一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

ブワッと疑問祭

 –––☆–––


 俺は全てをセリーに丸投げし、ソニア姉と一緒に帰路に立っている。まだお昼を過ぎたくらいだが、疲れてしまった。俺も、ソニア姉も。
 大体、俺には関係ないことだ。勢力争いなら好きにやればいい。俺たちを巻き込むなとだけは言っておこう。
「はぁ……折角グレイとお出掛けだったのに……」
「僕が教会に行こうなんて言わなければよかったね」
「えー?うーん……違う違う。それはあたしも行くっていったんだし……ああなるなんて思わなかったでしょ?」
「そう言ってくれると助かるよ……」
 俺はそう言って、ソニア姉に合わせて通りを歩く。すると、ソニア姉がくすりと笑った。なんだろう?
 俺が不思議思って視線を向けると、ソニア姉が言った。
「ふふ……いや、なんかいつもと同じグレイだなぁって」
「同じ?」
「うん。最近は……ほら、変だったし」
「変?」
 変だっただろうか……自覚はない。ちょっと心当たりを探すが……特に見当たらなかった。
 あぁ……でもそういえば、セリーが今俺はバーニング現象に遭ってるとかいっていたな。それが原因だろうか……他に最近だと、あまりクロロ・・・と話していない気がするくらいだろうか。
 俺がそう考えたところで、さっきソニア姉が俺に触れていた場所……胸や背中などが淡く光り出す。
「ぐ、グレイ?」
「……?」
 な、なんだこれ……。
 その光は、徐々に面積を広げていき……光のベールみたいに俺を包み込む。
 これは……。
「え……これって……」
 ソニア姉も勘付いたように目を見開く。
 俺を包み込んだ光のベールはやがて消えて無くなるが、俺を包んでいるは顕在だ。暖かく、そして優しい力……この気配、俺は知っている。
 セリーや、ソニア姉……それにラエラ母さんからも感じる気配……神の気配……神気だ。今、俺に纏わり付いた光は神気で間違いない。
 どうして……神官でもない俺に神の加護・・・・が……どういうことだ?
 ソニア姉も困惑し、往来の中でつい叫び上がった。
「ど、どうしてグレイがしんっ!」
 俺はソニア姉が何か言う前に慌てて口を手で押さえて、耳元に囁くように言う。
「ま、待って……誰かに聞かれるのはまずいよ……」
 俺が言うと、ソニア姉はコクコクと頷いた。とりあえず、ソニア姉の口を覆っていた手を退ける。
「ふぅ……びっくりしたぁ」
「ごめん……」
「ううん。でも、どうしてグレイ……」
「僕が聞きたいんだけど……」
 一体、なぜ……神に仕えると誓約を立てた神官にのみ発現する神の加護……神気が俺に掛かった?。今もなお、纏っているのは神気で相違ない。そもそも、同じく神気を纏っているソニア姉がそう言うのだから、間違いないない。
 初めに戻るが……その神気がどうして俺に?さっき、ソニア姉に触れられた場所から光が広がっていくのを感じた。原因はソニア姉……だとしても、意味が分からない。神の加護は、神が神官に与える力だ。それを、ソニア姉が……というのは考えられない。

 情報不足……これ以上は絶対に分からないな。

 思考をフル回転させすぎて、頭から煙が出そうになった俺は思考を止めた。
 魔術協会のことだけでも、頭を抱えたくなるのに……一体、何が起こってるんだか。
「はぁ……」
 とにかく、何事もなく終わって欲しいと願うばかりである。


 –––☆–––


 俺とソニア姉が家に帰ってきたのは、お昼過ぎ頃である。適当なところでご飯を食べて、結局帰ってきてしまったのだ。
 玄関を開けて、中に入ると……玄関前にエキドナがいた。
「ただいまー」
「ただいま」
 俺とソニア姉が言うと、エキドナは一礼し……「失礼」と一言断りを入れると、徐にエキドナがソニア姉に触れた。
「っ!?」
 俺は目を見開き、一瞬焦る。
 エキドナは死霊だ。生身(?)で触れれば、たちまち燃え上がってしまう。
 ソニア姉に触れたエキドナは数秒触れたまま動かない……その間にエキドナが燃え上がることはなく、俺は間抜けな声を上げた。
「は?」
「…………やはり」
 エキドナは何か納得顔でソニア姉から離れる。ソニア姉は首をかしげた。
「えっと……?」
「いえ、お気になさらず……」
 エキドナはもう一度、ソニア姉に一礼する。いや、そんなことよりも……どういうことだ。エキドナがカリフォーリナに化けていた時のように、皮を被っていたならば多少は神気も緩和できる。だが、見た所そのような様子はない。
 再び高速フル回転しだした俺の頭に、エキドナの声が響く。
「ご主人様」
 その声に考え込んで俯いていた俺は、顔を上げる。
「一体……何があったのですか・・・・・・・・・?」
「……?それは、お前の方だろ?お前こそ……何があった?」
「エキドナは何もしていません。エキドナは何も……ただ、さきほど急にエキドナが浄化されてしまい……」
「はぁ?浄化って……」
 死霊が浄化されれば、灰となって消える。どうしてエキドナが浄化され、そして浄化されたのにも関わらずこうして目の前にいるのか……と、高速フル回転を続けていた俺の思考がある答えを弾き出す。
 死霊が浄化されるには、神官の力が必要だ。正確には神の加護の力……エキドナと死霊術で契約している俺は、神官とはむしろ真逆に位置していた。だが、ついさっき俺は神官しか持ち得ないとされる神気・・を纏ったのだ。
 その影響で、契約状態であったエキドナにも何か変化が起きているとすれば?
 俺は思考を巡らせながら、ソニア姉に言う。
「ご、ごめんお姉ちゃん!ちょっと、エキドナと話がある……」
「え……?う、うん」
「じゃあ!」
 俺はエキドナの触手を一本掴み、そのまま自分の部屋まで引っ張る。
「ご、ご主人様……ちょっとプレイが激しいですぅ……」
「プレイじゃねぇ……」
 なんのプレイだ……なんの……。
 とりあえず、エキドナと自室で二人っきりになった俺は溜息を吐きつつ、俺と対面して立つエキドナに目をやる。
「それでご主人様……一体何が?何が起きたら、ご主人様に神気など……」
 エキドナは俺の纏っている神気に気付いているようだった。
「しょ、正直全く分からないんだ……ただ分かるのは……」
「エキドナのこれはご主人様の変化に影響を受けている……ということでございますね?」
 俺はそれに頷く。
「エキドナは……何か変わったことは?」
 俺が訊ねると、エキドナは数舜考えを巡らせてから答えた。
「今朝よりも……こう、力が漲っている感じがしますぅ。あと……死霊術が使えなくなっています」
「死霊術が?」
 エキドナは何年も伝説の死霊術師……バートゥ・リベリエイジの力を見続けていたのだ。エキドナの観察力や分析力は尋常ではない。バートゥのそれを間近で見続けた彼女の死霊術の腕は……熟練級にまで……もしくはそれ以上に相当するほどだ。
 彼女自身が魔術の達人だと考えると、とても多芸だ。
 しかし、そんなエキドナが死霊術を使えなくなった……死霊術は死霊を使役することだが……。
「試したのか……?」
「はい。こう……違和感を感じましたので」
「そうか……」
 今、エキドナは死霊術が使えない……それは俺の変化の影響を受けているからだろう。神気が原因か……しかし、エキドナは今朝よりも力が漲っているという。死霊は神気を受けて弱ることはあっても、元気になることなどない。つまり……今のエキドナは死霊ではなくなっている……ということなのか?
 突然神気を纏った俺に対し、契約関係だったエキドナがその影響を受けて浄化されてしまった。飽くまでも、エキドナの証言を参考にして考えてだけど……とにかく、そうやって浄化されてエキドナがここにいる理由……。
「エキドナの魂はここにあっても、エキドナは本来死んでいる……現世に魂を留めておくために、死霊術の契約は存在している……」
 そう考えると、今エキドナを現世に留めているのはなんだ?エキドナは俺が何故か纏った神気を受けて浄化されてしまったはず……契約もクソもないはずだ。
 今エキドナは、死霊術とは別の契約で現世に留められている……?
 その答えに俺が辿り着くと同時に、顎に触手を当てて考え込んでいたエキドナもハッと顔を上げる。
「神官にも……」
「契約して使役する奴がいた……」
 俺とエキドナは言って、頷き合う。
 死霊術は神官以外の者ならば、大抵扱うことができる。ただ、魂の契約はとても重い……それに極端な例だがベルリガウスのような怪物みたいな奴を使役できるのは、それこそバートゥだけ……死霊術はその人物の力量以上の者と契約を交わせば、自分が喰われる・・・・リスクが存在する。だから、やりたがる奴は少なく……精々が殺人事件に召喚するだけだ。
 例えば、犯人を捕まえてあげるからそれまで契約してね〜みたいな軽い奴。もちろん、例えばであるが。
 話は戻るが……これが神官の場合だと話が変わる。死霊術とは対極に位置する精霊術と呼ばれるものがある。神官は精霊術により精霊を召喚し、使役することが可能だ。
 神官には力が強くとも、セリーのような戦闘に不向きな者がいる。そういった者の自己防衛策に存在しているのが精霊……。
「…………」
 俺は思考を巡らせる。
 もしかして……俺が神気を纏ってエキドナはクラスチェンジしたのだろうか……死霊から精霊に。
 まるでその考えを肯定するかのように、エキドナが触手をうねらせて言った。
「十分、考えられることでございますね……」
「やっぱり……」
 うん……聞いたことねぇわ。
「もうお手上げなんだが……」
「それはエキドナもです……しかし、これは面白い。死霊が精霊になるなど……自分のことながら、なんだかブフッ」
 どうやら、エキドナの知識欲がこの上なく働いているらしい。興奮しすぎて鼻血を吹きやがった。俺の部屋なんですけどぉ……。
「そもそも、死霊を使役してる奴が神官になろうとは思わないだろうしな……」
 そんなことすれば、死霊が消えてしまう。それに、精霊術にしたって死霊術と同じで力量以上の精霊は呼べないのだ。
「そうでございますね……しかし、これは非常に面白いことでございますぅ。…………とりあえず、エキドナから質問があります」
「なんだ?」
「どうしてご主人様は神気を?ないとは思いますが、神官にでもなろうと思ったのですか?」
「前置き通り……ないよ。本当に突然だったんだ」
「心当たりは……」
「ない……最初はお姉ちゃんが原因かと思ったけど、意味わかんらないし……」
「……?どういうことですか?」
 と、エキドナが首を傾げて訊いてきたので、俺は先ほどあったことを教えた。
 すると、エキドナは考え込むように俯く。だから、俺はないないと手を振った。
「だって、お姉ちゃんだぞ?もしも、お姉ちゃんが俺に神の加護を与えたってことになれば、まるでお姉ちゃんが自在に神の加護を与えられるみたいじゃないか」
 俺が言うと、エキドナは何か……気になることでもあったかのように口を開く。
「ご主人様は……どうしてバートゥがソニア様を狙っていたかなど……考えたことはありますか?」


「一兵士では終わらない異世界ライフ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く