一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

グレイとクロロ

 なぜ……それは、ソニア姉の力を狙って。
 ソニア姉の治療魔術師としての力量は、最高神官のそれに匹敵する力がある。本来ならば、教会勢力であるはずのソニア姉はどこにも属さないフリーな存在……それ故か、他国からも目をつけられていた。
 だが、何かおかしいだろ……俺。バートゥは伝説だ……たしかに、ソニア姉の力は珍しいだろう。それでも、伝説たるバートゥが欲しがる理由には……、
「ならない……」
 俺が呟くと、まるで俺の思考を読んだかのようにエキドナが頷いた。
「エキドナは、ソニア様を傷付けるなと言われていました。しかし、生死は問われていません……」
「死んでる状態でもいいってことか……?」
 バートゥは死霊術師……たしかに死んでる状態でも問題ないだろう。
 それにバートゥほどにもなれば、治療魔術師とはいえ神官となった者を死霊とするのは造作もないのかもしれない。
「何がバートゥの気を惹いたんだ……?」
「バートゥはソニア様に恋い焦がれているかのようでした……そして、ポツリと……一回だけこう呟いたのです。生み落とされた……と」
 生み落とされた……?
「生み落とされた……」
 俺は口に出して呟く。
 何に?何に……生み落とされた?バートゥ……生み落とされた……最高神官……加護……神気……。
 カチッカチッとパズルのピースが合わさる。まだ足りない……足りないが、足りないピースは予測できる。想像できる。
「神……」
 神……が生み落とした。神の一部……。
 最高神官にしろ、神の加護にしろ、神気にしろ……ソニア姉には神に関することが多い。
 最高神官並の寵愛、強力な光属性の力、そして神気……。
 バートゥの生み落としから連想させられるのは、伝説だとか神話・・上の話に出てくるようなもの……そして今までのことを関連づけていくと、神話……つまりソニア姉が神に何らかの関わりを持っている可能性は十分にあった。
「もともと、少しお姉ちゃんは特別だったんだ……治療魔術師の力量では神に従事する最高神官ほどの力は出せないはずなんだ」
「そのはずなのに、ソニア様の力は他国も欲しがるほどの力にまで成長している……治療魔術師なのにも関わらず」
 俺の言葉にエキドナが続いた。どうやら、彼女も気がつき、同じ答えにたどり着いたようだ。
「神が生み落とした……か。もしも、この仮説が本当だったらお姉ちゃんはやっぱり凄いなぁ……」
「感想が呑気ですぅ……これが本当で、公になればソニア様争奪戦の勃発でございますのに」
「まあなぁ……」
 教会は神が生み落としたソニア姉を崇め奉り、信仰対象とし、体良く利用するだろう。そして、逆に神の存在が邪魔な魔術協会側からは命を狙われ、ソニア姉の神の力を利用しようと他国の力も強まる。
 それに……イガーラ国内でも同様に危険になるに違いない。
「そのときは……そのときだよ。僕はお姉ちゃんがどんな存在でも、守る……それだけだよ」
「あぁ……ソニア様が神の力を振えるとして、今ご主人様の纏っている神気ははて、誰のご加護でしょう?」
「…………」
 もしも、そうならソニア姉である。俺に加護を与えたのは……。
 エキドナは何か面白そうに口元に手を当てると、ブフッと笑いやがった。
「これでは、どちらが守られているのか分かりませんねぇー?」
 まさにゲス顏……俺はしばらくエキドナにアイアンクローをかました後に、ため息を吐く。
「まあ、所詮は仮説……正直情報不足は否めないな」
「そうでございますね〜……そういえば、ご主人様?」
「ん?なんだ?」
「ふむ……いえ、今朝と様子が変わった……というか戻ったのでしょうか。もしや、現象が?」
「ん……?現象って……あれか?バーニング現象か?セリーに言われてたんだけど……自覚はなかったんだよなぁ……」
「…………つかぬことをお聞きしますが、ご主人様は男色趣味などは?」
「あるわけねぇだろ……」
「ですよねー」
 何を聞いてやがる。
「なるほど……神気の力で崩れかけていた人格が正常に戻ったのですねぇ」
「……?なんの話だ?」
「いえ、こちらの話ですぅ」
 と、はぐらかされてしまった。なんなんだ?
 まあ、男色趣味とか下らないことを訊いてきたんだ……多分、大したことじゃないだろう。無視しよう。うん。
 そして、暫しの沈黙……その中でふと俺は、思い出したように目をパチクリさせる。
 そういえば……神気を纏ったわけだが、これ……今まで通り地属性と風属性の魔術って使えるのだろうか……。
 別に、神官になったわけではないのだし……試してみるか。
 俺は無詠唱で【イビル】を発動……空気中に石や砂が生成され、それが俺の腕に集まり、悪魔の腕を形成した。
 その光景を見たエキドナが、なるほどと頷く。
「使えましたねぇ……」
「あぁ……」
「もしかすると……治療魔術が使えたり?」
「なわけ」
 まあ、使えたら面白いなぁ……と思いながら作った悪魔の腕を錬成術で短剣に形を変え、腕に軽い裂傷を付ける。
 それから、ソニア姉達が使う初級治療魔術……【ヒール】を思い浮かべる。一応、詠唱に必要なルーンは覚えているので、俺はそれを口にする。
「えっとー……〈我が求めに答え 傷を癒したまえ〉【ヒール】」
 すると、魔力が光の元素を生成し、光属性の魔術を発動させる。発動した治療魔術が、俺の裂傷を徐々に塞いでいき……綺麗さっぱり傷が消えた。
「…………」
「…………」
 俺とエキドナの間に沈黙が歩く。その間、俺もエキドナも半眼で遠い目をしていた……と、突然エキドナが鼻血を吹き出して後方に倒れてしまった。
「ブフォッ」
「っ!?」
 俺は驚いて、駆けつけると……エキドナが幸せそうな顔で気絶し、何やら呟く。
「…………ち、知識欲がぁ……」

 あっそう……。

 とりあえず俺は、綺麗になった傷を見ながら肩をすくめた。
 はぁ……これなんてチートだよ。

 治療魔術が使えるようになった。


 –––☆–––


 俺は鼻血を出して倒れたエキドナを置いて、テレテレとリビングまで下りる。すると、ソニア姉とクロロが談笑していた。
「あーよかったぁ……いつものクロロさんで」
「……?いつもの?」
「あっ!いえ……なんでもないです」
 どこか焦ったようにソニア姉がクロロに言っていた。クロロは首を捻りつつも、あまり気にしないことにしたようで再び談笑し始めた。
 リビングを見回すと、ユーリがソファの上でゴロゴロしているのが目に入る。見た限りでは、ラエラ母さんはいない。そういえば、今日はお仕事だったか……と思い出し、シェーレちゃんを探す。
 どこだろう……と、探しながら俺もソニア姉のところに混ざりに行った。
 俺に最初に気がついたのは、クロロだ。
「あ……」
「ん……?」
 クロロは俺を視界にいれると同時に、頬を赤らめる。あれ?どうしたんだ?と、思っているとソニア姉が苦笑した。
「まあ……しょうがないか……ここのところは二人とも大変だったし……」
 などとつぶやき、ソニア姉は座っていた椅子から立ち上がると言った。
「あ、そういえばーシェーレちゃんに用がー」
「ソニアさん?」
「お姉ちゃん?」
 俺とクロロが怪訝な視線を送ると、ソニア姉は「おほほ〜」とわざとらしい笑い声を上げながら、リビングから去っていった。
 リビングに残されたのは、俺とクロロ……そしてユーリだけだった。
「…………」
「…………」
「ニャーウゥ」
 おい、ここは沈黙を守るところだろうが。空気を読め、空気を。
「…………」
「…………」
「ニャン」
 おいバカやめろ。俺の方にくるな。
 ユーリは、「ここであったが百年目にゃ!」みたいな感じで俺に飛びかかってくる。この野郎……俺は上体を反らしてユーリを避ける。ユーリは床に着地して直ぐに、バイオキャットらしく頭をパックリと割き、そこから触手をウネウネさせて俺の足に巻き付けようとしてくる。
 なるほど……まずは機動力を削ごうと言うんだな?
 俺はモザイク必須なユーリを見ながら、華麗なる足捌きでユーリの触手を避ける。
 と、この時を待っていたと言わんばかりにユーリが目をキランッと輝かせる。何をやる気だ?
 俺がユーリを注視していると、ユーリが前足で俺の下に敷いてあった絨毯を思いっきり引いた。バイオキャットのユーリの脚力は猫のそれとは違う……それ故に、俺が上に乗っていても絨毯は動く。
「マジか……」
 してやられた……いい作戦だった。こうされれば、俺はバランスを崩し、そして運が悪ければ後頭部を床に強打していた……だろう。
 だが、残念ながら俺の鍛え上げられた体幹はそんなことでは崩れないのでした!!残念だったな!!
 俺は動く絨毯に合わせて、ただ動く。俺は別に何もしていない。一本の棒が、絨毯に合わせて横移動したにすぎない。それを見たユーリが、「バカにゃ〜!?」と愕然としているかのように見えた。
「シャー!!」
「ふっ……また出直してきな」
 俺は最高にウザい表情を浮かべて言ってやる。ユーリは顔を元に戻すと、悔しそうに涙を流してリビングから走り去っていった。
 クックック……俺が猫(?)ごときに負けるわけがなかろうに……。
 俺が一人勝利の余韻に浸っていると、椅子の上で今の攻防を見ていたクロロがクスクスと笑った。
「…………おとなげないですね?」
「永遠に子供でいられるなら、その方がいいだろ?」
「そうでしょうか?」
「そうだよ」
 子供はいい……学校に行かなくてもニートとは呼ばれない。不登校扱いになるだけである。しかも、親が甲斐甲斐しく世話してくれる。あれ?俺、クズじゃね?
 俺は今更ながらの周知の事実を再確認しながらも、下らない考えを頭から追い出した。
「グレイくんは……」
 と、クロロが何か言いにくそうに口を開く。
「グレイくんは……覚えていますか?その……私の中であったことを」
 そう訊かれ、俺は頷いた。もちろん覚えている。むしろ、どうして今まで話題にならなかったのか……と疑問を覚えるほどだ。ここのところ、何故かクロロとあまり話していなかった気がするし……というか、ここのところの記憶が少し曖昧だったりする。
 それはクロロも同じだったようで、不思議そうな表情をしながらも頬を赤らめて再度口を開いた。
「グレイくんは……わ、私の事がす……好き……なんですよね?」
「うん」
「……っ!?」
 何故かクロロは赤面し、アワアワする。何やってんだこいつ。
「その……恋愛的な意味で?」
「……?そうだな。伝わってなかったか?」
「そ、そんなことは全然ないですよ!?伝わってますよ!?ただ、私の勘違いだったらどうしようかと……とても痛い子じゃないですか……それ」
 確かに……思えば、前世では勘違いをし続けてきた人生でした。まる。
「その……私たち、両想いということですよね?」
「ん……まあ、そうだな」
「こ、恋人……とか?」
「恋人ねぇ……俺とクロロが恋人同士になっても特に変わりばえしないだろうけどな」
「そうですか?」
「そうだよ」
「そうですね」
 俺とクロロは互いに何でもない言葉を交わす。
「それに、今は恋人作りよりも家族の方が大事なんでね」
「ふふ……グレイくんはシスコンでマザコンですからね」
「ファザコンも忘れない欲しいところだ」
「失礼……では、全部あわせてファミコンですね」
 違うから……それ。違うものになってるから。ゲーム機の名前になってるから。ニンでテンでドゥーなメーカーから出てた有名なハードだから。
「じゃあ、その……グレイくんは恋人を作りたくないんですか?」
「そんなことはねぇけど……」
「今は……という限定ですか?」
「まあ……」
「なら、私は待ちますよ?いつまでも……私は心変わりしませんから。あなたのことだけを愛しています……」
「…………」
 愛しています……その一言で俺のハートがブレイク。アソコがビン◯◯……自重しよう!
 とにかく、一瞬にして俺の体温が上昇した。ヤバイ……クロロの奴、目つきはあれだが見た目の装いが大和撫子だからかえって良い感じなんだよなぁ……カッコいい女性みたいな……。だから、見てくれは美女といって相違はないのだ。
 そんな女性からの告白である。こんな今生クソ童貞ファッ◯みたいな俺が、頬を赤らめた大変艶かしい感じのクロロに告白されれば、自然と体温が上がるというもの……。
 俺は行き場のない愛おしいさをどこにぶつけるべきかと、クロロを見つめる。
 クロロと交じり合った視線は、どこか期待しているかのようで……俺の心臓の鼓動が跳ね上がる。



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