魔術的生徒会

夙多史

三章 呪術的実験(8)

 旧校舎というものは、当然のように学園の立ち入り禁止区域に指定されている。
 メイザース学園の立ち入り禁止区域の多くは魔脈を研究する魔術機関で、立ち入りを禁止しているだけでなく幾重にも張られた結界で護られている。よって、一般人はおろか魔脈の情報を狙ってくるような魔術師だってそう易々と侵入できない。
 学園の西側にポツンと存在するこの旧校舎は、そんな魔術機関とは一切関係はなかった。
 校舎といっても資料館的なものだったらしく、ゴシック様式でシンメトリーな建物はどこぞの教会堂みたいな雰囲気を醸し出している。もっとも、今やすっかり寂れてしまっていて、一昔前にタイムスリップしないことには美しかったころの姿を拝められないのだけれど。
 普段は厳重に施錠されている旧校舎、もとい旧資料館の観音開きの扉だが、現在は全開となっている。
その一歩中に入ると眼前に広がる開放的なホールは――氷結地獄と化していた。
 辺り一面、氷、氷、氷。左右の階段やフロント、天井から下げられたもうつくことのない照明に至るまで、全てが氷漬けにされている。水浸しにした室内を南極に瞬間移動させたらこんな風になるかもしれない。
 そして小型犬くらいの大きさをした虱という、明らかに不自然な物体もそこら中で凍結していた。
 そんな中、ホールの中心に凍っていない存在がいた。長い髪をポニーテールに結ったスレンダーな少女――生徒会会計・藤林葵とその使い魔、氷狼の魔獣・リクである。
「リク、上」
 葵が指示を出すと、熊ほどの大きさに立派な白い鬣をしたリクは『ガルル』と唸り、上を見上げて高く跳躍する。そのルビー色の両眼が捉えているものは、唯一凍っていない面――天井を這っていた他よりも一回り大きい一匹の大虱である。
 ピョーン、と天井を蹴って大虱は飛び上がったリクに向かって急降下する。が、寄生する前に前足で弾かれ、そのまま凍りついた床に墜落する。しかし、虱とは思えない硬い外皮に包まれているそれにはまだ生存反応があった。
「〈絶氷の息吹〉」
 葵がまたも呟くように指示を出す。本当に小声だが、リクの聴覚は彼女の指示を漏らさず聞き取っていた。自由落下が始まったのと同時にリクは牙の並んだ大口を開け、そこから白い霧状の吐息がまるで光線のように放出された。
 大虱にそれを避ける暇はない。直撃を受けた大虱は、液体窒素を被せられたように瞬間凍結して動かなくなった。その際に大気中の水分も凍り、ダイヤモンドダストとなって美しく輝く。
 だがまだ終わってはいない。葵はブレザーの裏側に隠し持っていた短刀を抜き、凍って動かない大虱に向けて投擲。短刀は刺さることはなかったが、カィン、と聡明な音を立てて大虱の体を崩壊させた。刹那、その大虱と周囲で凍っていた他の大虱たちが、一斉に紫色の靄となって消え失せた。
 しかしそんなことは眼中にないといった感じで短刀を回収する葵に、リクがじゃれるように鼻を押しつけてくる。彼女は少し緩んだ表情になって『いい子いい子』とリクの頭を撫でた。

<a href="//1736.mitemin.net/i21406/" target="_blank"><img src="//1736.mitemin.net/userpageimage/viewimagebig/icode/i21406/" alt="挿絵(By みてみん)" border="0"></a>

「うん、やっぱり『親』を殺せば『子供』も消えたね」
 と、銀英が地下へ続く階段からそんなことを口にしながら登ってきた。彼は何かの資料と思しき用紙の束を丸めて握っている。葵は瞬時に今の緩んだ表情を氷結させた。
「銀、説明して」
「あー、はいはい」銀英は面倒そうに、「えーとだね、蠱主が一人でこれだけの数の蠱を操っているとしたら、そいつは超一流か、またはリーダー的存在を間に置いているかのどちらかってことになるのさ。つまりそのリーダーを潰せば、今のように残りも全部消え去るわけだよ」
 つまるところ、リーダーである『親』が死なないかぎり『子供』は死骸になっても残るが、『親』が死ねばたとえ生きていたとしても『子供』も消滅してしまうということだ。
「……」
「えーと、葵さん? 今ので理解できた?」
 説明を聞いても無反応だった葵に問うと、彼女はコクリと頷いた。
「せめて相槌くらい打ってほしいんだけど」
 まあそこは『葵だから』という理由で片づけ、銀英は腕時計の時間を確認する。
「それにしても参ったね。もう集会始まってるころだ。蠱の邪魔が入らなければ、もっとスムーズに行ったのになぁ。ところでこの巨大冷凍庫なんだけど、非常に寒くない?」
「別に。……それで、どうだった?」
 余計な話はするなと言うように、葵が結論を急がせる。銀英は、ふぅ、と小さく息を漏らしてから報告する。
「予想通りさ。この旧校舎は呪術師の本拠地。地下には改造された研究室みたいな部屋もあったよ。まあもっとも、作りかけや作り置きの蠱はなかったけどね。蛻の殻なのは当然として、もう放棄した後って感じだった」
 でも、と付け足して銀英は丸めている用紙の束を広げ、それを眺めるように見る。
「この通り、面白いことが判明したよ。――いや、面白くはないか。寧ろ不愉快だね」
 彼にしては珍しい嫌悪感に満ちた表情を作る。

「蠱術を人間でやろうとしてるなんてさ」

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