魔術的生徒会

夙多史

四章 悪魔の視力(4)

 体育館の正面玄関の前に立ち、魁人は息を呑んだ。
 全身に浴びせられる嫌な感じとその原因――建物全体を覆うように張り巡らされた無色透明の光を見たからだ。
 普通は『感じる』ことしかできない魔力を、魁人は『見る』ことができる。だから余計に恐怖を覚えてしまう。寒気を感じるのは、魔力に込められた呪いによるものらしい。
 銀英がその魔力を感じ取るように目を閉じる。
「……どうやら、まだ始まってないみたいだね」
「罠?」
 ぼそり、と呟くように葵が訊く。銀英は細く目を開き、
「かもね。巳堂の言葉から考えると、余程邪魔されない自信があるのか、それとも僕たちすら蠱術の生贄にしようと企んでいるのか。どちらにせよ、甘く見られたものだ」
「罠でも何でも、行かないことには紗耶や鈴瀬たちを助けられませんよ」
 この中に生贄にされる人たちがいる。皆を救えるのは自分たちだけだ。
 魁人は今一度魔力の渦巻く体育館を見上げる。
 自分にだけ映る恐ろしい風景。体が震え上がりそうになる。しかし、決意は揺るがない。と、横の月夜が心配そうに声をかけてくる。
「魁人くん、ここからは私たち生徒会魔術師の仕事だから、無理してついてこなくてもいいんだよ?」
 引き返すなら今のうちだろう。だが、魁人は首を横に振った。
「いえ、俺も行かせてください」
「わかってるのかい?」と銀英。「あそこに一歩でも踏み入れたら戦場なんだ。僕たちが魁人を守れるという保証はできない。君はこういうことが一番嫌だったはずだろう?」
 魁人は口籠る。だが、それは一瞬だった。
「……嫌ですよ。死ぬのだって怖いですよ。俺が行っても役に立たないかもしれないことだってわかってます。でも、それでも、俺はあの外道に一矢報いたいんです。それに――」
 生徒会の三人は黙って魁人に視線を集中させる。
「鈴瀬の中に蜘蛛を見た時、気づいたんです。俺は、この眼を持っている俺は、こっちの世界からは逃げられないんだと。だけどこの魔眼は自分自身、潰してしまいたいほど嫌いになれるわけありませんよ。――逃げられないのなら、立ち向かう。そう決めたんです。幸い、同じ世界にいる先輩たちはいい人ですし」
 魁人は三人と一匹の顔を順に見ていく。こんな時に緩んだ表情をしている者は一人としていないが、それは魁人の話を真剣に聞いてくれていたことの証でもある。
「それにここまで関わっといて、俺だけ逃げるなんてできません」
 自分がちゃんとしていれば、紗耶だって操られなかったかもしれない。彼女を、彼女たちを助けるのは自分の手でやりたい。何をすればいいかはわからないけれど……。
「自分で決めて命を落とすのなら、まあしょうがないよねえ」
 直球の言葉だが、銀英の唇は綻んでいた。理解してくれたのだろう。
「死なせない。魁人は仲間」
 葵が言った。本当にそう思ってくれているのかどうかは相変わらずの無表情と感情のない声からはわからないけれど。そして巨大化しているリクが『がうっ』と吠える。それは主人と同じことを言ったように魁人には思えた。
「あははー、じゃあ魁人くんは、今だけ仮生徒会役員ってことにしよっか」
 一度だけ微笑んだ月夜だが、すぐに表情を引き締めて正面玄関を向く。
「それじゃあみんな、行くわよ」
 各々で返事をし、魁人たち生徒会は戦場へと赴く。

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