Reverse cross

陰東 一華菱

第八十四話:繋がりし縁

「なぜかな……。何だか、懐かしい気がする」
 高台の上にそびえ立つ、真っ白な壁のセントラムズ教会。その教会から見渡せる広大な土地にはレグリアナ王国が今も昔と変わらずにその圧倒的な存在を残し、繁栄し続けている。
 茶色の短い髪が風に揺れ、背には大きな荷物を背負い眩しそうにレグリアナを見つめているこの男の名は、リオラスと言う。
 彼は、旅から旅を続ける放浪の旅人だった。
 リオラスは目の前にあるレグリアナ王国を、目を細めて眺めながらその場に佇んでいた。そんな彼の元に、この教会の神父が声をかけてくる。
「リオラス殿。どうなされましたかな?」
 そんな神父を振り返りながら、リオラスは二コリと微笑んだ。
「いえ。この国に立ち寄ったのは初めてなのに、なぜか懐かしい気がして……」
 その言葉に、年老いた神父はニコニコと目を細めて笑い、何度も頷いてみせる。
「そうでしたか。きっと、あなたの中血が覚えておるのでしょうな」
 意味深なその言葉に、リオラスは少し戸惑ったような笑みを零した。
「血……ですか?」
 リオラスが不思議そうに聞き返すと、神父はにこにことほほ笑むだけで何も答えない。
 そんな神父から躊躇いがちに視線を下げると、リオラスも困ったように微笑んだ。
「……どうなんでしょう。僕には分かりません。でも、こうして旅をする事は父がそうだったように、僕もそうしなければならなかったような気がするんです」
 神父は肩を揺らし、優しげに笑みを浮かべて短く笑う。
「昔のことは誰しもそうそう覚えているものではありませんぞ。それが、我々の知るよりもずっと昔の事は尚更のこと」
「神父様。神父様はまるで僕のことを知っているような口ぶりですね」
 リオラスがそう言うと、神父はただニコニコと笑うだけだった。
「さぁ、どうですかな?」
 意味深に呟く神父に、リオラスはただ困った笑みを浮かべ、そして再びレグリアナ王国に視線を巡らせた。
「僕、決めました。腰を落ち着けるならこの国がいい。豊かそうだし、平和の象徴だと謳われるほどの大国ですしね」
「ほう。この国に住まれると申されるのかな?」
「はい。もちろん、僕は旅をしなければなりませんからずっとここにいるわけには行かないですけれど、それでも旅から疲れて帰ってきた時はこの国に出迎えてもらいたい」
 サァー…と吹く風が心地良く、リオラスと神父の間を流れていく。
 リオラスは再び神父に視線を戻すと、やんわりと微笑んだ。
「それに、僕のもう一つの夢は、オルゴール店を営むことなんです」
「ほほう。それは良いですな」
「えぇ。店を構えていれば、食べることには困らないでしょう? それに何より、父がそれを望んでいたから……」
 ニコニコと笑いながら話すリオラスの言葉に、神父は優しい眼差しで微笑み返した。
「神父様ー!」
 セントラムズ教会からひょっこりと顔を覗かせた一人の若いシスターが、声を張り上げて神父を呼んだ。
「お部屋のご用意が整いましたー!」
「おお、そうか。リオラス殿、では中に入りましょう。今日はここで休まれて、明日早くあの国に出向くと良い。近そうに見えてかなりの距離がありますからな」
「はい。ありがとうございます」
 神父に誘われ、リオラスは教会に向かって歩き出す。

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