一兵士では終わらない異世界ライフ
教会前の出来事……
–––☆–––
ソニア姉と一緒に王都にある教会までやってくると……教会前に人集りが出来ていた。その中には見知った顔が数名……軍では同期のアックスフォード……アックスと先輩のスカッシュ先輩だ。
「なんだろう?この人集り……」
隣に立っていたソニア姉が爪先立ちして人集りの中心を見ようとしているが、見えないようで溜息を吐いている。
「うーん……見えないなぁ」
「スカッシュ先輩がいるし……ちょっと聞いてくるよ!」
「なんか嬉しそう……」
若干不機嫌なソニア姉を置いて、俺は嬉々としてスカッシュ先輩とアックスのところまで行く。
「スカッシュ先輩」
「んぉ?おぉ〜グレイか!身体はもう大丈夫なのかー?」
「はい。お見舞いありがとうございました……。あぁ、それでこれは一体……」
「一体もクソもないっての……俺とスカッシュさんも今日は休みだからって王都をブラブラしてたら……ほら、聞いてみろよ」
アッシュがそう言うので、訓練で鍛えられた二人の素晴らしい肉体を尻目に、人集りの中心に耳を傾ける……と、
「グレーシュ!グレーシュ・エフォンス出てこおおぉぉい!!僕と勝負だぁぁ!!!」
「…………」
俺は一瞬固まった。
聞き間違いだろうか……気配から察しても知り合いのようには思えないし、なぜこのような敵意を向けられているのだろうか。全く、皆目見当も付かない。
「えっと……」
「な?」
「はい……」
アッシュに言われて俺はげんなりした。一体、どこの誰だよ。人の名前を衆人の中で声を大にして叫ぶとか……。
俺はスカッシュ先輩達に一言断りを入れてから人集りを割って、そうして衆人の中心にいた人物に目が止まった。
「なっ……」
白銀煌めく艶やかな髪に、とても整った顔立ち……そうそう見ることのないイケメンだ。俺の知り合いだと、アイクやエリオットもそうだが……彼のイケイケ度はその二人とは異質なものだ。
なんだよイケイケ度って……。
まあ、そんなことは置いておいて……俺が彼に見入っていると、俺に気がついた野次馬達の中に顔見知りがいた……そのため、
「あ、グレーシュだ」
「グレーシュちゃんじゃない」
「グレーシュ兄ちゃんだ!」
バッ……と、俺の周囲にいた人達が割れ、彼のもとまで道ができる。マジか……。
「グレーシュ……だと?」
衆人達の声に反応し、彼の視線が俺へ向けられる。彼の金眼に俺の姿がたしかに映される。その瞬間、鼓動が弾ける。
まさか……これが……恋っ!?
俺が彼に見惚れていると、ツカツカと彼は俺のところまで歩み寄り……そして言った。
「お前が……グレーシュ・エフォンスだな!僕のセリーを誑かす不届き者め!君のような一階の平民が気軽に話しかけていい存在ではないんだ!最高神官というものはねっ!」
セリーがどうとか、最高神官とかどうでもいい。俺は彼の前で跪き、俯く……。
「……?な、なんだ……意外と素直じゃないか。うん。そうさ、僕たち最高神官にはそうやって敬意をあらわ」
俯いた俺は、右手だけ彼の前に差し出す。そして、彼が何か言う前に言った。
「私と結婚を前提にお付き合いください!」
「「…………」」
「え?」
それは目の前にいるイケメンな彼にはそぐわない……全く間抜けな声だった。
–––☆–––
「な、何をトチ狂ったことをっ」
「一目惚れなんです……」
「僕は男だ!」
「私も男です!」
「それが問題だろう!?」
「え?」
「え?」
男同士の結婚に、何んの問題があるのだろうか。周囲の人々からは、「男色?」とか「あれはガチな奴だぞ」とか「ウホっ 」とか……反応は様々だ。というか最後の奴出てこい。とても有意義な語らいができそうじゃないか。
「き、君は僕のセリー誑かして……」
「……?なぜ、女性であるセ……んんっ。最高神官様を私が誑かしてましょうか」
俺はセリーと言いかけ、踏みとどまる。危ない危ない……彼はどうやら身分を気にするようだからな。悪印象は与えたくはない。
「え……でも、君は……あれ?」
「強いて申し上げるのであれば、私は最高神官様のお話相手を務めさせていただいております。大変、名誉な役柄を務めさせていただき……私は神に日々感謝しております」
ふむ……さきほど、自分も最高神官のようなことを言っていたし……こんな感じでどうだろう。うーむ……しかし、身分を気にするというのなら感情に任せて告白したのは失敗だった。いや、まだ挽回はできる。
よし……。
俺は口をパクパクさせて呆然としている彼に訊ねる。
「貴方様の姿は……最高神官様とお見受け致しますが、私は貴方様のことを愚かなことに存じ上げません。無知な我が身に、どうか貴方様のお名前をお聞かせ願えないでしょうか」
俺は彼の瞳に訴えかける。名前……名前を教えてくれ!この胸の高鳴りに従い、俺は訊いた。出来る限り下手に、そして相手を尊重して訊ねた。媚びるのは俺の十八番だ。これで落ちない男はいない……。
「あ……僕は、カインドレット・バルト……」
「カインドレット・バルト様っ!では、私は貴方様を何とお呼びしましょう……いえ、何とお呼びすることを許してくださいますか?」
「え?あ……いや、なんでも……」
「では、カイン様と。さて、ここではカイン様もお寛ぎすることは叶いません。どうでしょう……これからホテっげふんげふん。これから我が家の私の部屋っげふんげふんげふーっ!!」
いかんいかん……自分の欲望が口から出てしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!色々と整理を……」
「それならば、尚更衆人に囲まれたこのような場所よりも……」
ふと、俺はここが教会前だと気がついた。セリーの護衛の件から、この教会を実質的に取り仕切っている神父であるマーターと俺は顔見知りだし、そこそこ融通も利く。カイン様も最高神官の身分であられるのだから、教会に頼めばそういう場は設けてくれるだろう。
うん。
「では、教会に融通を利かせていただきましょう。私が教会に話しを付けて参ります故」
「え!?いや、教会はちょっと……セリーが」
「さあ、カイン様」
俺は抵抗するカイン様の腕を握るとそのまま教会へ引っ張り込む。
「さぁ」
「い、いやだ!……っ!!なんて馬鹿力なんだ!?」
む……男の俺に馬鹿力とは失礼な。あれ?いや……特に変でもない……ような?
「ぐ、グレイ!?あれ?グレイー!!
誰かの声が俺を呼んだ気がする。しかし、今はカイン様である。
教会の中へ入り、俺はふと振り返る。振り返った先には抵抗するカイン様だ。外に……何か大切なものを置いてきてしまったが気がする。
–––クーロン・ブラッカス–––
「それで……ソニアさんとのお出掛けを止めてまで私に何か?」
私はエキドナさんにまたしても呼び止められ、今日もこうしてソニアさんとのお出掛けをお預けされてしまった。うぅ……ソニアさんは寂しがり屋さんだから、これ以上一人にさせたくない。というか、さっきの朝食は危なかった。
ソニアさんは寂しさが度を越したのか、エア友達を作っているようでした!まるで、隣に誰かいるかのように朝食は話していました……これは由々しき事態です。とはいえ、エキドナさんに呼び止められて断れるほど私は誘惑に強くなかった。
私がとりあえず何の用か率直に訊ねると、エキドナさんが真剣な眼差しで私に向かって口を開く。
まさか……告白っ!
「クーロン……貴方、今日の朝食でソニアの隣に居た人物……見えていたかしら?」
じゃなかった……。
私は肩をガックリ落としながら、ソニアさんのエア友達の件かと答えた。
「見えませんよ……ソニアさんのエア友達なんて。エキドナさんも、早く今のソニアさんをなんとかしたいんですね?わかります……見ていて辛いものですから……」
「それ……本気で言っているのかしら……いえ、言っているのよね。ごめんなさい……」
「なんだか、馬鹿にされている気が……?」
なぜなんでしょうかー……。
「これは……ご主人様に似た思考を持っていても、ご主人様並の頭の回転力がない……ということなのね。なるほど……クーロンって普段クールっぽいけれど結構脳筋だったのね。このエキドナとしたことが……あまり注目していなかったから見抜けなかったわ」
「あのー……馬鹿にしてるんですよね?泣きますよそろそろ……」
酷すぎる……。
「いえ、気にしないでいいわ。しかし、まさか見えてない……なんて。これは早急にセリーのところへ連れて行かないといけないわね。正直、私ではお手上げね……」
「セリーさんに会いにっ!?行きます行きます!行きたいです!」
セリーさん……とっても綺麗な白銀の髪をしていて、キラキラと輝く金眼には本当に惚れ惚れしてしまう。最近会っていませんし、会いたい……。
あ、なんかウズウズしてきましたねぇ……。
私がセリーさんに会えるとキャッキャッしているところで、エキドナさんが溜息を吐いた。
「分かったから……ちょっと近いわ。エキドナはそっちの趣味はないのよ」
おっと……興奮しすぎてエキドナさんに顔を近づけすぎてしまった。あぁ……エキドナさんも綺麗な顔……。
「ねぇ……ちょっと!近いと言って」
「いいではないですか。女の子同士なんですから……」
「理由がめちゃくちゃなのだけれど……」
「理由……?理由がなくてはいけないのですか?」
「理由があってもいやよ……女と女なんて普通おかし」
私はエキドナさんが何か言う前に、その口を指先で塞ぐ。
「普通なんて……詰まらないじゃないですか?大体、『普通』なんて誰かが決めた物差しです。作りましょう?私たちの物差し……」
–––エキドナ–––
エキドナは今の状況を冷静に分析してみる。クーロンが暴走して、エキドナに口付けしようとしているのだ。とりあえず、足の触手を動かして堰きとめる。
そして理解する。これは、単にご主人様とクーロンの間で何かを共有しているわけではないと……。
ご主人様もクーロンも、心が通じ合っているというだけではなく、好みの逆転などの現象も起きている……しかし、その他にも何かしら共有しているように見えた。もしかすると……その共有した何かの影響で二人の理性が飛んでしまっている。
完全に飛んでいるわけではないものの、何かの拍子に簡単に折れてしまうようなものだ。その理性の枷が簡単に壊れる故に、今の二人は欲望を抑えられないでいるのではないだろうか?特に、男女の常識がおかしくなっている二人は恋愛方面での理性が……。
「むちゅ〜エキドナさ〜ん」
「…………」
ダメだこいつ……早くなんとかしないと。
不思議だが、何故かご主人様ならばこういう気がする……。
とにかく、普通では理性によって抑止されていた行動が表に出てきている。二人には食欲や睡眠欲、物欲などがもともと少ないのか……そちら方面の欲望は見えない。だが、性欲……これが二人とも強い……ような。
「え……」
と、そこでエキドナは目の前のクーロンに目を向ける。唇をこちらへ向けている図はかなり残念だが……そうではない。
「もしかして……ムッツリ……」
………………。
ソニア姉と一緒に王都にある教会までやってくると……教会前に人集りが出来ていた。その中には見知った顔が数名……軍では同期のアックスフォード……アックスと先輩のスカッシュ先輩だ。
「なんだろう?この人集り……」
隣に立っていたソニア姉が爪先立ちして人集りの中心を見ようとしているが、見えないようで溜息を吐いている。
「うーん……見えないなぁ」
「スカッシュ先輩がいるし……ちょっと聞いてくるよ!」
「なんか嬉しそう……」
若干不機嫌なソニア姉を置いて、俺は嬉々としてスカッシュ先輩とアックスのところまで行く。
「スカッシュ先輩」
「んぉ?おぉ〜グレイか!身体はもう大丈夫なのかー?」
「はい。お見舞いありがとうございました……。あぁ、それでこれは一体……」
「一体もクソもないっての……俺とスカッシュさんも今日は休みだからって王都をブラブラしてたら……ほら、聞いてみろよ」
アッシュがそう言うので、訓練で鍛えられた二人の素晴らしい肉体を尻目に、人集りの中心に耳を傾ける……と、
「グレーシュ!グレーシュ・エフォンス出てこおおぉぉい!!僕と勝負だぁぁ!!!」
「…………」
俺は一瞬固まった。
聞き間違いだろうか……気配から察しても知り合いのようには思えないし、なぜこのような敵意を向けられているのだろうか。全く、皆目見当も付かない。
「えっと……」
「な?」
「はい……」
アッシュに言われて俺はげんなりした。一体、どこの誰だよ。人の名前を衆人の中で声を大にして叫ぶとか……。
俺はスカッシュ先輩達に一言断りを入れてから人集りを割って、そうして衆人の中心にいた人物に目が止まった。
「なっ……」
白銀煌めく艶やかな髪に、とても整った顔立ち……そうそう見ることのないイケメンだ。俺の知り合いだと、アイクやエリオットもそうだが……彼のイケイケ度はその二人とは異質なものだ。
なんだよイケイケ度って……。
まあ、そんなことは置いておいて……俺が彼に見入っていると、俺に気がついた野次馬達の中に顔見知りがいた……そのため、
「あ、グレーシュだ」
「グレーシュちゃんじゃない」
「グレーシュ兄ちゃんだ!」
バッ……と、俺の周囲にいた人達が割れ、彼のもとまで道ができる。マジか……。
「グレーシュ……だと?」
衆人達の声に反応し、彼の視線が俺へ向けられる。彼の金眼に俺の姿がたしかに映される。その瞬間、鼓動が弾ける。
まさか……これが……恋っ!?
俺が彼に見惚れていると、ツカツカと彼は俺のところまで歩み寄り……そして言った。
「お前が……グレーシュ・エフォンスだな!僕のセリーを誑かす不届き者め!君のような一階の平民が気軽に話しかけていい存在ではないんだ!最高神官というものはねっ!」
セリーがどうとか、最高神官とかどうでもいい。俺は彼の前で跪き、俯く……。
「……?な、なんだ……意外と素直じゃないか。うん。そうさ、僕たち最高神官にはそうやって敬意をあらわ」
俯いた俺は、右手だけ彼の前に差し出す。そして、彼が何か言う前に言った。
「私と結婚を前提にお付き合いください!」
「「…………」」
「え?」
それは目の前にいるイケメンな彼にはそぐわない……全く間抜けな声だった。
–––☆–––
「な、何をトチ狂ったことをっ」
「一目惚れなんです……」
「僕は男だ!」
「私も男です!」
「それが問題だろう!?」
「え?」
「え?」
男同士の結婚に、何んの問題があるのだろうか。周囲の人々からは、「男色?」とか「あれはガチな奴だぞ」とか「ウホっ 」とか……反応は様々だ。というか最後の奴出てこい。とても有意義な語らいができそうじゃないか。
「き、君は僕のセリー誑かして……」
「……?なぜ、女性であるセ……んんっ。最高神官様を私が誑かしてましょうか」
俺はセリーと言いかけ、踏みとどまる。危ない危ない……彼はどうやら身分を気にするようだからな。悪印象は与えたくはない。
「え……でも、君は……あれ?」
「強いて申し上げるのであれば、私は最高神官様のお話相手を務めさせていただいております。大変、名誉な役柄を務めさせていただき……私は神に日々感謝しております」
ふむ……さきほど、自分も最高神官のようなことを言っていたし……こんな感じでどうだろう。うーむ……しかし、身分を気にするというのなら感情に任せて告白したのは失敗だった。いや、まだ挽回はできる。
よし……。
俺は口をパクパクさせて呆然としている彼に訊ねる。
「貴方様の姿は……最高神官様とお見受け致しますが、私は貴方様のことを愚かなことに存じ上げません。無知な我が身に、どうか貴方様のお名前をお聞かせ願えないでしょうか」
俺は彼の瞳に訴えかける。名前……名前を教えてくれ!この胸の高鳴りに従い、俺は訊いた。出来る限り下手に、そして相手を尊重して訊ねた。媚びるのは俺の十八番だ。これで落ちない男はいない……。
「あ……僕は、カインドレット・バルト……」
「カインドレット・バルト様っ!では、私は貴方様を何とお呼びしましょう……いえ、何とお呼びすることを許してくださいますか?」
「え?あ……いや、なんでも……」
「では、カイン様と。さて、ここではカイン様もお寛ぎすることは叶いません。どうでしょう……これからホテっげふんげふん。これから我が家の私の部屋っげふんげふんげふーっ!!」
いかんいかん……自分の欲望が口から出てしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!色々と整理を……」
「それならば、尚更衆人に囲まれたこのような場所よりも……」
ふと、俺はここが教会前だと気がついた。セリーの護衛の件から、この教会を実質的に取り仕切っている神父であるマーターと俺は顔見知りだし、そこそこ融通も利く。カイン様も最高神官の身分であられるのだから、教会に頼めばそういう場は設けてくれるだろう。
うん。
「では、教会に融通を利かせていただきましょう。私が教会に話しを付けて参ります故」
「え!?いや、教会はちょっと……セリーが」
「さあ、カイン様」
俺は抵抗するカイン様の腕を握るとそのまま教会へ引っ張り込む。
「さぁ」
「い、いやだ!……っ!!なんて馬鹿力なんだ!?」
む……男の俺に馬鹿力とは失礼な。あれ?いや……特に変でもない……ような?
「ぐ、グレイ!?あれ?グレイー!!
誰かの声が俺を呼んだ気がする。しかし、今はカイン様である。
教会の中へ入り、俺はふと振り返る。振り返った先には抵抗するカイン様だ。外に……何か大切なものを置いてきてしまったが気がする。
–––クーロン・ブラッカス–––
「それで……ソニアさんとのお出掛けを止めてまで私に何か?」
私はエキドナさんにまたしても呼び止められ、今日もこうしてソニアさんとのお出掛けをお預けされてしまった。うぅ……ソニアさんは寂しがり屋さんだから、これ以上一人にさせたくない。というか、さっきの朝食は危なかった。
ソニアさんは寂しさが度を越したのか、エア友達を作っているようでした!まるで、隣に誰かいるかのように朝食は話していました……これは由々しき事態です。とはいえ、エキドナさんに呼び止められて断れるほど私は誘惑に強くなかった。
私がとりあえず何の用か率直に訊ねると、エキドナさんが真剣な眼差しで私に向かって口を開く。
まさか……告白っ!
「クーロン……貴方、今日の朝食でソニアの隣に居た人物……見えていたかしら?」
じゃなかった……。
私は肩をガックリ落としながら、ソニアさんのエア友達の件かと答えた。
「見えませんよ……ソニアさんのエア友達なんて。エキドナさんも、早く今のソニアさんをなんとかしたいんですね?わかります……見ていて辛いものですから……」
「それ……本気で言っているのかしら……いえ、言っているのよね。ごめんなさい……」
「なんだか、馬鹿にされている気が……?」
なぜなんでしょうかー……。
「これは……ご主人様に似た思考を持っていても、ご主人様並の頭の回転力がない……ということなのね。なるほど……クーロンって普段クールっぽいけれど結構脳筋だったのね。このエキドナとしたことが……あまり注目していなかったから見抜けなかったわ」
「あのー……馬鹿にしてるんですよね?泣きますよそろそろ……」
酷すぎる……。
「いえ、気にしないでいいわ。しかし、まさか見えてない……なんて。これは早急にセリーのところへ連れて行かないといけないわね。正直、私ではお手上げね……」
「セリーさんに会いにっ!?行きます行きます!行きたいです!」
セリーさん……とっても綺麗な白銀の髪をしていて、キラキラと輝く金眼には本当に惚れ惚れしてしまう。最近会っていませんし、会いたい……。
あ、なんかウズウズしてきましたねぇ……。
私がセリーさんに会えるとキャッキャッしているところで、エキドナさんが溜息を吐いた。
「分かったから……ちょっと近いわ。エキドナはそっちの趣味はないのよ」
おっと……興奮しすぎてエキドナさんに顔を近づけすぎてしまった。あぁ……エキドナさんも綺麗な顔……。
「ねぇ……ちょっと!近いと言って」
「いいではないですか。女の子同士なんですから……」
「理由がめちゃくちゃなのだけれど……」
「理由……?理由がなくてはいけないのですか?」
「理由があってもいやよ……女と女なんて普通おかし」
私はエキドナさんが何か言う前に、その口を指先で塞ぐ。
「普通なんて……詰まらないじゃないですか?大体、『普通』なんて誰かが決めた物差しです。作りましょう?私たちの物差し……」
–––エキドナ–––
エキドナは今の状況を冷静に分析してみる。クーロンが暴走して、エキドナに口付けしようとしているのだ。とりあえず、足の触手を動かして堰きとめる。
そして理解する。これは、単にご主人様とクーロンの間で何かを共有しているわけではないと……。
ご主人様もクーロンも、心が通じ合っているというだけではなく、好みの逆転などの現象も起きている……しかし、その他にも何かしら共有しているように見えた。もしかすると……その共有した何かの影響で二人の理性が飛んでしまっている。
完全に飛んでいるわけではないものの、何かの拍子に簡単に折れてしまうようなものだ。その理性の枷が簡単に壊れる故に、今の二人は欲望を抑えられないでいるのではないだろうか?特に、男女の常識がおかしくなっている二人は恋愛方面での理性が……。
「むちゅ〜エキドナさ〜ん」
「…………」
ダメだこいつ……早くなんとかしないと。
不思議だが、何故かご主人様ならばこういう気がする……。
とにかく、普通では理性によって抑止されていた行動が表に出てきている。二人には食欲や睡眠欲、物欲などがもともと少ないのか……そちら方面の欲望は見えない。だが、性欲……これが二人とも強い……ような。
「え……」
と、そこでエキドナは目の前のクーロンに目を向ける。唇をこちらへ向けている図はかなり残念だが……そうではない。
「もしかして……ムッツリ……」
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