G ワールド オンライン ~ユニークすぎるユニークスキル~

根宮光拓

第七話 バランスブレイカー

素手の勇者伝説は瞬く間にGWO内で広まったが、あれ以降誰も目にしたものが居ないと言う。
まさに伝説となったわけである。
という話は勇人にとって今はどうでもいい事で、今は助けた少女と共に森の中を歩いていた。

「……助けてくれてありがとう」

少女がボソリと勇人に呟いた。
恥ずかしいのか俯いて。

「いや別にいいよ、ゲームだとしても痛覚があるんだからな、この世界は」

実際のところ、死ぬほどのダメージを負った場合でも痛みの上限が決められているということらしいが、それでも痛いことには変わりない。
というより、足の小指を角にぶつけたときの痛みが別の部位から感じるなんていう不思議体験をしたくない。

「えと、名前……」

しばらく、考えにふけっていた勇人に少女から困ったような声音が聞こえた。
そういえば、まだ互いに自己紹介すらしていないことに気づく。

「ああ、そうだったな、俺はユウトだ、君は?」
「私は、レナ」

少女の名前はレナというらしい。
見た目では小4くらいだろうか。
妹の美咲よりは背が低く、顔も幼いような気がする。

「レナちゃんは、今まで一人だったの?」

さすがにこのまま一人でこの森に居させるわけにはいかない。
なので、勇人は他のパーティーメンバーと言うやつを聞いてみた。
すると、レナは首を縦に振る。

「そっか、今までどうやって?」
「えっと、モンスターにあったのはあれが初めて」
「……そっか」

運がいいのか悪いのか、勇人は苦笑いを浮かべて思った。
レナを見る限りで、武器になりそうなものは頼りなさそうな、初期装備の短剣のみである。
素手の勇人には言われたくないだろうが、これでは死ににいくようなものだ。

「どうしよっか、ここから原っぱまでは結構かかるからなぁ」
「ユウトさんの言うとおりにする」

レナは強い眼差しで勇人を見た。
選択肢は一つしかない。

「よし、ちょっと待っててくれ、レナちゃんにプレゼントをあげるよ」
「え?、い、いいよ」

勇人の発言にオロオロと慌てるレナ。
その様子を眺めていたい勇人だったが、そんな邪念を払い去り腕時計に触れメニュー画面を開く。
そして、今までの戦闘で集めたレアアイテムを一つずつ出現させる。
まず一つ目は――

「えっと、ドクロ?」

勇人の手元に現れたのは、ドクロが刻まれたベルトだった。
どうみたって女の子が装着するようなものではない。
現に、レナの表情は引きつった笑みを浮かべて勇人を見ていた。

「い、いや、これは間違えただけだから」

勇人は能力も見ずにすぐさま収納し、次のアイテムを取り出す。
今度は下着だった。
もちろん男物だ。

「……能力を見る気にもなれない」

勇人は苦笑いをしながら、先ほどよりも引きつった笑みを浮かべるレナにごまかしを入れる。

「ごめん、ちょっとごちゃごちゃしてて、今度こそ」

三個目は少し大きめの長剣だった。
銀色に輝く刀身がとてもきれいに見える。

「やっとか……、レナちゃんこれなんかどう?」

勇人はすぐさま持っていた長剣をレイナの方へ差し出す。
しかし、レナは慌てた様子でそれを拒否する。

「い、いえ、私は短剣がいいので、そ、それにそんな高価そうなもの」
「そう? 分かった」

一先ず変な代物ではないか、鑑定して武器の詳細を調べる。


白金プラチナの剣    

白金で作られた剣 切れ味、強度を含めても聖剣レベルの代物だが、伝説を生み出していないので名前はまだ無い


「なんかやばいやつが出た」

一旦落ち着くために、深呼吸をして再び剣に視線を落とす。
今度はスキルを確認するためだ。
武器の固有スキルは聖剣といった類のランクにしか付かないらしいが、説明文を読む限りでは可能性は無くもない。

固有スキル  『未完成  名誉・称号を得ることで聖剣へと進化』

「……これはどうなんだ」

駆け出しの冒険者の手元に聖剣レベルのものが手に入るなんて、ゲームとしてはアウトだろう。
勇人は微妙な表情をして剣を見つめる。
その傍らでレナは不思議そうな顔で見つめていた。
その視線に気づいた勇人は、慌てて再びアイテムを出す。
次に出たのは、いわゆる当たりというやつだ。

「よし、短剣だ」

勇人が出したのは短剣だった。
そして、先ほどの聖剣もどき的なレベルかどうかもしっかり鑑定する。

桃色金剛石ピンクダイヤの短剣

桃色金剛石が装飾された短剣。
刀身は鋼。

固有スキル  『魔力開放A  Aランクの宝石に蓄えた魔力を解き放つことで一時的に武器から魔法または属性攻撃を出すことが出来る』


「んー、なんか感覚が鈍ってきたかも」

宝石のランクが分からないのと先ほどのインパクトが強かったのもあり、勇人は判断に困っていた。
すると、そこへレナの輝いた目が短剣に向かっているのに気が付く。

「まあいっか、はい、これあげるよ」
「え、こんな高価そうなもの……」

レナは、慌てた様子で必死に拒否する。
だが、その視線は短剣へと向かっていた。

「遠慮しないでいいよ、買った訳じゃなくてこれってたぶんあのサイのモンスターからドロップした武器だから」
「え、本当ですか?」

正直なところ、そんなことは分からない。
もしかすると、ゴブリンかもしれないし、他のモンスターかもしれない。
だが、こうでもしないと、受け取ってもらえないと勇人は判断したからである。

「それなら、尚更ユウトさんが受け取るべきですよぉ」

その作戦は逆効果だったようだ。

「あのモンスターを見つけたのはレナちゃんの声のおかげだし、それに俺は短剣は使えないから、貰っていいよ」
「それでも……」

もう一押しと言うようにレナは悩み始めた。

「それに、レナちゃんのその武器じゃこの森を抜けるのは厳しいから、貰ってくれると嬉しいんだけど」
「……分かりました」

ボソッと小さい声でレナは呟いた。
そしてすぐさま次の言葉を言い放つ。

「ですけど、この森を抜けた後はすぐ返しますから、もし返す前に逃げたりしたら嫌ですよ」
「分かった分かった」
「むぅ、もし受け取らなかったら、ユウトさんのパーティーに入れてもらいますからね」
「分かったわかっ……え?」

軽く流すつもりで空返事をしていた勇人だったが、何かの条件を思わず頷いてしまった勇人は慌ててレナを見る。

「もう了承は得ましたもんねぇ、今更無かったことにするなんて言いませんよね?」
「ちょっと、待ってくれ」
「待ちませーん」

そうして、レナに軽く振り回されながら、勇人は森から抜け出すために歩みを進めた。



ここは、森から少し離れた場所。
この場所は湿地と言われている。
モンスターはグピグスという豚のようなやつから、御なじみのゴブリンまで幅広く存在していた。
森とは違い、見渡しがいいのでここの方へ来るプレイヤーが多い。
そこで、一人のプレイヤーがものすごいスピードでモンスターを次々と切り倒していた。
そのプレイヤーの名前は、コウヤ。
そう、勇人と別れた後にすぐにここへ来た、荒谷 紅谷である。

「ふう、一通り倒したかな」

紅谷は一息ついて、あたりを見渡す。
そこにはもう既に光の粒となって消えていく大量のモンスターたちだ。
普通のプレイヤーたちの倍は超える数だ。
もちろん、紅谷の判断能力が元から高く、それによる成果という考えも出来るが、理由は後一つある。
それは紅谷の才能ユニークスキルである、『一刀両断』の恩恵を受けているためだ。
能力の詳細は文字通りの能力だ。

「素手の勇者か……面白いやつも居るもんだ」

ボソッと呟き、紅谷は嬉しそうに微笑んだ。


紅谷から少し離れた場所に、女性プレイヤーがモンスターを次から次へとモンスター相手に無双していた。
一人は弓矢で遠く離れたモンスターを射抜いて、もう一人はかなりの数のモンスターに囲まれながらも次々と切り伏せていく。
その美少女たちの活躍に、周りの男性プレイヤーたちの視線を受けていた。
そのうちの一人は、サラである。
勇人の幼馴染の春風 咲空と同一人物だ。
もう一人は、サラと共に旅立った、勇人の妹 神山 美咲である。
二人も、紅谷、勇人の才能ユニークスキルと同じくバランスブレイカーだったのだった。
当然ながら、バランスブレイカーは彼らだけではない。
そうして、多くのプレイヤーたちは与えられた才能ユニークスキルでGWOを楽しんでいたのだった。


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