『経験値12000倍』のチートを持つ俺が、200億年修行した結果……

祝百万部

57話 センエース論

 57話 センエース論


 いまだ、しっかりと混乱しているゴートを見て、UV1は小さな溜息をつき、


「いい加減、切り変えなさい。あんたが、どんな幻覚を見ていたか知らないけれど、それらは、すべて、ただの幻覚。もう終わった。同じことを何度も言うのは趣味ではないけれど、もう一度言う。頭に入らないというのなら何度でも言う……もう終わった。いい加減、切り変えなさい」




「ぇと……はい……そうです……ね」




 強く叱られて、ゴートは、了承を表現するようにコクコクと何度か頷いた。
 実際の力量差では、もはやゴートの方が圧倒的に上だが、これは、そういう問題ではない。


「それで? どうするの? 決断しなさい」


「そう……です、ね……どうしよう……どうします?」


「もしかして、私に判断をゆだねているの? なら、こう答える。ここで修練するのはやめて、今日のところは、いったん魔王城に帰り、上から与えられた仕事を開始しなさい。……バロール猊下の命令、忘れていないわよね? あなたには、なによりも、『魔王国を序列二位に押し上げる』という使命があるのよ」


「そう、ですね……はい、それでいきます。UV1様の言うとおりにします」


 考えるのがしんどくなってきたのか、ゴートはいったん、色々を保留にして、UV1の指示に従うという選択肢をとった。
 流石に、思考を完全に止めた訳ではない――が、とかく、いったん、どうしても休憩したくなった。
 長年、組織の犬をやっていたせいか、主導権を握り続ける(責任を持って『無限の選択肢』と向き合い続ける)という『しんどさ』に慣れていない(公安課長なんて言っても、所詮はただの中間管理職。上の指示を実行する手足でしかない)。


 第一アルファで社会人をやっていたがゆえに起こった弊害。
 歳を重ねれば成長するって訳じゃない。
 というか、たいがいは、時間が重なるにつれて、魂や肉体など諸々が、歪に腐って壊れていくだけ。
 美しく大人になる方が稀。


 もちろん、彼はセンエースなので、『本物のしんどさ』と向き合う潜在的なポテンシャルそのものは世界一クラス。
 というか、だからこそ、なんとか、ここまで自分の足で歩いてこられた。
 ただのヘタレでは、今のゴートにすらなれていない。
 つまり、一般人を基準に考えれば、現時点でも、実際は、かなりよくやっている方。


 だが、『かなりよくやっている方』程度の結果では許されない。
 なぜなら、彼はセンエースだから。


 センエースは、いつだって、センエースであることが求められる。


 『常に輝く絶対的な主人公』である事が求められる宿命。
 だけれど『今のゴート』は『センエース』にはなれない。
 今のゴートには、あまりにも『本物の経験』が足りない。


「……随分と素直ね。よほど恐い幻覚を見たのかしら。ちなみに、あんたの方はどんな幻覚だった?」


「……ぇ、えっと……なんか、龍に追いかけられて大変だ的なアレで……ぶっちゃけ、あんまり覚えてないんですけど……」


 虚構すら上手く整えられず、グダグダになるゴート。
 今も消えていない恐怖で思考力が低下している証拠。


 だが、それでも、この場面では問題なく、


「あまり覚えていないなら、むしろ好都合。さっさと忘れた方がいい」


 むしろ、スムーズに事は流れる。


 UV1の言葉に、軽く首肯してから、ゴートは、


「そうですね。……はい、そうします」


 右から左へと受け流すようにそう言ってから、


「ぁ、それじゃあ……ぇと、いったん、その、魔王城に帰りましょうか、はい」


 回らない口でそう言ってから、ウイングケルベロスを装着し、フワリと宙を舞う。
 グンッと上昇し、翼をコントロールする。
 パラソルモンの地下迷宮に、永遠のサヨナラを告げて、
 一度も振り返ることなく、風を切って前へ進むゴート。




 ヘシ折れて、壊れて、ヘタレて、及び腰になって、
 そして、だから、当然のように、『しんどさ』から、目をそらす。


 魔王城に向かうゴートの頭にあったのは、
 ――はやく、あのふざけたダンジョンから離れたい。
 それだけだった。













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