの感触……大きい大きいとは思っていたが、これほどとは思わなかった。
 暫くそうしていると、クロロがスンスンと顔を俺の背中に押し付けてそんな不穏な音が……。

 まあ、クロロだからいいかと無視した。

 いや、ダメだろ……これ。

「…………なにやってんだよ」
「ぎゃっ!?」
 ぎゃって……仮にも女だろう?
「お、起きてたんですか!?」
「うん。で、なに?夜這い?」
「ち、違います……いえ、これは違わないのでしょうか……?」
「訊くなよ……」
 とりあえず俺は背中の感触を逃さまいと、少しクロロ側ににじり寄ってみる。我ながらゲスいな……。
「で、どうしたんだ?」
「……その、私たちって両想いなんですよね?」
「うん」
「なんだか、反応が薄い気がするんですけど……」
「ちゃんと伝えたからな」
 俺は好きなものを好きと言える。それを恥ずかしがってする必要はない。そして、俺は男だ。今の状況になにも思うことがないわけがない。その証拠に、俺ジュニアは準備万端だ。
 危なかった……もしも、寝返りをしていなければ掛け布団が盛り上がってばれていたかもしれない。まあ、それで色んな意味で盛り上がるのなら万々歳なわけだが。
「んん……と、とにかく。なんというか、ちょっと寂しいといいますか……」
「お前……やっぱり依存するタイプなんだな」
「はい……自分で思っているよりもずっとそうみたいです。あまり……グレイくんに頼りたくないのですが……」
「わかってるよ。まあ……なんだ。これくらいなら……俺も付き合うよ」
 だが、本当に依存するようなら……それは拒まなくてはならない。それは、クロロも俺も良しとしないところだ。
「ありがとうございます」
「おう。じゃあ、寂しくないようにそっちむくかな」
「え」
 俺はグルッと身を反転させ、クロロの方を向く。
 部屋は真っ暗で何も見えない。しかし、鼻腔擽るクロロの匂い、そして伝わってくる熱は確かに直ぐそこにいると教えてくれる。
 そっと俺の胸に手を置いたクロロはボソッと呟く。
「胸板……厚いですね」
「鍛えたからな」
 なんなら、今からクロロの胸に俺も手を置いて「胸板厚いな」と言ってやりたい。胸板ではないけれど……むしろ、柔らかいと褒めるべきなのだろうか。
 俺はとりあえず、こういう時はこうかなと思いながら、クロロの背中に両腕を回す。すると、俺がクロロを抱きしめる形となった。
「あ……」
「これでいいか?」
「は、はい……ふあぁ」
 あぁ……意外と柔らかい。だけど、芯がしっかりとしているのは分かる。やっぱり、きっちり鍛えられていた。少し期待とは違うが……でも、これはクロロの努力の証なのだ。これはこれで……いかんいかん。
 ふと、何やらクロロがモジモジとし始めた。なんだ?と思いっていると、クロロが言いにくそうに言った。
「そ、その……何か当たっているのですが……」
「あぁ……きっと脚だろ。気にするな」
「そ、そうですか……」

 そうさ!気にするなかれ!
 ハッハッハッ!

 だから、ダメだろ……これ。


 –––☆–––


 ということが昨夜にあった。
 ニヤニヤしているラエラ母さん達を見る限り、何か知ってそうな感じだった。そのため、クロロへ目を向けると慌てて逸らされた。

 あいつ、何か言いやがったな。

 ジト目で睨むと、クロロは頬を染めたまま素知らぬ振りで朝食を食べ出す。
 俺は仕方ないなと思いながら、残りの朝食に手を付けようと……したところで、横からユーリが俺の朝食を掻っ攫って行った。
 ユーリは食卓から飛び降りると、ビューンッと逃げて室内の隅でとった獲物を食す。

 あの野郎……。

 張っ倒してやろうかと立ち上がると、ツクヨミちゃんがテクテクとお人形さんのような(?)可愛らしい足取りで、ユーリの下へ向かって言った。
「メっ……ですよ……?」
「ニャ〜……」
「それ、は……お兄ちゃんの……です」
「……ニャン」
 ユーリはツクヨミちゃんに怒られて、ショボンとした。
 うわぁ……怒ってるツクヨミちゃんカワユス。
「反省……しました、か?」
「ニャ!」
「良い子、良い子……です」
「ニャ〜」
 俺はそんなほのぼのとした光景を、可愛いなぁ……と思いながら眺める。
「ニャー」
「ユーリちゃん……ゆ、ゆっくり」
 と、暫く眺めていたら何故かツクヨミちゃんがユーリの背中に乗っていた。

 なんて可愛い(ry

 そんな感じの朝食を終えて俺は仕事場へと向かうのだった。


 –––☆–––


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