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竜装の魔巧技師

夙多史

Episode2-5 竜装の使い手

「やあやあ、ジークちゃん! どうだった? 僕の学園は楽しかったかい?」
 暴風に吹き飛ばされて意識を失っていたアリスフィーナとフリジットを近くの救護施設に運ばせた学生会長――アルテミシアに連れられてやってきたのは元の学園長室だった。
「さあな。楽しめるほど見て回れちゃいないからなんとも言えん」
 実際ジークがやったことと言えば、アリスフィーナに難癖つけられてランチを奢らされ、よくわからん決闘を見物していただけである。
「へえ、そう、ふ~ん」
 まともに回答する気のないジークに、部屋の主である学園長ヴィクトランはさっき見た時よりも書類の量が増えている執務机の上で手を組み合わせてニヨニヨと笑っている。全て知っているとでも言いたげな顔。無性にあの眼鏡を砕き割りたくなってきた。
「学園の感想なんてどうでもいいだろ。それより……」
 ジークは自分の斜め後ろに控える金髪の美少女を一瞥する。
「こいつはなんだ?」
 ヴィクトランが寄越した使いだとはわかったか、あのアリスフィーナとフリジットを一撃で同時に昏倒させた実力者が只者なはずがない。
「ありゃりゃ? 自己紹介してないのかい?」
「そういえば正式に名乗ってはいませんわね」
 ヴィクトランに視線を向けられ、アルテミシアはうっかりミスを恥じるように頬を僅かに朱で染め――
「では改めまして、わたくしはアルテミシア・ド・シュレッサー。ラザリュス魔道学園の学生会長を務めさせていただいておりますわ。不束者でございますが、どうかよろしくお願いいたします、ジーク様」
 可憐に微笑んだアルテミシアは、両手で制服のスカートをちょこっと摘まんで優雅な仕草で頭を下げた。
「シュレッサーだと?」
「あ、気づいた? 気づいちゃった? いえーす! なにを隠そう僕の自慢の娘だよん!」
 眼鏡を踏み砕きたくなるほどウザい笑みでVサインをきめるヴィクトランに、ジークは対照的な絶対零度の表情を向ける。
「冗談は顔だけにしろ。こんな美人がお前の娘だなんてありえないだろ」
「酷くない!?」
 まさかの全否定にヴィクトランは眼鏡の位置が崩れるほど愕然としていた。アルテミシアは頬に手をやって「まあ、ジーク様……わたくしを美人だなんて……」とてれてれとした様子でくねくねしている。
「嘘じゃないからね!? 紛れもなく正真正銘七体の始祖竜に誓ってアルテは僕の娘だからね!?」
「ああ、養子か」
「違う!?」
「なるほど連れ子か」
「どんだけ僕の血縁を否定したいの!?」
「残念ながら実子ですわ、ジーク様」
「残念!? 今残念って言った!? 娘に残念て……はうあ、パパ失格……」
 娘にまでそんな扱いを受けたことがショックだったのだろう。執務机に突っ伏して滂沱の涙を流すいい大人がそこにいた。
 ジークは未だに信じられない。髪と目の色こそ同じだが、似てなさすぎる。アルテミシアは母親似なのだろう。
「だが、納得はできた。お前が言っていた『竜装を扱える者』ってのが彼女だな?」
「はい。その通りですわ」
 言うと、アルテミシアは空中に指で線を描いた。するとその指でなぞった空間が陽炎のように歪み、一本の鮮やかな翠色をした機械仕掛けの槍が出現する。アリスフィーナとフリジットを吹き飛ばしたあの槍だ。
 アルテミシアは槍を手に取り、軽く舞を演じるようにその場で振るってみせた。

「竜装〈ゲイレルル〉――疑似緑竜核エルルーン・レプリカから作り出されたシュレッサー家の家宝にして加護の証。風を生み、風を繰り、全てを薙ぎ払う至高の槍ですわ」

「へえ」
 ジークは思わず感嘆の声を漏らした。槍を構えた姿は可憐な少女とは思えないほど様になっている。槍を振るうごとに吹き荒れた風が書類を撒き散らせ、それがまた絶妙に彼女を引き立てる演出となっていた。
 練度は四日前に初めて竜装に触れたアリスフィーナの比ではない。恐らく幼い頃から竜装を扱う訓練を受けているのだろう。もし彼女が初心者なら軽く振っただけで力を制御できず部屋ごと吹き飛ばしかねなかった。
「ちょ、そういうことするなら時と場所を考えてよね!?」
 ちなみに散らかった書類はヴィクトランが慌てて拾い集めていた。
「なるほど、これなら疑似じゃない竜核でも扱うには充分そうだ」
「竜装の魔巧技師様にお誉めいただき光栄ですわ」
 槍を持ったままペコリとお辞儀をし、アルテミシアは再び空間を開いて竜装〈ゲイレルル〉を仕舞った。
 ジークは泣きながら書類集めに四苦八苦しているヴィクトランを見る。
「で、俺を呼び戻したってことは封印の解除作業は終わったんだな?」
「ねえ、ちょっとは集めるの手伝ってくれない!?」
「そんなの後でいいだろ。まず竜核の場所に案内しろ。どこにあるんだ?」
「うんもう、仕方ないなぁ、ジークちゃんは」
 唇を尖らせたヴィクトランは、とりあえず集められた書類を執務机の上に置くと、下品にも机に腰かけて足を組んだ。
「この上だよ」
 人差し指を立て、上を示す。

「学園長室の真上。それ以上に安全な場所はないでしょ?」

        †

 学園長室の外。
 扉に耳をくっつけるようにして中の会話を聞きとろうとしている者たちがいた。
「むぅ、全然聞こえないわね」
「……学園長室の防音は完璧」
 救護施設を抜け出したアリスフィーナとフリジットだった。学生会長に決闘を邪魔されて気を失っていたが、なんとかジークたちを見失う前に意識を取り戻して後をつけて来たのだ。ちなみに昇降機はシュレッサー家の人間しか使用できないため、やたらと高い時計塔の階段を駆け登るしかなかった二人は息も切れ切れである。
「ていうか、わたしたちなんで決闘してたんだっけ? 途中からあんたをぶっ飛ばすことだけ考えてたけど」
「……私も熱くなって目的を忘れてた。確かどちらがジークの嫁かだったはず」
「ふわあああっ!? そ、そそそんな理由じゃなかったわよ!?」
「……黙って。外の音は中に聞こえているかもしれない」
 顔を真っ赤にするアリスフィーナにフリジットは口の前でしーと指を立てた。こうして並んで聞き耳を立てている様子はとても先程まで熾烈な決闘を行っていたとは思えないが、二人とも最早そんなことは気にしていない。
「学生会長と学園長がジークになんの用かしら?」
「……学生会長の槍はシュレッサー家の竜装。ジークにメンテナンスをしてもらうのかもしれない。ぐむむ、私も参加したい」
「えっ!? あの槍って竜装だったの!?」
 シュレッサー家の令嬢で学生会長でもあるアルテミシアのことはアリスフィーナも当然知っていたが、彼女の持っている槍が竜装だったなんて初耳である。フリジットの様子から別に隠していたわけではなさそうなので、単にアリスフィーナが興味を持たなかっただけだ。
「……そういえば、アリスフィーナの銃は凄かった。どこで手に入れたの?」
 竜装で思い出したのだろう、フリジットが聞き耳をやめてアリスフィーナに問いかけてくる。アリスフィーナは空間収納の魔道術で紅い拳銃を取り出し――
「これ? ふふん! ジークに貰ったの。これも竜装よ!」
 勝ち誇った顔で自慢げに控え目な胸を張った。
 と、普段は無表情のフリジットが珍しく驚愕に目を見開いた。
「……ど、ドラグランジュの竜装! 凄い! 本物! 見せて貸して分解さわらせて!」
「ひゃん!? ちょっとやめなさいよ誰があんたなんかに触らせるもんですか!?」
「……けち」
 ぷっくりと頬を膨らますフリジット。これも普段の彼女を知っている者からすれば考えられない表情である。
「そんなことより中の様子よ!」
 危険な予感しかしないのでアリスフィーナはさっさと竜装をプライベート空間に片づけて、改めて扉に耳をあてた。
 が、相変わらず物音一つ聞こえない。ここまで完璧だと恐らく魔道術での防音だろう。アリスフィーナは段々と苛立ちが募ってきた。
「あーもう! このまま聞き耳立てても埒が明かないわ。ちょっとだけ扉開いて中の様子を見てみるわよ」
「……賛成」
 フリジットも同意し、二人でタイミングを確認し合って真鍮のドアノブに手をやる。
 そして、そっと物音を立てないように開くと――
「ほわっ!?」
「……誰もいない?」
 まるで嵐でもあったかのように書類が散らかっている学園長室は、見事に蛻の殻だった。
 アリスフィーナとフリジットは扉を開け放って中に入り、部屋の中心まで来て見回す。執務机の下も確認したが、誰かが隠れている様子もない。
「そんな、絶対ここにいると思ったのに」
「……時計塔に用があるとすれば学園長室以外あり得ない」
「えっと、大時計の修理に行ったとか?」
「……大時計は魔巧具じゃない。ジークに直してもらう意味は皆無。そもそも壊れてない」
「じゃあどこに行ったのよ!?」
 癇癪を起して地団太を踏むアリスフィーナ。対して冷静なフリジットは無表情でもう一度部屋を見渡し――
「……待って、この部屋」
 なにかに気づいて本棚の方へと歩み寄った。
「なにしてんのよ?」
「……黙ってて」
 本棚の本を闇雲に引っ張り出すフリジットに、アリスフィーナは勝手に散らかして後で怒られることを想像してしまう。
「……やっぱり」
 数冊の分厚い魔道書だけを本棚に残したフリジットが呟く。
「なにがやっぱりなのよ? あんたそこ片づけときなさいよ?」
「……仕掛けがある。この本は本じゃない。本に見せかけたスイッチ」
「えっ」
 驚くアリスフィーナには目もくれず、フリジットは魔道書を手で押し込んだ。押し込む順番は魔道書の巻数表記順だ。
 すると――カチリとなにかが噛み合った音がし、続いて地鳴りのような音と共に本棚の奥の壁が左右に開いていく。
 開いた壁の奥から現れたのは――
「か、階段!?」
 だった。
「あんた、よく見つけたわね……」
「……魔巧仕掛けの臭いがしたから」
「どんな嗅覚してんのよ!?」
 時計塔の最上階にあるはずの学園長室よりさらに上があった。その事実にアリスフィーナは驚きを隠せない。フリジットは部屋の仕掛けの方に興味津々のようだが……。
「……ジークたちはたぶん、この上。どうする?」
「い、行くわよ! あいつがこの学園でなにしようとしてるのか、暴いてやるんだから!」
 どう考えても学園のシークレット事情だが、二人ともここまで来て引き下がるわけにはいかなかった。

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