竜装の魔巧技師

夙多史

Episode3-1 動き出す脅威

 ランベール王国のどこか上空に、一隻の巨大な飛空艇が航行していた。
 古来よりドラゴンと共にあったランベール王国は地上を走ることよりも空を飛ぶことに技術力を注いでいる。故に飛行技術においては魔巧技術大国のレーヴェンガルドさえ上回るとされ、駆動車が普及されるよりも以前から公共の旅客飛空艇が運用されていたりもする。
 ただ、現在航行中のその飛行艇は一般の物ではなかった。
 無骨な黒いフォルムの要所要所に砲身と思われる突起物が見られるが、王国軍が所有する軍用飛行艇というわけでもない。軍用艇であればランベール王国の白きドラゴンを象った紋章が機体のどこかに刻まれているはずだ。
 つまり、無所属未知の飛行艇が王国上空を無許可で飛んでいるわけである。
「例の物が見つかったか」
 飛行艇の広いコックピット内。その中央に構えられた艦長席に座るアッシュブロンドの長髪をした男が落ち着いた声で言った。
 歳は若い。恐らく二十歳前後だろう。黒いマントを羽織り、ドラゴンを模した仮面を被っているため顔は判然としない。
「十年間、どこに消えたのかと思っていたが……まさか竜装となってランベールに戻っていたとはな。僥倖だ」
 嬉しそうに口の端を吊り上げる男だったが、通信の魔巧機から聞こえてきた名前に微笑を消した。
「ドラグランジュだと? そうか、奴がいるのか」
 ユルギス・ドラグランジュは流行り病に罹って死んでいる。その息子が父親の跡を継いで魔巧技師となり旅をしていたことは男も一応知っていた。
 所詮は半端に技術を継承しただけの子供だと組織は放置していたようだが、竜装を作れるほどの技術力を持っていたとなると話は別だ。
「竜装の魔巧技師は是非とも手中に収めておきたいところだが、奴が我々の同士とならないようならば構わん。消せ」
 味方となるなら歓迎する。そうでないなら邪魔にしかならない。そして恐らく奴は一瞬の迷いもなく断ってくるだろう。ドラグランジュと組織の因縁を考えれば当然だ。
「ついでだ。先日取り逃がした緑の始祖竜の竜核もいただくとしよう。シュレッサー家に匿われてはなかなか手出しできなかったが、竜装にされてしまうと取り出すのが面倒になる」
 既に竜装となっている『例の物』は仕方ないが、できれば竜核は生のまま手に入れたい。
「ルサージュとなれば〈ベオウルフ〉を動かせるだろう。手配しておけ」
 男は部下に指示を出し、飛空艇の航路を切り替える。
 ラザリュス魔道学院のある学術都市ルサージュへと。
「しかし、ドラグランジュか。だとすれば……くくく、面白いショーを見せてやるのも一興か」
 低く笑うと、男は静かに席を立った。

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