一兵士では終わらない異世界ライフ
キヒヒ
–––???–––
黒い髪、黒い瞳、黒い腕、黒い脚、黒い毛、黒い………………黒い…………黒い……黒い……黒い、黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い……。
白い。
白い翼……翼…ツバサ、つばさ。白い。白い……白い。
「いや……デス……この、わた、わたしわたしわたしわたし私ぃいが、こんなところでシ死死シ死死死死ぬなどありえないデス!わたわたわたしはシを超越した存在デス!」
…………それがどうした?
「デスですですですですですデスですデス!!!」
…………いい加減ウンザリだ。
「くるなデス……くる、ナ」
…………シね。
–––☆–––
「と、このような予言が出ております。バートゥ様」
「…………」
バートゥは、今し方見せられた自分の未来に戦慄し声を失ったように口をパクパクさせている。
「……デス。この私が死ぬ……未来デス?」
バートゥは死霊から聞いた自身の未来に震える。あの得体の知れない黒い生物はなんだったのか……ギラギラと光る黒い瞳に睨まれればひとたまりもないだろうと、バートゥは自身の手を顔にやる。
あれはまるで……そう、まるで……オオカミに翼が生えたかのような異形な姿をしていた。
「キヒヒ」
だが、それでもバートゥは笑う。この身に死が訪れようとも……死を超越する伝説に、死は訪れるはずがないと、そう確信し、バートゥは、笑い、笑う、ワラウ。
キヒヒ、キヒヒ、キヒヒヒヒヒヒヒヒ
「キヒヒ……なるほどなるほどなるほどなるなるなるなるなるなるほど。この私に……因果の、運命の輪の外にいる伝説たるこの私に、死を超越した私に、死をもって挑戦しようと……そういうのデス?」
キヒヒ、キヒヒ
「受けて立つです」
キヒヒヒヒヒヒヒヒ
バートゥが笑う狂気の中で、ビリリっと電気が走った。それでバートゥは、暗い部屋の中に自分の死霊と……もう一人いることに気が付いた。
「よぉ……よぉよぉ。なんだかぁ、おもしれぇことになってるみてぇじゃねぇかぁ」
ビリリ……
電気を纏い、現れたのは伝説……『双天』ベルリガウス・ペンタギュラス……。
「これはこれは……『双天』デス。どうデス?身体の調子は」
バートゥは新たな死霊にそう訊いた。バートゥの死霊……ベルリガウスは肩や首をコキコキ鳴らすとふんっと鼻を鳴らした。
「まあ……悪くはねぇなぁ。さすがに伝説だぁ」
「おやおやおや?『双天』に言われると、嫌味にしか聞こえないデス」
「俺様ぁ素直に褒めてやってんだぁ。クク……これでも、伝説の奴らは全員認めてんだせぇ?」
ベルリガウスは素直に褒めているのだが、それでも嫌味に聞こえるのかバートゥは「デス」と不満げな声を上げた。
ベルリガウスは呆れるようにため息を吐いてから、ニヤリと笑う。
「まぁ……伝説以外にも、この俺様を殺してくれぇやがったぁ……グレーシュ・エフォンスって奴も俺様は認めてるがなぁ。あれは、すげぇ男だぜぇ……霊峰の"クルナトシュ"クラスの怪物だぁ」
「クルナトシュ……」
全八階級……、
初級
中級
上級
熟練級
達人級
伝説級
神話級
夢幻級
と、これらが一般的に知られている魔術や剣技、そして個々人の強さを表すランク付けとなっているわけだが……その中で一部の達人や伝説から差別化された呼び名がある。それが、『クルナトシュ』と呼ばれる階級だ。この階級は個々人の強さにしか使われない階級だ。
クルナトシュ……霊峰の火口から入ることができる霊峰『フージ』の最奥地。そこへ行き着いた怪物達の階級を、クルナトシュと呼ぶようになったわけだが、クルナトシュの存在を知っているのが一部のたどり着けた達人と伝説達のみなため、一部の者にしか呼ばれないのだ。
そういう経緯から、伝説やクルナトシュの存在を知る達人も総じてクルナトシュとランク付けされるわけだが……それはともかく、ベルリガウスがグレーシュをクルナトシュと呼んだ意味は、グレーシュ・エフォンスがクルナトシュ……伝説に匹敵する実力者だと言ったのだ。それが意味することが分からないバートゥではない。
「キヒヒ……『双天』を倒したグレーシュ・エフォンスは……伝説の中で最強となるわけデス?キヒヒ、キヒヒヒヒヒヒ……いやいや、まさまさまさまさか……」
「バートゥよぉ……そりぁ認めるべき現実だぜぇ?今更、伝説二人が集まったところでクルナトシュのクソババアクラスの怪物を相手にしちゃあ、命がいくつあっても足りねぇぞ。まぁ、俺様は死んでるがなぁ。クックッククク」
クルナトシュのクソババアが誰を指すのか分からないが、ベルリガウスが怪物と称するだけの実力者であることは間違いない。そうすると、思い浮かぶ名はミスタッチ・ヴェスパ……。
「しかし、しかしかしかしかしかししかしかかしかしぃい……わたわたしはぁ、神の、カミノ、かみの、カミの産み落とした、あのムスメを手に入れなければならないのデス……諦めるわけにはいかないデス」
キヒヒ、キヒヒ、キヒヒヒヒヒヒ
狂ったようなバートゥの失着にベルリガウスは眉根を寄せつつ、やれやれと肩を竦めた。
「まぁ……俺様は死んだ身だぁ。おめぇのやることに文句はつけねぇってもんだぁ。それじゃあ、俺様は俺様で新しい命を使わせてもらうぜぇ」
「デスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデス」
ベルリガウスは狂うバートゥを尻目に、踵を返してその場から離れた。
–––グレーシュ・エフォンス–––
翌日……二日目。ついに明日には移動となるわけだが、別に今日もやることはなく……今日も今日とてブラブラと俺は王都を歩く。
歩く街並みに昨日との変化はなく、平和そのものであり、俺もぽけーっと出来るからいいなぁと思いながらテレテレと歩いていく。
そうして歩いて……ふと、索敵範囲に見知った人物の気配を感じ、俺は足を止めた。
この気配は……と、そちらを振り返ればその人物も俺に気が付き、道行く人々の間を掻き分けて、その人物が近寄って……言った。
「こっちにいるとは思っていたから会えるとは思っていた……久しぶりだな」
ギシリス・エーデルバイカ先生……俺の恩師がフサフサとした耳をピクピクさせながらそう言った。
「あ、ギシリス先生……お久しぶりです。って、どうして王都に……」
ちょっとビックリして反応が遅れ気味の俺に、ギシリス先生はフッと笑って答えた。
「いやなに、今私はギルダブのところの師団で軍事顧問などやっていてな。教師を続けながら、兵の訓練を手伝っている。それで、もうすぐ始まる帝国への大遠征について来て欲しいと言われてな」
あぁ……そういうことか。
バートゥの件が終われば直ぐに遠征だ。ギルダブ先輩はそれで、師団も連れてきていたのだ。そこにギシリス先生もいたということだろう。
「あ、エドワード先生は……」
「エドワードならトーラの町だ。あいつも軍事顧問でな……それはそうと、ギルダブの奴が明日から『屍王』の討伐へ行くそうだが、それはお前も行くのか?」
「あー」
アリステリア様の号令で、すでにその討伐隊が出されることは周知の事実だが……そのメンバーは発表されていない。まあ、秘密でもないんですけどぉ……。
「まあ、一応は」
「やはりか……まあ、当然だろうな」
そう言うギシリス先生の表情は嬉しそうだが、どこか心配そうだ。
と……、
「む……ギシリス先生とグレーシュか?」
ブワッとするような威圧感を放って、ギルダブ先輩が普通に道を歩いてきた。あの……みんな道を開けてるんですけどぉ……。
「ギルダブか。どうした?こんなところで」
ギシリス先生が訊くと、ギルダブ先輩は肩を竦めた。
「いえ、明日の遠征までは比較的暇でして。昨日はアリスと過ごしていたのですが、今日はすることもなく朝のルーティーンを済ませてから目的もなく王都を彷徨っていた次第で。グレーシュは何をしていた?」
「あ、僕も同じです。暇で何をするでもなくぽけーっと歩いていたところでギシリス先生に」
「なるほど」
ギルダブ先輩は納得して、それからギシリス先生に向き合った。
「ギシリス先生は今日この後予定の方は」
「うむ。特にないが……」
と、予定を訊いてきたギルダブ先輩にギシリス先生が首を傾げると、ギルダブ先輩が俺とギシリス先生に言った。
「思えば、グレーシュと腹を割って話す機会はなかったからな。どうだろう、これから飲みにでも。ギシリス先生もいかがでしょう」
真昼間から酒盛りですかぇー?
とはいえ、明日移動ということを考えると早い時間に飲んだ方がいいだろう。というか、真昼間からお酒なんて……とか言うけどさ?じゃあ、夜飲んでいいのかい?って感じだ。
まあ、特に断る理由もなかったので俺は二つ返事で頷き、ギシリス先生も頷いた。
黒い髪、黒い瞳、黒い腕、黒い脚、黒い毛、黒い………………黒い…………黒い……黒い……黒い、黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い黒い……。
白い。
白い翼……翼…ツバサ、つばさ。白い。白い……白い。
「いや……デス……この、わた、わたしわたしわたしわたし私ぃいが、こんなところでシ死死シ死死死死ぬなどありえないデス!わたわたわたしはシを超越した存在デス!」
…………それがどうした?
「デスですですですですですデスですデス!!!」
…………いい加減ウンザリだ。
「くるなデス……くる、ナ」
…………シね。
–––☆–––
「と、このような予言が出ております。バートゥ様」
「…………」
バートゥは、今し方見せられた自分の未来に戦慄し声を失ったように口をパクパクさせている。
「……デス。この私が死ぬ……未来デス?」
バートゥは死霊から聞いた自身の未来に震える。あの得体の知れない黒い生物はなんだったのか……ギラギラと光る黒い瞳に睨まれればひとたまりもないだろうと、バートゥは自身の手を顔にやる。
あれはまるで……そう、まるで……オオカミに翼が生えたかのような異形な姿をしていた。
「キヒヒ」
だが、それでもバートゥは笑う。この身に死が訪れようとも……死を超越する伝説に、死は訪れるはずがないと、そう確信し、バートゥは、笑い、笑う、ワラウ。
キヒヒ、キヒヒ、キヒヒヒヒヒヒヒヒ
「キヒヒ……なるほどなるほどなるほどなるなるなるなるなるなるほど。この私に……因果の、運命の輪の外にいる伝説たるこの私に、死を超越した私に、死をもって挑戦しようと……そういうのデス?」
キヒヒ、キヒヒ
「受けて立つです」
キヒヒヒヒヒヒヒヒ
バートゥが笑う狂気の中で、ビリリっと電気が走った。それでバートゥは、暗い部屋の中に自分の死霊と……もう一人いることに気が付いた。
「よぉ……よぉよぉ。なんだかぁ、おもしれぇことになってるみてぇじゃねぇかぁ」
ビリリ……
電気を纏い、現れたのは伝説……『双天』ベルリガウス・ペンタギュラス……。
「これはこれは……『双天』デス。どうデス?身体の調子は」
バートゥは新たな死霊にそう訊いた。バートゥの死霊……ベルリガウスは肩や首をコキコキ鳴らすとふんっと鼻を鳴らした。
「まあ……悪くはねぇなぁ。さすがに伝説だぁ」
「おやおやおや?『双天』に言われると、嫌味にしか聞こえないデス」
「俺様ぁ素直に褒めてやってんだぁ。クク……これでも、伝説の奴らは全員認めてんだせぇ?」
ベルリガウスは素直に褒めているのだが、それでも嫌味に聞こえるのかバートゥは「デス」と不満げな声を上げた。
ベルリガウスは呆れるようにため息を吐いてから、ニヤリと笑う。
「まぁ……伝説以外にも、この俺様を殺してくれぇやがったぁ……グレーシュ・エフォンスって奴も俺様は認めてるがなぁ。あれは、すげぇ男だぜぇ……霊峰の"クルナトシュ"クラスの怪物だぁ」
「クルナトシュ……」
全八階級……、
初級
中級
上級
熟練級
達人級
伝説級
神話級
夢幻級
と、これらが一般的に知られている魔術や剣技、そして個々人の強さを表すランク付けとなっているわけだが……その中で一部の達人や伝説から差別化された呼び名がある。それが、『クルナトシュ』と呼ばれる階級だ。この階級は個々人の強さにしか使われない階級だ。
クルナトシュ……霊峰の火口から入ることができる霊峰『フージ』の最奥地。そこへ行き着いた怪物達の階級を、クルナトシュと呼ぶようになったわけだが、クルナトシュの存在を知っているのが一部のたどり着けた達人と伝説達のみなため、一部の者にしか呼ばれないのだ。
そういう経緯から、伝説やクルナトシュの存在を知る達人も総じてクルナトシュとランク付けされるわけだが……それはともかく、ベルリガウスがグレーシュをクルナトシュと呼んだ意味は、グレーシュ・エフォンスがクルナトシュ……伝説に匹敵する実力者だと言ったのだ。それが意味することが分からないバートゥではない。
「キヒヒ……『双天』を倒したグレーシュ・エフォンスは……伝説の中で最強となるわけデス?キヒヒ、キヒヒヒヒヒヒ……いやいや、まさまさまさまさか……」
「バートゥよぉ……そりぁ認めるべき現実だぜぇ?今更、伝説二人が集まったところでクルナトシュのクソババアクラスの怪物を相手にしちゃあ、命がいくつあっても足りねぇぞ。まぁ、俺様は死んでるがなぁ。クックッククク」
クルナトシュのクソババアが誰を指すのか分からないが、ベルリガウスが怪物と称するだけの実力者であることは間違いない。そうすると、思い浮かぶ名はミスタッチ・ヴェスパ……。
「しかし、しかしかしかしかしかししかしかかしかしぃい……わたわたしはぁ、神の、カミノ、かみの、カミの産み落とした、あのムスメを手に入れなければならないのデス……諦めるわけにはいかないデス」
キヒヒ、キヒヒ、キヒヒヒヒヒヒ
狂ったようなバートゥの失着にベルリガウスは眉根を寄せつつ、やれやれと肩を竦めた。
「まぁ……俺様は死んだ身だぁ。おめぇのやることに文句はつけねぇってもんだぁ。それじゃあ、俺様は俺様で新しい命を使わせてもらうぜぇ」
「デスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデスデス」
ベルリガウスは狂うバートゥを尻目に、踵を返してその場から離れた。
–––グレーシュ・エフォンス–––
翌日……二日目。ついに明日には移動となるわけだが、別に今日もやることはなく……今日も今日とてブラブラと俺は王都を歩く。
歩く街並みに昨日との変化はなく、平和そのものであり、俺もぽけーっと出来るからいいなぁと思いながらテレテレと歩いていく。
そうして歩いて……ふと、索敵範囲に見知った人物の気配を感じ、俺は足を止めた。
この気配は……と、そちらを振り返ればその人物も俺に気が付き、道行く人々の間を掻き分けて、その人物が近寄って……言った。
「こっちにいるとは思っていたから会えるとは思っていた……久しぶりだな」
ギシリス・エーデルバイカ先生……俺の恩師がフサフサとした耳をピクピクさせながらそう言った。
「あ、ギシリス先生……お久しぶりです。って、どうして王都に……」
ちょっとビックリして反応が遅れ気味の俺に、ギシリス先生はフッと笑って答えた。
「いやなに、今私はギルダブのところの師団で軍事顧問などやっていてな。教師を続けながら、兵の訓練を手伝っている。それで、もうすぐ始まる帝国への大遠征について来て欲しいと言われてな」
あぁ……そういうことか。
バートゥの件が終われば直ぐに遠征だ。ギルダブ先輩はそれで、師団も連れてきていたのだ。そこにギシリス先生もいたということだろう。
「あ、エドワード先生は……」
「エドワードならトーラの町だ。あいつも軍事顧問でな……それはそうと、ギルダブの奴が明日から『屍王』の討伐へ行くそうだが、それはお前も行くのか?」
「あー」
アリステリア様の号令で、すでにその討伐隊が出されることは周知の事実だが……そのメンバーは発表されていない。まあ、秘密でもないんですけどぉ……。
「まあ、一応は」
「やはりか……まあ、当然だろうな」
そう言うギシリス先生の表情は嬉しそうだが、どこか心配そうだ。
と……、
「む……ギシリス先生とグレーシュか?」
ブワッとするような威圧感を放って、ギルダブ先輩が普通に道を歩いてきた。あの……みんな道を開けてるんですけどぉ……。
「ギルダブか。どうした?こんなところで」
ギシリス先生が訊くと、ギルダブ先輩は肩を竦めた。
「いえ、明日の遠征までは比較的暇でして。昨日はアリスと過ごしていたのですが、今日はすることもなく朝のルーティーンを済ませてから目的もなく王都を彷徨っていた次第で。グレーシュは何をしていた?」
「あ、僕も同じです。暇で何をするでもなくぽけーっと歩いていたところでギシリス先生に」
「なるほど」
ギルダブ先輩は納得して、それからギシリス先生に向き合った。
「ギシリス先生は今日この後予定の方は」
「うむ。特にないが……」
と、予定を訊いてきたギルダブ先輩にギシリス先生が首を傾げると、ギルダブ先輩が俺とギシリス先生に言った。
「思えば、グレーシュと腹を割って話す機会はなかったからな。どうだろう、これから飲みにでも。ギシリス先生もいかがでしょう」
真昼間から酒盛りですかぇー?
とはいえ、明日移動ということを考えると早い時間に飲んだ方がいいだろう。というか、真昼間からお酒なんて……とか言うけどさ?じゃあ、夜飲んでいいのかい?って感じだ。
まあ、特に断る理由もなかったので俺は二つ返事で頷き、ギシリス先生も頷いた。
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