魔術的生徒会

夙多史

二章 炎の退魔師(1)

 四月十三日。昼休み。
「だーかーらー、説明してるでしょーよぅ、魁人君」
 学園内にいくつかある学食の中でも一番スタンダードなメニューが置いてある食堂で、魁人は梶川と昼食をとっていた。二人とも日替わり定食を頼んでいる(今日は鶏の唐揚げ)。
 今日からは午後まで授業があるのだが、大半の授業は最初ということでオリエンテーション的なものでしかなく、さっそく授業中に寝ている生徒が出現するほど退屈極まりなかった。
「はいはい、お前はあの時逃げたんじゃなくて先生を呼びに行ったという御託は聞き飽きました。あの後それはもういろいろと大変だったんですよ? 口で語るには難しすぎて面倒なため何があったのかは以下省略」
「ちょ、何で敬語!? ねえ何で!? 二人の距離が毎秒光年単位で離れて行っているような気が否めないんですけど!」
「いいんですよ。結果オーライだったから特に君に対しての問題はないんですよ。だから寛大なる魁人様は君のことを許してあげます」
「ダメだ! そんな神父さんみたいな顔で許しを貰ったら二度と元の位置に戻れなくなる!?」
 まだ手をつけてない定食を脇にどけ、梶川は机に頭を擦りつけて謝り始めた。背が高く、見た目ヤンキーな梶川がほとんど土下座に近い謝りをしていることにちょっと優越感を覚えつつ、そろそろ周りにも迷惑だから許してやろうと決める。定食奢ってもらったし、あの後あったことを考えると、梶川を恨む気も失せるというものだ。
「わかったわかった。もうわかったからその辺でやめろ」
 普段の調子で言うと、梶川はすぐさま頭を上げて『魁人神様バンザイ!』とか意味不明なことをほざき、その後はいつもの彼に戻って定食をがっつき始める。
 切り替えの速いやつだ、と呆れる魁人は唐揚げを一口かじった。カリッとした食感の後に広がる肉汁のうまみに至福を感じながら、魁人は昨日のことを思い出す。正直、いろいろとありすぎて未だ混乱しているのが現状だった。

 メイザース学園生徒会。

 魔脈とかいう『世界の魔力』の影響で魔力が芽生え、特殊能力を身につけた生徒たちの暴走を鎮圧し、保護・救済を行う学園から雇われた生徒の魔術師。
 ――生徒会に、入ってくれないないかな?―― 
 一晩中ずっと考えていた。いや、入る入らないのことではない。自分の日常を捨て、あんな非日常の危険がつきまとう場所へ踏み込む気はない。魁人は『魔眼持ち』という特殊な人間だが、魔術師ではない一般人なのだ。
 未だ、昨日のことは夢だったのではと思う。しかし、思った一秒後にはそれを否定している自分が出現する。この眼や光の正体は確かに知りたかったことなのだから。
 月夜が初めから何の躊躇いもなく学園の秘密等を話してきたのは、魁人を生徒会に引き入れるためだ。あの場では断って逃げるように帰宅したが、果たして彼ら魔術師が秘密を知っている自分をこのまま放っておくだろうか。ずっと考えていたのはそのことだ。
 午前中、同じクラスにいる神代紗耶は接触してこなかった。生徒会のメンツの中では一番積極的に行動を起こしてきそうな彼女が、まだ何もしてこないのはどういうことだろうか。
(俺の記憶どころか存在ごと抹消するような魔術の準備でもしてたらどうしよう……)
 どうしてもネガティブに考えてしまう。生徒を護るのが彼女たちの仕事なのだ。最悪でも昨日の不良  ――貝崎豪太と同じように記憶を弄られるくらいだろう。だが、やはりそれでも接触してきそうなものだが……。
(まだ俺を生徒会に引き入れることを諦めてないんだろうか)
 そうだとしても、生徒会になど絶対に入るわけにはいかない。通常の生徒会がしている面倒そうな仕事もやっぱりあるだろうし、何より自分の身の安全のために。

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