魔術的生徒会

夙多史

一章 メイザース学園生徒会(5)

「ゴホン! 改めまして、私はこの一年三組の担任で数学担当の猪井恵理奈いいえりなです。これから一年間よろしくお願いしますね。あっ、私の年齢は不詳なので訊いた人は地獄を見ますよ♪」
 そんな挨拶から始まったロングHRでは、主に委員会等を決めたりした。魁人は特に委員会には入らなかったし入る気もなかったが、梶川は学級委員に自ら立候補していた。もっとも、もう一人立候補した男子がいて、ジャンケンという熱いバトルの末敗北していたが……。
 現在は、担任の猪井先生(推定年齢二十九)に代わって決定した男女の学級委員が残りを進行している。
 だがそんなことは意識の外に追いやり、魁人は先刻のことを考えていた。
(『魔眼』……か。信じ難いけど、そうとしか言えないなぁ)
 あの透明な光。この眼が魔眼だとすれば、一体自分は何を見ているのだろう? 少なくとも魔術と何らかの関係があることは間違いないと思う。
 ふと、斜め前の席にいる神代紗耶を見る(人間観察は趣味じゃないが)。彼女は相変わらず他よりも強い、そう、あの月夜詩奈と同じくらいの光を持っていた。
(もしかしてあいつも、魔術師なのか?)
 魔術師。彼女たち――少なくとも月夜詩奈――はそう呼べる存在だ。
 あの後はなぜか血圧も測らず帰らされたが、思い返すと白昼夢でも見ていた気分だ。だが、生徒会室での出来事が夢でも幻でもないことは体が覚えている。目に焼きついた光景、動けなくなった感覚、どれも鮮明に蘇ってくる。
 自分の眼、例の光、魔術師の生徒会、そして学園の秘密とやら。知りたいことが山ほどある。
 やはり、もう一度あの『魔術師』たちに会わなければならない。
 そう決心したところでHRは終わり――
 そして放課後がやってきた。

「学級委員――クラスのトップになれなくて傷ついたオレの心をケアするために、レッツ・ナンパだ! 行くぞ、魁人!」
「一人で行け」
 放課後になった途端に接触してきた梶川の誘いを魁人は打てば響くような速度で断った。
 今日は午前中で終わりなので、クラスの大半の生徒は部活動見学などに行くのだが、魁人には別途の用件がある。
 第一校舎の最上階――生徒会室にもう一度行かなければならない。
 もちろん強制ではないし、怖いという気持ちも多少はある。が、それでも自分は自分の眼について知りたい。知らなければならない。
「冷たいこと言うなよ。お前けっこう顔とかイケてる方だぜ。ま、オレ様ほどじゃないけどな」
 何も知らずにお気楽なやつだ、と魁人は思うも、事情を話す気は毛頭ない。
「だから一人で行けって。俺は……ちょっと用事があるんだ」
 一瞬何と言えばいいか迷ったが、適当にそう言って教室を出ることにした。だが、言い出したらしつこい代名詞たる梶川邦明は、逃すまいと金魚のフンのごとく引っついてくる。
「なあなあ、用事って何だよ。お前は部活なんてやるようなやつじゃないし、バイト探しは一緒にする約束だろ。内緒にするなんて水臭いぜ? オレたち親友だろ。もし何かに困ってんなら助け合うべきだ」
「助け合いが必要なことじゃないし、お前には関係ないことだよ」
 そうだ。自分とは違って普通の人間である梶川は関係ない。だから、これから向かおうとしている常識から外れた世界に引き込むわけにはいかない。
 次第に魁人は早足になる。多少遠回りしてでも巻かなければ……。
「はっ! そうかわかったぞ! さてはもう女ができたんだな! 言え! 何子さんか何美さんか何香さんなのか、一体どこのお嬢様なのか、 さあ、この梶川お兄さんに教えなさい!」
「誰がお兄さんだ! そんなんじゃないからついてく――」
 廊下の角を曲がろうとしたその時、ドン、と肩が誰かとぶつかった。
「あぁん?」
 苛立ちの混じった低い声が聞こえ、魁人は恐る恐るぶつかった相手に目を向ける。そこにいたのが両手いっぱいに資料を抱えた美少女なら、フィクションでよくあるようなラブやコメ的な展開だっただろう。が、その声はそういう世界からはかけ離れたものだった。
 ぶつかった相手は魁人より少し背の高い恐らく上級生で、オールバックにした髪に鋭い目つき、耳にはピアスをつけ、学園内にも関わらず堂々とタバコをふかしている。梶川とは違い、彼の纏っている雰囲気が俗に言う『不良』だと物語っている。
 さらに彼を取り巻くように、同じような空気を纏った方々が数人。視線だけで人を殺せそうな目で睨んできている。
 周りにいた他の生徒たちの注目が集まる。
「おい、あれ三年の貝崎かいざきじゃねえか」「何でここに?」「誰か絡まれてるぞ」「昨日も一人無一文にされた挙句ボコボコにされたらしいぜ」「助けた方がいいのかな?」「先生呼ぶ?」「やめとけよ」「今度はお前がやられるって」「怖い怖い」「触らぬ不良に被害なしだ」
 そんな助けようとはしない野次馬たちからの恐ろしい言葉で、魁人の血の気は一気に引いた。
 ……これは、何かやばいかも。
「え、えーと……、すみません」
 魁人は物凄い勢いで冷や汗をかきながらとりあえず頭を下げて謝った。それで何事もなく済むことを望んだが、とてもとてもデリケートな人種である不良たちが見逃してくれるはずもなく、魁人は彼らの中心と思われるオールバックの青年――貝崎に胸座を掴まれて強く引き寄せられる。
「おいコラてめえ、まさか人にぶつかっといてすみませんだけで済むと思ってんのかぁ?」
「いや普通は済むかと……」
 魁人はヘルプの視線を一緒にいたはずの梶川に向ける。が、彼は忽然と姿を消していた。見ると、野次馬たちの向こうにダッシュしている後姿が……。
(あんの薄情者おぉ! 助け合うべきだとか言っときながら自分だけ逃げやがってえぇ!)
 本気で縁切りを考える魁人に、貝崎はタバコをくゆらせながら楽しそうに告げる。
「丁度、今日のカモを探してたところなんだよなぁ。だからお前、ちょっと俺に付き合えや」
 口元をニィと歪める貝崎。この人数相手に抵抗などできるわけもなく、魁人はそのまま引きずられるように連れ去られてしまった。

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