一兵士では終わらない異世界ライフ

矢追 参

ヨウジョ

「それで、引き受けてくれますか?」
「構わないわよ?暇だし」
 だろうなぁ……と、セリーが隣から出る音が聞こえたため、俺も外へ出る……すると丁度扉を開けて出たところから見える位置でベルセルフが教会関係者に捕まって説教を受けていた。怒られているのではなく、教えを説かれている方の……。
 みるみる内に不機嫌顔になっていくベルセルフを見て、俺はセリーを放って慌ててベルセルフの下に駆け寄った。
「も、申し訳ありません!その少女は私の連れでして……」
「おや?」
 と、振り向いたのは神父……マーターさんだった。よかったね!また登場だよ!おめでとう!!
「これはこれはグレーシュ殿……最高神官様にご用でしょうか?」
「あ、まあそうです……一応用事は済ませたので」
 俺がそう言うと、マーターさんはにこやかに笑って、それからベルセルフに視線を送る。
「いえ、なに……この少女から異教の信徒の臭いがしたものですから説教を少々していたのです。グレーシュ殿のお連れでしたら、私の勘違いなのでしょうね。これは、とんだご無礼を……」
「ふんっ」
 ベルセルフが何か言うかと思ったが、意外にも鼻を鳴らして不機嫌なのを表すだけで何も言わなかった。
 マーターさんが去ってから、こそこそと修道女のフードを目深く被ったセリーがやって来た。
「この子が?」
 と、セリーが言うので俺は頷いた、
「あ、ほら。えーっと、ここで君のお世話をするフォセリオ・ライトエルさんだよ?」
「お世話とな……ほう。気が効くではないか」
 眉を上げて、ベルセルフは俺を褒めた。年下に褒められるとは納得いかない。隣からセリーの「預かるって話じゃ……」という呟き声が聞こえた。多分、気のせいでしょー。
「それじゃあ、僕は行くから。ここならヨリトは来ないし、ここに居るといいよ」
 俺がそう言って、教会去ろうと……、
「あ、ま……待って!」
「……?」
 ふと、妙に甲高い声が教会内に響いた。え?と振り返るとベルセルフがとても不安げな顔で俺を見ていた。え?
「あ、今のは……ふっ、なーはっはっはっ!」
 誤魔化しているつもりなのか……それでも、不安そうな色が表情からは消えていない。その意味を探ろうと、俺はセリーに目配せする。
 だが、今会ったばかりのセリーに分かるはずはない……が、セリーはふと何か気が付いたように俺にこそこそっと耳打ちした。
「もしかすると、緊張……いえ、人見知り?そんな感じだと思うのだれけど……」
「この子が……?」
 そんな筈はない。店主や、それに俺にだって傲岸不遜な態度を取っていたのだ。まさか、知らないところで緊張とか、知らない人に人見知りとか……そんなバナナ。じゃない、馬鹿な。
 それに、人見知りなら俺にだってしてるはずなのに……うーん?
「まあ、とにかく……頼む」
「分かったわ」
 俺はセリーにベルセルフを預けて、教会の扉に手を掛ける。最後に振り返って確認すると、ベルセルフの瞳がとても不安げに揺れているのが見えた。だが、俺は敢えて見なかったことにして教会を発った。
 知らない女の子のメンタルケアーなど俺がする必要はない。そんなもの、それこそヨリトに任せる。面倒だし……。
「さて」
 と、俺は教会を出て直ぐにヨリトの気配を探るために、周囲に索敵スキル……展開し……教会の中から扉を開け放って飛び付いてきたベルセルフを反射的に俺は躱した。が、ベルセルフは器用に方向転換してガッチリと俺の腰あたりにしがみ付く。

 ビリッ、ビリリ……

 えっと……これは?
「うわーん!ベールが悪い子でしたー!!一人にしないでー!」
 キーっと、開け放たれた扉の向こう側……教会の中きらセリーがお手上げだとばかりに両手を挙げていた。俺もお手上げである。
「…………」
 俺は自分のお腹の辺りで泣きじゃくるベルセルフを見下ろし、ふと頬を掻いた。
 ちょっと頭の痛い女の子かと思ったけど、あの時に青色の髪の女の子の後ろに隠れているような……そんな弱い女の子なのかもしれない。これは俺のミスだった……。
「とりあえず、落ち着くまで教会にいなさいよ。紅茶くらいなら出すわ」
 淹れるのはセリーじゃないがな。
 そんな皮肉を飲み込んで、俺はまあいっかと肩を竦めた。


 –––☆–––


 セリーの案内で俺は教会の庭園に通され、そこで茶菓子などをいただいている。教会……すごいなぁと遠い目をしていると、落ち着いたのか先程までの調子を取り戻したベルセルフが茶菓子に手を付けて言った。
「なーはっはっはっ!美味な菓子である……この我に相応しいものだ」
「普通のクッキーなのだけれど……」
 普通というが、最高神官フォセリオ・ライトエルの食すもの……教会側が普通の菓子を用意するわけがなく、それを普通というこいつにとりあえず庶民の味というのを味あわせてやりたいと思った。
 とはいえ、クッキーとか菓子自体が貴族の食べるものだし、庶民もクソもない……とにかく、セリーの食べるこのクッキーはそんな高価なクッキー達の中でも、とりわけ高価なものだということは確かだ。
 つーか……このクッキービターなんですけど……僕、甘党なんで安いやつでいいんで甘いのくれません?
 俺が内心でそう思っていると、ベルセルフが庭の花畑の方に飛び出して遊び始めた。見たまんま、子供だ。
「まあ、甘いものを欲しがるご主人様も子供のようでございますぅ」
「うるさい……」
 心を読んだかのように影から顔だけ出して、口元を手のひらで隠し出してエキドナが含み笑いをしながら言った。
 甘いものは好きな奴からすれば、別に子供っぽくないだろ……甘いものはエネルギー!食ってねぇとやってらんねぇ!!

 ビリッ

 と、ベルセルフの近くを飛んでいた蝶が感電するようにして宙から地面へと落ちた。ベルセルフはその瞬間、傷付いたような顔をしていたが直ぐにふんっと鼻を鳴らして腕を組んだ。
「軟弱ものめ」
 セリーはその光景を見て、眉を寄せた。
「今のは?」
 セリーに訊かれた俺は、ため息混じりに答えた。
「原理はわかりませんけど、どうやらベルセルフは常時帯電状態のようですね。その上、放電してるようで半径十メートル以内に近付くと活発化している電気エネルギーの被害を受けます」
「つまり?」
「静電気とかが起こったり……ですね。そこそこ強力な。帯電状態の本人に触れれば、感電……」
 と、セリーは首を傾げた。
「え?でも、さっき抱きつかれてたじゃない……」
 それは、俺がベルセルフから受けた電気を全て地面へと受け流していたからだ。それに感電といっても、人なら死にはしない。せいぜい、麻痺るくらいだ。
「それに私も静電気なんて……」
「セリーさんもベルセルフと同じで……神の加護的な力を身に纏った状態でいるので」
 光の元素特性……拒絶の力が働いて、セリーに害をなす全ての力が無効化されるわけだ。無意識にセリーが纏っている神気……神の寵愛というのはそれ程までに強力だ。
 ふと、セリーはベルセルフに目を向けて口を開いた。
「それにしても、さっきまでのが嘘みたいに元気ね」
 ベルセルフの高笑いを聞いて、セリーは苦笑い気味に言った。実際、俺も一本取られたくらいに考えなくもないが……しかし、あの時のベルセルフの「一人にしないで」という言葉は嘘ではないように感じた。別に、人の嘘が見抜けるなどと言ったことは言わないが……それでも、嘘ではないと俺の直感が判断した。
 もし嘘だったら、女性ならぬ幼女恐怖症になりそうですぅ……なにそれ新しいぃ……。幼女怖いよぉ〜……と、言ってもベルセルフは幼女というより少女だった。何歳なんだろうか……見た目は十歳ちょいって感じか?
 ふむ……。
「ねぇ、ベルセルフちゃん」
「む?なんだ?」
 ベルセルフは俺の方を、腕を組みながら振り返った。
「君、歳はいくつなの?」
「歳?あぁ……なーはっはっはっ!まあ、一応今世では十二歳だが前世も合わせれば百はいっておるな!」
 うわーお……前世の僕を足しても足りないね!
 しっかし、十二歳ね……この世界の定義ではまだ大人ではないわけだ。
 あ、ヤバい……前世の幼女趣味(冗談)が目覚めそう。ベルセルフちゃん可愛い、カワイイ、かわいいぃぃぃ……もう、ペロペロしたいね!


(閑話休題)


 十二歳……俺は十六歳(プラス三十)だから法律的には大丈夫……じゃねぇよ。そういえば、こっちの生活長いから忘れてたけど結婚適齢って女性は十六歳で男性は十八歳だったポヨぉ……。前世の話なんですけども……。


(閑話休題)


 途端、ベルセルフを見る目が変わった。
「ねぇ、ベルセルフちゃんって愛称は何かないかな?ちょっと長いし、なんかゴツくて」
「む、我が名をゴツいとは失敬な……まあ、ぬしならば許してやろうぞ。で、愛称だったか?」
 ベルセルフちゃんは相変わらず腕を組んだまま、訊いた。俺が頷くと、ベルセルフちゃんはその可愛い口を開いた。
「ベール……ベールだ。我が気に入った相手にだけ、この名で呼ぶことを許しているのだ。特別に、ぬしにもこの名で呼ぶことを許してやろう……」
「うん。ありがとう、ベールちゃん」
 ベールちゃんかぁ……シェーレちゃんみたいにお兄ちゃんとか呼んでくれないかなぁ……ぐへへへ。
「ちょっと、グレイ……顔が気持ち悪いことになってるわよ?」
 おっと、イカンイカン……。
 俺は口元を袖で拭って、一先ず心を落ち着かせるために紅茶を含む。その際に、ベールちゃんが不思議そうに首を傾げたもんだから、俺はただ純粋にこう思った。

 なんて可愛い生き物なんだ……と。

 ふと、対面しているセリーがクッキーを口に放りながら俺をジト目で見ていることに気が付いた。どこか居心地の悪い視線に俺はたじろいだ。
「な、なんですか……」
 と、訊くとセリーはどこか面白くなそうに頬杖ついて不機嫌そうに言った。
「べっつにー?ただ、グレイにはそういう趣味があるのねって」
「そういう趣味?」
「年下趣味」
 そう言われ、俺はどうしてこいつが不機嫌そうなのかということに一つだけ心当たりができ、紅茶に口を付けたセリーに俺は至って真面目に言った。
「妬いてるんですか?」
「ぶっ」
 セリーは飲んで至って紅茶を吹き出し、むせた。
 対面に座っていた俺はセリーが吹き出した紅茶の被害を受けて、うへぇっとなった。掛かった紅茶を拭おうと拭く物を取り出そうと懐に手を入れ……サーっと紅茶が飛沫が消えた。すると、なんだか身体の調子が良くなった。
「これは……」
 セリーが纏う神気の力……という考察をし出したところでタイミング悪くセリーが大声で俺の胸元を掴んで叫んだ。
「な、なによ!なによ!?妬いてるって……なによ!?」
「なになに多いですって……いや、あのすんません……自意識過剰でした」
 ついでに、無神経の大馬鹿野郎だった。今のはないだろ……俺。俺は鈍感じゃないし、察しが良いと思い込んでいる。そう、思い込んでいるだけで結局のところ人の感情を全て理解することなんてできやしないのだ。
 セリーは鼻息荒く、俺の胸倉を掴んでいたが……暫くして離れると落ち着き払うように紅茶を飲んだ。そして、むせ込んだ。
「げほっげほっ……うぅ……な、情けない……」
 それはいつも通りだろ……なんてことは口が裂けても今は言うべきではない。しっかし、方向音痴なんだから情けないもクソもないと思われ……と、そこまで考えてセリーがキッと俺を睨んだので俺は思考を止めた。
「何か……失礼なこと考えてなかったかしら?」
「ソンナコトナイデスヨ」
「まあ、それならいいのよ……」
 セリーはそう言って、もう一度紅茶を飲んで……それから咳払いすると少しだけイタズラっ子のような笑みを浮かべて言った。
「でもね……貴方の言う通りかも……しれないわね?」
「え?それって……どういう」
 意味なのかと訊ねようとして、その口がセリーの細くて白くて柔らかい指先を押し付けられた所為で塞がれ、言葉を続けることが出来なくなった。そして、セリーは艶めかしく笑うのだ。
「さぁて……どういう意味かしらね?」
 その妖艶な微笑みに俺は呆気に取られ……それから直ぐに様々な思考が俺の頭の中を駆け巡った。
 一体、いつセリーとのフラグが建った!何か特別なことがあった覚えはねーぞ!!まさか、友人という立ち位置からクラスアップしたってのか!?よくあるけど……あるけどぉ……混乱するでござるぅ。


(閑話休題)


 落ち着け……まずは冷静にセリーを分析しようじゃないか。
 セリーは俺のことが……好きなんだろうか。という議題を頭の中で掲げてみて、俺はそれをバッサリ切り捨てた。

 ねぇよな。

 結局俺は考えることを放棄して、お菓子を食べて過ごした。


 –––☆–––


 暫くまったり過ごし……ベールちゃんと別れるのは非常に心苦しかったが、さすがにずっと教会にというのも悪い話だったので、俺はエキドナにヨリトを呼びに行ってもらった。エキドナならヨリトを見つけられるだろうしぃ〜。
 俺はエキドナがヨリトを連れてくるまで、存分にベールちゃんとキャッキャウフフしてやろうと、セリーも交えて遊んだ。
「あら、花冠を作るのが上手いのね」
「なーはっはっはっ!我が友がこういったことをするのに長けていてな……女々しいことこの上ないが、我は嫌いではないのだ!なーはっはっはっ!」
「うふふ……ベールちゃんにも友人がいるのね?」
「馬鹿にしておるのか?あ、あとぬしに愛称で呼ぶことを許可した覚えはないのだが」
「え」
 と、本気で哀しむセリーを他所に俺は花冠をせっせと作っていた。意外と楽しいなぁ……物作りが元々好きだったからかねぇ。
 俺は作り終えた花冠を、ベールちゃんの頭に乗せた。すると、少しムッとしたベールちゃんだったが、直ぐに我が力作の花冠がお気に召したようでキャッキャウフフしていた。
「花冠というか……もはや王冠よね。随分と器用じゃない」
 立ち直ったセリーが言ったので、俺は胸を張って答えた。
「ま、こんなもんですよ。ベールちゃんも嬉しそうで何よりでさ」
「うふふ……さっきまでは面倒だとか、関わり合いたくないとか、そんな感じだったのにね」
「え?分かってましたか……」
 俺が何となく恥ずかしくて視線を逸らすと「顔に出てわよ」とセリーが言った。
「ホント、貴方って身内に甘いわよね」
「やだなぁー当たり前じゃないですかぁー」
 赤の他人を気遣ってやれるほど、俺には余裕がない。それくらいには、この現実を理解しているつもりだ。


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