Reverse cross

陰東 一華菱

最終話:何度でも巡り合う

 教会の入口まで来ると、ドアを開けて待っていたシスターがため息混じりに神父に愚痴を零した。
「神父様、どなたがお越しになっても良いようにお客様のお部屋を開けておいてくださいとあれほど言っておりましたのに、あんなに散らかして……」
「おお、すまんすまん。どうにも自室のベッドは固くてなぁ……」
「まぁ、神父様がそんなこと言ってはいけませんわ! 神のお怒りを買いますわよ」
 プリプリと怒っているシスターに対し、神父はただニコニコ笑いながら部屋へと戻っていく。
 その場に残されたリオラスは、二人のやりとりに一瞬呆然とするも思わず笑い出す。それに気づいたシスターが怒った表情をそのままにパッと振り返った瞬間、リオラスはどうして良いか分からず思わずバツの悪そうな表情を浮かべた。
「あ……すいません……」
 咄嗟にそう謝ると、シスターはニッコリと満面の笑みを浮かべた。
「いいえ、お見苦しいところをお見せして申し訳ありませんわ。さ、どうぞ。お部屋へご案内致しますね」
 シスターに導かれ、客室へと通されたリオラスは綺麗に慣らされたベッドの上に大きな荷物を置き、溜息を一つ吐く。
 その背後で、シスターは持ってきたランプをそばのテーブルに置きながら声をかけてくる。
「リオラスさん。お手洗いはこの部屋を出て左手の奥にあります。お夕飯は夜のミサの後ですから大体7時くらいです。それから夜はこちらのランプをご使用下さいね」
 てきぱきと手馴れた様子でそう案内するシスターに、リオラスはニッコリと笑みを浮かべて頷いた。
「あぁ、ありがとうございます。でも、すいません。今日訪ねてきたばかりで急に泊めてもらって……。少し休ませてもらえればそれで良かったんですけど」
 遠慮がちにそう呟いたリオラスに対し、シスターは首を横に振った。
「いいえ、とんでもありません。困っている人々に手をお貸しするのが私たちにできる唯一の事ですから。それに、陽が傾いているのに出歩くのは危険ですもの。あまり気になさらずにゆっくりしていって下さい」
「ありがとうございます」
 ニコリ、と微笑んだシスターはふっと目の前のリオラスを見上げた。
 リオラスは不思議そうな顔をしてシスターを見つめ返すと、シスターはくすっと笑い踵を返した。
「な、何か……?」
「いいえ。何でも。それよりもリオラスさん。つかぬことを覗いますけれど、どうして旅を続けていらっしゃるんですか?」
 唐突なその質問に、リオラスは若干面食らったような顔を浮かべるが、すぐに困ったような笑みを浮かべて後頭を掻き始める。
「なぜと言われても……。ただ、何となく旅をしなければならない気がしていて……。それに世界を見てまわるのは大変なことですけど、なかなかこれで面白いんですよ。いろんな文化があって色んな人がいて。正直面食らうことの方が多いのですけど、でも、例え言葉が通じなくても心で触れ合えるのは凄く素晴らしいですから」
 困ったような顔とは裏腹に、その口ぶりは楽しくてしょうがないと言わんばかりだった。
 その言葉に、シスターもまたにっこりと微笑みながら頷いた。
「そうですね。足を踏み出さなければ分からないことは沢山ありますし、人との触れ合いは自分を育てますから良いことだと思いますわ」
「そ、そうですか? そうですね。僕もそう思います。でも、僕は僕の為に旅をしているんじゃないです」
「?」
「僕の旅の理由は、父の為でもあるんです。それに、僕の持つ唯一の才能であるオルゴール作り。これを作って、僕は僕と知り合えた人全員にあげているんです。少しでも人の為に何かできたらと思って……」
 そのリオラスの言葉に、シスターは一瞬驚いたような顔を浮かべるもふんわりとした朗らかな笑みを浮かべ、胸元に下げられた十字架を握りしめてそっと瞳を閉じた。
「あなたの行いは素晴らしい事ですわ。人の為に祈り、人の為に何か些細なことでもすると言う事はとても大事なことです。あなたはきっと神に守られているのですわね」
「そんな、たいそれたことじゃありませんよ……。僕はただ、こうして知り合えた事に対するお礼のつもりなんですし……」
「いいえ。立派な事ですわ」
 シスターは心なしか嬉しそうに微笑みかけると、リオラスもまたつられて微笑み返した。
 どこか懐かしい感じがするのは、レグリアナだけじゃない。今、目の前にいるこのシスターにも、リオラスはそれを感じていた。
 シスターは「それでは……」と一言言い置き、後ろ手にドアノブを握りしめた。
「また後ほどお会いしましょうね」
「あ、はい。僕も落ち着いたら礼拝堂の方へ伺いますから……」
「えぇ、お待ちしてますわ。……リガルナさん」
「え?」
 戸惑ったような表情を見せるリオラスに、シスターはクスクスと笑いながら扉を閉めて部屋を後にした。



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