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竜装の魔巧技師

夙多史

Episode3-5 鍛冶手伝い

「……アリスフィーナとジークがデートしていると思って尾行した」
「わたくしはジーク様がシュゼット様にご依頼なさることは存じておりましたので、途中から気づいてはいましたが……もしもお二人が学園の風紀を乱すような行為に走った場合は、その、学生会長として止める義務があったと言いますか……」
 上空から降りてきたフリジットとアルテミシアは、アリスフィーナに「そこに直りなさい!」と命じられ地べたに正座して潔く白状した。
「ジークは私の旦那様になる人。アリスフィーナには渡さない」
「ふわぁあッ!? なんでわたしが狙ってるみたいなことになってるのよ!? か、勝手にすればいいわよこんな奴!?」
「あら? ではわたくしも参戦してみましょうか? 竜装の魔巧技師であるジーク様ならば、富も名声もその辺の貴族の殿方と結婚するよりずっと上ですわ」
「え? 富も名声も……富も……富も……玉の輿」
「目を金に変えてこっち見んな」
 どんな想像をしているのか知らないが、口元が緩んでヨダレまで垂れてきそうなアリスフィーナにはもう貴族の威厳などこれっぽっちも見当たらなかった。
「だはははははっ! なんだなんだジークの坊ちゃんモテモテじゃねえか!」
 シュゼットなど腹を抱えて爆笑している。嫌なところを嫌な知人に見られてしまった。だからと言って顔色変えて慌てるジークではないが、溜息の一つや二つがどうしても漏れてしまうのは仕方のないことだろう。
「ま、人手が増えたんなら丁度いい。槍を鍛える前にちょっと手伝ってもらいてぇことがある」
 ひとしきり笑ったシュゼットは切株に腰かけて一同を見回した。
「なにをさせる気だ?」
「別に特別なことじゃねえよ。単純に薪が足りねえんだ。真銀を加工するってんなら今うちにあるストックじゃ少な過ぎる。裏山に良質の松の群生地体があるから、できるだけ多く薪を集めてほしい。魔道師様なら一度に大量に運べるだろ?」
「なるほど、竜装製作に関わることなら手伝わないわけにはいかないな」
 ジークは顎に手をやって少し逡巡する。こちらもこちらでやらねばならないことが山積みなのだが、槍の刃が遅れると半分以上の工程がストップしてしまう。それはよろしくない。
「あんたたち、魔道師は運び屋じゃないのよ!?」
「「え?」」
「二人して首を傾げるなぁあッ!?」
 アリスフィーナは不服そうに叫んでいるが、空間収納の魔道術は本当に便利だ。可能な限り使い倒してやる腹づもりのジークだった。
「お待ちください、シュゼット様」
 と、正座させられていたアルテミシアが控え目に挙手した。
「確か、この辺りは風亜竜ウィンドドレイクの生息地だったはずですわ。危険はありませんの?」
 亜竜とはドラゴンの亜種だが知能は低く凶暴であり、ドラゴン信仰の強いランベール王国に置いても魔獣と認定されている生物だ。風亜竜とは文字通り、風属性の力を持つ亜竜である。
 ルサージュ周辺地域は緑の始祖竜の影響が強く、そういう風属性の魔獣が多く住み着いている。黄の始祖竜ーーランドグリーズの山にいた魔獣が地属性ばかりだったのも同じ理由だ。
「この辺は亜竜どころか狼一匹出ねえよ。山奥にまで踏み込まなけりゃ安全だ」
「そうですわね。安全でなければ住めませんもの。くだらないことをお訊きしましたわ」
 軽く頭を下げて詫びるアルテミシアに、フリジットがむふんと鼻を鳴らす。
「……もし出てきてもわたしと〈ペンドラゴン〉で蹴散らせる。問題ない」
「へえ、頼もしいな。そうなったら素材はできるだけ傷つけず残してくれよ」
「……当然」
 ジークがニヤリと笑い、フリジットがVサインで応える。そこには魔巧技師同士、通じ合うなにかがあった。
「こいつら、目を放したら亜竜狩りに乗り出しそうね……」
 アリスフィーナだけが疲れたようにげんなりしていた。

        †

 上空を飛翔する黒い飛空艇内。
「そうか、ドラグランジュ一行はクーベルタンと接触したか。本格的に竜装製作に着手される前に手を打たねばな」
 艦長席に座す竜の仮面の男は、ラザリュス魔道学園に潜伏させている同志からの報告に思案気な声でそう返した。
「私も今夜にはルサージュ入りする。貴様はそのまま監視を続けろ。……いや待て、確かクーベルタンの鍛冶工房がある山には風亜竜の巣があったな」
 男はルサージュ近隣の魔獣の分布図を思い出す。通信相手も彼の意図を察したようで、少々戸惑った声でこれから下される命令の予想を口にした。
「ああ、そうだ。仕向けろ。貴様なら容易いはずだ」
 通信の向こうから息を飲む気配が伝わる。確かにこの命令は通信相手の同志も危険に晒すことになるが、その程度でくたばるような奴は組織には不要である。
「亜竜ごときに喰われる雑魚ではないだろうが、ドラグランジュの実力は知っておくに越したことはない。上手く亜竜どもが始末してくれれば、その時は例の竜装を回収しろ」
 了承の言葉を聞き、男は通信を切る。それからモニターに表示された地図を見やった。現在位置が赤い点として点滅している。
 このまま直進すれば学術都市ルサージュまで数十分だが――
「シュレッサー家に見つかると面倒だ。ルサージュ近郊の山岳地帯に広い谷がある。そこに飛空艇を隠せ」
 そこから徒歩で向かうとすれば、予定通り夜にはなってしまうだろう。

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