魔術的生徒会

夙多史

二章 炎の退魔師(2)

「う~ん、どうしたら魁人くんが生徒会に入ってくれるかなぁ?」
 古びた本やファイルといった、何らかの資料を両手に山積みにして廊下を歩く月夜詩奈は、同じように資料を運んでいる神代紗耶にそう訊ねかけた。
「あんなやつ仲間にする必要ないですよ。不良一人倒せないような弱っちいやつを入れても、足手纏いどころか鉄球の足枷をつけて海底を歩くようなものですよ」
 ゴミ虫以下とでも言うように、紗耶は不愉快そうな顔で答えた。
「あははー、紗耶ちゃん家は実力主義だからねえ。でもそれは言い過ぎじゃないかな?」
「魔術師は強さが全てです。特にうちの家系は」
「魁人くんは魔術師じゃないし、神代家の人間でもないじゃない。それとも紗耶ちゃんは、魁人くんを神代家の婿養子にしちゃったりするつもりなのかな?」
「絶っっっ対にありえないです!」
 心底嫌そうに、紗耶は首を振って全力で否定した。長い黒髪がふさぁっと揺れる。
 神代家は月夜が言った通り実力主義の魔術師一族だ。主な仕事は心霊現象などの調査・解決で、何でもこの学園の理事長は神代の宗主――つまり紗耶の父親――と古い知り合いだったらしい。
 紗耶がメイザース学園に入学し、生徒会に入ったのは、その理事長からの頼みだった。
 魔脈の存在が明らかになってから、このメイザース学園には多くの魔術師たちが関わってきた。年に一人はその魔術師たちの子供が中等部から入学し、生徒会に入って高等部まで繰り上がってくるシステムなのだが、今年にかぎってその繰り上がりがなかったのだ。
 魔脈の影響はなぜか中等部側よりも高等部側の方が強く、生徒会の戦力は常に充実しておく必要がある。一応、健康診断にあやかって新入生の中から偶然入学してきた魔術師や異能者を探したりするのだが、あの羽柴魁人のように、魔術師レベルの魔力を持っていても素人だったりする者がほとんどで期待できない。よって、彼女は学園からの推薦という形で入学したのだ。
 それついて紗耶に後悔はない。高校なんてどこだっていいと思っていたし、普通の高校に行くよりも面白そうだった。
「魁人くんの魔眼は何としても確保しときたいんだけどなー」
 歩きながら物欲しげに天井を仰ぐ月夜。なぜそこまで彼に執着しているのか、力が全てと考えている紗耶は理解しかねていた。
「必要ないですよ」
 だから、あのような弱者を迎えることは彼女にとって障害以外の何物でもない。
「そうはいかないのよ、紗耶ちゃん」
 しかし、月夜はふややんとした顔を真剣にしてそう言ってくる。
「魁人くんの眼、まだ『魔力が見える』ってだけで他は何にもわかってないのよ。そういう力を持った魔眼自体珍しいし、一般人が生まれつき魔眼持ちなんて滅多にないケースなの。魔脈の影響で危険なものに変化しても困るじゃない? ケルト神話の魔神・バロールみたいに見ただけで人を殺せるようになったり、メデューサみたいに見たものを石に変える力とかを持っちゃうかもしれない。だからなるべく手元に置いときたいわけ。それに『魔力が見える』ってことは私たちの仕事にもすっごく役立つと思うの」
「それは、まあ、そうですけど……。ていうか、最後のが本音じゃないですか?」
 詰問する紗耶に、月夜は『あ、バレた』とちょっと舌を出して照れ笑いした。
「まあ、何にしてもね、魔眼の名称だけでも知っときたいからこうやって資料を集めてるわけなんだけど……まだ情報が足りないのよね。だから紗耶ちゃん、同じクラスなんだから積極的に声かけて誘ってくれないかな?」
「無理」
 紗耶は月夜の頼みを光の速さで断った。
「むぅ、だったら私が直接誘惑するしかないわね。どんな手を使っても、ね。あははー」
 具体的に何をする気かは知らないが、笑顔の月夜から黒い何かを感じ、紗耶は一瞬ビクリと肩を震わす。この場だけ狙われた魔眼持ちのことを気の毒に思いながら、紗耶は昨日の屋上で見たことを思い出す。
(それにしても、魔力が見える魔眼……か)
 自分は魔力を感じることしかできないが、不発だと思った貝崎の能力を羽柴魁人が打ち消した、もしくは相殺させた可能性がある。彼自身は眼の説明の中でそのことを言っていなかったから気づいてないのだろうが、もしそうなら、確かに調べてみた方がいいのかもしれない。生徒会に入れることは反対だが……。
「あっ、そうだ、月夜先輩」
 思い出したように、紗耶。月夜は『何かな?』と小首を傾げる。
「今日の放課後、あたしは生徒会に出られませんから」
 それだけで、月夜には何かわかったようだ。
「あー、そっか。うん、わかったわ。今日は通常の生徒会の仕事だけだから、銀くんさえサボらなければ私たちだけで十分よ。そうよね――」
 月夜はどこか哀れむような苦笑を浮かべ、
「――紗耶ちゃんは、本職の方もあるから大変よねー」

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